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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第二章 王宮篇
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第19話 出来損ない少女と訓練




あれからすぐにでも入籍したいと希望したキリュウは、翌日に女王の帰還と共に保証人欄に記入してもらい、早々に役所に行って受理させたそうだ。

役所の人間はマナの事を知らず、マナの名前のリョウランに固まったそうだ。

女王の子だという事は公表されておらず、役所は慌てて宰相であるシュウに連絡を取った。

保証人欄にシュウの名前があるのは勿論、女王の名前もある。

が、直接女王に問い合わせるのははばかられ、必然的にシュウになる。

シュウはあっけらかんと言ったそう。


「僕の息子が女王の子をいたく溺愛していてね。マナ殿下のお披露目の前に結婚したいと駄々こねて。だから内密だけど、ちゃんと身元は保証するから受理してやってほしい」


と。

そんなこんなで、キリュウ・アシュトラル改め、キリュウ・リョウランになったキリュウは、ご機嫌でマナを一日中離さなかった。

その翌日、ようやくキリュウの気が済んで離れることが出来たマナは、王宮魔法訓練場に来ていた。

王宮魔法訓練場とは、王の直属の魔導士が訓練を行う場所。

建物は王宮とつながっており、常日頃から訓練に明け暮れているという。

ドーム状の建物で、中は学園とは比べ物にならない程広く、様々な設備がある。

入り口は必要訓練によって分かれているが、中で繋がっているため、移動には一々外に出なくても行き来できる。

壁から天井まで魔法壁が張られており、絶対に魔法で建物が壊れないようになっている。


一番左には魔力検測機があり、自分の魔力を調べる所。

これは学園に居たものなら誰でもわかる。

自分の現在の魔力を数値化できる。

その数値は個人情報であり、口外してはならない。

何故なら、数値が高いほうがより高度な魔法が使え、レパートリーが増える。

低ければ基本魔法でさえマスターするのが難しい。

自分の数値を知り、それを高めるために修行をする。

まずは欠点を克服する必要があるのだ。

これは必要不可欠なもの。


その右側には障害物訓練地という、目標となる的までに障害物が置かれている。

戦地では味方や木々や建物など、様々な障害がある。

その為に的となる目標に魔法を当てるには、障害物を避けなければならない。

味方に魔法をぶつけてしまっては意味がない。

魔法コントロールを身につけるための場所だ。

魔法は術者が優れていれば優れているほど、自由自在に操れる。

真っ直ぐにしか魔法を飛ばせない術者は論外、と言われる。

王宮魔導士の資格はなくなる。

王直属の魔導士がそんな事では、エリートと呼ばれる事もない。


さらに右側には魔導剣士訓練場。

魔導士は時に剣を持って戦わなければならない。

何故なら、奇襲に合った時に詠唱が必ず出来るものではない。

この世界の魔法は詠唱した魔法が一番強く、誰でも知っている。

だからこそ、奇襲には剣闘士が行う。

物理攻撃をしてくる相手に詠唱など不可能。

剣の方が早いのだから。

詠唱の時間を稼ぐために剣を取る必要がある。

ちなみに、アルシェイラ・ゴーシェイはここでの最強魔導士だった。

魔導士でありながら、剣も極め女王を守った。

そういう事情から、ここにはアルシェイラ・ゴーシェイの肖像画が飾られていた。

魔導士同士が戦うため、ここは広めに作られている。


コツンとマナはその場所で止まった。

実父である人物の顔を、ここで初めて見たのだ。

そしてマナは目を大きく見開いた。

その顔はよく知っている。

いや、毎日鏡で見ていた。

マナの顔はアルシェイラによく似ていた。

髪色が特殊だと思って伸ばすのには抵抗があった。

けれど、実父の髪も紫で。

