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出来損ない少女と冷血の貴公子  作者: 神野 響
第二章 王宮篇
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第18話 出来損ない少女とアシュトラル




「へぇ。キリュウを焚きつけたのか。殿下もやりますね」


腰の痛みで政務が出来ないと正直に女王に言えば、話し相手としてシュウを寄越してきた。

いや、そっとしておいてくれ。

など言えるはずもなく、マナは仕方なくシュウと話していた。


「その所々敬語になるのやめてもらえます? 取ってもらってかまいません」

「それを言うなら殿下ですよ。殿下が止めて下さらないとこちらも取れません」


マナの身分は女王の次だ。

その下の宰相が敬語を取れないのは無理もない。

キリュウに散々言われているのに直せない。

その理由は他でもない。

敬語を取ると平民育ちの汚い言葉になってしまう。

なんとも言えない顔をしていると、シュウは苦笑する。


おおやけの場ではないのですから、気負わずいつもの口調で。そうすれば私も敬語を取れます。プライベートですから」


シュウの言葉にハァッとため息をつく。


「………分かったわよ」


マナの言葉にニコッと笑ったシュウ。


「焚きつけたわよ。これ以上曖昧な関係は嫌だったから。平民だと思ってたらフィフティ家に引き取られ、王族の義務を果たそうとしたら王の娘で、キリュウと付き合えないって思ったら血は繋がってなかったって言われ、キリュウはキリュウで妹でも構わないとか言うし。どこまで私をもてあそんだら気が済むんだろうってね。神様とやらは問題を持ってくるのが好きらしい。ていうか、キリュウが私の心を奪ってさらに体まで奪ったんだから責任取ってもらわないと」

「………ああ、殿下は昨日、危険日でしたっけ?」


ブフォッとマナは飲んでいた紅茶を吹き出してしまう。

幸いなことにカップの中だったので、部屋にもドレスにも被害はない。

ニコニコ笑っているシュウを睨み付ける。


「その辺考慮……ああ、キリュウの事だ。出来ていればむしろ上出来って思っているかもな」

「ちょっと待ってよ! なんで私の周期を知ってるのよ!?」

「え? そんなの調査してたら自然に分かるし、二月一緒に王宮で過ごしているんだから、殿下からした血の匂いで」


どれだけ嗅覚良いんだよ! と突っ込みたくなった。


「え……ということは…」

「ああ、キリュウも多分知ってるはずだよ? 嗅覚は僕より良いから」


それはつまり、キリュウは分かってて行為におよび、さらに避妊しなかったということにならないか。

思わず固まってしまったマナに、シュウは苦笑する。


「殿下を離さないとキリュウが独占欲を出したのなら、初めての独占欲に振り回されていると普通は思うが、あの子の場合計算とも考えられるからね。他人は勿論、自分も分析する子だから。敢えて抑えなかったともとれる」

「………マジか……」


マナはグッタリと項垂れた。

そんな事知らなくて良かった。

聞いてしまった以上、聞かなかったことには出来ない。


「………だからお風呂に行けないように繋ぎ止められてたのね……」


何度ベッドを抜け出そうとしても、抱き寄せられて逃げられないようにされた昨夜。

自分が今ソファーに座っていることが出来るのが不思議なくらいだ。

キリュウが学園に行ってから、侍女たちがぞろぞろと部屋に入って来て、丹念に腰をマッサージしていたのは動けるようにする為か…

ってか、気付かれてたのか……いや、気づくか普通に…

キリュウが部屋から堂々と出て行き、シーツは汚れていたのだから。


「可能性大だね。いやぁ、親子二代ですまないね」


サラッといわれた言葉に、マナはまた固まる。

つまり、この男は女王に同じ事をしているということで…

そんな事まで暴露されても困る。

自分のだけでも恥ずかしいのに、親がそうなっているなんて考えたくない。

でも、行為のおかげで今の自分がいるのは分かっている。

不潔だと言えない。


「………せめて弟でお願いします……」


もう何も言うまいと、マナは兄弟を作るなら男にしてくれとそれだけ言った。

ホウメイはまだ四十。

第一子は産んでいるからまだ大丈夫だろうと。


「おや?」

「………何」

「反対しないの?」

「言ったでしょ。母と貴方が良いならそれでいいって。キリュウと血が繋がっていないなら、私の望みは叶う。他人の恋愛事情には興味ないし。………まぁキリュウが他の女にちょっかいかけられてたら、どうするか考えるけど」

