九十八話 会談
有効な解決策が浮かばないまま、時間だけが無情にも過ぎる。
戦争はまだ起きてないけど、これはスタニド王国に余力がないためだ。
新国王陛下のせいでお金がなくなったからね。農作業も禁止されてたせいで、作物の収穫高がぐっと減ったし、戦争できるだけの物資がない。
戦争のためにお金も物資もかき集めてるみたいだけど、時間はかかるだろう。
タイムリミットまでに、なんとかして戦争を止めなきゃいけない。
そう考えてた時、シロツメが新国王陛下と会談することになった。
皇女のシロツメだけなら分からなくないとして、なぜか僕たちまで。
要するに、九人の仲間全員が会談するんだ。平民のマルネやユキもね。
「レッド君のことですし、何かの罠では?」
「罠だとしても、飛び込んでみましょう。レイドレッド様がその気になれば、わたくしたちをどうにでもできます。屋敷にいようと王城へ赴こうと変わりません」
「シロツメって大胆ですよね」
「わたくし一人では何もできません。皆様がいてくれるからです。もっとも、万が一の時のことは考えておかなければいけませんけれど」
シロツメは、残ってくれた使用人に、自分が戻らなかったらヴェノム皇国へ逃げるように言い残した。
遺言みたいで不穏だ。
こうして、九人そろって王城へと向かう。
シロツメ以外は、王城に足を踏み入れるのは初めてだ。
豪華絢爛なお城だけど、今は敵地のど真ん中。なんとも言えない不気味さが漂ってる。
会議室に案内されれば、そこには三人の男性と一人の女性が待っていた。
二人は知ってる。レッド君のお父さんのウッドケッド・マーリマジ・フォス・ドラグ・キルブレオ様と、公爵になったカッツャ・シンバジュメ・ドラグ・カーダ。
キルブレオ様は、侯爵家当主の証であるシンフォスから、ただのフォスになってる。シンフォスは息子のレッド君だからだ。
一方のカッツャ君は、公爵家当主のシンバジュメがついてる。英雄に与えられる称号のドラグまで。
だからか、座ってる席もカッツャ君が上座だ。
「カーダ様、キルブレオ様、ユッケキッド様。お久しぶりです」
シロツメが名前を呼んで挨拶したおかげで、残る男性の正体も判明した。
ユッケキッド・ミザ・フォス・キルブレオ様。レッド君のお兄さんだ。
レッド君やお父さんとは、あまり似てない。抜群の美男子な点は一緒だけど、お母さん似なのかな。
公爵が一人に、侯爵が二人ね。レッド君も加わるわけだし、豪華なメンバーだ。
「まあ、座れ。俺が許可しよう」
カッツャ君が僕たちに座るように言った。
やっぱり、三人の中で一番偉いんだ。口ぶりも、いかにも偉そうだし。
シロツメが椅子に座り、僕たちも座る。
「国王陛下は少し遅れるそうだ。お忙しいお方だからな。とりあえず、軽く会話でもして時間を潰そうぜ。なあ、グレンガー」
カッツャ君が僕を名指しした。
「……初等学校以来ですね。遅ればせながら、公爵になられたこと、お祝い申し上げます」
「心にもないことを言うなよ。お前、俺が嫌いだろ? 嫌いだから、昔は俺を嵌めて犯罪者に仕立て上げたんだもんな」
「嫌いですよ。ただ、犯罪者に仕立て上げた覚えはありませんね」
カッツャ君が人を殺したのは、彼が悪い。
僕への暴力が日常茶飯事になってたせいって考えれば、僕も無関係じゃない。
だからって、僕の責任にされても困る。
「俺にそんな口を利いてもいいのか? 俺は、カッツャ・シンバジュメ・ドラグ・カーダだぞ。俺は俺の力で、どん底から這い上がった。お前、ヴェノム皇国だと偉いんだったよな。親が偉いから子供も偉い。おかしな話だぜ。家族を失い自力でのし上がった俺と、親の力でぬくぬく暮らすお前、本当に偉いのはどっちだ?」
「自力でのし上がった方でしょうね」
本当に自力ならの話。
カッツャ君が偉くなれたのはレッド君のおかげだし、自力って言っていいものかどうか。
