表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/125

八十七話 不気味なハーレム

 御前試合当日、僕たちは王都にあるコロシアムへと向かった。

 一般客はいないけど、貴族や関係者が大勢集まってて、結構な人だかりだ。

 貴族が一堂に会する機会なんてそうそうないし、このチャンスにつながりを持とうとしてる。


 御前試合が始まるまでは、僕やシロツメはあっちこっちに挨拶回りをした。

 貴族にとっては、僕よりもシロツメが本命だ。皇女様と親しくなりたがってる。

 十六歳のシロツメは結婚適齢期で独身だし、息子の嫁にって。

 シロツメとは比べるべくもないけど、僕も少し言われたよ。娘の婿にって。


 ラナーテルマちゃんを助ける時にケノトゥムを名乗ったのが、裏目に出てる。

 まずいなあ。実は、ケノトゥムを名乗ること、おじいちゃんには許可をもらってないんだよね。手紙を出しておいたから、そろそろ伝わってる頃だと思うけど。


 電話やメールがないのが、地味に不便だ。連絡手段は手紙だけだし。

 しかも、国を隔ててるから、数日程度じゃ連絡がつかない。

 許可をもらえるのを待ってる時間がなくて、僕の独断でケノトゥムの名前を使ったんだ。

 勝手な真似をして、怒られるかもしれない。そうなったらなった時だ。


 ただ、独断で結婚までするわけにはいかないから、婿の話はお断りした。

 そもそも、マルネがいるし。

 シロツメも、皇国に婚約者がいるって設定になってるから、全部断ってた。


「御前試合が始まる前からこれですか。試合後のパーティーは、もっと大変そうですね」

「わたくしは慣れておりますけれど、慣れているからといって楽にはならないのが……」


 僕とシロツメは、二人そろって深いため息をついた。

 今は、御前試合の前の挨拶回り。

 試合があって、その後は貴族や試合の参加者を交えてのパーティーになる。

 中等学校の卒業式のパーティーは楽しかったけど、今回は楽しめそうにない。


 挨拶回りを終えれば、僕たちはレッド君のところに行く。

 コロシアムは円形になってて、中央にある闘技場を囲むように客席が設置されてる。客席を区切って、貴族ごとにまとまって観戦するんだ。

 僕たちはレッド君の招待客だから、彼と一緒。


「レイドレッド様、本日はご招待いただき、ありがとうございます」


 シロツメがレッド君に挨拶して、僕も同様に。

 レッド君は、八人の女性たちと一緒にいた。

 八人中五人は奥さんだ。噂に違わぬ美しい人ばかり。

 残りの三人は、レッド君の護衛らしい。こっちも美人ぞろいだ。


 男性はいないのかなって思ってたら、レッド君が説明してくれた。

 なんでも、シロツメのためらしい。男がいたら気が休まらないだろうからって。


「お心遣いに感謝いたします」

「皇女殿下をお招きするのですから、当然の処置です」


 華やかな空間だ。男は、僕、レッド君、シロツメの執事であるシャルフさんの三人だけで、女性は十人もいる。

 レッド君が連れてきた八人に、シロツメとリリで十人だ。

 全員が美女、美少女ばっかりだし、コロシアムの中でも一、二を争う華やかさだと思う。


 女性陣に目を奪われてる場合じゃないや。

 そろそろ御前試合が始まる。これでも、結構楽しみにしてたんだ。

 御前試合に登場するくらいだから、腕の立つ人ばかりだ。

 達人同士の試合を間近で観戦できる機会は、あんまりない。しっかり観戦させてもらおう。


「リリ、解説をお願い。僕じゃ分からないところもあるだろうから」

「承知しました、ご主人様」


 リリは、今日も僕を「ご主人様」って呼ぶ。

 そういう設定にしちゃったからね。アーガヒラム家のご令嬢をものにしてるゲス野郎って設定に。


