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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第三章 王宮魔導士篇
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第24話 出来損ない少女と王宮魔導士訓練




キリュウが本格的に王宮魔導士の訓練に参加するようになった。

ヘンリーと一緒に、先輩魔導士を翻弄していると聞いている。

二人は元々優秀で、王宮魔導士にも勝るだろうとマナは思っていたため、その結果は意外なものではなかった。

マナが不満を持つとしたら、何度頼んでも女王から王宮魔導士の訓練に参加して良いと言われないことだけ。

プクッと頬を膨らませ、毎日部屋で黙々と王女としての仕事をこれまではこなしていた。

今日から一段階上の魔導士の訓練が始まるとキリュウから聞いて、絶対に参加したかったマナは、女王に内密で訓練するため魔導士の集団に潜り込んだのだった。

今期の合格者に女は居なかったため、即ばれることになったが。

新魔導士長はマナの存在を知っており、冷や汗を流しながら見なかったことにした。

女王に怒られる事より、マナを怒らせてこの場で暴れられる方が被害が大きいと判断したのだ。

キリュウは勿論、ヘンリーも止めることはしない。

先輩魔導士達も気づいてはいるものの、魔導士長が何も言わない為何も言わない。

文句を言いたそうな顔をしているのはヘンリーと共に今期合格していた新人魔導士達だ。

だが、現在は魔導士長が訓練の説明をしているところで、問題発言は言えない。

つまり、現時点でマナの存在にとやかく言う人物はいない。

それを良いことに、しれっとキリュウとヘンリーの間に立っているマナは、学生時代の時とは別人のよう。


「本日の訓練は魔獣との戦いの模擬戦だ。今回は新人を迎えて初めての模擬戦になる。新人は学生時代に下級魔獣との戦いは経験したな?」


魔導士長の言葉に新人であるヘンリーを始め数人が頷いた。


「今日は中級魔獣との戦闘だ。今から魔法陣を生成し、準備が出来次第模擬戦を始める」


その時チラッとキリュウとマナに視線を向けた魔導士長。

その意味をキリュウは把握し、マナの手を取った。


「………?」


マナは首を傾げるが、大人しく連れて行かれるまま。


「魔法陣生成組は準備を始めてくれ。新人用の魔法陣はアシュトラルと……アシュトラルの相棒に任せま………任す」

「………(ああ、リョウランとは呼べないよねぇ…しかも敬語を使用しようとした)」


キリュウが地面に膝をつき作業を開始した後、マナは魔導士長に手を上げていかにも質問がありそうな顔をして呼び寄せる。


「偽名何にしようか」

「………考えてなかったんですか」

「うん」

「………」


即答したマナに対して、魔導士長の意識が一瞬遠くに行ったのが分かった。

思ったのは、この王女どうしよう、だろう。


「アシュトラルでいいだろう」

「………キリュウ?」

「もう夫婦だ。どちらの姓を名乗るかなど、リョウランが無理ならば必然的にアシュトラルだろ」

「あ、そっか。じゃあそれで」

「………マナ様がそれで宜しいのでしたら…」

「あ、様付けちゃダメよ。バレちゃう」

「………」


魔導士長は本当にこの王女どうしよう(二度目)、と逃げたくなったのは言わずもがなだ。

守るべき対象が堂々と守る側の訓練場にいるなど監視されているようなものだし、下手なことは言えない。

さらにここで出動することにでもなり、前線でもし怪我などされたらたまったものではない。


「………(だから陛下に殿下の訓練参加を打診されたときに全力で拒否したというのに!!)」


そう、マナの訓練が許可されなかったのは、実は魔導士長の拒否の結果だった。

けれど拒否したらしたで勝手に紛れこまれてしまった。

こんなになるなら最初に許可して、覚悟したところに来られた方がマシだった。

いざ訓練の説明をしようとしたところに王女の姿を見つけてしまって、心臓が止まりそうになるほど驚いた。


「………いいですか? 絶対に! 怪我しないで下さいね!? 怪我なんかされたら私の首が飛びます!」

「大丈夫だよ。怪我しても自己責任だし、学生時代には死にかけたし」

「死………!? や、止めて下さい! 今すぐお部屋に!」

「もうあの頃の私じゃないんだから大丈夫。それに光魔法だって頑張ってるし」

「そ、そりゃ殿……マナ様の実力は把握しておりますが……」


度々キリュウと二人で訓練している姿は見ていて知っているが、戦闘訓練となれば話は別。

今までは魔法を的に当てるとか、体力作りなどだったから、関わらない方向でスルーしてきた。

だが、戦闘訓練だけはいただけない。

万が一にでもあってはならないことにでもなってしまえば終わりだ。


「大丈夫だよ。今の私はマナ・アシュトラルだからね」

「………はぁ。部下から不満が出るでしょうから、最初に戦闘訓練するのにマナ様を指名しますから……まず初めに―――」


魔導士長は諦め、マナに戦闘訓練の模範として最初に戦闘を行うように言い、マナは頷いて素直に説明を受ける。

コクコクと首を上下させながら説明を受けるマナに、キリュウの口角が少し上がる。

魔法陣を完成させたキリュウはマナの隣に立ち、同じく魔導士長の話を聞く。

どうせならどんな訓練なのか知り、自分が召喚する魔獣の数の調整もしたいからだ。


「――――ですので、魔獣との戦いは、一対一と一対三と一対五の計三回。アシュトラルはまず一体召喚後、マナ様が倒したらすぐに三体正面・左右に魔獣を召喚。五体は魔法陣の先に等間隔」

