九十七話 頼もしい仲間たち
戦争が起きるには、様々な理由がある。他国から奪わなければ生きていけないとか、戦争をしかけられたから自衛のために戦うとか。
一つ一つの理由について善悪を論じ始めると、非常に長くなるからやめておくとして、今回はどうなのか。
今回に限って言うなら、レッド君の暴走だ。少なくとも僕はそう思う。
ヴェノム皇国が魔物をけしかけてる根拠はない。
レッド君が散々やらかしたせいで国庫は空っぽだけど、ヴェノム皇国から奪ってやれってのは筋が通らない。
まあ、戦争に筋の通った理由なんかないかもしれないけど。
とにかく、レッド君を止め、戦争を止めるんだ。
留学生用の屋敷では、仲間たちが集まってる。ここはヴェノム皇国の持ち物だから、スタニド王国が軽々しく手を出せる場所じゃない。
大使館や領事館みたいなものだね。不可侵になってるほどじゃないけど、比較的安全だ。
九人の仲間たち、僕、マルネ、ユキ、シロツメ、リリ、スウダ君、サクミさん、シャルフさん、あとなぜかナモジア君がいて、みんなで相談中だ。
「とはいえ、僕たちに何ができるか……」
「ヴェノム皇国が関与してないって証明すればどうかな?」
「それは無理だよ」
ユキが意見を述べて、マルネちゃんが否定した。
「なんで無理なの?」
「やってないことの証明は、凄く難しいの。例えばだけど……ユキはこの前、わたしのお金を盗んだでしょ? って言われたらどうする?」
「盗んでないよ!」
「証明できる?」
「……ああ、そっか。できないね」
要するに、悪魔の証明だ。ないことの証明は困難を極める。
ヴェノム皇国が関与していないとは証明できない。
「仮に証明できたとしても、レッド君は止まらないと思うよ。その程度で戦争を思いとどまるなら、最初から言い出さない。シロツメ、ヴェノム皇国はなんて言ってるんですか?」
「猛講義を行っております。が、レイドレッド様は聞く耳を持っておられません。ヴェノム皇国が悪い。魔物をけしかけ、混乱に乗じて戦争をしかけようとしている。ゆえに返り討ちだ。こればかりですわね」
「では、ヴェノム皇国も戦争をする気だと?」
「大人しく滅ぼされる気はありませんし、受けて立つでしょう。もちろん、戦争を回避できるのが一番です」
回避するために相談してるけど、妙案は出ない。
レッド君は、戦争がスタニド王国のためになると考えてる。スタニド王国をよりよくしたがってる。
戦争を回避する、イコール、スタニド王国のためにならない。そんなことを言い出す奴は国賊だ。
新国王陛下のお言葉なんだよね。僕たちがこうやって相談してるだけでも、国家反逆罪とかに問われかねない。
「今さらだけど、スウダ君やサクミさんはいいの? ご家族は?」
僕の家族はヴェノム皇国にいるし、マルネのお母さんであるミカゲさんにはヴェノム皇国に避難してもらうことにした。父さんを頼ってもらう。
ユキは、既にご両親が亡くなってるらしい。ユキの家庭事情は初めて聞いたから、両親がいないとは知らなかった。
つまり、僕たちが国家反逆罪に問われたとしても、自分が処刑されるだけで済む。一族郎党皆殺しにはならない。
シロツメたちヴェノム皇国出身者は、スタニド王国に忠誠を誓う必要はない。
スウダ君やサクミさんが心配なんだ。二人が僕たちの味方をして戦争を止めようとすれば、家族にまで迷惑がかかる。
「覚悟はできてる。俺は雄爵になったが、祖国のために戦いたいのであって、レッドに忠誠を誓ったわけじゃない。あいつの言う『スタニド王国のため』の言葉が信じられないから、ロイサリスたちと一緒に戦う」
「サクミは、スウダ様の恋人です。スウダ様が戦われるのであれば、サクミも戦います。それがサクミの願いです」