「そうだろ。俺は自力で公爵の地位を得た。国王陛下も自力で王になった。二人とも、グレンガーのせいで散々苦しめられたが、努力の末にここまでたどり着いたんだ。持って産まれた地位にあぐらをかく、お花畑なお前とは違う」
「さすがカッツャ様です」
カッツャ君の言葉に反応して褒めたのは、カッツャ君の後ろで控えてる正体不明の女性だった。
綺麗な金髪をした美少女だ。僕よりも年下かな。
僕が十五歳……じゃない。もう十六歳になったんだった。
彼女は十三、四歳くらいに見える。
「紹介するぜ。俺の妻、ソナウ・バジュメ・カーダだ。国王陛下の妹君だな」
カッツャ君、結婚までしてたんだ。しかも、レッド君の妹と。
言われてみれば、顔立ちがレッド君に似てる。髪の色も同じ金髪だし。
「ソナウは幸運だよな。俺の妻になったおかげで、バジュメを名乗れるんだ」
「はい、私は幸せ者です。さすがカッツャ様です」
カッツャ君を持ち上げるだけのソナウさんに、嫌な気持ちになった。
本当に幸せになってるならいいけど、だったらもっと笑いなよ。無表情で「幸せ」なんて言わないでさ。
「俺の妻も紹介したし、グレンガーも紹介しろ。誰が恋人だ? 全員か?」
「……マルネが僕の恋人ですよ」
「マルネ・クナです」
隠してもバレるだろうし、僕はマルネを紹介した。
「ははっ、お前ら昔から仲よかったもんな。じゃあ、残りは?」
他のメンバーも、それぞれ自己紹介する。
スウダ君と恋人のサクミさん。
僕のメイドであるリリ。
友達のユキとナモジア君。
シロツメの執事であるシャルフさん。
「よし、リリにユキノ。お前らも俺の妻にしてやる。行き遅れのババアと野蛮な女だが、顔だけはいいから特別だ」
一応、二人のことを覚えてるのか。
とはいえ、妻って……
恋人のいるマルネとサクミさんには何も言わないあたり、最低限の常識はあるみたいでも、いきなり過ぎる。
「顔だけはいいってのは、俺がセツカによく言ってる言葉だが……他人に言われると腹が立つな」
「だね。モモなら笑って許せても、こっちはムカつくかな」
「私は確かに行き遅れですが、妻の話はお断りします」
当たり前だけど、二人ともカッツャ君と結婚する気はなさそうだ。
ナモジア君が怒ったのだけは意外だった。
「カーダ様、本日はそのようなお話をしにきたわけではありません。わたくしたちは、国王陛下と会談するために参ったのです」
「なんだ、自分は声をかけてもらえなくて拗ねてるのか? いくら俺でも、敵国の皇女を妻にはできないからな。もっとも、ヴェノム皇国を滅ぼした後なら別だが。俺自ら前線に出て、敵を皆殺しにしてやるぜ」
拗ねてるって、どこをどうすればそんな結論になるのか理解に苦しむ。
そして、カッツャ君は戦争をする気満々だと。
「ふん、俺に完敗した分際で、よくもでかい口を叩けるな」
「あの時の俺は、加護がなかった。加護を得た今なら、お前など敵じゃない」
「武神の加護でも授かったのか?」
「低神だが、加護の強弱は関係ない。そこの先生が、昔教えてくれたことだ。低神でも強くなれるってな」
確かに、リリが言ってたセリフだ。
低神でも強くなれるってのは僕も同意するし、低神だからナモジア君に勝てないって言い切るのも乱暴だ。
事実、カッツャ君は体も大きくなって強くなった。
ご加護を授かったなら、さらに力は増してると思う。
「なら、試してみるか?」
「いいぜ」
ナモジア君とカッツャ君が、一触即発の空気になってる。
「ナモジア様、おやめください」
シロツメが注意して、ナモジア君はなんとか矛を収めた。
カッツャ君を注意できる人はこの場にいないから、腰抜けだのなんだのと言われてたけど。
剣呑な雰囲気の中、ようやくあの人が登場する。
新国王陛下、レイドレッド・ドン・ソリュート・ドラグスドラグ・タンレー・シンフォスキルブレオ・スタニド様だ。




