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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第三章 王宮魔導士篇
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第25話 出来損ない少女と魔導士の基本より大切なもの




マナが魔導士訓練に参加するようになって、数か月がたった。

相変わらず新人魔導士達に受け入れられないマナだったが、本人は至って普通だ。

マナにとってはキリュウとヘンリーがいればどうってことは無かったし、学園生活でも同じようなものだった。

ようは慣れなのだ。

今までの境遇がそのまま継続されているだけで、マナ的に問題はなかった。

ただ基本魔導士の連携が取れないと命にかかわる問題、と学園で習っているはずだったが。

魔導士は詠唱が基本で、チームで攻撃と守備を分担する。

すなわち戦闘ではこのチームワークが優れているほど勝利を導くと言われている。

個々に力を持っているキリュウやマナも、攻撃中に防御もするというのは至難の業のはず。

それなりにコミュニケーションを取ることも大事なのだが。


「………」

「………」


キリュウもマナもそんな事をする必要があるのか、という考えがある為に未だ単独行動。

いや…マナはキリュウに合わせて、他の魔導士と連携を積極的に持とうとしない傾向にある。

キリュウがマナだけ……いや、マナとヘンリーだけでいいと思っているのは知っている。

だからマナもキリュウが望まないのならこのままでいいと、キリュウの意思を尊重している。

そんなキリュウを何とか説得して、連係プレーして欲しいとマナにヘンリーが願ったことはあったが、マナは首を横に振るばかり。

ヘンリーが二人をフォローするものの、一人で二人を補うのには骨が折れる。

が、新人魔導士達も二人と距離を置いているので、距離が縮まることは無い。

ヘンリーが最近少し困り気味に、遠巻きにマナとキリュウを眺めている事には気付いている。

魔導書を読んでいた顔を上げ、感じる視線の方へ目を向ける。

そこにはヘンリーと話している新人魔導士が。

チラッと向けられた視線は新人魔導士の方。

睨み付けるというよりは困惑した顔でチラチラ見られている。


「無視しろ」

「………ん」


マナはキリュウの言葉に視線を下げる。

そして今度はキリュウの横顔を見た。


「………どうした」


魔導書から視線を上げてキリュウはマナを見る。


「ん~……気になっているのはキリュウの方じゃない?」


魔導士の視線が気になって魔導書の言葉が頭に入っていないようだった。

首を傾げるマナにキリュウの眉間に皺が寄る。


「………………………マナが減る」

「いや、減らないから…」


言い渋って出た言葉がそれなのか、と思わずマナは突っ込んでしまった。


「鬱陶しい……」

「視線がね。………話してみないの?」


前にヘンリーがキリュウを説得してくれないかと言われた事を思い出す。

あの時は断ったが、キリュウの意思を確認もせずに断ったな…とマナは今思って少し反省した。


「何の必要がある」

「………魔導士としての………基本?」

「………」


いくらキリュウが強くても、不意に何が起こるか分からないのは事実で。

マナは学園で教えられた言葉を思い返す。


「えっと……魔導士って連係が大事って習ったし…」

「………俺とマナとヘンリーがいて、他に何が必要だ」


興味を無くしたようで視線を魔導書に落とすキリュウに、マナは肩を竦ませた。

キリュウの興味はマナとヘンリーだけで、他はどうでもいいのだと改めて認識した。

マナはキリュウ程他人に対して拒否はないけれど、一生共に生きると誓った彼がそれでいいと思っているなら、これ以上マナは何も言えなかった。

何よりもキリュウが大事で。

彼が傍にいてくれるならそれ以上欲しいものは無くて。

落ちこぼれだったマナを救ってくれたのはキリュウ。

その彼が好きになってくれて。

他に何も要らないとマナを望んでくれて。

マナの為にすぐさま卒業証明書を手にして、妻にまでしてくれた彼を大切にしたかった。

彼の望みを全て叶えてあげたかった。

ふと目に入った彼の耳についているピアス。

自分の耳にもそれがある。

揃いで付けているソレは、キリュウとマナを繋いでいるという目に見える証。

マナは今一度想いを確認する。


「………(うん。大丈夫。私はキリュウの望むままに)」


危険があろうとなかろうと、キリュウの思いを大切にしたい。

何があったらマナが守ればいい。

