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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第五章 王家篇Ⅱ
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第57話 出来損ない少女と喧嘩




マナが王宮に戻り、まずしたことはウォール家の偽造問題。

こういう事は早めに処理してしまうことが一番だ。

ロンを動かし、ウォール家を探るようフィフティ家の影も利用し、証拠を集めた。

不正をしていたのはウォール家の奥方とアンジェリカ。

当主とイランは無関係と判明。

女二人を牢に入れ、宰相のシュウに委ねた。


「………はぁ」


一段落した事で、マナは気が抜ける。

でも、ここでは王女。

そう言い聞かせる。

帰ってきてからキリュウと話してはいない。

何か言いたげなキリュウを無視して、マナはアンジェリカの件を処理していた。

二人の雰囲気が良くないことは、臣下全員察していたが、マナの話しかけるなオーラに尻込みしていた。


「ヘンリー」

「あ、何?」


油断していたヘンリーは、少しビクッと反応しつつ、マナに返す。


「通信機の魔法陣は問題ないから、それを全ての通信機に通信できるように組み替えて」

「………え…魔法陣はアシュトラルの担当なんだけど…」

「ヘンリーも共同してるでしょ。責任者と一緒にやって」


マナはキリュウの名を呼ばなかった。

それによってキリュウの眉間にシワが出来るが、マナは無視する。


「今週中に完成させて。それと完成したらその次の定例会議で配り、それぞれの当主に自領から通信を王宮へ。問題ないか確認したら通信機の施策は完了する」

「………リョウランちゃん、焦ってる?」

「ちょっとしたいことがあってね」

「したいこと?」

「そ。頼んだわよ。イグニスも付き合ってあげて。傍にいるのはオラクルだけでいい。はい、退出」


三人に手で追い出す仕草をするマナ。

マナらしくない行動に、四人とも眉を潜めた。


「………ああ、暫く顔見せないで」


マナはそうキリュウに言った。


「………何故だ」

「私には心の安静が必要なの。理由は話したでしょ」

「………俺は…」

「通信機が完成する頃までには落ち着かせる。顔、見たくない」


スッとマナは手を上げ、指をキリュウに向けた。

無詠唱で三人を部屋から実験室へ飛ばした。


「………宜しいので?」

「………王女の私は弱みを見せてはいけないのよ。オラクルは私の事情知ってるから、悪いけど付き合って」

「それは、構いませんが…キリュウは恐らく、戸惑っているだけかと」

「ん………顔見て分かった」


王宮に帰ってきてから、キリュウの顔は戸惑っていた。

急に子が出来たと言ったからだろうか。

まだ、そんな事考えていなかったのか。

けれど、シュウはキリュウがアシュトラルの血を抑えていないと言っていた。

子が出来る事は分かっていたはずだ。

なのに何故戸惑う必要があるのか。

それが疑問だった。


「………なんでかなぁ…」


机に肘をついて手の平に顎を乗せる。


「………あの時、“そうか”だけだったのに」


声色を似せて言いオラクルを見ると、オラクルがハッとしたように考え始める。


「………あのさ」

「な、なんですか……」

「………いや、何でも無い。何でだと思う?」

「………」


オラクルは腕を組み考え始める。

それを見てマナは視線を外す。

城下から戻ってきた後から、不意にオラクルがマナの事を見つめている時がある。

今もそうだった。

考えられるとすれば城下の時の事だろうが、それは無かったことにするのが互いの為。

マナはそれは無いだろうなと考えを捨てた。

シャラとブレスレットが鳴る。

オラクルが買ってくれたブレスレットは気に入っている。

皆には自分で買ったと言った。

余計な揉め事にならないように。

オラクルもそれでいいと口を噤んでいてくれる。


「まだ殿下との時間が欲しかったのでは? キリュウにとって殿下は唯一ですから」

「二人の子なのに?」

「男とは、自分勝手に考える生き物ですからね」

「それを言うなら女もでしょ」


マナは手に入れたオラクルとアンジェリカの婚約破棄状を見る。

自分勝手にオラクルを振り回した女。

自分の都合の良いようにオラクルを扱って、自分の家の地位を上げようとした。

ウォール家は中級貴族だったから。

だが、そんな事は不可能だった。

既にフィフティ家が実状を掴んで、王家に報告しようとしていたから。

ウォール家当主は妻と娘がした事を知らず、監督不行き届きで自ら貴族地位を返上すると申し出てきた。

けれど、ウォール当主の人徳は女王ホウメイの知るところもあり、下級貴族への降格だけになった。

財産押収も無い。

領地もそのまま。

相当な温情だと思うが、ウォール当主は恐縮しきっているという。

元々気の強い男では無かったため、妻の横柄な正確には辟易しており、ろくに顔も会わせていなかったせいで今回のことになった、と。

その様子もフィフティ家からロン経由で報告を受けた。

マナはウォール当主宛に、恐縮する時間があるのなら、その分民のことを考える時間に充てるようにとの書状を出した。

領地を管理する当主に、立ち止まられたら困るから。


「………ま、オラクルの件は終わったし、今後も期待してるわよ」

「はい」

「今残っている問題は?」

「殿下のことだけです」

「う゛……」


平民からの意見用紙の対処は順調で、現在未解決の件は無かった。

マナの主な仕事は今はない。

従って、今の問題はマナとキリュウの仲だけだった。


「お聞きしたいのですが、殿下はキリュウにどういう反応を期待していたので?」

「………ぁ」


オラクルの言葉に、マナはハッとした。

マナはキリュウが知ればどういう行動を取るかを想像していただけ。

伝えたときにどういう反応をするかなど、すっ飛ばして。


「あの他人に興味が無いキリュウが、殿下以外に頭を使うわけ無いですよ。キリュウが大事なのは殿下で、殿下の子じゃないんですから」

「………そだね」


自分よりオラクルの方がキリュウを分かっている。

悔しいやら悲しいやらで、マナは失笑した。


「謝らないとね…」

「良い薬だと思いますけどね」

「ん?」

「キリュウは今でこそ殿下の事も考えるようになっていますが、まだまだ自分の考えを押しつけてますから。良い機会じゃ無いんですか? キリュウに考えさせるという時間があって」

「じゃ、オラクルも付き合ってよね。私、最後にはキリュウのいいようにって許しちゃうし」

「………え…殿下がですか?」

「何その顔…」


プライベートでのマナとキリュウをあまり知らないオラクルは、怪訝そうな顔をしていた。


「私も女だって事オラクル忘れてない?」

「忘れてませんよ。街では可愛かったですし」

「ぐっ……」


サラリと入れ込んでくるオラクルを睨む。

頬が赤くなっているのに気をよくしたオラクルは、フッと笑って視線を反らした。

そんなオラクルに、マナはクッションを投げつけたのだった。

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