目も鼻も口もよく似ており、似てない所を探すのに苦労しそうだ。

女が父親によく似ているなど、ゴツく思われるかもしれない。

けれど…


「………なんで男なのにこんなに綺麗なの…」


そう、アルシェイラ・ゴーシェイは男、というより中性的な顔立ちで、髪も伸ばしておりドレスを着れば女に見えるかもしれない。

当然と言われれば当然なのかもしれない。

なにせアルシェイラ・ゴーシェイは、若くして亡くなっている。

中年と呼ばれるには二十年後くらいだろう。


「二十歳でこの容姿か……これはお母様惚れるわね…」


マナは苦笑した。

自分の顔では普通に見えるのに、父の顔を見れば美形に見える。

現在は昼休憩なので王宮魔導士はいない。

それをいい事に、マナは父の肖像画の前で突っ立っている。


「………ありがとうございます」


父の肖像画にマナは頭を下げた。


「………私を、この世に生まれるようにしてくださって」


父が命をかけなければ母は死んでいた。

母が死ねば、お腹にいた自分も死んでいた。

だから感謝をマナは告げた。

本人に届けることは不可能で。

でも伝えたくて。

もし自分が死んで父に会えたなら、いっぱい話せるように精一杯生きようと思った。

父の分まで…

無念だっただろう。

母を救えたとはいえ、一緒に生きられなくて。

結婚できるように努力していたなら尚更。

その時、ふわりとマナの髪が揺れた。

ハッとして顔を上げるも、何もなく。

周りを見渡してみるが、誰もおらずドアの開閉音も聞こえない。

そっとマナは肖像画を見上げた。


「………父様…?」


有り得ない事だが、マナには父がマナの頭を撫でたような気がした。

気のせいかもしれない。

けれど思うだけでも、温かい気持ちになれるからマナはそう結論付ける事にした。

父は見守っているのだと。

フッとマナは笑みを浮かべ、その場を離れた。

自分も父と同じような魔法剣闘士になる。

魔法も剣もマスターしてやる、と決意していた。

女の腕でどこまで剣を極められるか分からないけれど。


まずは魔力検測機の所へ行き、装置に手を置く。

そして魔力を体外へ放出していく。

魔力検測機は数値を現すメモリが付いており、手を置く場所の真正面に透明なガラスが縦長に計測機の最上部まで続いている。

魔力を放出すると、ガラスの下から色が変わっていく。

色は人それぞれ。

一言で魔力と言っても属性は人様々だ。

赤は炎系に特化。

青は水系に特化。

緑は風系に特化。

といった具合に、人によって変わる。

生まれ持った素質なので、変えることは容易ではない。

なので自分の性質に合わせて強化するか、苦手な魔法を弱点と言えないくらいに鍛えるか。

普通は前者だ。

弱点となるものは、火なら水に弱い、など相性と呼ばれるものがある。

得意魔法を使って相手を倒す場合は、不利な相手を避けなければならない。

けれど、ある程度弱点となる属性と相対しても対抗できる魔法もある。

だから弱点を克服することは良い事であるのだが。


「………変にプライドがある人って、自分の属性強化して弱点などないと修行をおこたるのよね…」


思わず呟くマナ。

計測中に余計なことを考えるとは、とここに魔導士がいれば怒られただろうが、マナの側には生憎あいにく誰もいない。

さらに……


「………ぁ~ぁ…」


マナは魔力放出を止めた。

何故なら……魔法検測機がプスプスと煙を出し始めたから。

測定最大値を超えてしまっていた。

国の最高魔導士である魔導士長は、この国上位の魔力を持つ。

一番は勿論現王であるホウメイであるが、彼女は守られる立場であり、彼女以上の魔力を要しているのは魔導士ではまずいない。

王の次に力を持つ者は主に家臣。

が、この者たちは訓練より政務優先。

戦争になっても、最終砦である彼らは滅多に前線に出ることは無い。

従って、魔導士長がこの王宮魔導士が集う訓練場で一番魔力を持っている者になる。

それにより、魔導士長を基準とした魔力検測機なのだが…

