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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第一章 魔導科学園篇
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第02話 出来損ない少女と課外授業





キリュウと出会ってから一月が過ぎた。

あれ以来、マグダリアは彼に会っていない。

学年が違うという事も理由の一つ。

マグダリアは高等部二年生。

キリュウは高等部四年生だ。


学園には中等部、高等部がある。

それぞれ中等部は十二歳から。

高等部は十五歳から入ることができる。

勿論中途入学も可能だ。


ここ一月の間、ふとした時にマグダリアはキリュウの顔が頭に浮かぶようになっていた。

両親以外ではキリュウが初めてだった。

普通に接してくれたのは。

それが、マグダリアの脳裏に浮かんでくる理由となる。

マグダリアの魔法の才がなくても蔑んだり虐めたりせず、ただ結果を見ていただけ。

それだけなのに、学園の中で出会った誰とも違う対応をしてくれた彼を、マグダリアは忘れたりは出来ない。

けれど、次に彼に会ってもマグダリアは逃げるだろう。

あんな情けない姿をさらしたのだ。

彼から……いや、誰から見ても魔法を使えないマグダリアは眼中にないだろう。

ギュッとマグダリアは制服の上から胸元を握りしめる。

制服の下には、彼女が唯一孤児の時に持っていたネックレスがある。

本当の両親は知らない。

けど、今の育ての親であるフィフティ家の両親は優しくマグダリアを扱ってくれる。

彼らの期待に応えたい。

そのためだけにマグダリアはこの学園に入学した。

でも結果は散々で…

いつか両親にマグダリアの成績の事が知られてしまったら…

いままで伝わらなかったのが奇跡なのだ。

教師もなまじ王族であるフィフティ家に、本当の事を言えないのだろう。

それが分かっていながら、自分から言えない事を後ろめたいと思っているが、言いずらい。

甘えていることは分かっている。

早く魔法を発動できるようになって両親に伝えたい。

マグダリアは新たに決意し、魔導書を開いて授業をちゃんと聞く体制になった。

教師が教室に入ってきて、授業が始まる。

と思っていると、教師が授業とは違う言葉を発した。


「明日から課外授業に入る。上級生と共にグループを組んで、学園の裏側にある森に入り、魔物を魔法で退治する。二年で倒せない魔物はいない区域のみに行くが油断するなよ」


サァッとマグダリアは自分の顔が青くなるのを感じた。

忘れていた。

始めに思ったのはそれだ。

二年から課外授業で泊まり込みの魔物退治訓練が入ることを。

春先で、野宿をしても体調を崩さない時期。

この訓練をやっておかないと、国境勤務などを行う時に支障をきたす。

国内や王宮勤務になろうとも、戦で国境を越えることもある。

学生のうちに体験し、どこへ行っても対応できるようにするのだ。

上級生がいようとも、魔法を発動できないマグダリアは、足手まとい以外のなにものでもない。

魔導科である以上、強制参加。

出来れば、参加を見送れればいいのだが、それは無理だ。

配られた用紙を深呼吸してから視線を向ける。

自分と組まされる不幸なクラスメイト、および上級生の名前を覚えなければ。

これがマグダリアが学園に来てからキリュウを除き、初めて覚える名前になるだろう。

魔法を使えない負い目から誰とも視線を合わせない、言葉を交わさないマグダリア。

話をしても、どうせついていけないと思っていた。

課外授業は二学年上の上級生と組むのが決まり。

二年であるマグダリアは四年と組む。

三年と組んでも実力の差があまりなく、怪我をする生徒が多く出たため、数年前から二学年上と決まったのだ。


「………っ!?」


マグダリアは息を飲んだ。

くしゃっと用紙が歪む。


第六班

男―キリュウ・アシュトラル(四年)

男―キキョウ・ヘンリー(四年)

女―アンナ・ヤギョウ(二年)

女―マグダリア・フィフティ(二年)


