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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第五章 王家篇Ⅱ
55/81

第55話 出来損ない少女のお忍び②




話が一段落した後、マナは通信機を起動した。


起動オープン


魔力を流し込むと同時に唱える。

すると、リンと鈴のような音が鳴った。

ちなみに城下に着いたときに鳴った鈴のは通信機を切った音。

そこまで問題なくキリュウと話せた。

ザザッという音がしたと思えば、


《遅い》


不機嫌な声がマナの頭に直接響いてきた。


「ごめん。ちょっとトラブルがあってね」

《ラインバークに口説かれてたのか》

「なんでオラクルに口説かれてる限定なのよ」

「げっ……」


マナの言葉に反応するオラクル。

帰ったらオラクルの身が危ない。

通信機は別に声に出す必要は無い。

頭で思うだけでも通信できる。

でも今は別に知られてもいいオラクルだけしかいない。

街中まちなかであれば頭で会話するが、今はいい。


「そうじゃなくて、まぁ色々あったのよ」

《色々って何だ》

「帰ったら話す。それより通信機に異常は無い?」

《ああ》

「そっか」


マナはオラクルを見る。

その視線を受け、オラクルは頷いた。


「………あ、のね………キリュウ……」

《どうした》

「………ぇっと……ぁの………」


モゴモゴとマナは言葉を探すが、何も見つからなかった。


《………》

「こ、子供……」

《子供?》

「………で、でき、た…」

《………》


マナの言葉にキリュウの返答はなかった。

その沈黙に、マナはソワソワする。

挙動不審のマナを、オラクルは苦笑しながら眺めていた。

二人の問題だから間には入らない。


《隠し子か?》

「なんでよ!? キリュウと私の子に決まってるじゃない!!」

《バサバサバサ!》

「いっ!?」


キーンと頭に響いてきた音。

マナは頭を抱えてしゃがみ込む。


「殿下!?」

「っ……だ、だいじょ、ぶ…な、なんか書類? が散らばる音が大音量で頭に響いて……」

「………動揺しすぎだろうキリュウ」

「………」


オラクルの“動揺”という言葉で、マナはキリュウの様子を察せた。

いつものように無表情で仕事しながら、マナと通信していたのだろう。

そしてマナの言葉に動揺して、持ってたか机に置いていた書類をばらまいたのだろう。

その証拠に…


《ちょっとアシュトラル! 何してるのさ!》

《床中書類まみれになったじゃねぇか!》


というヘンリーとイグニスの声が聞こえてきた。

そしてヘンリーが絡んでこないということは、キリュウは頭の中で会話し声を出していなかったのだと思う。

でなければ、ヘンリーが“隠し子”の単語に反応しないわけがない。


《………本当か?》

「う、うん……ちゃんと診てもらった、から」

《そうか》


抑揚がないいつも通りのキリュウの声に、マナは少し気落ちした。

喜ぶでもなく、何事もなかったような声。

何か期待していたわけではないけれど、少し落ち込んでしまう。


「あ、あの……」

《………どうした》

「………なんでもない。じゃあ切るね」

《ぁ》

切断クローズ


マナは通信を切った。

キリュウが何かを言っていたようだが、続きを聞かずに切ってしまう。


「………」

「殿下?」

「………キリュウは、子供は別に嬉しくないみたい」


無理矢理笑顔を作るマナに、オラクルは眉を潜める。


「ですが、先程動揺していたのでしょう?」

「驚いただけだったみたい。じゃ、帰ろ」

「………」

「あ、またマグダリアって呼んでよ?」


踵を返して歩いて行くマナの背中をオラクルは暫く眺め、一つ頷いてからマナの後を追った。


「今から帰っても何も用はないんだろ」

「え? ええ…」

「だったらちょっと付き合え」


強引にマナの手を取り、先導するオラクル。

恋人繋ぎで手を握られ、マナの頬は不覚にも色づく。

キリュウと繋いだことない繋ぎ方をされ少し罪悪感がわくが、先程のキリュウの声色を思い出し首を振った。

時間が経って何だか腹が立ってきた。

避妊をせずに関係を持ってきたのはキリュウだ。

欲しくなければそれなりの対処をしておくべきだ。

自分勝手なキリュウにマナは頬を膨らませた。

そんなマナの百面相をオラクルは眺め、口角を上げる。

自分ばかり素を見られ、オラクルは少し不公平だと思っていた。

そんな矢先に主人のいろんな顔を見た。

少しスッキリしたオラクルは、上機嫌でマナを引っ張り街に向かった。

そして――


「これなんか良いんじゃないか?」

「派手すぎない?」


買い物を楽しんでいた。


「そんな事ないだろ。付けてみろ」


オラクルがマナの手を取り、ソレを付ける。

マナの手首が七色のブレスレットで飾られた。


「ほらよく似合う」

「………そう?」


少し照れながら、マナは笑う。


「店主、これを貰う」


オラクルが代金を支払った。


「え、自分で……」

「お前は俺の愛しい人だからな。贈り物など当然だろ」


先程、街中まちなかでアンジェリカを追い払うために芝居をした。

その様子を見ていたのは大勢だ。

嘘がバレないように演じているとはいえ、オラクルの台詞は心臓に悪い。


「いらないか?」

「………ううん。ありがと」

「ああ」


少し照れながら言うマナに、オラクルは笑う。

マナの反応で楽しんでいることがよく分かる。

それが面白くないが、ここでそんな事は言えない。

あの芝居で、マナが大人しい令嬢ということを印象付けただろうから。


「行こう」


オラクルがまたマナの手を取って歩き出す。


「………ちょっと芝居が過ぎるんじゃないの?」

「いいんだよ」


素のオラクルは強引で、マナの言うことなど聞かない。


「さ、次はあれを食べるか」

「? 何あれ」


甘い匂いをさせている屋台にオラクルはマナを連れて行く。


「二つくれ」

「あいよ」


オラクルが勝手に注文し、店主は作り出す。

出来上がった食べ物はホカホカと湯気を出している。


「ほれ」


オラクルがマナの手にソレを握らせる。

薄い皮にクリームと果物が巻かれていた。


「クレープって言うデザートだ」

「クレープ…」


周りを見ると食べながら歩いている人がたくさんいた。

マナは暫くクレープを見、そして口に含んだ。


「! 美味しい」

「口に合ったか」


オラクルは既に半分ほど食べていた。


「早!!」

「疲れたときに良いんだぞ」

「オラクルって甘党?」

「そうだな」


意外な一面を見た。

マナは少し微笑み、クレープをまた口に入れる。

わずかに残っていたキリュウへの不満が消えていくような感じだった。

甘い物が固まっていた心を解してくれるような気がする。

食べ終わった後は、オラクルともう少し街を散策した。


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