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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第二章 王宮篇
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第22話 出来損ない少女と内通者




街から帰ってきたマナとキリュウは王宮内を歩いていた。

自室へと帰るために。

だが、少しだけ寄り道をした。

それが隙を見せたと思われたのか、周りを数人に囲まれてしまっていた。

その者たちはローブをまとっており、頭にはフード。

顔を覆い口元しか見えない。

マナとキリュウは杖を構え、背を合わせる。


「………ったく…よくもまぁ釣れる事……」

「女王の罠にまんまと引っかかる」


女王ことホウメイが警備を厳重にしない理由は、王宮内の敵を炙り出すため。

十余年その身を危険に晒し、今度は自分の娘を囮に使う。

それによってアルシェイラ・ゴーシェイを殺した犯人を特定する。

女王だけならまだしも、娘であるマナもその作戦に同意したため、キリュウは気が気ではない。

だがそれによって、早々と行動を起こしてくれた犯人には感謝をしたい。

これが解決すればマナが危険になることは無くなる。

キリュウは別の意味で好機だと思った。

女王は最愛の恋人、マナは実父の仇を。

キリュウはマナの安全確保を。

それぞれの思惑でこの囮作戦は決行されていた。


「………死んでもらう」


フードの一人がそう言った。

声からして男。

体格からして女は混じってないだろう。

杖と剣を突きつけてくる敵。

この場にいるのはリョウラン国の人間とみて間違いない。

杖は勿論の事、剣は魔力を帯びていた。

ホウライ国の者ならば、魔力を嫌悪しその力を秘めた剣は使わない。

使うのは魔術が込められた剣であり、魔力など有り得ない。


「何故マナを狙う」

「………話す事など何もない」


キリュウの言葉に何も答えない相手。

そう簡単に話すとは思っていないが。


「………そうか。だが、俺の宝物に指一本触れさせん」


その言葉を合図に、襲撃者全員の足元に魔法陣が現れた。


「「「「「「何!?」」」」」」


彼らはフードを目深に被っている為、気付かなかっただろう。

マナが目を伏せ、無詠唱で魔法を発動させているなど。

魔法陣から太い木の枝が生え、全員の体を拘束した。

さらに枝は腕を締め付け、それぞれの武器を落とさせる。


「………油断したわね。小娘一人殺すのは訳ないとでも思ってたのかしら?」

「くっ! この、呪われた異能者が!!」

「………」

「父親と同じだ! この世界の理を無視し異様な魔力を宿した化け物め!! あの汚らわしい男をやっと殺して平和な世になったというのに!! 何がこの国一番の魔力の持ち主だ! 何が女王を守る最強の魔導剣闘士だ! 俺の方が女王を守るのにふさわしい男なんだ!!」

「………なんですって?」


ゴォッとマナの周りに漂う魔力が黒く染まっていく。


「………そんな理不尽な考えで父を殺したっていうの」

「理不尽だと!?」

「この世に生まれた命は一つ一つ意味のあるものなのよ。それなのに何? 異様な魔力? 呪われた異能者? 自分こそ女王を守るふさわしい男? ふざけんじゃないわよ!!」

「!?」

「そんな理由なんて、ただのひがみにしか聞こえねぇよ!!」


ガッとマナは叫んでいた男の胸倉を掴んだ。

その衝撃で男のフードが取れ、顔が見えた。


「自分の努力が足りなかっただけだろうが! 父がどれだけの修行を重ねて地位を得たのか少しは考えたのかよ! 自分の力が敵わないからと人をひがんで憎んで、それでお前の魔力は上がったのかよ!?」

「っ!」

「答えろ! 魔導士長!!」


そう、フードの下から現れたのは、女王を守る王宮魔導士の頂点に立つ男だった。


「大きすぎる力は確かに脅威。だが、それを制してこそ、本当の魔導士だろうが!!」

「!」


ハッとした顔でマナを見る魔導士長。


「父はそれを成し遂げたからこそ女王に認められ、初の魔導剣闘士になったんだろうが! 障害を取り除いて自分が魔導士の頂点に立ったとして、何の意味がある! それより、自分の地位を得るために、自分の私利私欲の為に敵国の者と手を組んで他者を殺めた男に、女王を守る権利があると思うのかよ!?」


