体育祭編6
よろしくお願い致します。
実際、戦場では夜の森の中でもライトをつけずに40m先の敵を狙撃する話はある事らしい。
感覚が研ぎ澄まされた兵士は"そこだけ周辺より黒くみえた"、"人のいる所だけ空気が重く感じた"となどと感じるというが…
「能力に頼りすぎだよ、墨俣」
「くっ!」
暗闇の中で迷わず墨俣先輩に打撃を入れる、先生の芸当もプロの実力を示すには充分のインパクトがあった。
個体能力の差は埋められないほどある。
その事はだけは歴然とした。
〈残り13分〉
「印旛バックアップを頼む!」
直行が先生に向かう!
「奥戸直行か、お前は中々出来るな」
山田先生はニヤリと笑う。
直行はキックの射程ギリギリまで近づき蹴りを放つが、先生が懐にステップインで一気に距離を詰めた。
ジャストタイミングで直行の間合いよりも半歩内に入りカウンターの右ストレートを放つ。
完全に拳が入った!
と思ったが何故か直行の右ハイキックがクリーンヒットしていた。
「なにが起こった?」
「黄組の方の能力ですわ」
「千加には見えたのか?」
「当たり前ですわ、サイコキネシスで能力量は3200程度、ただし何か特別な制約がありそうですわ」
「そこまでわかるのか?」
「これは予想ですが、3200程度のパワーであの速さの物体移動はできませんわ、ですから何かしらの工夫で奥戸さんを高速移動させたと予想できますわ」
「その工夫が制約って事なのか?」
「工夫とは何かを犠牲に何かを得る事に帰結いたしますわ」
なるほど一理ある。
説明できない状況には他に必ず原因があると常に分析しているのか、千加の仙眼という能力は見えるだけでは本来Bクラスに分類される能力だが、彼女の分析力がそれを大きく超える価値を生み出している。
「わたし達も忘れないでよね!」
佐名が中距離から光の槍ので穿つ!
「いいね!良い状況判断だ」
先生は2人の攻撃をもろに食らってなお立っていた、その場で直行を足払いで宙に浮かせた。
「なっ!」
「どんなに技術があろうと両足浮いたらお終いだ、迂闊に片足立ちになるハイキックなんか打つんじゃない」
空中の直行は身体を捻り回転で裏拳を放とうとするが流石にそんな苦し紛れを食らってくれる相手ではない。
先生は右足を前へ踏み込み、体重移動の加速をしっかりと伝えた、原理的には体当たりと同じパワーを右拳に集中させ破壊力を飛躍的に上げた古武術独特の崩拳を打ち込んだ。
バグンッッ!
「ぐぁぁぁ!!!!」
直行が吹き飛ぶ! 先生はその打撃の反動を利用して佐名の方向へステップして間合いを詰める。
「まだまだ!」
佐名は拳に光を溜めて右正拳突きで攻撃を試みるが、先生は左手の甲で内側から佐名の突きを巻き取り、手首を固定して肘を逆側に過伸展させる。
「くっ!」
腕の関節を決められた痛みから身体が反り重心が高くなった所を左の足払いで簡単に倒され、天井方向に放り出された右足と掴まれていた右手を手錠で繋がれた。
「な! 外れない!」
「佐名、悪りぃな女子生徒にはあまり手荒にする訳にはいかないんだ教職員だからな、お前はここで戦線離脱だ」
墨俣先輩、直行、佐名をいとも簡単にあしらう。
学内でも能力値、戦闘能力の高い3人を子供扱いされ俺たちの士気は落ち込んだ。
「奥戸は、あの空中でのもがきは悪手だカウンターになってしまう、ダメージをいかにいなすかに集中すべきだ」
「うぐっ」
「佐名の自信は過信になっている、体術に置いてお前の数段上にいる奥戸が通用しないのに肉弾戦を選択するのはナンセンス、能力で中距離から削りチャンスが来るまで待つべきだ」
このゲームは全員リタイアならすべてのチームにポイントは……
「全チーム脱出不可能の場合ポイントはゼロ、体育祭はダブルエントリーまでだから、Aランクの能力者4人と共倒れなら俺たちにとって価値のある敗戦、そんな事を考えているか?春市」
「な!!!」
考えを見透かされて動揺してしまう。
「お前は冷静というより冷めすぎなんだよ、指揮官に大事な素養だがな、それだけではその場は凌げるが大局でみると勝てない」
先生がこちらに向かってくる!
「くっ!」
プレッシャーだけで息がつまる思考もまとまらない、先生はすでに目の前だ。
「もがけ」
そっと手首を掴まれた次の瞬間、視界が天井だけになっていた。
ドゴッ!
「ぐぁ」
投げられた……のか? 背中に強い衝撃を感じた、自分を認識するように顔だけあげると俺は床に横たわっていた。
「オーガ!」
投げ技を放ったばかりの隙を見逃さず黒い巨漢が真上から棍棒で先生を叩く、しかし棍棒をあっさりと左手でキャッチして引き込み、右手で顔を押し殴りそのまま地面に叩きつける。
「惜しいがそれではダメだ」
このままだと先輩もやられる! 考えろ! 先輩まで潰されたら本当に詰みだ。
先生の足から靴を"外して"体制を崩し先輩への追撃を一瞬でも止める!
左足を掴んで能力を発動する。
パカっ
靴紐だけでなく左足の膝から下が外れる。
「義足!?」
「悪くない一手だ」
ニヤリと先生は笑う、チャンスが出来た。
だが寝込んだ状態なのがきつい、既に先生は俺に攻撃態勢を取っている。
ドガッ!
先生がオーガの棍棒を防ぎ後ろに下がる。
「先輩サンキュー!」
先生の義足を抱えすぐさま立ち上がり、いいんちょと佐名、彩乃と呼ばれていた生徒のところへ駆け寄る。
「春市、これ外せない?」
「……ダメだ鎖が溶接されていると外せない、鍵も開けるのは無理なんだ、鍵穴に鍵が刺さっていたら外せるが」
「色々条件があるのね」
「いいんちょ、糸は同時に何本だせる?」
「右手と、左手で1本づつ計2本」
「粘着ありと粘着なし同時にやれる?」
「大丈夫です」
「なら、やって欲しい事がある……」
墨俣先輩は先生から距離をとり千加のいる所までポジションを下げていた。
「彼の能力は見えたかい?」
「まったく見えませんでしたわ」
「じゃあ君は彼をどう見てる?」
「超能力者ではありませんわ、少なくとも教科書が定義する空気中のエネルギー素粒子を変換して体内貯蔵した貯蓄エネルギーを発動するという様式ではありませんもの」
「君の目にはどうゆう景色に見えた?」
「貯蓄エネルギーそのものが分解しているようですわ、少なくともサイコキネシスとは別物ですわ」
「やはりね…」
「今まで見たことないもの……ですわ」
「もしかしたら君が一番知りたかった情報に触れるチャンスかもしれないよ」
〈残り4分〉
ありがとうございます。