ほどほどにね。
「って言うと思ったら大間違いだよ」
笑顔だったはずの眉間にくっきりと皺を寄せて、なぜか怒られている私。
え、これどういう状況?
思わずポカンとした私の手を、原嶋さんは有無を言わず取る。
ああ、そうか。
バレてるのかって思った。
震えて冷え切った手を、強く握り込まれて気が付いた。
「俺は優さんの強さを知ってる。だけど、目を離すと勝手に無茶しまくって、びっくりするぐらいボロボロになってることも知ってる」
あ、ハイ。心当たりあります。
加減とか限界とか、分からない自覚あります。ごめんなさい。
そして今まさにその状態だっていうことですかね。
え、ホントに?
まだ全然序の口でしょって思うんですが。
「でも、そこまでじゃ」
「うん、大丈夫だって言うんだよね。分かってる」
そう言いながら、握られてなかった右手もしっかりとホールドされる。
うん、信用ないですね。知ってる。
万が一にも言葉の途中で逃げられたりしないように、しっかり両腕ともホールドされた。
「俺が、大丈夫じゃない」
はい?
「だから、俺が大丈夫じゃないの。分かる? 明らかに体調悪そうな状態で、余裕そうな表情を貼りつけて、嬉々として相手を叩きまくってる感じを演出していること自体が、どんだけ過負荷なのかって考えると俺の方が震えるんですけど?」
「あ、ハイ。スミマセン」
「それ、分かってないヤツだよね」
ギクッ。
いやいや、思考が追いついてないだけのつもり……ですよ?
「あー、もう! もう良いや。言って分かることじゃないよな、うん」
これ、自己完結した感じだよなぁ。私が悪いのかなぁ。
そう思いながらそぅっと原嶋さんの様子を上目遣いに見上げる。
気分は飼い主に叱られるワンコの気分。
反省は、多分してると思う。
自分を大事にしてない系のお叱りなんだと思う。
だけど、自分を大事にするってどうすれば良いのか、よく分からない。さっきだって十分以上に頼らせてもらって、楽させてもらったつもりでいっぱいだし。
「ねぇ、優さん。今ちゃんと、お腹すいたって感じてる?」
「あ」
「分からないんだよね、そうでしょ?」
問い掛けられて、気付いた。
水の一滴すら口にしていないのに、いつの間にか食欲が跡形もなく消えていることに。
「生き物が生命維持活動に直結する感覚を麻痺させるのって、大ごとだって言えば分かる?」
思わずコクリと頷いた私に、原嶋さんは口元を手で覆い、深々とため息をついた。
「優さん、君は今、相当弱ってるって認識で間違いないと俺は思うんだよ」
じっと合わせられた視線の強さに、目を逸らすことを封じられる。
「俺の落ち度まで拾い集めてフォローに走る余力なんて、ないはずだよ」
「さっきのは」
「俺の落ち度だよ。今、一番晒しちゃいけない相手に君を晒したっていう事実は変わらない」
「そんなの、」
「俺自身が許せないって言ってる。……だから、俺の落ち度じゃないって少しでも思うなら、きっちり庇われてくれないと嫌だ」
何それ。
その言い方は、狡い。
否定出来なくなった私に満足したように、原嶋さんの顔にようやく笑みが戻る。
そこまで含めて、狡い。
だけど、そんな風に庇われて泣きそうなるぐらい安心している自分が、一番狡いと思う。
「今は、頑張るのもほどほどにね。主に、俺の安心のために」
頭にポンと、大きな手のひらが乗る。
この人は本当に、私を泣かせる天才だ。
「……狡い」
下を向いてそう呟いた私に、今度こそ原嶋さんは、ホッとしたように。
「うん、知ってる」
確信犯の笑みを浮かべた。
とうとう食欲がなくなった主人公。
腹ペコ原嶋は夕飯にありつけるのか?
そして、本題までが遠い。。。




