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体育祭編5

➖青色の部屋

俺たちが入って来た入口と、迎え合わせに2つの出口の扉がある。

向かって左手側の扉が開けっ放しで、その奥が通路になっているのが見える。

右手側の扉は閉まったままで俺たちが入って来た時から変化していない様子だ。


「左の扉が開けっ放しにしているのって誘われているのですかね?」

「だろうな」

「どうしますか?」

「もちろん右側へ行く!」

「賛成です!」

「時間も無い急ごう」


右の扉を開けると一本道の通路でしばらく歩くと、また扉があった。


「もしゴールが一つだとしたら、他のチームと遭遇する可能性は先へ進むほど上がる」

「慎重に進みたい所だね」


ゆっくりと扉を開け、2人で部屋の中を覗き込む


「ハァァ!!」


光の槍が放たれる


ドガン!


「くそ! やっぱり強いな佐名優希」

「怯むなよ(おおとり)! お前の火力にかかってる」

「おう! やってやるよ! 喰らえぇ!」


ボバァ!


火の玉が佐名に向かって飛んで行く、しかしそれに向けて手を伸ばし、光の槍を衝突させた。


バボンッ!!


派手な爆発音と共に火の玉は消滅した。


「まだまだ!」

鳳と呼ばれた男子生徒が火の玉を3つ飛ばす!


「いいわ、この勝負受けて立つわ!」

「2対1の状況を作るぞ鳳は右か……」


パタンっ


ゆっくりと扉を閉めて、壁に寄りかかり思わず天を仰ぐ。


「ハァー」


自然と深いため息が出た。


「どうしましょうか?」


と言ってるいいんちょも困った顔になっている。

攻撃系の能力で真っ正面から打ち合うチームに関わりたくない。


「さっきの部屋まで戻って……」

「墨俣先輩たちがいるであろう左側の扉へ行くのが得策かもしれませんね」

「どっちにしても楽には行かないか」


➖木目調の部屋

「やはりお前達が一番乗りか」

「山田先生ごきげんよう」


学年主任の山田という教職員が黒のスラックスと白いワイシャツ姿で部屋の中央に立っている。

オールバックで整えられた髪はポマードで固められて、独特の艶が目につく。


「この奥の扉がゴールで鍵は俺が持っている、やる事は一つなのはわかるだろう?」

「困った展開になったな、元特殊部隊"名無しの死神"と言われた山田先生に挑むのハードルが高すぎますよ」

「相変わらず良くお勉強しているな、その情報力はさすがだよ墨俣」


教職員は一歩も動かないゆったりと動作している、しかし墨俣、源道寺の2人は前に進む事が出来なかった。


「本物のプロですわね、心拍数も変わらず身体も凄くリラックスしていますわ」

「要するに全く隙がないんだね」

「どうしますの?」

「そうだね……出来る事は1つ……かな」


➖青色の部屋


「残り時間は30分切ってる急ごう」


先程スルーした左側の扉から通路を走り抜ける。

次の部屋もその次の部屋も扉が解除されて開けっ放しになっていた。


「このまま行くと必ず先輩たちと遭遇しますが大丈夫ですか?」

「どこかにもう一つルートがあると思うんだ」

「右側ルートで交戦中の青組の緑組、左側ルートのわたしたち白組と先輩たちの赤組」

「そう、黄組がまだ見かけてない」

「既にどこかのチームに撃破されている場合もありますよね」

「確かにね、だけど時間から考えてそんなにあっさりやられるとも思えないんだよ」

「黄色チームの力量を知っているのですね」

「1人だけね」

「なるほど」

「そいつの性格上、遭遇したら必ずドンパチすると思う、だからどこのチームとも遭遇していないと思うんだ」

「その予想を根拠にまだ他にルートがあると仮定しているのですね」

「そう! 出来ればその黄色チームの裏にまわりたい」

「でもどうやって?」


➖大理石の部屋への通路(黄色チーム)

「部屋と部屋の間の通路は暗いだけで何もない」

「扉の暗号さえ解ければ先に進めるパターンだな」

「少し急ごう!俺が先行する」

「頼むよ、直行の能力の方が出会い頭に先手を取れる確率が高い」

「印旛のフォローを信頼しているから突っ込める、よろしくな」


黄色チームの2人は足早に大理石の部屋へと進んで行く、とにかく少しでも早くゴールする為に真っ直ぐに突き進んで行く。


➖大理石の部屋への通路

「行きましたね」

「やってみるもんだな」


部屋と部屋をつなぐ通路は暗い直線、タイムリミットが迫る中どうしても駆け足で進みがちになる。

俺たちはいいんちょの糸でネットを作りそれを被り人の輪郭がなるべく出ないようにして通路の隅に横たわらやり過ごした。


「この通路を先に見つけたのも運が良かったですね」

「他の通路があるって当たりを付けていたからな」

「青組、緑組は右側ルートでドンパチ、左ルートは大理石の部屋に黄組でさらにその奥に先輩の赤組で左ルートの最後尾は俺たちになった」

「普通は先頭が良いのですが、好戦的なチームばかりの状況では理想のポジションを取れましたね」


〈残り21分〉


ゆっくりと黄組の後ろを追う形で大理石の部屋に入る、彼らはさらに奥の部屋へ進んでいるようだ。

じっくり様子を伺いながら歩みを進める。


バゴーン!!

「どりゃーーー」

「ぐおおぉぉぉ」

突然部屋の壁が弾け飛んだ!