「……う…そ……」


さらにマグダリアの顔が青くなる。

最悪だ。

よりによってキリュウと一緒の班になるなんて。

足手まといで、最下位になる事間違いなし。

成績トップの名が傷ついてしまう。

潤んできた瞳に気付き、マグダリアは目をキツく閉じた。

学校側が組んだ班とはいえ、マグダリアはクジ運が悪い事を呪った。




ホーホー

梟が泣く声が森に響いている。

そしてパチパチと薪が燃える音。

少し空間開けている場所に腰を下ろして野宿中。

三人が炎を囲んでいるが、一人木の幹に腰を下ろして、膝に顔を伏せている者がいる。

言うまでもなく、マグダリアだ。

やはり足手まといになってしまい、班員である三人に負担をかけた。

魔物が飛びついて来ようとしたところを、キリュウの魔法で助けられた。

逃げようとした時、転んで怪我したところをヘンリーに治療魔法をかけてもらった。

ヤギョウには明らかに足手まといという視線を向けられ…

焦れば焦るほど、空回り。

ここ二日間、そんな調子でマグダリアは迷惑をかけていた。


『やっぱり、私には向いてないのかもしれない……』


自己嫌悪の念に押しつぶされる。

ため息をつきそうになった時、ゾクっと悪寒が体中に巡った。

ハッと顔を上げるが、視線の先に居る三人は何事もないように会話している。

気のせいか……と思った時に、また悪寒が走る。

慌てて立ち上がり、背後を見る。

が、体を預けていた木と、その周りに生えている木。

そして真っ暗な闇しか見えない。


「………どうした」


ビクッと体が震える。

そっと顔だけ振り向けば、いつの間にかキリュウが背後にいた。


「ぁ……い、いえ……なんでも……ありま………せん……」


小声で伝える。

森の中、特に夜は注意を払い、声を荒げてはならないと教えられている。

魔物は人を食す。

腹を空かせている魔物がこちらの様子をうかがっている場合もある。

さらに萎縮から、マグダリアの声は途切れ途切れになった。


「何かあったなら言え。お前たちをフォローするために俺とヘンリーがいる」

「そうそう。フィフティちゃんは気負いすぎ。気楽に気楽に」


ニコッと笑って話しかけてくるキキョウ・ヘンリー。

金色の髪に緑の目。

キリュウに劣らずの顔立ちの好青年。

女子ならば、ニコリともしないキリュウより、ヘンリーの方が受けはいいだろう。

ヘンリーも成績が良く、キリュウとのライバルだとも噂されている。


「………は、はい……」


ヘンリーの笑顔の効果だろうか?

強張っていたマグダリアの体から力が抜けていく。

ゆっくり体をキリュウの方に向けようとしたその時、


「っ!?」


マグダリアの体に再度悪寒が走り、反射的に体が動いた。

手を横に伸ばし、背をキリュウに押し付ける形になった。

ザシュッ!

