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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第二章 王宮篇
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第20話 出来損ない少女と襲撃




あれから数時間訓練し、今日はこの辺でとマナとキリュウは部屋に戻った。

マナの部屋がそのまま夫婦の部屋に、という事にはならなかった。

二人で使うには狭いだろうと言われ、強制的に部屋を移動させられる。

マナの部屋の二倍ある部屋で、マナとキリュウとの夫婦部屋にふさわしい装飾品が飾られ、きらびやかにされた。

部屋に入って目がくらむ。

そんな部屋でいいのだろうか。

マナもキリュウも物には頓着しないが、これはやり過ぎだと思う。

二人がいたそれぞれの実家の部屋はシンプルで居心地が良かったのに。


「………これ、変えてくれって言ったらしてくれるのかな……」

「何をだ」

「え……」


マナは部屋の物を変えて欲しいと思っているのに、キリュウは何も思っていないらしい。

物に頓着しないのにも程があるでしょ! と言いそうになったが、ふとマナの頭をよぎった。

キリュウが返答するだろう答えは恐らく…マナがいれば後は何でもいい、だろう。

そろそろキリュウの言動の予測がついてきたぞ……とマナはガクッと肩を落とした。


「………ぁ、キリュウは欲しいものないの?」

「? マナ」

「いや、私じゃなくて……物だよ。物品」

「マナ以外はいらないが」

「………例えば魔導書とか魔法と関係ない書物とか、魔導具とか」

「そうだな。闇魔導書は個人的に欲しいかもな。珍しい物だと特に。だが、書店にも並んでいないものが王宮の禁書の所に並んでいれば、禁書入出許可があれば見られる。女王に頼めば問題ないだろう」

「その他は?」

「それ以外はないな。俺は元々魔法強化しか興味がない」


キリュウの物欲は本当になく、マナは困った顔をした。

何故そんな会話をしたのかというと、先日の婚姻届を書く際に、キリュウの誕生日を聞いたのだ。

それが来月の頭だと分かり、マナは何か贈り物をしたいと思っていた。

さり気なく聞いたものの、何の解決にもならなかった。

しかも一緒の部屋に住むこととなった為、内緒で刺繍をするわけにもいかず……

いや、趣味なのだから普通の刺繍はしている。

現に机にマナが作成途中の刺繍の布と道具が籠に入って置いてあるのだが、キリュウの物を作るとなると、堂々とする気にはならなかった。

マナはため息をついて途中の刺繍に手をかける。

そんなマナをキリュウは後ろから抱きしめてソファーに座る。

これが通常スタイルになっていることに、マナは少しげんなりした。

キリュウを好きだから拒否はしないのだが、こういう状況ではさらに秘密で刺繍など出来ない。


「………あ、キリュウ。父様に呼び出されてなかった? なんの用だったの?」


マナがキリュウから解放されたのは、シュウからキリュウへの呼び出しがあったからなのもある。


「ああ、マナのお披露目と同時に俺も社交界に出るようになるからな。その為の服の採寸とかだ」

「………え」


お披露目の日はマナがもう少し落ち着いたらという事になってなかったか、と記憶を探る。


「仕立てるのには時間がかかるからな。そう緊張するな。まだまだ先だ」


キリュウの言葉にホッと息をつく。

流石にまだ王の娘としての立ち振る舞いは完ぺきとは言えない。

王族と王の身内とは立ち振る舞いが微妙に違うのだ。

王族としての教育を受けてそれに慣れているマナは、王の娘としての立ち振る舞いは今まで培ってきた作法が邪魔をして、習得にはまだまだ時間がかかる。

教育係に注意されてばかり。

二月滞在していると言っても、習い事にはまだまだ戸惑っている。

キリュウの方は貴族としての立ち振る舞いで充分なので問題ないが。


「そうだ。明日ちょっと出かけてくるから」

「俺も行く」

「え…でも……」

「俺も行く」

「………分かった」


苦笑するマナ。

これでは街でキリュウへの贈り物を選ぶのは無理だと判断。


「………迷惑か」

「え? そんな事ないけど…どうしたの」


急に沈んだ声を出したキリュウに、マナは目を瞬かせる。


「いや、そんな気がしただけだ」


どうやらマナの雰囲気で悟ったようで。

マナは気をつけないといけないな、と思う。

キリュウの事が決して嫌いなわけじゃないのだ。

いらない心配や不安はキリュウに抱かせないようにしないと、と。

そっとキリュウの唇にマナは自分のを寄せた。

気にするな、という風に。

それで機嫌がよくなるキリュウに、現金だなぁと思いつつ笑う。

もっとという風に唇を寄せてくるキリュウにマナは目を閉じようとしたその時、


「「!!」」


二人はハッと何かに気付き、ソファーから床に転げ落ちるように体を伏せる。

ドゴッ!

