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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第五章 王家篇Ⅱ
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第59話 出来損ない少女の施策展開と喧嘩②




キリュウ達の働きで、定例会議の日に当主全員に通信機が行き渡った。

領地に置く通信機はまだ完成していないが、当主達の腕にはそれぞれの家紋が彫られた腕輪型の通信機が付けられた。

全員に起動確認をしてもらい、問題なく起動できることを確認。

そしてその日の議題を消化し、解散となった。

マナは執務室に入って、自分の通信機を腕に付けた。


「あれ? リョウランちゃんも付けるの…?」


王宮には専用の通信機が五カ所に設置されている。

マナが付ける必要は今のところない。

王宮から出かける時や、お忍びの時に付ける予定のハズだった。


「ん。ちょっと出かけるから」

「出かける? どこに?」


ヘンリーに聞かれ、マナは微笑むだけだった。


「じゃ、行ってくる」

「え!? 護衛は?」

「必要ない」


マナはキリュウの傍を何も言わずに通り過ぎる。


「マナ。完成するまでのはずだ」

「………」


キリュウがマナの前に体を入れて進行を妨げる。

確かにキリュウの言う通り、マナは通信機が完成するまではキリュウの顔を見たくないと言った。


「言ったね」

「ああ」

「でも、まだ終わってないから」

「………どういう意味だ」


いつもの無表情を見て、マナはイラッとした。


「はぁ……子供を望んでいないキリュウを見てたら、子供を堕ろしたくなるから顔見たくないって言ってるの! 本当は産まれるまで顔見たくないんだけど!」


怒鳴るとキリュウがたじろぐ。


「ちょ、ちょっとリョウランちゃん待って! アシュトラルは子供を望んでないわけじゃ…」

「“そうか”としか反応しなかった人が!?」

「そ、それは…」

「私はキリュウとの子が出来て嬉しいの! だからもう二度と失うわけにはいかないの!!」


マナは感情が高まって、言わなくて良いことまで口走ってしまった。


「………二度…?」


ヘンリーの言葉にハッとする。


「………とにかく、失うことにならないようにしたいの。安定期入るまでキリュウと距離置きたい」


顔を合わせないようにキリュウを見ないマナ。


「………俺は子供を望んでいないわけじゃない」

「………」

「子にマナを取られたくないだけだ」

「取られるって…避妊しなかったのはそっちでしょ!? なのに子が出来たら邪魔って……ふざけるのもいい加減にして!!」

「マナ…」

「どいて!」


マナはキリュウを押しのけ、執務室を出た。


「………っ」


あふれ出た涙を拭いながら、マナは角を曲がり人目がないことを確認し、通信機を起動させた。


《マナか?》

「うん。準備はいい?」

《大丈夫だよ》

「分かった」


マナは余計なことを考えないようにし、集中した。


接続先アクセス移動ムーブ


目の前が白くなった後、次の瞬間には懐かしい光景が映った。


「あ、成功」


マナは嬉しそうに目を細めた。

目の前の人物も笑う。


「お帰り。マグダリア」

「マナですってお義父様」


目の前にいるのはフィフティ当主。

マナの義父だ。


「成功だね」

「うん。協力ありがとう」

「これぐらいなんて事ないよ。まさか通信機の魔力通信を利用して時空間移動する実験が成功するとはね。協力して欲しいって言われて面白そうだから協力したが、本当にマナ本人が飛んでくるとは思わなかったよ」