容易に超えてしまったマナは、今後これを使ってはいけないな、と思った。

あと少し遅ければ検測機のガラスが割れ、壊してしまうところだった。

壊したらマナ個人で弁償できるものではない。

そそくさとその場を後にしようとすると、ポスッと誰かの胸に飛び込んでしまう。


「わ、ご、ごめ……ってキリュウ?」


慌てて離れて謝罪をしようとすると、そこに立っていたのはキリュウだった。


「ここだったのか」

「どうしたの」

「探していた。会いたかったからな」


今朝解放されたばっかりですけど! と、マナは突っ込みたかった。

あれから一時間も経っていない。

スッと抱き寄せられたと思ったら、キリュウに口づけされ解放されるのは今度はいつだろうと思ったら、あっさり唇が離れた。


「測定してたのか」

「………ぁぁ、うん。訓練したいけど、魔力量をきちんと把握したかったから。属性にも興味あったし」

「どれぐらいだった」


聞かれてマナは肩を竦ませた。

苦笑しながら。

それでキリュウは察した。

数値検測不可能と。


「属性は」

「………それが…」


見ていたのだが、色は赤から青、緑に黄、金に黒など、色が定まらなかった。

それを話すと、キリュウの目が見開かれる。

当然の反応だ。

魔力は一つの属性に特化しているのだから。


「ちなみにキリュウは?」

「俺は闇だ」

「………そっか」


一瞬マナはどう反応したらいいか分からなかった。

あまりに似合いすぎて。

見た目もだが、学園に居た時のキリュウは誰も寄せ付けず、誰にも関心がなかった。

孤独を好み、魔法を強くするためにいた人だ。


「ちょうどいい。金が出たという事は光魔法も使えるという事だろ。俺の魔法の弱点克服に協力してくれ」

「いいけど、魔導書を探さないと……。光魔法や闇魔法は独自で習得しないといけないものだし」


学園で教えられるのは教師の魔法特質にかたよるし、何より光や闇の魔法を使えるのはその魔力を宿していないと使用できない上、持っている人は数少ない。


「そうだな……だが学園の図書館には専門書を置いてない。王宮の書庫室ならあるか……?」

「どうだろう? お母様に聞いてこようか?」

「それがいいかもな。俺たちがいきなり書庫に行っても入れてもらえるかどうかも分からないからな」


二人は一度訓練場を後にした。

結論から言えばホウメイから直接魔導書を手渡された。

ホウメイも光属性だったらしい。

当然といえば当然。

ホウメイは回復魔法を得意としていた。

どの属性でも回復魔法は使えるが、せいぜい小回復。

訓練しても中回復程度しか習得できない。

けれど、女王はちぎれた体さえも回復できるという。

これで光属性ではないと言われても納得がいかない。

ホウメイの属性は光だけだそうだ。

マナみたいにどの属性もというわけではない。

ホウメイと話すときにその話はしなかった。

キリュウでさえ驚いていたのだ。

あまり風潮するものではないと判断した。

ホウメイが差別するだとかそういう事は思っていないが、マナの属性が広まるとホウメイにもよくない事が起きるのではないかと考えたためだ。

マナ一人の為に危険に晒すわけにはいかない。

キリュウはこの考えに含まれない。

何故ならキリュウはマナを守る為なら何でもする奴だ。

隠していてもいずれバレるし、話してしまった後だから除外する。

訓練場に戻ると、魔導士たちが訓練を再開していた。

マナとキリュウを見ると眉を潜め、ヒソヒソと話す。

そんな周りの声に左右される二人ではなく…

右端にある魔法場に歩いていく。

魔法場とは、魔導士同士が魔法をぶつけ合う場所になる。

二人はそこへ行き、魔導書を開いた。


「………闇魔法に対抗するのは……」


ペラペラとめくっていくも、最初から中盤までは回復魔法が主だ。

傷治し、毒治し、麻痺治し等々。

中盤になると攻撃力や防御力UPなど。


「あ、あった」


マナが見つけたページからは光魔法の攻撃技が何種類も載っていた。