今まで二人が座っていたソファーに深々と剣が突き刺さった。


「何者だ!」


キリュウとマナは素早く立ち上がり、キリュウはマナを背で隠しながら杖を相手に突きつける。

マナもいつでも魔法をかけられるように杖を握っている。


「………」


目の前に立っていたのは全身黒一色の服に覆面。

一切容姿が分からないようにし、キリュウとマナには相手の体系と身長しか分からない。

相手は容赦なくキリュウの後ろにいるマナに切りかかる。


「ダークバリア!」


キリュウは自分とマナに障壁を張った。

が、相手の剣には何か魔術が施されているのか、キリュウの障壁をすり抜ける。


「何!?」

「任せて!」


マナは無詠唱で敵の胴体に土魔法で作った土玉をぶつけた。

敵はそれをまともに受け、壁まで飛んでいき、壁を壊して廊下に倒れ込んだ。

咄嗟だったのでマナの土玉は人の大きさ程あり、壁が壊れた時にすごい音がした。


「あ、れ……生きてる…かな……」

「死ねばいい」

「いやダメでしょ! 目的聞かなきゃ!」


自分が殺した時の事より、目的を聞けなくなる方がまずい。

突発的なのか計画的なのか。

狙われていたのは明らかにマナなのだ。

マナの脳裏に、母を襲い父を殺したという暗殺者の件が思い出されていた。

これが再来なら、マナの魔力感知に引っかからなかった為、これからも危険という事。

すぐにマナは拘束魔法を発動。

襲撃者の手と足を使えないようにする。

キリュウは剣を拾い、魔術の種類を見極めるためにそれ用の詠唱を唱えていた。

そうこうしていると、バタバタと複数の足音が聞こえてくる。

先程の音を聞きつけたのだろう。

が、ここは女王の私室に近い場所。

これだけ駆けつけるのが遅いなら、十数年前の暗殺者が逃げおおせられたのも頷ける。

何故対処していないのか。

これは女王の意思が働いているのだろう。

でないとシュウでさえ采配していない理由にならない。

シュウに命令できるのは、女王だけ。


「何事ですか!」


数人の魔導士と剣闘士が姿を見せた。

平然と立っている杖を持ったマナと剣と杖を持ったキリュウ、そして床に転がされている不審者。

駆けつけた者たちは唖然と交互に視線を動かしている。

さて、どうしようか。

彼らの顔に見覚えはない。

これは女王の子だと知らない可能性大。

ということは……


「何者だ!!」

「………ですよねぇ…」


マナとキリュウに杖と剣を向けられる。

自分たちも不審者に思われるのは必然。

はぁっとため息をつくマナ。

キリュウはキリュウで視線を割く必要もないのか、目もくれずに剣を調べている。


「剣と杖を下ろせ!!」


どうしようかと考えている間にもじわじわと距離を詰められ、四方を取り囲まれることになった。

ピーンチ…と呑気に思っているマナ。

マナとキリュウの周りに、マナがさり気なく結界を張っているので、剣も魔法も通しはしないだろうが。

弾き返せばそれも厄介。

彼らが怪我を負うだろう。

それはそれで回復魔法をかけないといけなくなるので、結局面倒なのだ。

マナが考えていると、コツコツと足音が二人分聞こえてきた。

呑気に歩いてこないで早く何とかして欲しい、とマナは思う。

マナには誰が歩いて来ているのか分かった。

魔力感知もあるが、独特な足音でよく聞きなれているのもある。


「剣と杖を下ろすのは貴方方だよ。誰に剣と杖を向けているんだ」


宰相であるシュウの登場。

その後ろには女王ホウメイがいる。


「は……しかし…」

「我が息子とその嫁に何をしている」

「さ、宰相閣下のご子息であらせられましたか!」


急いで武器を下ろす人達。

ホッと息を吐き出す。

味方に魔法を発動させる羽目になるかと思った…と安堵していた。


「大丈夫? マナ」

「………ええ。何とか。ごめんなさい、部屋壊して」

「いいのよ部屋ぐらい。私は娘の命の方が大切なんだもの」


