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八十九話 武神に挑む者

 ナモジア君とカッツャ君の試合が始まった。

 武器は、ナモジア君は剣でカッツャ君は鉄槌だ。

 大槌とか戦鎚とかって言ってもいいけど、要は巨大なハンマー。

 およそ人間が持てるとは思えないサイズだ。食らえばぺしゃんこになる。


 見た目だけなら、完全にナモジア君が不利だ。勝てるとは思えない。

 僕も心配だったけど、実際に試合が始まれば払拭された。

 カッツャ君の攻撃は強烈だ。鉄槌でナモジア君を叩き潰そうとする。

 一発でも食らえば致命傷になる攻撃を、ナモジア君は完璧に回避してる。

 回避しつつカッツャ君に反撃し、試合は一方的に進む。


「体の大きさは別として、素の実力では圧倒的ですね。あのナモジアという少年、私よりも強いです」

「僕が知ってるナモジア君よりも、遥かに強くなってるよ」


 武者修行の旅のおかげかな。武神のご加護と合わさって、あそこまでになった。

 そういえば、カッツャ君のご加護はどうなってるんだろ。


「レイドレッド様、カッツャ君は神様のご加護は?」

「授かっていません。初等学校を中退していますからね。加護なき者が武神に挑むのは、ロイサリス殿はお好きではありませんか?」

「嫌いではありませんが……」


 日本には、判官贔屓(ほうがんびいき)ってものがあった。

 弱い者が強い者に挑むと、弱い方に同情して応援したくなる感情だ。

 ハンデを抱えてる人でもいい。障碍(しょうがい)者を取り上げるテレビ番組も多かった。

 そういう人を見ると、自然と頑張れって気持ちになるものだ。


 ご加護を授かっていないカッツャ君が、武神のご加護を授かってるナモジア君に挑む。ましてや、この試合にはカッツャ君の釈放がかかってる。

 僕がどっちを応援してるかってなると、ナモジア君には悪いけどカッツャ君だ。


 ただ……やっぱり悪趣味だと感じる。

 釈放されたくて必死になってるカッツャ君と、釈放の話を知ってるナモジア君がどうするかを、安全な場所から見物するだけなのが。


 自分で戦う方が精神的に楽だね。

 カッツャ君の猛攻は、ナモジア君に通じてない。結果が分かり切ってるだけに、なおさら見ていられなくなる。


「カッツャ・カーダの対戦相手は、負けるつもりはなさそうですね。スタニド王国の人間など、釈放されなくてもよいと考えているのでしょうか。ヴェノム皇国の人間は薄情で……いえ、失礼。シロツユメンナ様を悪く言いたいのではありません」

「気にしておりませんわ」


 観戦中のレッド君が嫌味っぽい発言をした。

 まさか、ヴェノム皇国を批判するためだけにこの試合を組んだ?

 個人の問題を、国同士の問題に結びつけるために?


 僕が疑心暗鬼に陥ってると、試合が大きく動いた。

 猛攻を繰り出してたカッツャ君が、糸が切れたように倒れたんだ。

 ナモジア君の攻撃をかなり食らってたし、限界がきたのかもしれない。


 それでもカッツャ君は諦めてないみたいで、鉄槌を支えにして立ち上がろうともがく。

 実戦なら遠慮なくとどめを刺すんだろうけど、これは御前試合だ。

 国王陛下の御前で、倒れた人間を攻撃することはできない。


 ナモジア君もそこは理解してるようで、立ち上がろうとするカッツャ君をじっと睨む。構えは解かず、いつでも攻撃に移れる姿勢だ。


 カッツャ君がフラフラと立ち上がれば、観客席から歓声が飛ぶ。

 声援に後押しされるように、カッツャ君は最後の力を振り絞って攻撃。

 しかし、ナモジア君には届かなくて。

 とどめの一撃をお見舞いされ、今度こそ決着は着いた。


「カッツャ・カーダの巻き返しはありませんでしたか。立ち上がった時は期待したのですが、まあよい勝負だったでしょう。加護のない者にしては、よくやった方だと思います。対戦相手もなかなかの腕でした」


 レッド君は、一応ナモジア君を褒めてるのかな。

 ただし、奥さんたちは違うみたいだ。


「対戦相手の少年は薄情者です。それほどまでに、自分の名誉が大切でしょうか」

「本当です。釈放させてあげようと考え、負けるべきでしょう。国王陛下の御前で負ける姿をさらしたくないとしてもです」

「いくら力があっても、人間として失格ですね。人を思いやる心がありません」

「所詮は野蛮人でしたか」


 王女様以外の四人がナモジア君を批判し、カッツャ君の味方に回ってた。


 ナモジアの性格からすれば、自分の名誉は関係ない。カッツャ君を思いやる気持ちも、残念ながらないと思う。

 戦いだから手は抜かない。たとえ、相手にどんな事情があったって。

 そういう性格なんだ。


 事情を知る僕なら納得するけど、他の人から見れば薄情に映るのかな。

 ナモジア君よりも、こんな試合を仕組んだ方が悪い気がする。


「レイドレッド様、カッツャ・カーダは負けましたが、立派に戦い抜きました。罪が軽減されるよう、お口添えしてはいかがでしょうか?」


 王女様はレッド君に進言し、レッド君も頷いた。


「やってみるか。ワタシの力の及ぶ範囲でね」


 カッツャ君を助けるような発言をすれば、奥さんと護衛から「さすがレイドレッド様」って称賛が巻き起こった。

 鷹揚に頷いてから、レッド君は続ける。


「それと、少々言い過ぎだ。シロツユメンナ様もおられるのだし、やめたまえ」


 レッド君は、ナモジア君を批判してた奥さんたちを注意した。

 自分も「薄情」とか言ってたくせに。

 奥さんたちは、声をそろえて「申し訳ありません、レイドレッド様」って。

 相変わらず不気味なほどにレッド君の言いなりだ。


「分かればよい。シロツユメンナ様、ワタシの妻たちが失礼しました。夫として謝罪いたします」

「気にしておりませんわ」


 謝罪されたシロツメは、短く返事をした。さっきと同じ言葉だ。

 僕には「まともに相手をする価値もない」って言外に言ってるように聞こえた。

 リリも僕に耳打ちしてくる。誰にも聞こえないように、非常に小さな声で。


「シロツメは怒っているみたいですね。ヴェノム皇国を悪く言われたからか、もしくは試合の内容か……レッド君たちの発言でしょうか」

「帰ってから聞いてみよう。今はパーティーがあるし」


 王様からのありがたいお言葉を頂戴すれば、御前試合は終わりだ。

 次はパーティー。面倒事しかなさそうな、憂鬱なパーティーの時間になる。

 ナモジア君が参加するようなら、話をしてみたい。それだけが楽しみだ。

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