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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第六章 王家篇Ⅲ
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第71話 出来損ない少女と貴公子を害する者①




キリュウの帰りを待っていたマナ達。

けれど、いつまで経ってもキリュウは帰ってこなかった。

そろそろ温泉宿を出て、ウォール邸に戻らないといけない時間だというのに。


「僕探してこうか」

「あ、じゃあ私も……」

「マグダリアはここにいなさい。キキョウ殿、頼みました」

「はい」


義父がマナを止め、ヘンリーだけを行かせる。


「………お義父様…」

「ダメだよ。マナはすぐキリュウを甘やかすから。ちゃんとお使いぐらい出来ないと、命令できないでしょ」

「………そう、ね…」


マナは頷いて良いのか分からず、曖昧な返事をした。

それに鋭い視線を向けるのは、先程部屋に入ってきた義母だ。

う……とマナは息を飲み、縮こまる。


「………それにしても、まんじゅうの屋台はこの宿の斜め前なんだけどねぇ……」

「………え……」


マナが不安になるような言葉を言う義父に、マナはそわそわし出す。

そんなマナの状態に、苦笑する。


「心配しなくてもキリュウは大丈夫だよ。並の強さじゃないんだから」

「うん……」


コクンと不安そうに頷くマナに義父は微笑む。

ギュッと服の上からキリュウとの揃いのネックレスを握りしめる。

通信機を使いたい。

けれど、ヘンリーがキリュウの元に行った。

二人が揃えば何も心配することはないだろう。

………けれど


『この胸騒ぎは、なに……』


マナは不安に目を閉じた。




ぴちゃんと何かの音がする。

俺は意識を失っていたようだ。

………この俺が?

そっと目を開けると、目の前は真っ暗だった。

………何処だここは。

確か、街で………あの女の名前は何だったか……

マナの友で……

王宮魔導士時代の……

………分からん。

とにかく女に手を引かれ、街を歩いたことは覚えている。

人気の無いところにと言われてついて行った覚えがある。

………しかし、マナの事で話があると言われたが、何も話すことなく……

………………誘い込まれたか。

横たわっている体をゆっくりと起こし、立ち上がった。


『アシュトラル! 今何処!?』


頭の中でヘンリーの声がする。


『分からん。真っ暗なところだ。壁は……厚めか。扉は…おそらく鉄だな。鍵がかかっている』


胸元に触れるが杖はない。

………取られたか。

外がどうなっているか分からない以上、壊すのも憚られる。

それに……

チャラ…

両腕に枷が付けられ、何だか体が怠い。

………禁止魔導具か。

魔力を吸われているな…

通信機に使用する魔力で精一杯、か。


『どうしてそんなところに!?』

『マナの友とかいう女にマナの事で話があると言われてついて行った』

『それでホイホイついて行かない! ついて行くなら僕らに何か一言残してから行ってよね!』

『………悪い』

『まったく……そこまで行くまでに辿った道のりは!?』

『………確か――』


ヘンリーに詳細を伝えると、ヘンリーは了解、と言い通信は繋いだまま走り出したようだ。

俺の魔力が弱すぎるからか、飛べないみたいだな…

………この俺が油断するとは……

………マナの友として認識していた顔だったから気が緩んだのか。

情けないな。

マナの――というか、女の考えを聞ければ、今の状態の打開策が浮かぶと思ったが……

人に頼ろうとしたからか?

自分でマナの事を考えようとしなかったからか?

………だが、分からないんだ。


俺に出来ることは、今実行できることは、臣下として下された命令は拒否せず受け入れること。

すると怪訝な顔をされたが、マナはそれ以外口にしなかった。

………正解だったのだろう。

前までなら二言三言あったのだが。

キリュウにして欲しいから言ったのよ、とか、どうしてもダメなの、とか。

そして最後には諦め、別の誰かに振る。

………今思えば、俺がやった方が最適だった指示だと分かる。

マナは最短時間で処理を行える人選をしていた。

でも俺が断るから、短時間で出来る仕事が二・三日かかっていた。

エンコーフに言われた通り、マナを観察し、自分なりに分析。

マナが寝室に帰ってこない時間を利用して、過去の仕事の書類を見返した。

新たな気持ちで見た事で、ハッキリと分かった。

………本当に、俺はマナの邪魔をしていたのだと、実感した。

マナは王女として、仕事をちゃんとこなしていたのに。

俺のせいで負担になっていた。

これでは王女の仕事に時間を取られ、マナとしての時間が極端に減っているのも無理はない。

それにより、マナ自身の精神も削っていたのだろう。

俺がマナの意見を受け入れないことで、撥ね除けることで、マナは俺に口を出すことを…意見を言うことを……――諦めたのだろうな。

………俺と距離が出来るわけだ。

………アイツに……取られることになっても………前の俺のままなら……文句は言えない。

俺は本当に、見えていなかった。

ヘンリーにも、見捨てられるわけだ。

………義父に……言われるわけだ。

俺は本当に、何も知ろうともしなかった。

一番大切な、マナの事さえ……

マナの言葉にさえ耳を貸さなくなって……


………マナは俺のモノだが、物じゃない……

無機物でもなければ、人形でもない。

………生きている、心がある人間だ。

それを俺は学生の時にマナに教えてもらったのではないのか。

俺が弱い人間だと。

他人を仕方なく守る人間ではなく、俺も守られる人間なのだと。

他の人間と違いはないのだと。

………あの時の俺を受け入れてもらった時から、変わっていないままだったのだな……。

俺がやったことが、結果的にマナの為になり、それをマナは優しいと言い、受け入れてくれた。

………だからと言って、俺はそのままずっと接してて良いわけがなかった…

マナの優しさにあぐらをかいてて良いわけなかった。

マナにずっといて欲しかった。

こんな俺を受け入れてくれたマナに。

だったら俺もマナに喜んでもらうために、泣かせないために、マナを大切にしなければならなかったのに……

………本当に情けない。

本当に大事な女さえ見えなくなるとは、どういう事だ。

ヘンリーに、エンコーフに言われるまで、どうしてマナを見られなかったんだ。

ラインバークにマグダリアを取られて漸く気づくなど、本当に情けない。

ガンッと壁に額をぶつける。


――俺は、マナの夫失格だ。


だが……


………今は……少しは――少しでも…楽になったか…?

俺はマナの力になれているか……?

マナに問いかけたい。

まだ、俺を見ていてくれるのか、確認したい。


『………マナ……』


今、無性にマナに会いたい。

俺の名を呼んでくれ。


………マナの、笑顔が見たいんだ……


ズルズルとその場に座り込んだ。

そしてそっと瞼を閉じた。

魔力を吸われているせいだろうか?

………酷く、眠い……


次に目覚めた時には、マナと話したい。


マナを抱きしめたい。


…愛していると、伝えたい……


頼む……


俺から……俺の傍から……離れないでくれ……


………もう一度……俺を見てくれ…


『………キリュウ……?』


意識を失う前、マナの優しい声を聞いた気がした――


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