その場に鮮血と共に鉄に似た匂いが充満した。


「!? フィフティ!!」


キリュウの声が響き、ヘンリーとヤギョウが慌てて立ち上がる。

倒れかかったマグダリアをキリュウが抱きとめた。

マグダリアの体が、右肩から左脇腹まで引き裂かれていた。

カンッとマグダリアが付けていたペンダントまで引き裂かれ、二つに割れて地面に落ちる。


「………っすみ…ま…」

「喋るな!」

「アシュトラル! 回復魔法を!!」


ヘンリーがキリュウとマグダリアの前に滑り込み、杖を構える。

グルルルと唸り声が聞こえた。

薪の明かりがその魔物を映し出した。


「なっ……ホワイトタイガーだと!? 上級魔物じゃないか! こんな地域にいるはずが……」

「ヘンリー! そんな事言ってる場合か! 見つけた以上、退治しないと他の班では太刀打ちできない!」


キリュウとヘンリーがいる班が、一番安全と判断されたこの班組。

その二人がフォローすべき最優先の生徒がマグダリアだった。

理由を前から教師に説明され、納得した上での班編成。

だからマグダリアがキリュウと組まされたのは必然であり、マグダリアのクジ運云々ではなかった。

なのに、一番非力なマグダリアがキリュウを守って重傷を負った。

ここで食い止めなければ、他の班もマグダリアの二の舞になる。


「くそっ…後一人魔導生が要ればっ」


上級魔物と戦う時は、四年以上の生徒が二人から三人で戦うのが鉄則。

魔導士は、魔法詠唱がつきもの。

詠唱中に攻撃されると詠唱が途切れ、魔法の不発に終わってしまう。

さらに近すぎる距離。

詠唱は出来ないと考えていい。

いくら四年生、優秀と言っても、まだ学生。

正式な魔導士ではない。

ヘンリーの背に嫌な汗が流れた。

その時、ごぉっとヘンリーの横を炎の渦が横切った。

その炎はホワイトタイガーを飲み込んだ。

ハッとヘンリーが振り返る。

ヘンリーは魔法が放ったのがキリュウだと思った。

こちらより、マグダリアの治療を!と言おうとしたが…

キリュウも、ヤギョウも、唖然と一人を見つめていた。

視線はヘンリーに向けられたものではない。

二人は意識を失い、キリュウの腕の中でグッタリしているマグダリアを見つめていた。

それを意味するのは、マグダリアが先程の魔法を放ったという事なのか。

だが、これまでマグダリアが魔法を使えた事など一度もない。


「アシュトラル、今のは……」

「………フィフティが無詠唱で魔法を放った」

「無詠唱!?」


ハッとヘンリーはホワイトタイガーの方を見る。

ゴウゴウと燃え盛る炎は消えていない。

ホワイトタイガーはもがき苦しみ、炎を地面に擦りつけて消そうとするが、消えない。

無詠唱なら、詠唱した時より遥かに力が劣るはず。

なのに炎は消えるどころか、術者の意識がないのにさらに威力を増し……

ガッ……ガ…ゥ……

ホワイトタイガーは炎に勝てず、飲み込まれて朽ち果てた。

炎は骨まで焼き尽くし、炭になったところで消えて行った。


「………どういう事?」

「………俺に聞くな」


信じられないものを見て、ヘンリーがキリュウを見て問う。

キリュウにも意味がわからず、首を横に振った。


「って! アシュトラル! 治療!!」


目の前の信じられない状況に思考を奪われていたが、キリュウがマグダリアの治療を行っていない事に気づき、慌てて駆け寄る。

ハッとしたキリュウは、ヘンリーと共にマグダリアに治療魔法をかけた。

流れ続けていたマグダリアの血液。

徐々に量が少なくなっていき、傷口は塞がれた。

けれど、マグダリアの瞼は閉じられたまま。

何があっても、一週間は森から出てはいけない決まりだ。

後五日。

それまでにマグダリアの意識は戻るのか。

それよりも、怪我人を連れて魔物の巣であるこの森で生き残れるかどうかだ。


「アシュトラル」


薪の側に敷物を敷き、その上にマグダリアを寝かせて防寒具をかけていると、そんなキリュウにヘンリーが声をかける。


「………なんだ」

「ホワイトタイガーの気配に気づいた?」

「………いや」


