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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第六章 王家篇Ⅲ
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第67話 出来損ない少女と日常




あれから五日後、キリュウとイグニスが無事に戻ってきた。

各領に怪しい人物も、怪しい痕跡もなかったそうだ。

謎は残っているが、これ以上は女王の命令で捜索できない。

マナはため息をつきつつも、一段落したということで肩の力を抜いた。

いつもの日常に戻れる。

そう思っていたけれど、マナはヘンリーにニッコリと微笑まれた。


「………何?」

「じゃ、アシュトラルも戻ったことだし、マナ・リョウラン殿下は休暇ということで」

「「「「は?」」」」


ヘンリー以外全員が、訳が分からずヘンリーを見た。


「さぁ、里帰りしようか? マグダリア・フィフティちゃん」

「………げっ」


思わず嫌そうな顔になってしまった。

本当に実行するのか、と。

ニコニコ笑うヘンリーは本気だ。

チラッとキリュウと見ると、眉間のシワが凄かった。


「ヘンリー、私はここに残っていつもの仕事をしないといけないのだけど?」

「大丈夫だよ。緊急の時は連絡が来るし、定例会議の時だけ王宮に来れば問題ないって。女王命令の休暇だよ」

「………くっ……女王を出せば何でも聞くと思わないでよ…?」

「でも聞くでしょ」


ニッコリと笑われ、マナはため息をついた。


「………はぁ。じゃ、皆でフィフティ家に行くわよ」

「それじゃラインバーク様とイチャイチャ出来ないでしょ?」

「ヘンリー」


地の這うような声でヘンリーを責めるのはもちろんキリュウだ。


「………どちらにせよ、臣下は私についておかないといけないでしょ。皆で行くわよ」

「はぁい」


楽しそうなヘンリーに、マナはまたため息をついた。

全員が支度をし、五人はマグダリアの実家であるフィフティ家へ向かった。

マナは更にロンとスズランを連れて。




フィフティ家につくと、そこに新たに執事の役目を与えられた男が立っていた。

マナが義父であるユーゴに予め伝えてあったからだろう。


「お帰りなさいませ。お嬢様。お連れ様も。旦那様が応接室にてお待ちでございます」


彼には見覚えがあった。

ロンの補佐役だった男だ。


「分かった。ありがと」


執事が扉を開け全員を屋敷に招き入れ、応接室まで案内する。

応接室の扉を開ければ、ユーゴと義母であるダリアが待っていた。


「マグダリア、お帰り」


義母は自分の屋敷だからか、マナに抱きついてくる。


「お義母様、ただいま戻りました」

「体は大丈夫?」

「はい。今は大丈夫です」

「陛下から産まれるまではここにいて良いと言われているからね。ゆっくりするんだよ」

「ありがとうございますお義父様」


マナの言葉に、義父は笑い、オラクルに顔を向ける。


「そしていらっしゃい婿殿。ウォールの謝罪以来だね」

「ご無沙汰しております」


オラクルが頭を下げる。


「渡しておいた資料には目を通したかい?」

「はい」

「………資料?」


思わず割って入ってしまったマナ。

その声に、二人は笑ってマナを見る。


「まぁ、フィフティ家の男の心得、かな?」

「何それ…初耳なんですが…」

「フィフティ家の男は、知っておかないといけない事がいくつかあるんだよ」

「それって、私には教えてくれないんですか?」

「ダメよマグダリア。私にもお父さんは教えてくれないんだもの」


拗ねて言う義母にマナは諦めた。

義母にも言っていない事をマナに言うはずもない。


「それより、マグダリアが帰ってきたら聞こうと思って」

「? 何ですか?」

「温泉行かない?」

「………はい?」

「滋養強壮に良いっていう温泉があってね? ウォール領で管理してるのよ。タダで入らせてくれるって言うから、行かない?」


どうやらあれからも交流していたらしい。

それも快く、というよりは圧力の類いが働いていると思われる。

思わずウォール当主に同情してしまう。


「それは……興味もありますし、行ってみたいですが……」

「よね! ということで、皆でいきましょ!」


嬉しそうに言う義母に、マナは勿論、臣下達も(ヘンリー除く)唖然としていたのだった。


「………っと、その前に、マグダリアに書いて貰いたい書類があるんだよ。それを先に済ませてからにしてくれるかい?」

「ええ。じゃあ私は準備してくるわね」

「………ちょっと待って下さいお義母様! 今日、今から行くんですか!?」

「馬車で一日よ。早く出ないと明日の昼に着かないわよ」

「いや、キリュウとイグニスは今日各領地を回って帰ってきたところで――って、聞いていませんね……」


マナの話の途中で義母は上機嫌で出て行ってしまった。

はぁっとため息をつく。


「ごめんねキリュウ……」

「問題ない。お前の方が心配だ」

「私は王宮で座ってただけだから疲れてないけど……」

「………殿下、俺には聞かない――のですか……」

「あら、イグニスは体力有り余ってるでしょ?」

「………扱いが酷くないですか……」


イグニスをからかい、笑うマナ。


「お義父様、どれですか?」

「これだよ」


数枚の書類を渡され、マナは目を通す。

マナとしてではなく、マグダリアとしてのサインが必要な書類だった。

内容はマグダリア・フィフティとオラクル・ラインバークとの関係で、役所に提出しないといけない書類だった。

婚姻届は既に出されているが、それ以外の提出必要書類。

色々バタバタしていてすっかり忘れていた。


「すみませんお義父様。忘れてました」

「そうだろうと思ってたよ。大丈夫。役所はいつでも構わないって言ってくれてるから」

「ありがとうございます」


マナはマグダリア・フィフティのサインを書き、提出してきてくれるという執事に書類を渡した。


「さ、準備をしようか。余り遅くなると母さんの機嫌が悪くなるからね」

「………お義父様もお義母様には敵いませんね」

「そうなんだよ。おねだりされると弱いんだ」


苦笑しながら言う義父に、マナは笑う。

皆準備をし、一同はウォール領へと出発した。


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