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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第六章 王家篇Ⅲ
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第74話 貴公子の愛と、裏方の愛




「マナと俺の子だ! 強いに決まっている! 無事に産まれてくる! マナが悲しむことになるわけないだろ! 俺とマナの元で最強の魔導士になる事はマナに宿った時点で決まっている!」


勢いに任せて言い切ったことで、俺はハッとする。

………一体何を言っているんだ俺は…

子などどうでも良いと言っておきながら……


「………はは。あははははは!」

「………笑うな、ヘンリー……」

「なんだ。ちゃんと愛してたんじゃないか。自分の子供を」

「………愛……?」

「無条件で子供を信じる。それが親の愛でなくてなんなのさ」


ヘンリーの言葉がすんなりと入ってくる。

無条件で信じる……

それは……俺がマナに向けていた感情と同じなのではないか……?

………同じ、でいいのか?

マナの他に、愛というものを探すのではなく……

マナに向ける……愛おしいと思う心を、子に向けたら良いだけなの、か?


「………まぁ、なんにしても、マナを王都へ運ばなければね。ダリアの魔力も無限じゃないし。マナを助けないことには子も助からないからね」


義父の言葉に頷き、義母に回復してもらいながら俺はマナを抱き上げる。

………重い。

マナの体の重さは変わっていないはずだ。

なのに重くなっている。

………そうか。

子の重さも加わって……

………ずっとマナはこの重さを守っていたのだな。

なのに俺は、マナを思いやることも出来ずに……

………帰ったら絶対に女王を説得する。

この子供は、ラインバークの子ではない。

俺の子なのだと。

俺とマナの元にいるべき子だと。

マナが命がけで守ってきた俺との子を、誰にも渡すわけにはいかない。

………俺もマナに命がけで助けてもらったのだ。

守ってもらってばかりで、俺はマナを守れていない。

女王に子をラインバークの子として奪われると言われた時も。

フィフティ家に取られることになった時も。

ラインバークと関係をもてと言われた時も。

あの時、俺に女王の言葉を覆せるほどの信頼があれば……

マナの愛を守ってやれる事が出来ていれば……

マナ、まだ間に合うか?

俺は、マナの事を守ってやれるか?

マナも子も、俺が守る。

それが、マナに返せる俺の愛。

マナに一方的に守られるのが俺の愛だと言われないように。

マナに庇われるようじゃ、諦められるようじゃ、疑われるようじゃ、まだまだだな。

ラインバークに負けられない。

マナを愛しているのは、俺だ。

マナも子も奪われるなど、決して許してはいけない。

その為には俺の努力が必要なのだ。

女王に対して、マナだけが頑張り言葉を発しても、許されたりはしない。

もとより、義父の心に届くわけがない。

なにより俺の態度が、信頼を裏切ったのだから。

だから、俺が示さねばならないのだ。

マナの為に、子の為に。







「………ま、辛うじて合格かな……マナを愛しているなら、女王に見せることだ。女王を納得させたなら、私も動いてあげるよ」


マナを抱えて足早に去って行くキリュウの後ろ姿を見、クスリと笑う。


「フィフティ当主も人が悪いですねぇ」

「君も楽しんでいただろう?」

「だって僕はアシュトラルも殿下も大好きですから。今まで以上に楽しませてくれるなら、仲違いでも何でもやってもらわないと。それより殿下の心配をしなくていいんですか?」

「そのままそっくり返すよ。マナは大丈夫だよ。ダリアが回復しているし。だから私は、マナを傷つけた方の尋問だよ」


私は影達が連れて行った者達の元へ歩き出す。

それにキキョウ君がついてくる。


「お付き合いしますよ。僕が原因でしたし。他の男達は、王宮魔導士の怪しい動きをしていた人達ですか?」

「そう」

「王家に仇なす者達ではないって言ってたのに……」

「王家と言えば女王でしょう? 王家=女王。だから“女王を仇なす”者達ではなかったでしょ」

「………屁理屈ですね……」

「私は陛下の臣だからね。王宮内の事に関しては、マナを優先できないから。だからマナに動くなと言ったのに……」

「………リョウランちゃんは動かざるを得ないでしょうね………あんなアシュトラルの声を聞いたら」


消え入りそうな声が、マナの頭に響いたようで。

宿の一室で急に顔色を変えたマナ。

真っ青な顔でペンダントを握りしめ、キリュウの名を呼びながら消えた。

そしてその声はキキョウ君にも聞こえていたらしい。


「なんだかんだ言っても、子よりキリュウを優先するマナは、決してキリュウの望まないことは出来ないよ」

「子をフィフティ家に差し出すことも、ラインバーク様と関係を持つことを、ですか?」

「そ。唇は許せても」

「………唇!? え、ラインバーク様と?」


私の言葉にキキョウ君が驚き、足を止める。


「街で奪われちゃったよ。必要なことだったからマナは受けた。マグダリア・フィフティとしてね。でも完全にマナ・リョウランだったなら、出来ないと思うよ。芝居していないマナは、キリュウを愛しているからね。王女とかマグダリアなら演技だから出来る」

