グループワーク編3
春市と直行のぶつかり合い
「ハル!俺はいま58秒までいける!」
通常フルパワーでの運動限界は
8秒程度とされている。
直行は内系能力の持ち主
筋肉内のグリコーゲン含有量を
引き上げ、さらに解糖系の能力もあげることにより
全力強度の運動限界を通常の人間の
8秒から能力により58秒へ
引き上げているという事だ
筋繊維や血管、関節軟骨がもた無いはずだが
直行は努力と修練でそこに耐える体に
創り上げている。
全力ラッシュが通常の7倍の時間浴びせられる。
近接格闘ではチートランクに恐ろしい機能
全力ダッシュも58秒出来るであろうから
逃げることも出来ない!
昔は15秒くらいであったが本当に死にものぐるいで
鍛錬を続けたのだろう。
「行くぞ!」
直行の能力が発動した!
全力のラッシュが来る!!
顔とボディをコンビネーションで
殴られる!
反撃を試みたタイミングで腕や足に打撃が
浴びせられる。
本当に動けない!
「アサナ!もう止めよう!」
佐名は入院中に眠り続ける春市を思い出し
不安で胸がいっぱいになっていた。
「…」
「アサナ!」
朝七は動けなかった。
幼馴染2人の思いを知っていたから
そして相手を傷つけることを恐れ
優しすぎるゆえに道場を去った春市
仲間や家族、道場を守るために
強さにこだわった直行
みんなの未来を守りたい
笑顔を守りたい
そう語り合っていた
中学生のころの2人は
理想は同じだった
しかし道は別々になってしまった。
朝七にはこの戦いが
離れ離れになってしまった二人の
本気の本音のぶつけ合いに見えた。
声すら出ないほどに
目の前の光景に飲まれていた。
ガラガラ
障子が開いた。
「師範!」
「随分と懐かしい顔だのぉ」
「おじいちゃん!」
「朝七や、これは私闘じゃな」
「え、あ…」
「師範代ともあろう立場の直行が自ら
私闘を行い、朝七もその場に居合わせておるのに
止めないとはどうゆう事じゃ」
「申し訳ありません」
「一門全ての子たちの前で…情けない」
「…」
直行にのラッシュで手も足も動かない
疲労で息もうまく出来ない
ガードで腕が上がっているのが奇跡だ
筋肉が言うことをきかない
もうすぐにでも手を下ろしたい。
くそ!どうする!
全力ラッシュとは言え息継ぎのタイミングが
あるはずだ!
ラッシュ中に打撃の威力を上げなおす時
身体のしなりを使うとき
確実に息を吸って身体を捻る!
その一発を見逃すな!!
そこにカウンターを入れる
右鉤突き
左上げ突き
右中段蹴り
左正拳突き中段
右正拳突き上段中段の連突き
左下段蹴り
どこだ!どこでくる?!
しかし直行は止まらない!
こいつマジですごい!
直行の能力は筋肉の機能向上
フルパワーを長く出せる能力で
心肺機能は関係ない
呼吸は能力補正を受けないはずだが
呼吸を止め続けて回転力を
上げてくる!
まだか!
必ずタイミングはくる!
苦しいのは向こうも同じはず。
気持ちを切らさないように
強くもつ!
右中段蹴りを引いた時、
身体があがる!
胸が膨らむ!
いまだ!!
渾身の正拳突きを放つ
ドゴ!
「な!」
意識が飛びかける!
景色がチカチカする。
何か当てられた!
カウンターか!
完全に狙われていた!
そして―
ラッシュが来る
ドガガガッ!
これは流石に詰んだか!?
左脇腹に鉤突きが突き刺さる!
「ガハッ!」
途端に右肩を蹴り上げられる!
バチン!!!
顔面に何かを打たれる!
ドゴ!
ヤバいな、何を当たられてるのかすら
もうわからない…
多分ローキックで右足を蹴り払われる。
踏ん張っていた足が後ろに滑り
床に手をつく
これで最後だ…
地面を這いつくばるよう直行の右側にまわりこみ
そのまま逃げるように距離をとる
しかし直行は自分の射程距離から逃す訳がない
無機質に淡々と追ってくる。
ガクン
ショートダッシュで距離を詰めようとした
直行が前に崩れる!
ここだ!
顔面めがけて飛び膝蹴りを放つ
バグン!!
頭部が跳ね上げられる!!!