シロツメもだったけど、みんな頑固だ。
素直に逃げるか、形だけでもレッド君に従っておけばいいのに。
「……ナモジア君は? 戦争になれば、好きなだけ戦えるよ?」
「グレンガーと一緒でも戦えるだろ。つうか、こっちの方が面白そうだ」
「ああ、うん。ナモジア君らしいね」
むしろ安心した。世のため人のためとか言い出すのは、ナモジア君じゃない。
「モモは脳筋だよね」
「てめえ、セツカ! 俺をその名前で呼ぶんじゃない!」
「やーい、脳筋脳筋」
「脳筋ならいいってもんでもないぞ! ケンカ売ってんのかコラ!」
ユキとナモジア君が、バカなやり取りをしてる。
この二人、結構仲がいいんだよ。武神のご加護を授かった者同士、ライバルみたいな関係になってる。
模擬戦もよくしてるらしく、対戦成績はほぼ互角。
何度か見学させてもらったけど、僕に言わせればあれは模擬戦じゃない。ガチの戦いだ。
まあ、味方になってくれれば心強いね。
「女なら女らしくしろ。皇女殿下を見習ってな。セツカも顔と胸だけはいいんだ」
「モモの変態! あたしをそんな目で見てたの!?」
「おう、見てたとも。娼館にいれば毎日でも通ってやる」
「変態変態! マルネ! モモが変態だよ!」
「知ってるよ。ロイ君やスウダ君と一緒に、よくエッチな話をしてるんでしょ」
マルネが暴露したせいで、スウダ君とナモジア君が僕を睨んだ。
「いや……マルネは恋人だしね。隠し事はまずいからね」
「でも、ロイ君は全部教えてくれてるわけじゃないよね?」
言えるわけないよ。僕が二人から話を聞いて、予習してるなんて。
スウダ君は恋人のサクミさんと一線を越えてるし、ナモジア君はちょくちょく娼館に通ってる。
女性経験がないのは僕だけなんだ。
だから、経験者の二人から話を聞いて、きたる日に備えて予習してる。
日本ならエロ本や映像でも見るんだろうけど、この世界にはないし、話を聞くしかできないんだ。
つまり、僕は悪くない。悪くないったら悪くない。
「ロイサリス様もマルネさんも、その辺で。話が逸れております」
シロツメが方向修正してくれたおかげで、雑談は終わった。
バカな話をするのも楽しいんだけど、今はそれどころじゃない。
「とりあえず、みんなの覚悟は理解した。頑固だよね」
僕が言ったら、みんなして「お前が言うな!」みたいな突っ込みがあった。
シャルフさん以外全員だ。酷い。
「ま、まあ、頑固者の集団ってことで、頑張ってみようか」
「具体的に何をするんだ? こういった頭脳労働は、俺やセツカには向かん。何をするか指示だけ出してくれ」
「モモと一緒にされたくないけど……向いてないのは認める」
頭脳労働向きじゃない二人は置いといて、残りの七人で話し合う。
さっきまでの繰り返しになって、でも案は出なくて。
沈黙が流れたところで、頭を使うことが苦手なナモジア君は乱暴な意見を出す。
「新国王を暗殺でもするか?」
それは、僕も考えてたけど口に出さなかった意見だ。
レッド君が暴走して戦争をしようとしてるなら、諸悪の根源を殺せば解決するかもしれない。
王様を殺せば国は混乱するだろうけど、戦争よりはマシ。前国王陛下はご存命だし王子様方もいらっしゃるし、新しく誰かが即位して国は続いていく。
レッド君っていう呪縛から逃れた新しい王様が戦争をやめれば、人々は助かる。
代わりに、王様の暗殺なんて大罪を犯した僕たちは、確実に処刑されるだろう。
命をかけて暗殺すべきかどうか。
みんなに迷惑はかけられないし僕がやる……って言っても無駄だろうね。
優しい人ばかりだから、一蓮托生って言いそうだ。
根本的な問題として、僕一人の力じゃレッド君を暗殺できないってのもあるし。
どうするかな。