「ありがとう」


嬉しそうに笑うシュウにマナは苦笑する。

彼も四十代のはずだが、見た目は三十代。

キリュウと兄弟だと言われても違和感はない。

………逆にキリュウが年齢以上に見えてしまうが。

コンコンと話の最中にノック音がした。


「………はい」


この部屋はマナの部屋であり、部屋の主であるマナが返事をする。

すぐにドアが開き、入ってきたのは…


「キリュウ? どうしたんだい? まだ授業中だろ?」


入ってきたのは授業を受けていたはずのキリュウで。

シュウは首を傾げる。

マナはまさか……と嫌な予感がした。

ツカツカとキリュウは二人の元まできて、持っていた紙を無造作に机に放った。

二人でそれを覗き込むと…


「………ぁ」

「ああ、凄いねキリュウ。もう卒業証明書を貰ったのかい」

「ついでに理事長からマナの卒業証明書を貰って来た」

「え? 私の?」

「退学届を出した時に貰った卒業証明書はマグダリアの名前だったはずだ。マナの名前で出すよう申請した」


手渡された卒業証明書は確かにマナ・リョウランの名前だった。


「………内密なのに…」

「口止めはした。理事長しか知らない」


ブレザーを脱ぎ背もたれに掛け、ネクタイを緩めながらマナの隣に腰掛ける。


「で? 何か言う事は?」


キリュウはマナの座っているソファーの背もたれに腕を置き、マナの顔を覗き込む。

その目は得意げだった。

相変わらず無表情なのに、マナには目だけでキリュウの感情が分かってしまう。

まさか挑発した当日にもぎ取ってくるとはさすがに思っていなかった。

教師に根回しが必要だし、一週間はかかるだろうと。


「はぁ……父様、婚姻届けを…」

「はいはい」


シュウはニコニコしながら退室していった。


「言う事は?」

「………おめでとう」

「違う」

「………ありがとう?」

「何故疑問形なんだ」


眉間にしわを寄せるキリュウにマナは苦笑する。

そしてマナは自分からキリュウの唇に口づけた。

それで自分の機嫌が直るのを知っているので、キリュウは自分に対して失笑した。

マナもそれが分かっているのだろう。

つい押し倒してしまいそうになり、マナに止められる。


「父様が帰ってくる」

「………父様言うな。まだ俺はお前と夫婦になれていない」

「すぐじゃない」

「………妹を抱いている気になる」

「それは気持ちの持ちようでしょう…。まぁ、私が先走って血が繋がっていると思って、別れを切り出したせいだとは思うけど…」


マナがすまなそうにキリュウを見る。

が、キリュウは暫く考え…


「まぁ、その背徳感がまた良いか」

「変な癖つけないでくれる!?」


キリュウが変な方向に行きそうで、慌てて突っ込む。


「色んなマナを見られると思ったんだが…」

「………またヘンリーに変な入れ知恵されてないでしょうね……」

「今日はまだヘンリーと話してないな」

「それもどうなの……同じクラスでしょ」

「ずっと教師を脅してたからな」


卒業証明書をどうやって入手したか分かってしまった。

マナは心の中で教師に謝った。

自分のせいでキリュウに無表情で脅されたか何かしたのだろう。

そう思って油断していたのは事実で、一瞬の間にキリュウに押し倒されたマナ。

慌ててキリュウを離れさせようとすれば、


「俺が嫌いか」


そう脅しともとれる言葉をかけられ…

抵抗できないじゃないか、とマナはため息をついた。

マナの足の間にキリュウが体を入れ、唇を奪われそうになった時、


「はい、ストップ。キリュウ何やってるの」


シュウがキリュウの顔面を手で押しとどめた。

いつの間に入室したのか…


「………邪魔するな」

「いや、するから。今何時だと思ってるの。そういうのはちゃんと夜にしなさい。でないと、婚姻届けの保証欄書かないよ」

「………チッ」


舌打ちして離れていくキリュウにホッとする。

が、自分の格好を思い出して慌ててスカートを押さえる。

危うく見えてしまうところだった。


「ごめんね殿下。後でお仕置きしておくから」

「………うん」


先程の格好を見られてしまい、恥ずかしいやら悲しいやらで、マナは曖昧に頷いた。


「キリュウも手加減してあげなさい。子供が婚姻前に出来たらどうするの」

「問題ない。結婚するからな」

「そうじゃなくて…婚前妊娠なんて、殿下の不名誉になるんだから」

「ならない。もう今日書いて出しに行くからな」

「「………」」


二人してキリュウの言い分に呆れかえってしまった。


「………今日は無理よ」

「何故だ。俺は卒業した」

「キリュウは父様に書いてもらえるけど」

「父様言うな」

「………お母様は今日出かけていて、帰ってくるのは明日よ」

「なら明日持って行く」


駄目だこれは……。

いや、強請ねだったけど予想外の早さでこっちが戸惑っている。

曖昧に笑うと、シュウが吹き出す。


「いやぁ、キリュウがこんなに変わるなんてね。殿下のおかげですな」

「………なんか、間違った方に行ってません?」

「いいや、これがアシュトラル家の血なんだよ」

「………え?」

「一度手に入れると思ったものには、執着心がついてね。愛情は特に、向けると決めたらその人を溺愛する。周りが見えないほどにね。そしてその他はどうでもよくなる。その相手の為ならなんだってやるんだ」

「………」


まさに今、キリュウ・アシュトラルの愛情はマナに向けられていて。

執着心は見せてはいるが、これでも軽いほうだと言外にシュウに言われている気がする。


「………じゃあ、父様も?」

「ああ。今はホウメイがいないから、発動は控えてるよ?」


発動って何!?

控えれるものなの!?

とマナは突っ込みたかった。

ある程度は調整できるらしいが、キリュウはしていない。

だからだろうか。

出会った頃はあんなに他人に対してキツかったのに。

マナに対しては諦めてくれなかった。

そして今、隣にいて早く結婚したいという。


「………じゃあ、これは私のせいなのね……」

「せいじゃなく、おかげ」

「………はぁ」

「父上。さっさと書いて二人きりにしてくれ」

「まったくもう……無理させちゃだめだよ」


シュウは婚姻届の保証人欄に記入し、出て行った。

次は息子の相手か、と思った矢先に体が浮いた。


「え……ちょっ!?」

「父上となに話していた」

「何って…」


ドサッとベッドに下ろされ、組み敷かれる。


「俺以外の男と二人きりになるな。侍女を付けろ」

「男って……自分の父親でしょ…」

「父親も男だ。いつ手を出されるか分からない」

「出されないわよ!」


こんな嫉妬深いなんて聞いてない!

と、叫びたかった。


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