「最初は……ライトアローがいいかな? 対象に向けて束ねた光でできた矢を放つって書いてある」

「そうだな。俺の闇障壁で耐えれるか試したい。まぁ、マナの魔力次第でもあるが」

「最初だし、最小限発動できるところからだんだん強くしていくよ」

「ああ、頼む」

「えっと……詠唱は……この世界に存在する光の力よ。光の形を司り、矢となりて現れよ。光攻撃魔法ライトアロー、か」

「いけそうか?」

「練習してもいい?」

「ああ」


マナは壁に向かって杖を向けた。

魔力を練り込み詠唱を唱える。

すると、

パァッ

周りが光に包まれ見えなくなった。

と思えば次の瞬間、カカカカッ! っと音がした。

光がおさまると、無数の光の矢が壁の魔法壁に突き刺さっていた。


「………あ、れ?」

「………マナ、最初は最小限って言ってなかったか?」

「あ、はは……どれぐらい魔力が必要か分からなくて、つい中級魔法位の魔力練っちゃった……」

「気をつけろ。俺を殺す気か…」

「キリュウは大丈夫でしょ? 上級闇魔法も覚えてそうだし…」

「覚えてはいるが、闇障壁に込める魔力コントロールも練習したいんだ。他の属性は難なく防げるが、光魔法は闇に対してどれぐらいの力があるのかも見たいからな」

「あ、そうか…」


キリュウは何でも出来ると思っていた。

今まで難なくこなしている姿を見ているから。

だが、闇対光の練習など、皆無。

だからマナの属性を聞いて目を輝かせている所を見た。

顔は相変わらずの無表情だったが、キリュウは目で感情を表現する。

それを見分けられるのはマナとヘンリーくらいだが。


「じゃあ、下級魔法くらいの……」

「………どうした」


キリュウの方を振り向き固まったマナにキリュウは首を傾げる。

キリュウも後ろを見ると、あんぐりと口を開けてこちらを見ている魔導士達。

魔導士長まで口を開けて固まっているではないか。

さすがにそれを見ても普通に話を続けるほど、マナはキリュウ程無関心ではなかった。


「………じゃあ、やるか」


キリュウは相変わらずの無関心でマナの方に顔を戻した。


「………そうね」


マナは苦笑しながら顔を逸らした。


「………んじゃ、手加減の仕方分かったから、キリュウはここに居てくれる? 私が向こうに行くわ」


訓練場のそれぞれの間には魔法壁でできた不透明の壁がある。

奥へ行けばマナの姿は見えなくなった。

魔導士達のあの固まっている顔が視界に入っていると集中力が途切れる可能性がある。

それは危険だし、魔力の暴走など起こしたら怪我ではすまない。

そんな事を思いながらある程度距離を取ったところで振り返り、杖を構える。

キリュウも杖を構え、魔力を練っていく。


「行くよキリュウ」

「ああ」

「この世界に存在する光の力よ。光の形を司り、矢となりて現れよ。光攻撃魔法ライトアロー」

「この世界に存在する闇の力よ。闇の形を司り、我を守る力となれ。闇障壁魔法ダークバリア」


マナの光の矢が十本キリュウに向かっていくが、キリュウの闇の障壁に吸い込まれていき、キリュウに傷一つ付けなかった。

下級魔法程の魔力は大丈夫なようだ。

次は先ほど行った試し撃ちした時より魔力を弱めてキリュウに向かって放った。

キリュウは逆に障壁の魔力を高め、そなえた。

すると、また光の矢は吸い込まれていく。

マナはホッとする。


「大丈夫なようだ。マナ、上級を頼む」

「いきなり? もう少し段階を踏んだ方が…」

「いい。やってくれ」

「………分かった」


それから二人は上級魔法程の力を放出し、訓練を行っていった。

上級魔法の光の矢は、キリュウの闇障壁を破ってマナが軌道を変えていたためキリュウには当たらなかったが、キリュウの魔法向上の為にマナは何度も放ち、キリュウは防ぐために魔法を使用した。

二人の魔法に魔導士が固まったまま見ていたことは余談である。


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