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八十六話 御前試合への招待

 留学生用の屋敷に手紙が届いた。

 僕とシロツメ宛で、内容は御前試合への招待状だ。

 王様の御前で試合を行うイベントで、数年に一度不定期で開催される。


 参加するのは、多方面から集まった優秀な人たちだ。

 上級学校や騎士養成所の成績優秀者だったり、若手騎士の有望株だったり、逆に引退間際の老騎士だったりと様々。


 王様や貴族の前で試合をし、力を見せる。

 大会形式じゃないから優勝者とかは決めないけど、参加できるだけで名誉だ。

 うまくいけば、どこかの貴族に仕官できる可能性もある。


 僕とシロツメは、当然ながら参加者じゃない。試合を観戦する客人として招待された。

 御前試合は、一般には公開されず、偉い人しか観戦できないんだ。もしくは、その人たちに招待された人か。


「皇女のシロツメは分かるとして、僕はなんででしょう?」

「ケノトゥムと思われているからでは?」

「やっぱりそうですよね……」


 失敗した。大失敗だ。一度でもケノトゥムを名乗れば、以降もケノトゥムとして扱われるに決まってるよ。

 軽率な行動だった。後悔しても取り戻せないけど。


「坊ちゃまがケノトゥムを名乗ったのは、仕方なかったと思いますよ。ラナーテルマさんを助けるためでしたし」

「仕方なくない。他にもやりようはあったし、見捨ててもよかった。ケノトゥムを名乗ってレッド君に接触するって決めたのは僕なんだから、僕の責任だ」


 反省するのも必要だけど、レッド君の招待を受けるかどうか決めなきゃ。


「あのレッド君が僕を招待……裏がある気がする」

「ロイサリス様は、少々疑心暗鬼になり過ぎではありませんか?」

「かもしれませんけど……」


 僕がケノトゥムだから招待するのは、何もおかしくない。レッド君なら、知り合いの一人や二人、招待できるからね。

 それでも疑ってしまうのは、僕がレッド君を嫌いで信用してないからだろう。

 嫌いな相手だと、何をしても不満しか覚えない。全てを悪い方向に解釈する。

 冷静に判断すべきだと頭では理解してるんだけど……


「お嫌でしたら断りますか? わたくしがうまく理由をつけておきますし、ロイサリス様の不利益にはならないよう配慮しますので」

「……いえ、行きます」


 護衛を連れるのは認められてるから、僕が行かなくてもシロツメは安全だ。

 ただ、レッド君の真意を確かめたい。何もないならそれでいいし、何かあるなら対処しないと。


「リリ、僕の護衛として同行してくれる?」

「お任せください!」

(じい)

「かしこまりました」


 僕はリリを護衛にする。シロツメは執事さんだ。

 老いていても、そこらの若者には負けないし、シロツメが一番の信頼を置いてる人だ。皇都の屋敷でも、僕の治療時はいつも見守ってた。


「シャルフさんがご一緒でしたら、シロツメも安心ですね」

「爺は、わたくしの期待を裏切ったことは一度たりとも……一度以外はありません」


 シャルフさんってのが執事さんの名前だ。

 僕が名前を知ったのは、つい最近だったりする。

 ヴェノム皇国にいる時から、結構長い付き合いになるのにね。


「シャルフさんがシロツメの期待を裏切ったこと、あるんですか?」

「ロイサリス様……」


 何気なく質問したのに、シロツメは半眼になって僕を非難した。

 言葉にはしてなくても目で分かる。


「グレンガー様、私はシロツユメンナ様から、恋愛相談を受けておりました」

「あ……」


 そ、そういうことか。

 相談してたのに、僕がシロツメの告白を断ったから、期待を裏切ったって。


「まあ、それはよいのです。爺の責任ではありません」

「私がもっと注意していれば……グレンガー様に想い人がいるという情報は得ていましたが、ご結婚まで考えておられるとは思いませんでした」


「わたくしもです。ロイサリス様は、わたくしの胸をチラチラ見られていましたし、興味を持ってくださっているとばかり」

「執事として、(あるじ)に『裸になって押し倒せ』とは進言できませんでした」


「進言されていてもやりませ……やっていたでしょうか?」

「そ、その辺にしてください。僕の心がもちません」


 この二人を放置しておくと、どんどん僕の立場が悪くなる。

 祖父と孫ほども年齢が離れてるし、主人と執事って関係でもあるのに、まるで同年代の悪友同士みたいなやり取りだ。

 冗談なのか本気なのか不明なやり取りを見て、リリも眉をひそめる。


「シロツメ、言うまでもありませんが……」

「承知しております。ロイサリス様とマルネさんの仲を引き裂くような真似はいたしません」

「ならいいです。私は、坊ちゃまの幸せを願っていますからね」

「ありがとう、リリ」


 リリは優しいなあ。もちろん、シロツメが優しくないわけじゃないけど。


「一人だけ好感度を稼ぐとは……女性だけの集まりの時、リリが何を言っているか、ロイサリス様にお聞かせしたいです」

「それだけは勘弁してください! 坊ちゃまに知られたら私は生きていけません! あ、あのようなはしたない……うああああっ!」


 リリとシロツメも悪友っぽい雰囲気だ。

 リリが何を言ってるかは……知らない方がよさそうだね。


 シロツメは、僕の心も見透かせるしリリの弱味も握ってるし、これ最強じゃない? あるいは最恐(さいきょう)


「ロイサリス様、よい情報をお教えしましょう。リリはお酒に弱いのです。すぐに酔い、口が滑らかになります。本音を聞き出したい時は、試してみてください」

「シロツメっ!」


 試す気はないけど、有用な情報かもしれない。

 リリは僕の前でお酒を飲まないし、すぐに酔っ払うなんて知らなかった。

 試す気はないけど。


「話が逸れましたが、では招待を受けると返事しておきます。わたくしとロイサリス様、護衛は爺とリリ」

「お願いします」


 バカっぽいやり取りから真面目な話に戻って、僕たちは御前試合を見学しに行くことになった。


 ちなみに、後日マルネに伝えたところ。


「わたし、またお留守番なの? ラナさんの時も留守番だったのに……」

「ごめん。でも、連れて行けないから」

「むぅ……ロイ君のバカ」

「今度埋め合わせはするから。絶対に」


 むくれるマルネのご機嫌を取るのに、少し苦労した。

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