そう、マナが試してみたいから早く通信機を作ってくれといったのはこの為だった。

時空間移動の魔法は難易度SSSトリプルエス

もう少し簡単に出来ないかと考えて、魔力を互いに飛ばし合うこの通信機を利用できないかと考えていた。

考案者であるマナ自身が実験してみないと提案出来ないと思っていた。

これで会議で発表できる、とはいかない。

これは危険だ。

領主同士のトラブルで暗殺にも使われるかもしれない。

だから慎重に伝える相手を選ばなければならない。


「マナは滅多に王宮から出られないだろう? ここに来るって許可貰ったの?」

「貰ってないよ」

「まずいんじゃない? 確かにここはマナの実家だけど、そんな理由で許可でないでしょ」

「………ん~ちょっと実家帰りますって気分だったの…」

「どうかしたのかい?」


首を傾げる義父に、マナは困ったような顔をしてソファーに座った。


「………キリュウにね……子供はどうでも良いみたいなこと言われちゃった…」

「子供……妊娠したのかい?」

「………ん」

「そうかい。おめでとう」

「…あり、がと……キリュウの子供、嬉しかったのに…」


マナは顔を両手で覆う。

優しい義父の声にマナの涙腺がまた緩んでくる。


「キリュウはマナが大事だからね。子供は二の次三の次だろうね…」

「………分かってる。キリュウがそんな性格なのは……でも、……嬉しいって…一言………欲しかった……」

「………そうだね」


マナの近くに座り、義父は背を優しく撫でる。


「ま、マナは王女だから家出なんて出来ないだろうけど、今日はここにいれば良いよ」

「………いいの?」

「うん。この間の城下町の出来事も、じっくり聞きたいしね」


義父言葉にマナの涙は止まった。

――そうだった、と。

あの時の出来事は、義父の耳には一部始終入っている。


「実はウォール家から謝罪の面会をずっと打診されててねぇ…」

「う゛………」

「婚約者のオラクル・ラインバークと一緒に、ね?」

「………マジで…?」

「うん。マジで」


思わず素の反応したマナの言葉を繰り返す義父。


「いつにしようか。そして……そのままじゃ会えないから、髪色変えて髪型も変えて顔もちょっと弄ろうか」

「………ちょっと待って。マグダリア・フィフティを存在し続けさせるんですか?」

「マナがやったことだよ。他の名前ならまだしも、フィフティだ。王族の娘を簡単に失踪させるわけにはいかない。学園内だけならまだしも、城下の民にも存在を目撃されているし、名乗っちゃったからね」

「………」

「しかも王家の命令での婚約だよ。破棄できないだろう」


思いっきり女王と王女を出した事が裏目に出ていた。

本当に自分はダメな女だとマナは落ち込んだ。

街での失敗は勿論、自分の感情を優先してキリュウと喧嘩してしまった。

キリュウと話す前までは、やっぱり仲直りしようと思っていたのに、キリュウのあの淡々とした声を聞いて、頭に血が上ってしまった。

キリュウが望んでいない子供を、本当に産んでいいのだろうか…

でもマナは子供が欲しい……。

その事で頭がいっぱいなのに、更に自分のしたことの代償が、もう一人の自分の婚約。

本当に自分は馬鹿で、出来損ないだと思う。

人に――キリュウにどうこう言える資格はない、とマナは自分を責めた。


「オラクル・ラインバークは信頼できる相手なんだろう? 協力ぐらいしてくれるよ」

「………オラクルの人生を、マグダリアに縛ることになるよ……? 婚約者のままで結婚できないし…」

「結婚は出来るよ? 籍入れるだけだし、周りには密かに入籍しましたで良いしね?」

「いや、王族の結婚よ? 大々的にやらなきゃ――」

「密かにキリュウと結婚したマナが何言ってるの」

「………ぁ」


マナもキリュウも結婚式は挙げてない。

だが、マナの事情に――マナがやらかした後始末に、オラクルを巻き込むことはない。

何とかして止めさせようと口を開く。


「ああ、ラインバーク当主からもオラクル殿からももう了承貰ってるからね」


………義父の方が一枚上手だった。


「さっき協力ぐらいしてくれるって言って、これから、みたいなニュアンスだったよね!?」

「ああ、ごめんね。言い方間違えちゃったね」


絶対わざとだ……と、マナはため息をついた。


「………王族自ら、貴族を騙すんですか?」

「最初に騙したマナがそれを言うのかい?」

「これからオラクルとラインバーク当主に、嘘をつき続けろって言ってるって事ですよ!?」

「それを二人は了承したってさっき言ったよ?」


義父の言葉にマナは息を飲んだ。

こんな事になるなんて思ってもみなかった。

本当に余計な事をしたと、マナは項垂れた。


「殿下として忠誠を誓った相手。殿下の都合の良いように動く」

「………ぇ」

「オラクル殿の言葉だよ。私の言葉をロン伝いに伝えた時の答え」

「………お義父様は無関係の人間を巻き込んで平気なんですか?」

「平気だよ。だって、マナの為だから。なにより、陛下の命令だからね」


義父の一番は陛下。

そして、娘を守るため。

マナはまた一つ、自分の汚い面を知ってしまった。

陛下と義父の言葉で、人を騙す事を容認してしまった自分の心。

キリュウを裏切っていることになるのに。

キリュウを責める権利などない自分を知り、罪悪感に瞼を閉じた。


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