「了解」

「楽しみ!」

「………」


無表情で頷いたキリュウと、満面の笑みで頷くマナ。

何がどうなって夫婦になったのか大いに疑問の魔導士長だったが、何も言わずに苦笑して次の魔法陣生成組の所に行った。

そのタイミングで新人魔導士達がマナに近づこうとするが、


「やっほー! アシュトラルちゃん♪」


ヘンリーがにこにこ笑ったまま、サッと体をマナと彼らの間に入ることで防ぐ。

別に絡まれても返り討ちにできるマナは、かばわなくても良いのに…と思いながらヘンリーに顔を向ける。

しかもちゃっかりマナの偽名の話も聞いていたらしく、すぐに対応して知り合いだと分からせるヘンリーも流石だが。


「ヘンリー元気?」

「元気だよ~。訓練楽しいし。相変わらずアシュトラルには敵わないけどねぇ……悔しいよ」

「私も頑張らなきゃ」

「ええ!? 頑張らないでよ」

「………何でよ…」

「アシュトラルちゃんが頑張ったら僕に勝ち目ないんだから!」


割と大きめの声で言ったのは、新魔導士の中でトップの力を持つヘンリーより強いのだと聞かせるためだろう。

これで大分マナへの不信感は緩和されるだろうと。


「ヘンリーに遠慮したら訓練にならないし、キリュウよりは弱いわよ」

「アシュトラルと比べないでくれる!? 一般人の僕よりは強いんだから」

「ヘンリーも貴族の中では強いじゃない」

「………筆頭のアシュトラル家に言われてもねぇ…」

「私は貴族出身じゃないもの。努力の賜物よ」


マナの苦労を知っている二人は、思わず二人揃ってマナの頭を撫でる。

そしてそれにキリュウがムッとしてヘンリーを睨む。


「ふふっ。ごめんごめん。人妻とは思えないくらいアシュトラルちゃんが可愛くて」

「二度と触るな。減る」

「いや、アシュトラルちゃんは減らないから」

「いや減る」

「相変わらずベタ惚れだなぁ。それはそうとアシュトラルちゃん。ちゃんと許可もらってきたんだね~。アシュトラルちゃんの親御さんは過保護だから揉めたでしょ?」

「貰ってないよ~」

「そっかぁ。頑張っ……え? 貰ってないの?」

「だって反対ばっかりするんだもの。私だって王宮魔導士の一員なんだから、訓練参加は義務でしょ?」

「まぁ……うん…」


ヘンリーの苦笑を見つつ、マナはその場を離れる。

魔導士長が合図したのが見えたからだ。

キリュウもヘンリーも心得ており、ヘンリーは新人魔導士の集まっているところへ。

キリュウは魔法陣の近くに杖を構えて待機。


「ではこれより訓練を開始する。新人は初めてだからここで説明しながらアシュトラルに見本を見せてもらう」


アシュトラル、と言ったのでてっきりキリュウの方かと思われたが、定位置に付いたのはマナの方。


「じゃあキリュウ」


魔導士長はキリュウの名を呼ぶ。

流石にマナの名前を呼び捨て出来ない魔導士長はキリュウを名前でマナを苗字で呼ぶようにしたようだ。


「はい」


キリュウは魔法陣に向けて魔法をかけた。

魔法陣が光って魔獣がマナの前に現れた。


「………」