キリュウは首を横に振る。


「僕もだよ。キミは気付いた?」


一応ヤギョウにも聞くヘンリー。

四年の自分たちが気づかなかったのに、二年の彼女が気づいているわけもなく。

ヤギョウも首を横に振る。


「だよね……。気づいたのはフィフティちゃんだけか」

「気配を読むのが上手いのかもしれん。初めての課外授業だ。本人が気づかなかったのも頷ける。魔法を使えなかったゆえの」

「でも、さっきの魔法はフィフティちゃんが放ったんでしょ? 魔法使えるじゃん」

「………」


三人の視線が自然とマグダリアに向く。


「起きたら聞いてみようか」

「聞いても本人も分からない事だったらお手上げだぞ」

「まぁまぁ。聞くだけ聞いてみようよ」

「………」

「あ、ヤギョウちゃんも寝てていいよ。僕たちが交代で見張るからさ」

「は、はい」


ヤギョウも薪の側で横になり、眠りについた。

キリュウとヘンリーは交互に見張りを行い、この日はなんとか乗り切った。

キリュウは見張りの間、マグダリアの顔色を窺っていた。

時折怪我が疼くのか顔をしかめている場面もあったが、危険な状態になることは無かった。




マグダリアが怪我を負って目覚めぬまま学園に帰還する日になった。

それまではその場から動かず、目覚めぬマグダリアと、弱い魔物を仕留めようと踏ん張るヤギョウを守りながら、キリュウとヘンリーは過ごしていた。

その日、一番に目が覚めたのは、怪我をしたマグダリアだった。

そして、見張りをしていたのがキリュウで。

ゆっくりとマグダリアが身を起こすと、キリュウが気づき、見張っていた位置からマグダリアに近付き膝をついた。


「具合は」

「………ぁ……」


マグダリアは答えようとしたが、喉が渇いていて咳き込んだ。

無理もない。

四日間眠りっぱなしで、水分も食事もとっていない。

眠っているマグダリアの唇に、濡らしたタオルなどをあてて、看病はしていたが。

傷口に響き、蹲って胸元を抑える。


「動くな」


キリュウは治療魔法をかけ、痛みを取り除く。

持参していた水を差し出し、マグダリアはありがたくそれを口に含み、ゆっくりと飲んだ。


「……す……すみ、ません……ご迷惑を……おかけしました……」


また足手まといになってしまったと、マグダリアは顔を俯かせた。

何故こんなに体が痛むのか。

マグダリアは覚えていなかった。


「いや、助かった」

「………ぇ?」


マグダリアは意味が分からず、首を傾げてキリュウを見上げる。

その表情を見て、キリュウは眉を潜める。

美形が眉を潜めると、凄く威圧感がある。

マグダリアはビクッと体を揺らす。


「俺を庇ってホワイトタイガーにやられたんだ。覚えていないのか?」

「………ぇ……」


自分がキリュウを庇った?

何故そんな事になっているんだと、自問してしまう。

ぼんやりした頭で思い返してみる。

すると徐々に思い出してきた。

嫌な悪寒が走り、危ないと思う間もなくキリュウの前に出てしまった。

体に熱が走って体の自由が利かなくなって…倒れ込んで…


「っ!?」


ガバッとキリュウにマグダリアは頭を下げた。


「す、すみませんっ…! わ…私…先輩に…倒れ込んで……」


庇ったことより、怪我をしたことより、キリュウに倒れ込んでしまったことに真っ青になってしまった。

アシュトラル家の、しかも次期宰相候補と言われている人物に何をしているんだと、叱られることは間違いない。


「違う。そんな事はどうでもいい」

「どう……」


キリュウに首を振られ、マグダリアは唖然とする。


「お前が前に出なければ、俺はホワイトタイガーにやられていただろう」

「そ、そんな……わ、私がいなかったら……もっと…楽に対処……」

「いや、俺は気配を感じる事が出来なかった」

「え……」


ホワイトタイガー相手でもキリュウは焦る事なく対処できると、マグダリアは何の疑いもなく思っていた。

自分みたいな出来損ないではなく、将来を約束された、優秀なキリュウだ。

そんなキリュウが気配を感じ取ることも出来なかった?