そう言ってホウメイがマナを抱きしめる。

危うく結界に激突するところでしたよお母様……と心の中で思う。


「は…? …む、すめ…?」

「あら」

「………母様……」


内緒なのに言っちゃいましたね……とマナはため息をついた。


「ごめんね。心配が安堵になって気が抜けたわ…」

「なら、警備体勢見直せばどうでしょう?」

「ダメよ。貴女の存在がバレるじゃない」

「バレましたよ。今」

「とにかくダメ」


これは何かある、とマナは確信した。

取り敢えずシュウを見る。


「いきなりそこの転がっている人に襲われたわ。自害すると目的が聞けなくなるから、取り敢えず手と足。で、舌に魔法で麻痺をかけてあるから」

「分かった。じゃあ、拷問して吐かせようか」


ああ、最初から拷問なんだ、とマナは遠い目になった。


「それとキリュウ。まだ魔術の効果分からないの?」

「いや、終わった。貫通と魔法無効の魔術が付けられているな」


言いながらキリュウはシュウに剣を渡す。


「ふぅん。なら、隣の国の者かもね」

「………ホウライ国って事?」


ホウライ国はここリョウラン国と敵対している国だ。

リョウラン国は、魔導士と剣闘士を両方平等に教育している。

だがホウライ国は魔導士を嫌悪し、逆に剣闘士を崇拝している。

力とは武力だ、がモットーらしい。

剣闘士を育て、優秀で身軽な者は暗殺者に仕立て上げられる。

が、魔導士を嫌っている割には暗殺者の武器に魔術と呼ばれる呪法を籠める。

剣闘士だけでは戦に勝てるわけがないと思われがちだが、要の主力人物を暗殺者が闇討ちすれば力を削がれ、勝利を得ることが出来る。

だから、侮れない国なのだ。


「まぁ、ここまでしてくれたんだから、吐かせてみせるよ」


そう言って笑ったシュウは、怖かった。

笑顔なのに何故かマナの背筋が凍る。

暫くは距離を置こうとマナは思う。

シュウが剣闘士と共に捕虜を連れて行き、マナとキリュウとホウメイは魔導士に護衛されながら女王の私室へと送られた。

魔導士と別れると、ホウメイは緩めていた顔を引き締めた。


「私が警備を強化しない理由、なんとなくわかってるでしょう?」

「………おそらくは」

「言ってみて」

「………父様を殺した暗殺者を、そして私を攫った暗殺者を誘き寄せる為」

「そうよ。それにはあの時の状況をそのままにしておく必要があるの。………内通者を炙り出すためにも」

「………内通者がいると言う確率は?」


ホウメイは窓に向けていた視線をマナに移した。


「ほぼ、百%」

「何故?」

「ここの階には本来、王が許可した人間しか入れないようになっているの」

「………」

「私が許可していたのは、臣下と魔導士と剣闘士、そして侍女のみ。例外は前にキリュウ殿が使った時空間魔法くらいしかない。暗殺者がホウライ国の者なら魔法は使えない。だから、内通者が時空間魔法を使って招き入れるしかないのよ」


マナは眉を潜める。

キリュウの顔は無表情から変わりない。

チラッとキリュウの目を見るが、そこに感情は見えなかった。


「………なら、例外なのはシュウ父様と私とキリュウしかいないのね」

「ええ。マナは当然、この間王宮に上がった時が初めて。キリュウ殿も。シュウはアルシェイラが死んで数年後に王宮に上げられたから無関係よ。シュウは当時、時空間魔法使えなかったしね」

「父が時空間魔法を使えなかったという根拠は?」


キリュウの言葉にギョッとしたマナはキリュウを見上げる。

けれど、ホウメイは驚かなかった。

されると分かっていた質問らしい。


「学生である俺がここに入れるくらいだ。当然父が王宮に勤めていなくても出来たはずだ」

「確かにね。でも無理なのよ。時空間魔法は相当の魔力を要する上、距離が離れすぎていると使えない。今でこそシュウは貴方と同じくらいの魔力があるけれど、当時はそんなに多くなかったの」

