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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第四章 王家篇
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第37話 出来損ない少女と先遣隊





戦の準備を整え、マナ・キリュウ・ヘンリーを加えた先遣隊は王宮を出発した。

メンバーにはオラクルもイグニスも加わっている。

先遣隊の働きによっては、進軍本体も動くようになる。

マナ達の働きに掛かってくる為、少数精鋭だ。

魔導士十名、剣闘士十名の計二十名。

魔導士一名と剣闘士一名でペアを組み、魔導士が空間移動を多用し、ホウライ国との国境まで行く。

マナと組むのが男性剣闘士でキリュウの機嫌が悪くなったため、仕方なくオラクルと組むはずだったイグニスとペアになった。


「よし、出発する。魔導士は自分の魔力を考慮し、無理だと判断したら報告するように」


魔導士の肩に剣闘士が手を置き、魔導士は杖を掲げて魔法を唱えた。

精鋭部隊とあって馬で三日かかる距離を、わずか一日で国境まで辿り着く。

ホウライ国と違って後手準備になったリョウラン国。

マナ達が辿り着いた時には既にホウライ国の準備は整っていた。

国境との境に騎馬兵がずらりと並んでいる。

あと少し遅れでもしたら進軍が開始されていただろう。


「ではこれから作戦通りに行う。魔導士が四方に散らばり、魔導士が攻撃している間剣闘士が周囲を警戒」

「魔導士二人剣闘士二人の四人一組で散らばれ。尚、アシュトラル両名とヘンリーはそれぞれ違う組になるように」

「………俺とマナを離すのか」

「あのなぁ……ここにいる誰よりも強い三人のうち二人を同じ組にしてどうするんだよ。三方向強力な駒を置く方が遙かに効率が良いだろうが」

「………」


オラクルとイグニスを睨みつけるキリュウに、マナとヘンリーは苦笑する。

とっとと離れた方が良いだろうと判断するマナ。


「じゃ、キリュウ。後でね」

「!」


マナは予め決めていた三人に合図し、早々に姿を消した。


「………」


不機嫌なキリュウと共になる者達の顔は引きつっていた。


「アシュトラル、早く終わらせた方がアシュトラルちゃんに会えるよ」

「分かっている」


不機嫌の顔のまま、キリュウも去った。


「じゃ、行きましょうか」


ヘンリーも去って行った。

マナが西、キリュウが東、ヘンリーが南、オラクルが南東、イグニスが南西の全部で五チームがリョウラン国の国境の手前の森に待機した。

ホウライ国が進軍して森に入る瞬間に一斉攻撃する。

散らばって位置についた瞬間、土埃を立てながら騎馬隊が動いた。

マナはジッと前を見ているが、背後も警戒していた。

以前来た暗殺者が捕まり、帰国していないのだ。

警戒していると考えて良い。

何もなければそれでいいが、もし今回も差し向けられていたらマナが危ない。

自分が危ないと分かっていて、先遣隊に入れろと言った。

ホウライ国が危険視しているのはホウメイだと女王は言ったが、マナは自分だと思う。

一騎当千を成し得る人物は、ホウメイではなくマナ。

そしてキリュウだ。

ホウメイ暗殺よりマナ暗殺が強いと確信しているからこそここにいる。

強者を先に討ってしまえば、暫くは安心できる。

戦が本格的に始まれば逆に動きにくくなる。

グッとマナは杖を握った。

作戦開始の位置まで残り五m。

作戦開始の位置に馬の足が踏み入れられた時、一斉に目の前の地面が消えた。

土魔法で地面を裂いたのだ。

勢いづいている騎馬隊は止まれず、どんどん落ちていく。

深さは約三十m。

生きていたとしても、登ってこられる高さではない。

流石に後方の騎馬隊は止まれたが、前方にいた騎馬隊は全て落ちたようだ。

これで半分の敵はいなくなった。

このままで行けば、勝利は確実。

――と思うが、


「ぎゃぁ!!」

「………そんな簡単にいくわけないってね」


マナは腰に差していた剣を後方に振った。

ガキッ!

剣がぶつかり合う音が鳴る。


「………」


ゆっくりと振り返ると、一人の黒ずくめの人物が立っていた。

細身で身長が高い。

チラッと下を見ると、チームを組んでいた三人が倒れている。

一瞬で三人を倒したというのなら、相当な手練れ。

少しは時間が稼げると思っていたが、無理そうだ。


「一応聞いておきましょうか。目的は私?」

「………」

「口が聞けないのかしら」


グイッと力を込められ、刀を弾かれた。


「チッ」


マナは無詠唱で風を刃にして飛ばしたが全て避けられた。


「………(まずい。この人、イグニスより速い)」


剣の訓練の時に良くイグニスに相手してもらった。

そのイグニスより速いとすぐに分かる。

イグニスに一度も勝てていないマナは内心焦っていた。

剣を振りながらの魔法はあまり集中できないために威力が弱い。

考えている間も容赦なく剣の攻撃が来る。

ガツッ!


「………!」


ザクッと剣先が地面に刺さる。

マナが持っている剣は途中で折れてしまっていた。


「馬鹿力め…」


マナは地面から木の蔓を生やして相手の足を捕らえる。

が、相手は蔓を剣で斬る。

その一瞬をついて風の刃を飛ばす。

スッと避けられるが、フードの端を切った。

ファサッとフードが外れる。

出てきた顔は――――


「………ぇ…」


マナは相手を見て固まった。

戦闘中に集中力を欠くのは致命的。

分かっていても、マナは混乱してしまった。


「ど、して……」


見開いた目の端に剣が迫っているのが見える。

ハッとして後ろに飛び退く。


「どうして貴方がここにいるの!?」


マナは問いかけるが相手からの返答はない。

虚ろな目でただ目の前の敵を殺そうとしている。


「くっ…」


マナはチラッとホウライ国騎馬隊の様子を見る。

マナの担当区間以外の殲滅は上手くいっているのが分かった。

この区間だけ殲滅できていないことに気づいて、誰か剣闘士が来てくれるのを祈る。

相手に魔法は通じない。

純粋な早さで対抗できる剣闘士が一番だ。

自分の細腕で太刀打ちできないことが悔しい。

足下に転がっている剣を足で蹴り上げ、折れた剣は捨てる。


「………ホント、私って命の危険が多いわ」


マナは息を吐き、剣を構えた。

相手は余裕なのか剣を下げたままマナを見ている。


「どうして貴方がここに――生きているのか知らないけど、敵なのは間違いないのね」

「………」

「………何も言わないのは何故? 操られているって事かしら」


ジャリッ

相手が足に力を入れて一気にマナに近づいた。


「っ!」


マナは腕に力を入れて受け止める。

受け流すには相手の力が強すぎた。

いなそうとした瞬間に、マナは斬られてしまうだろう。

だから両手で剣を構えて受け止めるしかなかった。

ギリギリと剣が摩擦によって削られる。

足が地面に食い込んでいく。


「う、でが…っ」


力の差がありすぎて腕が痺れる。


「ほん、と…っ、つい、てないっ(キリュウっ!)」


保たないことは悟っていた。

他人頼みなんてしたくないけれど、勝てない。

心の中でキリュウを呼ぶが、届くことはない。

気づいてくれるのを只待つしかない。

その時間は、もうない。


剣の刀身に鍔を引っかけられる。


力業で剣が上に跳ねられる。


マナの剣が飛び、遙か後方に突き刺さった。


相手の剣がマナに向かって振り下ろされた。


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