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七十八話 妻とそれ以外

本話には、女性に対しての差別的な表現が含まれます。ご注意ください。

 バカップルの友人たち、スウダ君とサクミさん。

 今はよくても、将来は大丈夫かなって心配になる。


「スウダ君って、貴族になったよね。だったら、複数の奥さんを娶らなきゃいけないんじゃないの?」

雄爵(ゆうしゃく)ならそうでもない。が、俺はもっと成り上がる気でいるし、そしたらサクミ一人ってわけにはいかなくなるだろうな。サクミには申し訳ないが」


 まだ恋人同士の段階だけど、結婚も視野に入れてる。

 僕とマルネも結婚を前提に付き合ってるし、この世界だと普通だ。


 スウダ君とサクミさんが、将来結婚する。

 貴族のスウダ君は、他の女性とも結婚するだろう。

 そしたら、ヤンデレ気質のサクミさんとしては平気なのかなって。

 僕が心配したのはそこだ。


「サクミは平気です。スウダ様の妻として、他の妻と一緒に夫を支えます」

「さっきは嫉妬してるようでしたが?」

「お恥ずかしいですが、スウダ様が過去にお好きになった女性となると、気になってしまいます。サクミがスウダ様と出会う前のお話ですから」


 女性としては複雑な感情なのかな。貴族は大変だ。

 僕のおじいちゃんは、皇族の分家って立場ながら、おばあちゃん一人しか奥さんがいない。

 あれは、かなり無茶を通したって聞いてるし、大変なのはどこの国も一緒だ。


「僕、平民でよかった」

「何言ってんだ。ヴェノム皇国じゃ、こっちの貴族に相当する家柄なんだろ?」

「グレンガーを名乗ってるし、僕は平民のつもりだよ。難しい問題だけど」

「平民のつもりねえ。そう思ってるのは本人ばかりで、ロイサリスも複数の妻を娶ることになってマルネさんとギクシャクしたりしてな」

「あり得そうだからやめて」


 僕とケノトゥムは、切っても切り離せない。僕がいくら「関係ない」って主張したって、そう受け止めてくれない人はいるんだ。

 そもそも、おじいちゃんの権力に頼ったこともあるから、本当に無関係とも言えない。


 将来はスタニド王国で暮らそうとしてるのも、家柄っていう面倒な問題から逃げたい気持ちがかなりある。スウダ君が言ったことが現実になりそうだし。


 結婚とか奥さんとかの話題になったら、スウダ君がある人の名前を出す。


「……ロイサリスは、レッドを覚えてるか?」

「もちろん」


 僕をいじめてた相手なんだし、忘れるわけない。

 いじめの件に関しては、昔のことだしもういいかなとは思う。

 恨んでないとは言わないよ。ただ、過去を悔いて立派に成長してるなら、今さら僕がどうこうする気もない。

 スウダ君がレッド君の名前を出した理由は。


「あいつ、結婚するらしいぞ」


 てことだった。

 レッド君が結婚ねえ。してもおかしくない。

 僕の三つ上だから十六歳。しかも侯爵家の息子なんだし、結婚するにはちょうどいい年齢だ。


 まあ、とりあえずおめでとう。

 あのレッド君が結婚するんだし、相手も相応の人なんだろうな。


「正妻は王女殿下だ。若き英雄レイドレッドと王女殿下のご成婚。貴族界隈じゃ、その話題で持ち切りになってる。一般市民に伝わるのも、そう遠くないだろう」

「その言い方からすると、他にも奥さんがいるの?」

「美姫と名高い貴族のご令嬢が、ずらりと並んでる。妾が四人だとさ」


 奥さんが五人か。レッド君なら、むしろ少ない方かな。

 ずらりと並ぶって表現するには、少し物足りない気がする。


「おめでたい話だよね。幸せになれるならいいんじゃない?」

「本当にそう思うか?」

「……何か問題あるの?」


 一夫多妻は普通だし、五人の奥さんがいても問題ない。レッド君なら、五人と言わず何十人でも養えるだけの甲斐性がある。

 政略結婚なのかもしれないけど、これも普通だ。

 特に問題はなさそうに思う。


「正妻一人に妾四人……だけじゃないんだよ。迂愚女(うぐめ)が十人以上いる」

「うっわあ……」


 スウダ君が言った迂愚女ってのは、スタニド王国に存在する悪しき風習だ。

 この辺の国では奴隷が禁止されてるけど、貴族の中には奴隷を欲する人もいる。