「え?」
「何で?」
朝七と優希が混乱する
「やりおるのぉ、春市は戦いとは何かを肌で感じておるタイプじゃ、変わらんのう」
うつ伏せに倒れ込む直行にマウントポジションを
取り後頭部を打つ!!
ドガン!
ドゴ!
「そこまでじゃのぉ」
振り上げた拳と首を優しく掴まれ
ふわりと横に投げられた!
「馬来田先生」
我にかえる。
「素晴らしい組手じゃったぞ」
「床を"外した"…いつのまに」
佐名は学校で教わってきた事に疑問を持ち始めていた
能力の量、質、方向づけ(コントロール)
内系、外系これは能力自体の評価だが
それだけではない機転、勇気、決断力
メンタルのタフさ冷静さなど自分はまだまだ
春市から学ぶことがたくさんあるのでは無いか?
出会った時、彼に抱いていた印象が
いかに自分の傲慢さから生まれたものか
理解し後悔していた。
「とっさに床を外してそこに誘うよに
逃げる振りをして誘導。つまづいたタイミングで
カウンターの膝蹴り…」
朝七は自分たちの修行、努力に疑問を持った。
そして春市がまだ超えることの出来ない壁で
ある事が嬉しかった。
「やっぱりハル兄ちゃんは凄いや。」
ヨシトは憧れの存在の活躍に心が躍る
様々な感情と道場最強の門下生の敗北に
門下生たちは動揺と驚きを隠せなかった。
「直行さんが負けたのか?」
「いや、流石にあれは卑怯ではないか?」
「あれは武術なのか?」
「落ち着きなさい!あれは武道であるぞ、相手の襟を掴んで投げる事となんら変わりない、素晴らしい組手じゃった。だが私闘は許さん!この場にいたもの全員の責任じゃ!全員ならびなさい!腕立て伏せ1000回じゃ!」
…
道場の客間にて横になり手当を受けている。
クスリがむっちゃしみる!
「〜〜〜っ!」
「はい我慢する!」
朝七は容赦がない
「春市ひとつ聞きたいんだけど、最後のアレは最初から狙っていたの?」
「あー最初から考えてはいたが成功する可能性低いから、やろうとは決めてなかったよ、カウンターを失敗して正直苦し紛れに出したって感覚がしっくりくるかな」
「保育園でテロリストから逃げる時も思ったけど春市は何者なの?」
「嬢ちゃん、そいつの個性なんじゃよ。」
「個性ですか?」
「能力と一緒じゃよ生まれたての赤ん坊も性格が違うじゃろ、よく泣く子、泣かない子、甘えん坊、やたらとまわりを観察する子、様々おる。春市は同年代のみなより自分の弱さ、力量を正確に把握しておる」
「ユウ、春市は自分の能力への客観視が徹底しているの、だから冷静に出来る事を考えて実行できるのよ」
「動物は本来、持ってるもので生き延びるしかないからのぉ」
「アサナ、やっぱり私この道場で体術を学びたい!」
「大歓迎よ、だけど本当にいいの?Ⅻ委員は能力開発のトレーニングも私たちの倍はあるしこれからグループワークもあるから…」
「大丈夫!これからよろしくね」
佐名は確かめたかった、自分の胸の中の
引っかかりを。
新しく出会った価値観をもっと感じたかった。
意識がまどろんできた
逆らえない眠気にギリギリで
打ち勝つ!!
一番大事な事を伝えなくちゃ!
渾身のチカラを振り絞り立ち上がる!
「くっ!」ー(がしっ!)
しかし足に力が入らずに佐名の両肩を
掴みなんとか倒れるのに耐える!
「へ?…なっなによ!どうしたの!」
佐名は不意の出来事に顔を赤らめほのかに
光だしている
マズイ!怒っている!?
「一番大事な事を伝えたくて、佐名!」
「え?なに、いきなり、へ、ちょ」
ますます赤くなる佐名、身体にチカラが入らずに
手が震える。
(春市、手が震えてる、緊張してるの?)
「佐名!」
「はぃ!」
…
…
…
「ところでグループワークの内容どうするの?」
「はっ?」
暖かい光に包まれて
俺の記憶はそこで途切れた
「生まれつきの個性…なのかな?」
ヨシトはスミカを見た
「多分、ちがうと思うな」
無表情のスミカを見て
ヨシトは女性の気持ちを察する
修行が欲しいと心から願った。
ありがとうございました。