「………どういう…」

「そうね当時は……マナを虐めていたローランドより少し上、くらいの魔力かしら」

「え!?」


マナは思わず声を上げ、キリュウは目を見開いていた。


「ちゃんと計測したから間違いないわよ? 私もアルシェイラの事があった直後にシュウが上がってきたから怪しんだもの。だから私の目の前で計測してもらった。城にある魔力検測機は嘘をつかない。本人が意識して制御しようとしても魔力を引き出し、限界数値を導き出す。当時私は誰も信じられなかったから…機械だけが唯一信頼できた。…あの時はシュウに酷い言葉ばかりぶつけたもの……」


悲しそうに笑うホウメイに、マナは何も言えなかった。

マナももしキリュウが殺されたら、そうなってしまうだろうから。


「キリュウ殿もシュウを見てきたのだから分かるはずよ」

「………お言葉ですが、俺は誰も見て来なかったですよ。マナに会うまでは」

「え……」

「自分の事だけを考え、家族でも会話は最小限でした。余計な話はしなかった。ここに来てからなんですよ。父と言い合いみたいな…能天気な会話をしたのは」

「………」

「だから俺は誰でも疑いますよ。勿論、貴女も」

「ちょ、キリュウ!」


キリュウの言葉にマナは慌てて腕を引く。


「当然だ。マナを危険な目に合わせるのなら最初から説明すべきだ。結界を常に張っておく事も対処法の一つとなる。だが今回いきなり襲われ、俺がいなければ怪我をしていたかもしれない。怪我ならばまだ治せる。が、命を落としたらもう助けられない」

「それは……」

「常に結界を張れば余計に警戒されるわ。話さなかったのは相手を油断させるためよ」

「だが、それでも話すべきだった。周りを警戒できる」

「警戒が相手に伝わったら、炙り出せないわ」

「貴女は娘がどうなってもいいのか!」

「良くないわ。でも、キリュウ殿がいると分かっているし、マナも自分の身は自分で守れると分かっていたから」

「万が一があるかもしれな―――」

「やめてキリュウ!」


一向に言い争いを止める気配がないキリュウを止める。

マナはホウメイの前に立ち、キリュウと視線を合わせる。


「何故止める!」

「母様には母様の考えがあってした事よ」

「だが!」

「キリュウが私を大事に思ってくれているのは痛い程分かっているわ! でも、母様の気持ちも分かるの!」

「………」

「………母様は父様の敵を討ちたい、そうよね?」


マナがホウメイを見ると、ゆっくり頷いた。


「だから、私を囮にしたのよね。………今まで母様は十余年、その身を囮にしていた」


その言葉にハッとキリュウはホウメイを見た。


「暗殺者の目的が女王の命なら、もうとっくに二度三度の襲撃があったはず。なのに十余年何もなかった。もどかしかったと思う」

「………ええ。もどかしかったわ……」

「そして私がここに戻された。これで私が狙われれば、暗殺者は私とキリュウで捉えられるかもと期待してくれた。違う?」


マナの言葉にホウメイは困ったように笑った。

それは間違いではなく、どうしてそこまで分かるのか、という事だろう。


「目的は私だった。暗殺者は十余年前は本当は父様が目的だったと思うわ。そして、父様に似た私も狙った………もしかして、私もの凄く父様の魔力に近いんじゃ……」

「………そう、そっくり。だから課外授業で分かったって言ったでしょ?」

「………脅威に思われるほど…?」

「そうね。アルシェイラは本当に強かった。ホウライ国の兵を一人で吹き飛ばし、殲滅させられる程に」

「………そっか」


マナは笑った。

実父の力を受け継いだのだと、嬉しく思ったから。

これでまた、父の事を知れた、と。


「ここに来てまだ二月の私が狙われた。なら、その内通者は魔導士で、私の魔力を感知出来る人」

「どうして?」

「ホウライ国の人間は魔法に通じてないから、魔力感知なんて出来ない。でも、今日私の練習を魔法訓練場で見ていた魔導士なら魔力が似ていることに気付く。魔法訓練場に父様の絵姿があったから顔も似ているのは分かっただろうし」

「………成程」


ホウメイは頷く。


「………マナ、悪いけど…」

「大丈夫。今のままで」

「マナ…」

「キリュウもお願い。二人ならどんな事でも対応できるよ。ね?」

「………分かった」


渋々頷いてくれるキリュウに、マナは笑う。

お礼を体で表すためにそっとキリュウに抱き付いた。

それに対してキリュウは抱きしめ返してくれる。


「何か捕虜から聞けたらすぐに教える」


ホウメイの言葉に二人は頷いた。


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