マナは無言で杖を掲げ、魔獣の上に雷を落とした。

ピシャンッと一瞬だけ光ったと思えば、真っ黒に焼け焦げた魔獣がいた。

ドスンと魔獣が倒れる。


「………あれ、キリュウ、今の下級魔獣じゃない?」

「ちゃんと中級だ」

「え? でも授業の魔獣の方が強かったような…」

「お前が授業で遭遇していたのは殆ど上級だっただろうが…」

「………あ、そうだった」


普通に会話する二人の内容に、ぽかんと新人魔導士達は突っ立っている。


「次お願い」

「ああ」


キリュウが杖をかがげると魔獣が三体現れる。

マナはそれも難なく倒し、五体の魔獣も問題なく片付けた。


「………手応えが、ない……」


しょんぼりしながらヘンリーの傍に行くマナに、苦笑するヘンリー。


「次、ヘンリー」

「はい」


列から離れ、先ほどマナが立っていた場所に立つヘンリー。

キリュウは無言で五体の魔獣を召喚した。


「え!? ちょっとアシュトラル! 最初は一体でしょ!?」

「………間違えた」


真顔で言うキリュウ。

絶対にわざとだとマナもヘンリーも思う。

慌ててヘンリーは発動予定だった魔法を消し、複数攻撃出来る炎魔法を選択。

魔獣に当て、消滅させた。


「何するのさアシュトラル」

「………マナに近づくな」

「どんだけ嫉妬深いの! 仕方ないでしょ、召喚するのはアシュトラル指名だったんだから」

「代われ」

「もぉ…」


文句を言いながらもキリュウと入れ替わるヘンリーはお人好しだ。

キリュウはマナとヘンリーだけが分かるだろう上機嫌な顔でマナの隣に行く。

キリュウがマナの隣にいることによって、新人魔導士達は近づけない。

先程キリュウとヘンリーがいない時を見計らって絡もうと思っていたが、キリュウの視線が鋭く刺さって絡めなかった。

小さく打たれた舌打ちを、マナとキリュウはスルーする。

自分が歓迎されないだろうことはあらかじめ分かっていたマナは、特に顔色を変えなかった。

ただ、「残念でした」と心の中で思っただけ。

キリュウの存在がマナを守っている事を知っているし、自分は彼らと卒業してちゃんと実力を見せていない。

そんなマナが歓迎されるはずもないのだ。

ただそんな自分が情けないと少し思う。

キリュウの存在を利用してしまっている。

実力はさっきので少し分かってもらえただろうが、彼らの心の中に巣くった不満は消せない。

なにかのきっかけがあって実力を見せられればその不満は消えるだろうが、今はどうしようもない。

マナは少し首を振り、考えた事を消す。

今どうしようもない事を考えても仕方がない。


「………どうした」

「なんでもないよ」


マナの変化を見逃すはずもないキリュウに、苦笑しながらマナは答える。


「何かあるなら言えよ」

「ありがと」


マナはこてんと頭をキリュウの肩に預ける。

そんなマナの行動にギョッと新人魔導士達が目を見開いて固まっている事など、二人は気付いていなかった。



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