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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第四章 王家篇
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第40話 出来損ない少女のお披露目




キリュウのおかげでアルシェイラに掛けられた魔術を判別出来、先遣隊も戻ってきた。

ホウライ国の動きを監視しつつ、一先ずの脅威は去ったといって良い。

そして伸びに伸びたマナのお披露目がいよいよ始まる。

王族、貴族、平民全てに周知された情報は、リョウラン国国民が度肝を抜かれることになった。

王宮のバルコニーが見える広場に人々が殺到する。

公表された(国中にばらまかれたビラの)内容はこうだ。


『リョウラン国国王の第一子が、

 王の子としての教養を終え、

 披露目をすることとなった。

 ホウメイとアルシェイラとの間に生まれ、

 今までホウライ国からの暗殺の危険性があった為、

 自衛出来るようになるまで公表してなかった。

 これからは女王の子として生きていく為、

 皆に知ってもらいたい。

 王女として生まれ落ちた者の名はマナ・リョウラン。

 彼女は既にキリュウ・アシュトラルと婚姻しており、

 キリュウはキリュウ・リョウランとして

 マナの傍でつかえる臣下となっている。

 これからの国の未来をささえる二人の披露目を、

 どうかこの国全員で見て欲しい』


このビラを見た時、マナの目は据わった。


――なんだこの内容。


と。

マナの人生がなんだか美化されていた。

本当のことを言うわけにはいかないが、もっと何かあったのでは……とマナはため息をついた。

が、これでもうアシュトラルと呼ばれなくなる。

王宮魔道士として訓練場に行くわけにもいかない。

行くなら王女として行かなければならない。

ふと思う。


「アンナも普通にはしないだろうな」


せっかく女友達という者が出来たのに残念だった。

けれどマナの立場は王女であり、只の王宮魔道士ではない。

これが本来の関係なのだと、目を閉じた。


「何か仰いましたか?」

「何でもない」

「さぁ、出来ましたよ殿下」


スズランに言われ、鏡を見る。

そこにはカスタマイズされたマナが居た。

王家の象徴である白いドレス。

露出は最小限にし、清楚な見栄えに。

フリルも少なめで、装飾品もネックレスとティアラのみ。

化粧もナチュラルにし、紅も薄桃色。


「………誰」


とマナが言うくらいに、そこには深窓の令嬢といえるような王女がいた。


「殿下……」

「これ、舐められない?」


スズランを見上げると、呆れた顔をされた。

主人に対して感情を表に出し過ぎ、とはマナは注意しない。

むしろ出してくれ、意見をくれ、とマナは常々ロンとスズランに伝えている。

マナは自分を過信しない。

それはアルシェイラの件で学んだ。

自分は人の意見を聞き入れ、成長しなければいけない。

過信しすぎて何でもできる、何でも正しいと勘違いしてしまわないように。


「………令嬢はそのような言葉使いませんよ」

「だって…威厳が大事なんじゃ……」

「女王も会議やパーティの服装は清楚ですよ。勿論、威厳を表に出されることはありますが、清楚な装いの方が相手を落とすときには有効です」


スズランの言葉に、マナは納得した。

実際に見て知ったホウメイの使い分けを思い出しながら。


「………ぁぁ……言いそうに見えない人程、怒ったとき怖いもんね…」

「ご理解頂けたようで何よりです。さぁ、キリュウ様がお待ちですよ」


スズランに言われ、マナは腰を上げた。

部屋を出てスズランの案内で披露目のバルコニーへ向かう。

緊張はないが、王女として見られるかどうかがマナの心配だ。

途中でキリュウが立っているのが見え、マナは微笑む。

スズランが下がり、キリュウが差し出す手に、マナは手を乗せる。

キリュウのエスコートでバルコニーへ出る。

その瞬間、すごい熱気に当てられる。

女王が丁度話し終えたところで、場所を譲られマナは国民の前に王女として姿を現す。


「紹介します。娘のマナです。これからは公の場所に姿を現すこともありますので、お見知りおきを」


ホウメイがマナの腰に手を当てながら言い、ゆっくり下がる。


「ご紹介に上がりました。マナ・リョウランと申します。これから先、国民の皆様が今よりもっと生活しやすい国を作り上げていきたいと思いますので、宜しくお願いいたします」


