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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第六章 王家篇Ⅲ
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第72話 出来損ない少女と貴公子を害する者②




――何だか、温かい……

何だ……?

俺は、どうした……

………そうだ、俺は何処か分からない場所に閉じ込められ…

禁止魔導具の枷を手首に付けられ…

魔力を吸われることによって、眠ってしまったのだろう。

体の怠さは変わっていないが、体は温かい。

不快さが少しなくなったか。


「………ぅ……」


………なんだ?

………呼ばれている?

重い瞼を上げていく。

相変わらず真っ暗な部屋。

だが暗闇に慣れた目で薄暗い空間、と言えるぐらいには見えた。

そして、あるはずもない光景を見ることになった。


「………マ、ナ……?」


俺にもたれかかってグッタリしている女。

俺が見間違うわけもない、唯一の女。

マナが俺の胸元から揃いのペンダントを取り出したのか、ペンダントトップを握りしめ、もう片方の手は俺の手首を掴み、苦しそうに息をしている。


「マナ!」


マナの両頬に手を当てると、熱かった。

高熱が出ている。

何故だ。

何故マナがこんな事になっている!


「………キ、リュ…ウ……?」


うっすらとマナが目を開いた。


「マナ、どうして…!」

「よ、かった……意識……戻っ――」


グラッとマナの体が崩れ落ちる。

慌てて体を支え、俺の胸元に倒れかかるような体勢に戻す。


「マナ? ……おい…」


意識を失ったらしく、荒い息をしながらマナは俺にされるがままに体を預けてくる。

………まずい…

早く医者に診せなければ、マナが死ぬ!

触れたマナの体は、人の体温では出ないほどの熱さだった。

これ以上上がるとダメだ!

マナを抱え上げようとして気づく。


「………枷が……」


ガシャンッと重い音を立てて床に枷が落ちた。

それに――


「これは、マナの……」


俺の体に巡っていく魔力。

これは俺の魔力ではない。

よく知っているマナの魔力だった。


「………まさか……」


マナが俺との繋がりである、ペンダントを媒体にここまで時空間移動してきたのか?

そして俺の状態を見て、今のマナの体の状態で、俺の枷を外し更に魔力を譲与してきたというのか?


「………くそっ――!」


何故そんな危険な真似をする!

お前は今、妊婦なんだぞ!

時空間移動はもとより、空間移動も禁止しただろう!!

更に枷を外すだけならまだしも、魔力譲与だと!

他人に魔力を分け与える事は学園でしてはならないと教えられているだろうが!

自分の魔力50に対して、相手が回復する魔力はたったの1だと!

俺の魔力を回復させるのに一体いくら必要だと思ってるんだ!

マナの魔力を探ると、俺は唇を噛み締めた。

これか、高熱の理由は!

マナの体の中には魔力が殆ど残っていなかった。

普段、この国の誰よりも多い魔力を持っているマナが、枯渇するまで魔力を俺に渡すなど…

どうしてだ!

俺はお前を――守れていないのに……

お前を、支えられていないのに…

何故お前は俺を助ける。

何故お前は俺を守ろうとする。

自分を犠牲にしてまで守る価値など、俺に…今までの俺にあるはずもない!


「ヘンリー!」


頼む…っ!

繋がってくれ!

マナを早く助けないと!

少し回復している俺の魔力を感知してくれ!


『アシュトラル!』

『ヘンリー! 早く来てくれ! マナが死ぬ!』

『は!?』

『マナが時空間移動でここまで来ている! 俺に魔力譲与もしたらしく、高熱で意識がない!』

『ちょっとー!! 何してるのリョウランちゃん!! ああ、でもアシュトラルの魔力はさっきより強い! 飛べる――って! アシュトラル! 説明受けた方向と全く逆の場所にいるのはどういう事さ!!』

