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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第六章 王家篇Ⅲ
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第64話 出来損ない少女と新たな問題




「マナ、ちょっと行ってきてもらえる?」


そう女王に言われ、マナは今王宮から離れラインバーク邸に来ていた。


「すみません殿下。ご足労頂いて」

「いえ。女王からラインバーク当主にお会いするようにと言われたので来たのですが、詳しいことは聞いてないんです」

「でしょうね。通信機といえど、何があるか分からないので陛下に面会できないか通信したのです。そしたら殿下にご足労頂けるということだったので」


ホウメイは勝手にマナの派遣を言っていたらしい。

マナ的には問題はないのだが……


「父上、殿下は遠出を控えている身です。こんな所まで来させてつまらないことならば、父上でも容赦しませんよ」


マナの臣下は良く思っていないらしい。


「………お前は殿下の臣下になってから天狗になってないか? バカのくせに」

「私は父上より実際に身分は上になったのです。上から目線で話せるに決まってるでしょ」


マナの座っているソファーの背後に直立不動で立っているオラクルが、思いっきり父親を睨みつけている。

ラインバーク家の使用人が壁伝いに並んでいるこの場所で、マナが妊娠していることは口に出来ない。

だから遠回しな言い方をする。

つまり…


“時空間移動を控えないといけない身重のマナを、こんな場所まで馬車で三日かけて来させておきながら、つまんないこと言うなよ”


ということだ。


他の臣下三人も似たり寄ったりのことを思っているのか、顔が怖い。

王女の臣下だから地位もそれ相応になるので、領主より位は高くなるのだが…

何だか前に見た二人の応酬より酷くなっていないか?

主にオラクルの態度が、とマナは思った。


「お前達は下がりなさい」


使用人達をラインバーク当主は退出させる。

誰もいなくなった後、念のために当主が結界を部屋に張った。


「殿下。実は相談したいこととはこれのことなのです」


当主が書類を渡してくる。


「あ、少々気分を悪くする描写も御座いますのでお気を付け下さい」

「大丈夫。慣れてる」


残酷な描写を慣れていると普通の顔で返すマナ。

慣れてはいけないのだが、マナはその目で処刑されるところ、人形にされた人たちの遺体を大量に見ている。

今更な事なのだ。

書類は、この家の長男夫婦の不自然な点についてだった。

オラクルは兄夫婦が亡くなっている事を知らなかった。

普通に屋敷で暮らしていると思っていたのだ。

なのに何故二領隣のリョウフウ領で遺体で見つかったのか。


「当主も長男夫婦が外出していることを知らなかったのですか?」

「いえ。旅行に行くと言っていました。けれどリョウフウ領でもターギンス領でもなく、王都なのです」

「………王都に行くのに何故逆方向のリョウフウ領で…」

「更に持っていた金品は全て無くなっていました」

「………それは、長男夫婦の財産全て、ということですか?」

「はい」


当主の頷きに、マナは目を細めて当主を見つめた。

そんなマナを真っ直ぐ見返す当主。

嘘はついていないようだ。


「………失礼ですが、何故当主は長男夫婦の持っていた財産を知っているのですか」

「それは私に報告してきていたからですよ。今日はこれだけ稼いだ、今日はこれだけ使う、と。ですから総額いくらあったのかは知っています」

「そうですか。几帳面な夫婦だったんですね」

「はい。こちらも残していました」


当主は書簡も差し出してきた。

開いてみるとそれは出納の記録だった。


「………残ってますね」

「はい。出掛けた当時は、そこに記入してあるように王都への路銀と、同額の帰路用の路銀、そして二・三日滞在する程度の金品。全てが消えるわけがないのです」

「………」


貯めていた金品は邸に置いていったはずだと当主は言う。

夫婦の死が分かった時、金品をもっと警備が厳重な当主が管理する場所へ移動しようとしたそうだ。

だが、夫婦が管理していた場所にあるはずの金品がなかった。

可笑しいと思い、屋敷の者に話を聞いたが、誰も見てない知らないだったらしい。


「使用人がくすねている可能性は?」

「………殿下」


思わず言葉が悪くなるマナに、後ろからオラクルが注意してくる。

言葉が悪くて注意してくるのは臣下の中でオラクルだけ。

キリュウとヘンリーは慣れているし、イグニスは自分の言葉使い故に注意など以ての外だ。

マナは注意されても知らぬふりをする。


「それも考えられることもあり、陛下にお願いして宰相殿を派遣して欲しかったのですが、殿下が来てくださるのならキリュウ殿も来てくれるので、一石二鳥だと思いました」

「そう。キリュウ、この家の使用人の心を読んでくれる?」

「分かった」

「この邸に抜け道などは?」

「ありません。出入り口は常に警護させています」

「………じゃ、内部犯の可能性が高いけれど、そうなると……」

「何処に隠しているのか、ですね」

「ええ。それに内部犯じゃないとなると、外部犯がどこからか入って盗んでいったことになる…リョウフウ領で見つかった遺体と何か関係があるのかしら。………どうおも――あれ? キリュウは?」


マナが背後を見ると、キリュウの姿がなかった。


「邸内を散策に行ったよ」


つまり、即実行しに行った、と。

素早いキリュウの行動に唖然とする。

いつもマナと共に行動しようとするキリュウが……?

とマナは戸惑った。

けれど、それを表に出すことは出来ない。

今は王女だ。

キリュウの行動に疑問に思うも、それは見せられないのだ。

切り替えて、マナは当主を改めて見る。


「長男夫婦の体には魔法で攻撃された跡があって、腹部が裂けていたらしいわね」

「ええ。ですからフキョウ・リョウフウが息子夫婦を殺したのだと思ったのですが、他の遺体には魔法ではなく、魔術で操られていた痕跡しかなかったんです。体が破損してしまうと魔術で人形には出来ないとホウライ国の人間が言っていたそうです。ですから、息子夫婦だけが不自然な遺体になっているんです」

「………ちょっと待って。じゃあアルシェイラ・ゴーシェイの遺体を操れたのは?」

「アルシェイラ・ゴーシェイの遺体には、操るのに支障があるような破損はなかったそうです」


物みたいな言い方に、マナは眉を潜めそうになったが耐えた。


「………とにかく、キリュウが帰ってくるまで待ちましょうか。内部か外部か、判明しないことにはどうしようもないですし」

「そうですね。………あ、遅くなりましたが、息子を貰って頂き、ありがとう御座います。母も文句は言えない家柄の方で助かりました」

「キリュウがいなくなるのを待っていたのでしょう?」

「流石に殺されるのだけは避けたいので」


ニッコリ笑う当主にマナは呆れた。


「………跡継ぎの催促はしないようお母様に言い聞かせて下さいね」

「はい。分かっております」


目の笑っていない笑顔を見せると、当主は頷いた。

取りあえずキリュウの帰還待ちとなり、マナは冷えた紅茶を口にした。


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