魔法で拡張された声は、広場に広がった。

国民の雄叫びが響く。

どうやら歓迎は一応されているようで、マナは内心ホッとする。

まぁ、この場で不満を言う人はいないだろうが。


「そして、私の夫もこの場でご紹介させて頂きます。キリュウ」


斜め後ろにいるキリュウに目を向ける。

キリュウがマナの隣に立つ。


「キリュウ・リョウランだ。元はキリュウ・アシュトラルという名だった。今後はマナと共に国の政治に携わる事となる。マナも私も、良き国にしていこうと常に努力する所存」


キリュウはこんな時でも敬語は使わずいつも通り。

マナは内心苦笑する。

恐らくこの場のどこかにいるヘンリーも笑っているだろう。

その場面をマナは容易に想像できた。

キリュウの言葉が切れた時、マナは隅に控えていたロンに合図し、バルコニーにある箱を持って来てもらう。


「私のお披露目に当たり、一つ新しい政策を女王に許可をもらったので、この場で発表させて頂きます」

「街の各所に、この意見箱を置くようになった。何かあればこの意見箱を通して、皆の意見を王宮に伝えてくれ」


キリュウがロンから箱を受け取り、見えるように少し前に掲げた。


「この案は私とキリュウの二人で考えました。王宮に意見を上げる事が現在不可能な状態になっています。それでは直接女王と謁見できる貴族階級までの意見しか聞けません。国民の皆さんの意見も是非お聞きしたいので、どんな些細なことでも書いて頂ければと思います」


平民は戸惑っているのか、ざわつく広場。

王家に物申す事など、一生無いと思っていたのだ。

街を巡回する王宮魔導士や剣闘士に苦情を言う事はあっても、改善などされないと思っている。


「こんな事を言っても…と不安になることもあるでしょうが、本当に些細なことでも構いません。街の治安、街の不便な事、こんな物があれば良い、など。全てに目を通させて頂き、意見箱の傍に掲示板も用意しておきますので、そちらに王家からの返答を貼り出させて頂きます」


おお…と国民が反応する声がする。


「名前を書く必要もありません。意見だけ書いて頂いたら大丈夫です。毎日回収させて頂きますが、お返事に時間が掛かることもありますのでその辺りはご理解頂ければと思いますが、必ず全てに目を通させて頂きます。紛失したりしないよう、王宮魔道士の中の結界魔法を使える者のみが回収部を開けられるように工夫しておりますので、ご安心下さいませ」

「更に最初に目を通すのは女王かマナか宰相か私の四人だけだ。万が一途中で他の誰かに読まれないよう、専用の用紙も共に置いておく。一度持ち帰り、記入して折り畳むと魔法が発動し、私たちの魔力に反応して開封できるようになる」


マナとキリュウの言葉に、徐々に平民の顔が笑顔になっていくのを見て、マナは笑みを深めた。

良からぬ事を企む人物に読まれないよう保険をかける。

これは女王とシュウの意見だった。

キリュウは専用の用紙作りを意気揚々と研究し、わずか二日で完成させるというとんでもない事をした。

その時のマナの呆然とした顔は、可愛かったとキリュウはヘンリーに語ったらしい。


「皆様もこの国の一員として協力して頂き、私達と国をもっと豊かにしていきましょう」


両手を広げてマナが力強く言うと、歓声が広場に広がった。

マナのお披露目は成功したようだ。

キリュウを見上げると、目を細めて穏やかにマナを見守っていた。

二人で笑い合い、国民に手を振ってその場を後にした。


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