激しい光と炎に包まれた2人が壁をぶち破って部屋の中になだれ込んで来る。


突き飛ばされ尻餅をついている炎使いの鳳を、仁王立ちで真っ直ぐに見据える佐名、激しい能力の打ち合いで消耗したのか肩で息をしている。


「ハァ、ハァもう終わりよ! 降参しなさい!」

「ゴホッゴボッ、まだ……諦めるわけには行かない!」



学校が用意したダンジョンの壁を激闘の末に破壊してしまったらしい。


「これ以上のダメージは危険よ、もうアナタに攻撃する事は出来ないわ」

「そんな事は無い!」

「デュエルなら審判が止めている所まで来てる、今回は負けを認めなさい」

「俺は、まだ……動ける!!!」


なんだか熱い展開だ。

しかし、この終盤にきて5チームのちょうど真ん中になってしまった俺たちは、こいつらと一緒に青春を謳歌するわけにもいかない。


「壁を破壊してくるのは流石に想定外でしたね、しかし作戦とかポジションとか全て台無しですね」

「チカラこそ正義! な奴らを相手にするのキツイね」


いいんちょと2人切ない気分になった。


「わたし達はそのスタイルに向いてない能力ですからね」

「とりあえず逃げようか」

「はい」


振り返り墨俣先輩たちが居るであろう通路の奥へ走りだす。


「あ!春市! やっと見つけた! ちょっと待ちなさいよ」

「げ! 気づきやがった!」

「はやく逃げましょう春市くん」

「佐名優希! 闘いの最中に敵に背を向けるとは油断も甚だしい! 喰らえ!」

「アンタしつこいのよ!」


ドガン!!

佐名が手から光線を放つ。


「ぐわああ!」

「うそぉぉーん! アイツもうヤバイんじゃないのかよ、もう攻撃はできないわ!って言ってたじゃん!ドヤってたじゃん!」

「あんだけ動けたら大丈夫よ! あとドヤってない!」

「佐名さんって……なんて言うか、あの、えーと、凄い人ですね」

「コメントは控える! とにかく先へ進もう!」

「言いたい事あるなら言いなさいよ!」

「理不尽だーーー」


通路を抜けると大理石の部屋につながっていた。

そこには先程やり過ごした黄組がいる。


「何かくるぞ! 直行!」

「あぁ! 任せてお……な、春市!やっと出会えたな! この間の雪辱ここで晴らす!」


ややこしい奴がややこしいテンションで向かってくる。

仕方ない付き合ってやるか。


「直行ぃぃ!」

「春市ぃぃ!」


衝突刹那、グニャリと身体を捻り奴の正拳突きを華麗にスルーする。


「な!」

「いま忙しいんだ! また今度な直行!」

「ふざけた動きしやがってぇ、待て! 春市」


変な動きを"おちょくられた"としか思えない頭の固い直行が一直線に追ってくる。

まともには躱せないだけだっていうのに……あいつは昔から変わらない性格だ。


「そうよ、そこに名折りなさい!」


追走者が増えた、とても悲しい。


「春市くん、人気ありますね」

「こんな人気は嫌だ!」


走り抜けた先に木目調の部屋に辿り着いた。

墨俣先輩と千加、あと一人……学年主任の山田先生だ。

「待っていたよ欠陥くん」

「おう、お前ら勢揃いだな」

「え?先生?」


意外な人物の登場で佐名が間抜けな声をあげる。

しかし、その気持ちもわかる墨俣先輩のチームがいるのは予想通りだが、この競技で先生が出てくるなんて聞いた事がない。


「勢揃いとは面白い展開になったな、今年のエスケープ最後の関門は俺だ」

「先生どういう事ですか?」


先生が背後の扉を親指を立てて示す。


「ここが今年のゴールだ、そしてこの扉の鍵は俺が持っている、実力でコレを奪い取れ」


「「!!!!」」


驚いた! 他のチームも動揺が見られる、というのもこの学校の先生は元軍人が多く、戦闘のプロである彼らとの手合わせは基本4年生になるまでカリキュラムには出てこない、去年の体育祭にもまったく無かったイレギュラーな事だからだ。


「墨俣、俺の力量を測り他チームを待つという戦略は中々悪く無かったぞ退屈だったがな」

「ここまで集結するのは予想外でしたがね」

「逆のルートは一度入ると本来こちらには来れない監獄系のトラップだったのだが、どうやら実力で乗り越えて来たらしい、本当にお前らは面白いな」


先生は真底愉快そうに笑っていた。


スン!!


突如部屋から光が無くなり俺たちは暗闇の中へ放り出された。

視界を一切奪い取れて一瞬立ちくらみのような感覚に陥る。

墨俣先輩の奇襲だ、この現状において簡単にイニシアチブを取れるなんて本当に使い勝手の良い能力を持っている。


タッタッタッタッ……


暗闇の中を微かに走る音。


ボグン!!


「ぐはっ!!!」


部屋一面に光が戻りボクシングの構えで立つ先生と横たわる墨俣先輩が確認できた。


「墨俣、お前は能力を過信している、いくら目くらましが優秀でも気配を消してないようでは誰でもこうなるぞ」

「くっ!」


あまりにも見事な一撃だ、思わず直行を見るとアイツもこちらを見ていた。

戦闘において居るステージが違う、そう同じように感じたのだろう。


「さてと! 奇襲、罠、精神干渉どんな能力を使っても良い、残り15分の中で死ぬ気で乗り越えて来い」


先生の放つプレッシャーにその場にいる全員が一歩も動け無くなってしまっていた。

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