マナの言葉にガクンと膝をつく魔導士長。


「………他者に嫉妬するくらいなら、その分魔力を、魔法を極められなかったお前は、魔導士長どころか、魔導士である資格はねぇよ」


もう抵抗する意志さえなくなった魔導士長を見て、キリュウは杖を上にあげ連絡用として教えられた打ち上げ魔法を使った。

すぐに女王を始めとした衛兵たちが駆けつけてくる。

女王の娘を襲ったのが魔導士長を始めとした魔導士や剣闘士だったことに、戸惑いを隠せない他の魔導士と剣闘士達は顔を見合わせる。

シュウは魔導士長たちを拘束して地下牢へと指示を出した。

ホウメイは駆け寄って来てマナを抱きしめる。


「怪我は…?」

「ないよ」

「俺が出るまでもなく、自分で解決してたしな」


キリュウはため息をつく。

守ろうとした相手は、自分で問題を解決できてしまう。

それが悔しいやら悲しいやら。


「そんなことないよ。キリュウが魔導士長の意識をずらしてくれたから気づかれなかったんだし。それに……」

「?」

「ううん、なんでもない」


少し照れたような顔をするマナに、キリュウは勿論ホウメイやシュウも首を傾げる。

“宝物”

確かにキリュウはマナの事をそう言ったのだ。

それが何より嬉しくて。

だから早く解決して安心して欲しくて。

曖昧に笑うマナに怪訝な顔をするキリュウ。


「でも、良かったわ。まさか魔導士長自ら出て来るなんて…」

「多分、頭はそんなに良くないわね。逆上する人間は黒幕には向いてない。自分でやらないと気が済まないだろうしね」

「そうね……」


フッと急にホウメイの体から力が抜けていく。


「ホウメイ!」


マナが腕に力を入れる前に、シュウがホウメイの体を支えた。


「大丈夫か?」

「ごめん。安心して……」


十余年、積み重なってきた緊張が解けた為だろう。

ホウメイを支えるシュウの顔は本当に心配そうで。

魔力を探っても偽っている様子はどこにもなかった。

魔力で偽っている事もなかった。

それによりキリュウは警戒を弱めた。

シュウがホウメイを狙っていないとは決まっていないと以前言ったように、キリュウはシュウをも警戒していた。


「キリュウ、大丈夫だよ。僕が唯一の宝と決めているのはホウメイだけだから。勿論キリュウもマナも僕の大事なものだけどね。宝は一つだから」


アシュトラルの血は嘘をつけない。

そう言われれば、キリュウも警戒を解かざるを得ない。

何よりキリュウがそれを実感している。

マナを宝だとキリュウは決め、そしてそれは決して裏切れない。


「ホウメイを部屋に寝かせて来るよ。大丈夫、もうホウメイに好き勝手させないから警備を厳重にする」


シュウの言葉にマナもキリュウも頷いた。


「ついでに結界も厳重にしてくるから」


シュウはホウメイを姫抱きして去って行った。

それをサラッとしてしまうシュウは、ホウメイにとって王子様なのだろう。

力が入らないのに、ほんのり頬を染めているのが見えたマナはそう思った。

アルシェイラを殺めた男が捕まり、そして過去に決別して、ようやく何も心置きなくシュウを愛せる。

ホウメイの心も分からなくない。

けれど、この事件はまだ続くような気がしてならなかったマナは、そっとキリュウを見上げる。

すると、キリュウはマナをずっと見ていたようで、マナの顔色だけで心を読んでいたように頷いた。

キリュウも同じ考えだったようだ。

だからこそ、シュウの行動を警戒していたのだろう。


「………おそらく、リョウラン国の反逆者はあれだけだったのだろう。マナの実父が殺されてから十余年、王宮が平和だったのがその証拠。彼らの願いが叶ったのだからな」


コクンとマナは頷く。


「だが、ホウライ国の者たちは魔導士長の嫉みを利用してお前の実父を殺した。ホウライ国が戦に勝つためには一騎当千以上の者が邪魔だからな。今回も絡んできたのは、魔導士長からマナの存在を聞き、次の戦を仕掛ける前に実父のような魔力を持つマナを殺めたいが為、だろうな」