 僕のゲスっぷりは、レッド君から奥さんたちにも伝わってるんだろう。

 心なしか、僕を見る目が冷たいように感じられる。

 護衛の三人なんか、もっとあからさまだ。不埒な真似をしたら即座に叩っ斬るって態勢になってる。

 僕が針のむしろになってると、レッド君が話しかけてきた。


「時に、ロイサリス殿。ラナは元気でやっていますか?」


「やっていると思いますよ。大切な女性をお預かりしたのですから、ヴェノム皇国の皇都へ向かう道中もできる限りの護衛をつけました。あちらの知り合いにも頼んでありますし、まず問題ないでしょう。ラナーテルマさんご本人もやる気になっていましたしね」


「それはよかった。ラナは妻でこそありませんが、将来的には妻にすると約束しているので、もしものことがあれば後悔してしまいます」


「妻に、ですか? では、ラナーテルマさんが戻ってきた暁にはご結婚を?」


「するでしょうね。無事に帰ってきてもらいたいものです。無事に」


 意外だな。レッド君が、ラナーテルマちゃんと結婚するって言い切るなんて。

 ここには奥さんたちがいるし、シロツメもいる。口約束だからノーカンとはしにくい状況だ。

 いざラナーテルマちゃんが戻ってきて、やっぱり結婚しませんってなると、レッド君の名誉が少なからず傷つく。


 適当に言葉を濁しておけばいいものを、なんで言い切った?

 僕を牽制する目的にしてはリスクが大きい。


 まさか、「大切」の言葉に嘘はないの? 僕がレッド君を誤解してた?

 だとすれば、ラナーテルマちゃんに伝える必要がある。

 戻ってきてレッド君と結婚するか、それともヴェノム皇国で新しい人生を歩むかは彼女次第だけど。


「ラナーテルマさんは平民ですが、妻にできるのですか?」

「妾として末席に加えてあげるのであれば、可能でしょう。ラナのためですし、妻たちも許してくれます」


 レッド君が言えば、五人の奥さんが同時に言葉を発する。

「はい、レイドレッド様」って、一言一句違わず、タイミングもバッチリで。

 レッド君を疑ってる様子は欠片もなく、信じ切ってる。


 ……何、これ? まるで、洗脳でもされてるみたいな反応だ。

 全員美しいけど、美しいせいで余計に気味が悪い。人間味がなく、精巧な人形みたいというか。


 夫が新しい妾を作るって言ってるんだ。普通なら嫉妬の一つもする場面だよね。

 妾が増えれば、自分の立場が脅かされる可能性がある。

 正妻の王女様だって油断できず、妾が寵愛を受けるケースを危惧するだろう。


 結果として、自分こそが一番愛されてるって思いたがったり、他の女性を出し抜こうとしたり。

 人間関係は複雑だし、複数の奥さんがいればこういう揉め事も起きる。


 母様とアミさんだって、父さんを巡ってケンカしてた。関係が壊れるほどの大ゲンカにはならなかったけど、小さなトラブルはしょっちゅうだ。

 実の姉妹でも揉めるんだ。赤の他人ならなおさらだろう。


 一夫多妻って、こんな風になるの?

 僕はてっきり、王女様の発言力が一番大きいと思ってた。正妻で王女なんだし。

 王女様が一番で、他の四人は分をわきまえてるからこそ、うまくまとまってるんじゃないかって。


 ところが、王女様までレッド君の言いなりだ。妾が増えるのに反対しない。

 妾の四人は反対しにくいからレッド君を立ててるとしても、王女様なら一言くらい釘を刺せるんじゃない? 「私が一番です」とかさ。


 僕たちがいる手前、自重してるのかな?

 なんか……本当に不気味だ。


「おっと、試合が始まりますね」


 レッド君の言葉に、僕は我に返った。

 不気味なハーレムは気にしないでおこう。というか、気にしたくない。

 この辺も含めて、ラナーテルマちゃんには手紙を書いておく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