表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/125

九十一話 即位

 御前試合後のパーティーはつつがなく終了した。

 シロツメは大変だったみたいでも、僕は懐かしい友人と話せて嬉しかった。


 気になることがあるとすればカッツャ君だ。彼はパーティーにいなかった。

 犯罪者だから出席しなかったのか、別の理由があるのか。

 あえて首を突っ込む必要もないと思ったし、聞かなかったけど。

 聞いたら、ラナーテルマちゃんの時みたいに関わらなきゃいけなくなりそうだ。


 あの時はなんとかなる問題で、僕にも利益があるから助けた。カッツャ君も同じようにうまくいくとは限らない。

 そもそも、犯罪者を釈放させる権利なんて僕にはないし。


 御前試合も終わり、これまで通りの学校生活に戻って、マルネとの関係も良好。

 そんな折に、二通の手紙が届いた。おじいちゃんとラナーテルマちゃんからだ。


 おじいちゃんには、ケノトゥムを名乗ることを手紙で伝えてた。その返事が書かれてて、「自分の責任で好きにしろ」だってさ。

 僕がケノトゥムを名乗って問題を起こしても、おじいちゃんは庇ってくれないし関与もしないって意味だ。

 同時に、僕を信用してくれたってことでもあるんだろう。


 そして、ラナーテルマちゃんの手紙は、「スタニド王国に帰るつもりはない」だった。


「シロツメ、これ読んでくささい」

「ラナーテルマさんのお手紙ですか?」


 シロツメにも見せれば、小さく「まあ」って漏らした。

 スタニド王国に帰るつもりがないのは、ヴェノム皇国で元気にやってるし、好きな人もできたからって書かれてたんだ。


「好きな人ですか。素敵ですわね」

「はい。幸せそうでよかったです」


 手紙を読むだけでも伝わってくる。


 好きな人ができたのに、なかなか気持ちを言えない。相手は自分を妹のように見ている気がする。もどかしいけど、でも振り向いてもらえるように頑張る。


 ラナーテルマちゃんの素直な気持ちが書き連ねられていた。


「相手の男性のお名前が書かれていないのが残念ですわね。わたくしたちの知り合いでしょうか?」

「どうでしょう。『妹のように見ている』なので年上、つまり中等学校の知り合いではなさそうです。コミス君やワード君は、僕と同い年ですし」


「ハンターの方では? ロイサリス様がお世話になった男性がいらっしゃいましたわよね?」

「コロアドさんとジンフウさんですか? まさか」


 コロアドさんはメルさんと結婚したし、ラナーテルマちゃんには手を出さないだろう。

 ジンフウさんは独身だけど、年齢が離れ過ぎてる。

 いやでも、案外あるのか?


「卒業したら会いに行ってみませんか? わたくし、ハンターのお三方にはお会いしたことがありませんし」

「そうです……ね?」


 だ、大丈夫かな? 大丈夫だよね?

 僕が何を心配してるかっていうと、ヴェノムオオヘビの時にシロツメを「マッドサイエンティスト」って言っちゃったことだ。

 シロツメの名前は出さなかったけど、バレないよね?


「ロイサリス様、何かを隠していますね?」

「隠してません!」

「嘘をついても無駄です」


 じーって、澄んだ瞳で僕の心を見透かそうとしてくる。


「わたくしの……悪口?」

「僕の心が! 心の中に入ってこないでください!」

「ふむふむ、なるほどなるほど」


 知られたくないから隠そうとしても、こういう時って逆に思い浮かべてしまうものだ。

 頭の中に自然と「マッドサイエンティスト」の単語が並んでしまう。


「ロイサリス様は、わたくしをそのように……悲しゅうございます」

「ごめんなさい!」


「ふふふ、冗談です」

「へ? じょ、冗談?」


「いくらなんでも、完璧に見通せるわけではありません。悪口を吹き込んだのは確かでしょうが、具体的な内容まではさっぱり」

「それでも怖いですよ!」


 悪口を吹き込んだのは確かだって言い切れるのが、そもそもおかしい。

 シロツメなら、そのうち完璧な読心術でも身に着けそうだ。僕限定で。


「まあ、ロイサリス様をいじめるのはこのくらいにしておきましょうか。それで、こちらはどうされます?」

「そっちは……どうしようもなくありません?」


 いきなり話が変わったけど、ラナーテルマちゃんの手紙の続きだ。

 僕は、「レッド君の奥さんたちが、まるで洗脳でもされているみたいだ」って書いた。


 その返事が、「以前からそうだった」なんだ。王女様までレッド君の言いなりなのも、絶対に否定しないのも。

 そして。


「わたくしが感じた通りでした。正直、レイドレッド様を軽蔑します」


 言いなりのはずの奥さんたちが、レッド君の意にそぐわない発言をした。

 カッツャ君の釈放の件を知ってたのに、ナモジア君が勝った時。奥さんたちが、口々にナモジア君を悪く言ったのがそれだ。

 レッド君がたしなめて、奥さんたちの失言を夫として謝罪するって流れだった。


「レイドレッド様ご自身が言えば、角が立ちますからね。自分の言いたいことを女性に言わせたのです。そこでレイドレッド様がたしなめれば、彼の評判は落ちません。茶番もいいところですわね」


 シロツメにしては厳しい物言いをしてる。

 実は、僕も同意見だ。


 人間なんだし、自分の意思は持ってる。普通に考えれば、奥さんたちの言葉は奥さんたちの意思であるはずだ。

 言いなりのお人形じゃなかったらね。


 シロツメが聞いてるのに、ヴェノム皇国の人を悪く言うと、レッド君の立場が悪くなりかねない。

 夫を絶対視する奥さんたちが、そんなことをするか?


 しないとは言い切れないけど、軽率な行動だと思う。貴族令嬢なら、ああいった場面での立ち回り方も身に着けてるだろうに。

 一人くらいならまだしも、妾の四人が同時に発言したのは明らかに不自然だ。


「奥さんたちが発言する前に、レッド君も言ってましたよね。『ヴェノム皇国の人間は薄情』みたいに。すぐに撤回はしましたけど、あれで奥さんたちがレッド君の気持ちを察したとすれば」

「夫のために、夫の意見を代弁した。ロイサリス様もそう感じましたか?」

「はい」


 僕をいじめる時もそうだったんだ。

 レッド君は僕をいじめない。でも敵視する。

 すると、レッド君の気持ちを察した他の子供たちが僕をいじめて、レッド君は正義として振る舞う。

 前科があるんだし、今回も同じと思っちゃう。


「……わたくし、少し調べてみます」

「何をですか?」


「レイドレッド様と絶対神についてです。申し訳ありませんが、調査が終わるまでは内緒にさせてください。ロイサリス様に先入観を与えたくありませんので」

「分かりました。危険な真似はしないんですよね?」


「ロイサリス様がおっしゃいますか? わたくしがお願いしても、何度も大怪我をされたロイサリス様が。お怪我をされるたびに、わたくしがどれほど心配したか」


 あ、藪蛇になった。シロツメのお説教が始まったよ。


「聞いていますか?」

「聞いてます! ちゃんと聞いてます!」


 シロツメに頭が上がらないのは、今日に限ったことじゃない。

 これもまた、いつも通り。平和な証だね。


 こんな感じで日々を過ごし、卒業も近付いてきたなって時。

 飛び切りのビッグニュースが飛び込んできた。


 新しい国王が即位するっていうニュースが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