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七十六話 記念すべき夜

 女性は、初恋の男性以外とは付き合う資格がないのか?

 一度でも誰かを好きになると、次に好きになった相手への裏切りになるのか?


 そんなバカな話があるはずない。どれだけ傲慢なんだ。


「だ、大丈夫だから。マルネちゃんが聞いた話は、酔っ払いのたわごとで……あながち間違ってもないんだけど……」

「や、やっぱりぃ……」

「違くて! えっと、ええっと……男は、確かにそんな生き物ではあるんだよ。僕だってそうだ。マルネちゃんを他の男に渡したくない。マルネちゃんには、僕だけを見ていてもらいたい。そんな身勝手な気持ちは、間違いなく持ってる」


 自分で言ってても、身勝手だと思う。


 僕は、リリたちから告白されて嬉しく思ってる。

 マルネちゃんには、僕だけを見ろって要求する。


 お前は何様だって突っ込まれても当然の、醜い独占欲。


「僕はリリが好きだ。物心ついた時からずっと一緒で、初等学校でも先生になって僕を見守ってくれた。リリがいなかったら、今の僕はない」

「坊ちゃま」


「僕はシロツメが好きだ。左腕を治してもらったり勉強を教えてもらったり、中等学校時代の三年間はお世話になった。女神様みたいって思ってる」

「女神ですか。照れますね」


「僕はユキが……多分好きだ。友達になれたのは嬉しかったし、僕のいない間はマルネちゃんを守ってくれてたみたいで感謝してる」

「あたしだけなんか雑!?」


 ごめんなさい。「多分好き」なんて、酷いこと言ってるのは自覚してる。

 ただ、弁明は今度にさせて。今はマルネちゃんが大事なんだ。


「でも、僕はマルネちゃんが一番好きだ。初恋もマルネちゃんだ。リリたちと付き合うつもりはない。身勝手なのは承知の上で、もう一度言うよ。僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」


 最低な告白もあったものだと思う。

 単に、「マルネちゃんが好き」じゃないんだ。「みんな好き」っていう、最低最悪の前提条件がくっついちゃってる。


 嘘をついて、「他の女なんて眼中にない。マルネちゃんだけを見てる」とでも言った方がいいのかもしれない。


 だけどさ、それはちょっとね。

 僕の自己満足ではあるんだけど、マルネちゃんには正直に伝えたい。


 マルネちゃんに選んでもらえるように、自分を磨くって決意したんだ。

 僕の誤解だったからって、綺麗事で気持ちを覆い隠していいわけがない。

 好きな子に嘘をつくのは不誠実だ。「みんな好き」も不誠実だけど、正直になってる分だけほんの少しマシなはず。


 こんな僕でも、いいって言ってくれるかな。

 無理かもしれない。僕が似たようなセリフを言われたら傷つく。

 レッド君が好き。スウダ君が好き。でもロイ君が一番、とかさ。


 自分が言われて傷つくことを、マルネちゃんに言ってるのに。


「わたし……わたしも、ロイ君が好きです。愛してます。わ、わたしでよければ、ロイ君が初恋じゃないわたしだけど……お付き合いしてください!」


 受け入れてもらえた……で、いいんだよね?

 ドッキリとかじゃないよね?


「マルネちゃん、左手、出して」

「はい……」


 僕は、マルネちゃんの左手の薬指に指輪をはめた。

 指輪は少し大きかった。平均サイズで作ってもらったから、小柄なマルネちゃんにはサイズが合わない。

 微妙に締まらない結果ではあるけど。


「これで、マルネちゃんは僕の物。そして、僕はマルネちゃんの物」

「は、はい……えへ、えへへ」


 泣いてたせいで目が赤くなり、でもはにかんだ顔で指輪を愛おしそうに撫でるマルネちゃんがいた。

 色々あったなあ。とりあえず、一段落だ。


 僕とマルネちゃんは、恋人同士! 婚約した!

 やったあぁっ!


 リリたちがいなかったら、ガッツポーズしてたね。

 みんなが見てるから、心の中で叫ぶ。


「収まるところに収まりましたか。人騒がせですけれど、よかったです」

「坊ちゃま、おめでとうございます」

「よかったね、マルネ」


 シロツメ、リリ、ユキが、それぞれ祝福の言葉をくれた。

 三人をフった形になったのに、ありがたい話だ。


「みんな……ありがとう。それと、ごめん。僕を好きって言ってくれたのは嬉しいんだけど、僕はマルネちゃんが好きだから」

「みなまで言わないでくださいませ。さて、リリと……ユキノさん、でしたわよね。わたくしたちも、()()()()()()()


 シロツメが、リリとユキを部屋から連れ出してくれた。

 僕とマルネちゃんを二人きりにしてくれたのかな。


「マルネちゃん、今日は帰らないとダメかな?」

「えっと、酒場のお仕事を放り出してきちゃったんだけど……帰ってお仕事しようとしたら、わたしの様子がおかしいってユキに気付かれて、そのまま……」


 一度、僕の告白を断って帰り、そこでユキが連れてきてくれたんだ。

 ユキも僕が好きだって話なのに、マルネちゃんのために。


 ありがとう、ユキ。

 ユキだけじゃない。リリもシロツメも、本当にありがとう。


「仕事があるなら、ユキと一緒に帰った方がいい?」

「う、うん……本当はそうなんだけど……今日だけは、いいよね」

「マルネちゃん!」


 感極まって、思わず抱き締めてしまった。

 いや、押し倒そうとかってわけじゃないよ。いくらなんでも早い。


「今夜は、話でもしようか。会えなかった四年間、僕とマルネちゃんが何をしてたのか」

「うん!」


 明日も学校があるし、夜更かしはまずい。

 ただ、マルネちゃんの言葉じゃないけど、今日だけはいいよね。

 恋人になった、記念すべき夜なんだし。

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