 女性の奴隷を傍に置いて、好き放題やりたいって考える人が。


 その欲を満たすためにできたのが迂愚女だ。

 正式な制度として認められてるわけじゃなく、暗黙の了解というか。

 妻にはしないし、メイドや秘書なんかとも違う。所有物として傍に置くんだ。


 なんでこんなやり方をするかっていうと、責任を取りたくないからだ。

 妻となった女性には、好き放題なんてできない。非人道的に扱えば、非難されるのは男性側だ。名誉が傷つく。


 迂愚女なら、そういった面倒臭い義務も責任もなくて、何をしても許される。

 だって、ただの所有物だから。最悪な制度だよね。


「迂愚女を持つ貴族はたまにいる。だが、レッドは少し違うんだ。身分の低い貴族のご令嬢を迂愚女にしてる。平民もいるが、大半は貴族だ」

「……それ、問題にならないの?」


 所有物で人間扱いされないんだ。

 貴族のご令嬢が、そんな立場に納得するとは思えない。


「女性側が望んだから平気なんだと。妻になれないなら、なんでもいいからお傍に置いてくださいって懇願したそうだ。レッドは嫌がったが、無下にできずに仕方なく受け入れたって話だな。実際にどうなのかは知らん」


 ますます最悪だ。女性が望んだから仕方なくってところが、昔と変わってない。

 レッド君は昔からそうだった。「自分は嫌だが何々のために仕方なく」って言い訳を好んで使い、欲を満たしてた。

 成長してるかと期待したのに、全然変わってない。むしろ悪化してる。


 スウダ君は、「実際にどうなのかは知らん」って言ってるし、何かの間違いであってくれればいいけど。


「まさか、周囲はレッド君を絶賛してたりする?」

「よく分かるな。優しいとかなんとか、大絶賛の嵐だぞ」

「本当にそうなんだ……ただまあ、僕には関係ないしご勝手にってところかな」


 僕とレッド君の関係は、初等学校時代のクラスメイトってだけだ。

 大貴族と平民だし、これから関わることはないだろう。

 迂愚女の女性も、何を考えてるのか知らないけど、僕が口を挟む問題でもない。

 望んで迂愚女になったなら、それはそれで幸せかもしれないし。


「……迂愚女の一人に、ラナーテルマさんがいる」

「ラナーテルマちゃん!?」


 ラナーテルマ・クォンカル。初等学校時代のクラスメイトの一人だ。学校で一番の美少女って言われてて、レッド君の取り巻きだった女の子。

 こんなところで名前を聞くとは思わなかった。


「確かに、ラナーテルマちゃんはレッド君を好きだったみたいだけどさ」


 どんな形でもいいから、レッド君の傍にいたい。そう考えた上での行動ならいいんだけど。


「すまん、暗い話になったな。とにかく、レッドはそうなってるってことだ」

「聞かせてくれてありがとう。ついでに聞いておきたいんだけど、レッド君は上級学校にいないよね? 卒業したの?」

「去年、卒業したぞ。俺たちの二学年上だったからな。初等学校を二年生の途中で退学しただろ。その後すぐ、上級学校の一年生に編入したんだ。絶対神の加護を授かったから、特例でな」


 僕が留学してくる直前ってことか。

 上級学校を卒業して、すぐに結婚。王女様を正妻に、美しいご令嬢を妾に、所有物となる迂愚女もたくさん。

 迂愚女がいなければ、素直に祝福できたのに。


「スウダ君は、貴族でも迂愚女を持たないよね?」

「見くびってくれるな。俺はそこまで卑劣な男じゃない」

「さすがスウダ様です。それでこそ、サクミが愛するお方です」

「サクミ!」

「スウダ様!」


 重苦しい話題から一変、バカップルぶりを発揮する二人がいた。

 いいなあ。僕もマルネとイチャイチャしたい。

 働いてるマルネを見ると、彼女も僕を見てくれて目が合った。

 軽く手を振れば、マルネも振り返してくれて。

 うへへへへへ。


「ロイサリス……お前、気持ち悪いぞ」

「スウダ君に言われたくないよ!」


 僕とマルネは普通で、スウダ君とサクミさんはバカップルのくせに。


 レッド君は、こういう関係がいいって思わないのかな。もしくは、自分の迂愚女になれるなら幸せだと思ってるのか。

 幸せにしてあげたいと願うなら、普通に結婚すればいいのに。

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