「………魔導士長の力を利用出来ない以上、この国で事を起こせないでしょうね。じゃあ、近いうちに…」

「ああ。戦が仕掛けられ、その騒動の最中お前を暗殺しようとするだろうな」


一難去ってまた一難。

マナはため息をついた。

そんなマナの頭をそっとキリュウが撫でる。

安心させるために。


「………あ!」


突然上がったマナの声に、キリュウはがらにもなくビクッと体を揺らした。

ゴソゴソとポケットを探るマナに、首を傾げる。


「ああ……やっぱり……」


マナの手にあったのは小さな包み。

綺麗に包まれていた箱は変形していた。


「それは?」

「………折角の贈り物が……」


ガックリと落ち込んでいるマナはキリュウの質問に答えられなかった。

というか、聞こえてない。


「ぅぅ……中身大丈夫かな……大丈夫だよね…?」


上から下から包みを見ているマナの様子に、段々とキリュウの眉が眉間に寄って行く。


「………誰に贈るものなんだ。女王か? まさか父上やヘンリーじゃないだろうな?」

「………へ?」


ようやくキリュウの前でアワアワしていた事に気付くマナ。

不機嫌になっているキリュウを見て、あ…っとマナは冷や汗をかく。

やってしまった、と。

不本意だが、話すしかないようだ。


「………私のバカ……」


自分を責めため息をついた後、キリュウに包みを差し出した。


「?」


首を傾げるキリュウに、マナは少し視線を背ける。


「………キリュウの誕生日の贈り物……本当は当日渡すつもりだったんだけど……お母様に抱きしめられたときに、箱が潰れちゃったと思って確認しちゃったから…」

「………俺に?」

「う、うん……もうちょっとで誕生日だって……この前聞いたから、街で贈り物探してたの。本当の目的はこれだったんだ」

「………そうか」


街に出たいと言ったマナの目的が分かり、キリュウは嬉しそうに顔を緩めた。

寄っていた眉間のしわが無くなる。


「開けても?」

「い、いいけど……気に入るかどうかわからないよ…?」


妙に期待している目で包みを見ているキリュウに、マナは言う。

キリュウは聞いているのかいないのか分からないが、包みを大事そうに解いていく。

中に入っていたのは、黒の宝石が付いたピアス。

キリュウが耳に穴を開けるとは思えないが、それを見た瞬間これだと思ってしまったのだ。

彼に似合うと思った。

だから少しキリュウが他の物を見ている時に、こっそり店員に包んでもらうよう頼んだ。


「………」


黙っているキリュウに、そわそわとマナは視線を彷徨わせる。


「マナのは?」

「へっ?」

「マナのは無いのか?」

「え、だって、キリュウへの誕生日の贈り物だし…」

「無いんだな?」

「う、うん……」


首を傾げるマナを見ながら考えるキリュウ。

その時ふとマナの頭に思い出される。


「あ………お揃い?」


キリュウが前にマナがペンダントをお揃いにしたいと言ってから、何を買うにも揃いにすると言っていたキリュウの言葉が浮かんだ。


「今からマナの分買ってくる」

「今から!? 陽が沈むし、お店開いてないよ!」


慌ててキリュウの腕を掴む。


「チッ」


舌打ちするキリュウにマナは苦笑いする。


「はっ! じゃ、じゃあ、こうしない? ピアスだから二つ一組になってるし、一つずつ付けない?」


マナの言葉にキリュウはピタッと止まり、少し思案している様子。

その後すぐに笑みを浮かべ、頷いた。

機嫌を直してくれ、マナはホッとする。

早速、と言ってキリュウはマナを連れて自室へ戻った。

互いの耳に穴を開ける作業をお互いにやるという、やる気満々なキリュウにマナはまた苦笑する。

キリュウは自分の体に針を刺すようなことは嫌がると思っていたが、マナと揃いに出来るという事で問題はない様だ。

マナは元々興味があった為、いつか開けようと思っていたのでいい機会だ。

キリュウの手が耳に触れ、くすぐったさに身をよじるとキリュウの腕で体を固定される。


「動くな」


耳元で囁かれ、マナは硬直する。

キリュウの声もマナの好きなのだ。

それを耳元で聞かされ、かぁっと頬を赤く染める。

そんなマナに気分を良くし、キリュウは嬉しそうにマナの耳たぶに針を通した。

傍から見れば異様な光景だろう。

だがそれのおかげで痛みは感じなかった。

開いた穴にキリュウはピアスを付ける。


「似合うな」

「あ、ありが、とう…」


嬉しいような恥ずかしいような。

マナはそれを見られたくなくて、キリュウの耳に穴を開けにかかる。

それも全てキリュウには分かっていて、嬉しそうに笑っていた。

それが悔しくてマナは少々乱暴にキリュウの耳に穴を開けてしまう。

だがそれも嬉しいらしく、ささやかなマナの仕返しは通用しなかった。

ガッカリしたマナはシュンとしたままキリュウの耳にピアスを付け終える。

そんなマナを抱きしめ、そっと口づけた。


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