キリュウが消えてしまわないように。


「………何を考えている?」


ふとキリュウと視線が絡み合った。

思った以上にキリュウを見つめてしまっていたらしい。

マナの視線に黙っていられなくなったのだろう。

横顔を一方的に眺めていたマナ。

なのに急に至近距離で見つめ合う事になってしまった。

突然の事にマナはカァッと頬を染める。

夫になっても変わらず綺麗な顔に慣れろという方がおかしい。

ましてや不意打ちなど、落ち着いていろと言われても無理だ。

覚悟して見つめるとある程度耐えられる。

けれどこういう事には慣れない。

キリュウもキリュウで分かっていて、偶にわざと不意打ちでマナの顔を覗き込んでくる悪戯を仕掛けてくることもある。


「………っ」

「………マナ?」


怪訝そうに見て来るけれど、面白がっているのは目を見ればわかる。

マナはパッと顔を背けて顔の熱を冷まそうとするが、マナの行動パターンはキリュウにはお見通し。

顎に手をかけられて動かせなくなる。


「ちょっ……は、はなし、て」

「何を考えていたか聞いている」


相変わらず探求心は顕在で、キリュウはマナの思っていることを知りたがる。

魔導だけにその探求心を使って欲しいとマナは思う。


「キ、キリュウの事に決まって、る…」

「それは分かっている」


それは自意識過剰では!?と突っ込みたいが、マナの考えそうなことはお見通しなので否定できないのが悲しい。


「内容は?」

「………っ……」


ますます赤くなってしまう頬。

そんなマナの顔を見ながら緩んでいくキリュウの目元。

それを面白くないと赤い顔のままぷくっと頬を膨らませるマナも、キリュウにとってはただ可愛いだけ。


「マナ」

「………キリュウが相変わらず好きだなって思ってただけ…」


どうせ逃げられやしないとマナは諦めながら言った。


「俺も好きだ」

「………っ」


マナは言葉にするのは相変わらず恥ずかしいのに対し、キリュウは何てことないように言うから不公平だと思ってしまう。


「俺だけを見ていればいい」


それは言外に「もう他の男を目に映すな」と言っている。

キリュウが他の魔導士と組みたがらないのは、これもあるのだろうかとマナは思う。

なら女性の魔導士ならどうか。

と、一瞬考えてすぐさまその考えを捨てた。


「………(わ、私が嫌だ……)」


キリュウが他の女の人と話していて、嫉妬しない自信がなかった。

すでに一度嫉妬で喧嘩した事実がある。

結局自分たちが組める魔導士はいない。

その結論に達するしかなかった。

ヘンリーは元々キリュウの友で仲間だったから何の違和感もなかったけれど、今から自分たちの中に入ってくる魔導士を、色眼鏡で見ない事は出来ないと思った。

何かしら見返りを求めてくるだろう、と。

キリュウの隣に立ちたい。

キリュウを蹴落としたい。

キリュウの技術を盗みたい。

キリュウを殺めたい。

など、考えは尽きなかった。

ヘンリーの期待に応えられない。

マナは苦笑しキリュウの袖を少し引く。

既に顎は解放され、キリュウは魔導書に視線を落としていたから。


「………どうした?」


好きな魔導書を読んでいようと、マナが呼べばキリュウはマナを優先する。

そんなキリュウにマナは微笑んだ。


「………ずっとそばにいてね?」

「………」


マナの言葉にキョトンとするキリュウ。

その顔にマナは嬉しくなる。

こんなキリュウを見られるのは自分だけなのだと。


「今さら当たり前の事を聞くな」


そう言いながらキリュウは魔導書を閉じ横に避けたと思えば、ヒョイとマナを抱き上げ膝に乗せた。


「………ぇ…」

「構って欲しいのか?」

「な、なんでそうなるの…?」


人目がある場所で膝に乗るなど、王女としての教育…いや淑女としての教育を受けてきたマナにははしたない行為に思えた。

それ以前に人目があるところで口づけられたりするので今更感はあるけれど。


「アシュトラル、イチャつくなら部屋でにしてね」


新人魔導士と話し終わったのか、ヘンリーがマナとキリュウの方に近付いてきながら話しかけてきた。


「邪魔だヘンリー」

「公共の場でイチャつくアシュトラルが悪いよ。さ、休憩は終わりだよ。二人とも訓練場に戻ろう」

「………チッ」

「はい、舌打ちしない」


渋々マナを放すキリュウに苦笑する。


「キリュウ。終わったら部屋でゆっくりしようね?」

「ああ」


マナの一言で機嫌が直るキリュウに、マナは微笑みヘンリーは呆れた顔を向けた。


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