『………それは、知らん…』


ヘンリーの言葉に、目の前にいるわけでもないのに視線を反らしてしまった。

すぐに部屋の空気が揺らぎ、一つ瞬きする間にヘンリーが立っていた。


「ライト」


ヘンリーが空間に明かりを灯す。


「リョウランちゃん! アシュトラル!」


駆け寄ってきて、二人でマナの状態を確認する。


「………これは王都まで戻らないと! ここらの医者ではダメかも!」

「なら急いでここから――」


「逃げられませんよ?」


ハッとし、扉の方へ顔を向けると、そこにはあの女と、その女の後ろに数人の男が立っていた。


「………これは、どういう事。ヤギョウちゃん」


………ああ、あの女の名前はヤギョウだったか。


「ああ! 漸く会えました! ヘンリー先輩!」


ヤギョウとやらがヘンリーに抱きつ――こうとして、ヘンリーがヤギョウの顔に杖を突きつけ、睨みつけていた。

………この状態はどういう事だ?


「………僕は、どうしてこんな事になっているのか、何故この場に君がいるのか聞いたのだけど? 返答次第では、容赦しないよ」

「ヘンリー先輩……」


ヤギョウは顔を俯け……睨みつけるように意識のないマナに視線を向けた。

次の瞬間、俺の腕の中に居たマナの姿がなかった。


「なに!?」

「リョウランちゃん!?」


俺達は消えたマナの姿に動揺する。

ドンッ!! と重い音がし、そちらに視線を向けると、壁にマナが叩きつけられ、更に手足が壁に埋め込まれていた。


「マナ!!」

「リョウランちゃん!」


俺とヘンリーが近づこうとするが、マナとの間に壁を作られ近づけなくなる。


「………貴様…」


睨みつけるが、相手に動揺はない。


「………動かないで下さい。一歩でも動くか、魔法を使えば、マナの無事は保証しませんよ」


マナの首筋に杖を突きつけられ、俺とヘンリーは動けなかった。

マナは、まだ大丈夫なのか?

時間がない。

マナの体は後どれぐらいもつんだ。

早く、医者に診せなければ、死んでしまう。

ただでさえ高熱の上、壁に叩きつけられるなどっ!

拳を握り、視線を落とす。

………俺は一体どれだけマナを傷つけるんだ。

こうなったのは全て俺のせいだ。

俺がマナの事を考えて行動出来ていれば、今も王宮でマナに笑いかけてもらえてただろう。

ここに今、いなかっただろう。

俺が安易にヘンリー達以外の者からマナの事を聞こうとしたせいだ。

マナが時空間移動して来なければいけなかった状態を作ったのは、俺の軽率な行動のせいだ。

………何故だ。

何故俺に魔力を譲与したんだ。

しなければ今頃マナは目を開いて、ちゃんと意識を持っていて……こんな状態になってなかったはずだ。

自分の体のことは分かっていただろう!

子が大事だと、言っていたではないか!

その子よりも俺を優先するなど!

お前は何故そこまで…


ふと視線を戻すと、うっすらと瞼を開けたマナと目が合った――


目を見開くと、マナはふわっと笑った。

俺が、いつの間にか見ることが出来なくなっていた、マナの笑顔。

その顔に、見惚れてしまった。

――ああ、俺はやはり、マナにずっと笑っていて欲しい。

そう思った。

が、何故この状況で笑っていられる?

何が嬉しいんだ…!

お前の体が……!


『よかった……』


頭に鈴の音と、マナの声が聞こえた。


『キリュウが…動いてる……なら…もぅ、いっか……』

『………な…っ…』


俺の言葉を聞く前に、マナの瞼がまた下がり――そして、ガクンと首が下に落ちた。

つっとマナの頬に流れる赤い液体。

視界が真っ暗になりそうだった。

………もういい、とはどういう意味だ……

俺が生きてたら、自分は死んでもいい……ということではないだろうな……?


「………返せ……」

「アシュトラル?」

「………返せ………返せ!! 俺のマナを返せ!!」


俺は怒りに任せ、自分の中の――マナの魔力を解放した。


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