「う~ん……リョウランちゃん、役者だからね……」

「なのにキリュウに命令できないんだから、半端な女優だよねぇ? マナもまだ女の子で、女の人の域には達せない子供だ」

「良いんじゃないですか? 子供のアシュトラルにはお似合いで」


笑うキキョウ君に対して、私も笑う。


「子供が子供を産むことにならなそうで、良かったよ」

「もしアシュトラルが女王を説得できたら、どうするんですか?」

「それは出来た時に知ることになるよ」

「先に教えてくれないんですか?」

「キキョウ殿はマナの臣下だし、二人に甘いからね。教えられたら困るから」


唇に人差し指を付けて笑うと、キキョウ君は苦笑する。


「アシュトラルがあのままなら、容赦なくラインバーク様に取らせるつもりだった人の台詞とは思えませんね」

「私はマナの親だからね。マナを幸せにする男なら、キリュウでもオラクルでも、勿論君でも誰でも良いよ」

「あれ? 僕も候補に入ってるんですか?」


首を傾げるキキョウ君に、私は口角を上げる。


「君はマナのサポートに適任だからね。ま、君は君自身キリュウに勝てるとは思ってないから難しいけどね?」

「やれと言われたらやりますけど、僕はリョウランちゃんに翻弄されるアシュトラルが面白いから今のポジションを希望しますね。まぁ、僕も演技でキスしろと言われたら出来ますけど。リョウランちゃん大好きだし。他の女の子とキスは出来ませんけどね。魅力的な女の子っていないんですよね~。アンナ・ヤギョウは僕の大事な女の子傷つけるそこらの令嬢と変わりなかったし。拍子抜けですよ。リョウランちゃんと張り合えると思っている令嬢ってなんであんなに醜いんだろ」

「その性格を気に入ってるよ。決してマナを裏切らない君だ。今後も役に立ってくれるだろう」


私の言葉に、キキョウ君がニヤリと笑った。


「僕も当主のその性格、気に入っていますよ。ラインバーク様の次に障害を作るなら、僕の番でしょうし。その為の伏線ですよね? あの命令。だいぶリョウランちゃんの心に僕の存在を入れ込めましたよ。傷ついている女の子って、落としやすいですしね」

「よく分かっているじゃないか。また、キリュウの不甲斐なさが出てきたら、報告宜しく」

「御意」


まぁ、キキョウ君に報告されなくても影がいち早く情報を持ってくるけどね。

マナとキリュウの前に、目に見えて堂々と邪魔が出来るキキョウ君の立場は利用しやすい。

もっと変われよキリュウ。


「大好きだと言ってくれるリョウランちゃん可愛かったですよ~。本気でアシュトラルから奪ってしまおうかと思ってしまいました」

「………本気でやるなよ? 君がやるべき仕事は」

「リョウランちゃんの守りと、心のケア。アシュトラルとの仲の仲裁。分かってますよ~。大好きですけど、アシュトラルとの仲を壊したりしませんって。リョウランちゃんの笑顔を守るのが、僕の幸せですから」

「………ならいいけどね」

「心配しなくてもリョウランちゃんはもとより、フィフティ家に対しても僕が裏切る事はないですよ。ただ、僕に女を宛がおうなどとしない限り、ね?」

「それこそ心配ないよ。知ってるから。君が遊び人のようで一途なのはね」


私の言葉に、キキョウ君がニコリと良い笑顔で笑った。

キキョウ君がいる限り、マナが王宮で孤独になることはない。

マナの最後の砦はキキョウ君だ。

決してマナが知ることはないけれど。

彼に認められない限り、他の男がマナに近づくことはない。

キリュウはキキョウ君の逆鱗に触れてしまった。

キキョウ君が許せる範囲の一線を越えてしまったのだ。

だからキキョウ君はいち早く私の動きに気づき、更に私の命令通りに動いた。

マナを傷つける者は彼が排除する。

キリュウはキキョウ君が認めた男。

だからこそキリュウを許せなかったのだろう。

マナを泣かせれば、キキョウ君が怒る。

今回のことで、少しはキリュウを許したのだろう。

だから私についてきた。


「さて、どんな言い訳をしてくれるのかな~」


軽い口調に聞こえるが、彼の魔力は怒りで黒くなっていた。

大事なマナを傷つけたんだ。

容赦しないだろう。

今回の尋問に私が加わらなくても、彼が全部処理までしそうだな。

彼の後ろを歩きながら、私は苦笑した。


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