そんなことあるのだろうか。


「今は周りの気配がはっきり分かる。この辺りに魔物はいない。中枢付近にいる。この課外授業が始まって森に入った時から違和感はあった。弱い魔物の気配はいつも通り感じた。そして強い魔物がいないとも分かっていた。なのに突然ホワイトタイガーに出くわすとは…」


一体どういう事だろうかと、マグダリアは考える。

マグダリアは当然感知も出来なかった。


「………ぁ……れ……」

「どうした」


ふと気づく。

マグダリアは自分の変化を感じた。

あれほど気配を感じる事も、魔法を使える事もなかった。

なのに今はどういうことか。

周りの気配がはっきりと感じられた。

目の前のキリュウの気配から息遣い。

背後の消えた薪の向こうに寝ている二人の気配と息遣い。

さらにこの学園が管理している森のはるか向こうの魔物の気配まではっきりと。

ゾクリと体に悪寒が走った。

なんだコレ…と。

ガクガクと震え出したマグダリアの手をキリュウが掴む。


「どうした」


同じ言葉を投げかけられる。


「ぁ……ぁ…」


マグダリアの声は、言葉にならなかった。

ひどい怯えを体全体で訴えている。

が、キリュウは理由が分からず眉を潜める。

マグダリアには、この付近にいる人の魔力量も感知できるようになったらしい。

目の前にいるキリュウの魔力量は多く、一般の……後ろで眠っているヤギュウとは桁外れに多いという事が分かってしまう。

ヘンリーの量もそこそこ多いが、キリュウには勝てない。

昨日までこんな事感じなかったマグダリアが、急に何故こんな事になっている。

自分が怖い。

ガクガクと震える体は止まりそうにない。

視線が落ちていく。

そしてマグダリアの目に熱いものが集まってくる。


「フィフティ」

「………っ」

「俺を見ろ」


グイッと強引に引き寄せられ、視線が絡まる。


「落ち着け」

「で……でも…っ……私…っ」

「俺がいる」

「!」

「俺がお前を守る」


ドキリとマグダリアの心臓が跳ねる。

不安だった心が落ち着いていくのを感じた。

強い視線で、迷いなど何もない瞳に見詰められ、自分を守ると言う男性を信じられない女がいるだろうか?

何も事情を知らないのに。

こんなに自分を見てくれる人がいる。

両親以外で、こんなに親身になってくれる人はいなかった。

マグダリアの呼吸が落ち着いていき、震えも止まり、キリュウはゆっくりと手を離した。

それを寂しいと思ってしまったマグダリア。

だが、そんな事は言えるはずもなく。


『落ち着け……先輩は、私を下級生として…任されているから守るんだ。私だけじゃない。ヤギョウも一緒だ。同じ位置づけなんだ』


勘違いするなと自分に言い聞かせる。

大体キリュウが美形なのが悪いと、マグダリアは問題をキリュウのせいだと方向転換させた。

そうでもしないと、勘違いする自分を喜ばせてしまいそうになる。

自分は出来損ないなんだと言い聞かせる。


「ああ、それと」


キリュウはマグダリアの前に何かを差し出した。

反射的にそれを見ると、


「あ……」


キリュウの手の平に乗っていたのは、マグダリアが付けていたペンダントだった。

見事に真っ二つになっていた。

自分の本当の両親がくれたのだろうと勝手に思い続けていたペンダント。

マグダリアはいつか本当の両親が見つかったら、本当に自分が貴方たちの子供なのかと見せれればと思って持っていたものだ。

未練がましく。

施設に居たのだから捨てられたのだと分かっていたのに。

フィフティ家の両親が嫌いなんじゃない。

ただ、自分はその家系に入ってはいけない人間だと、負い目を感じていたのも事実。

でも真っ二つに割れたペンダントがどこか背中を押してくれたような気がした。

お前はマグダリア・フィフティなのだと。

本当の両親からもらった名前はもう二度と名乗らないように、と。

そっとペンダントを受け取ったマグダリアは、持っていたバッグに入れた。


「あり、がとう……ござい、ます……」

「いや」


キリュウはそっと立ち上がった。


「今日は、学園に帰る日だ。動かずに帰るまでの力を蓄えておけ」


そういってキリュウは薪跡を消すために離れた。

キリュウの言葉に、マグダリアは気付く。

自分は眠り続けていたのだと。

また迷惑をかけてしまったと落ち込んでしまった。


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