七十四話 NTRなんか大嫌いだ
「心ここにあらず、ですわね」
「はい……坊ちゃま、私の声にも反応してくれなくて……」
「告白が成功したなら、こうはなりませんわよね。マルネさんも飛び出して行きましたし、失敗でしょうか。もしくは、成功したのに踏み込み過ぎて拒絶された?」
「踏み込むとは、関係を一気に縮めるような? いわゆる、肉体関係?」
「ロイサリス様にも性欲はおありでしょうし、やらないとは言い切れないのではありませんか?」
「坊ちゃまに限って……と言いたいところですが、久しぶりの再会に舞い上がった可能性は否定し切れませんね。マルネさんも贅沢です。坊ちゃまに求められれば、私なら……」
リリとシロツメがなんか言ってるけど、今の僕には雑音でしかない。
マルネちゃんにフラれた。フラれたんだ……
一か八かの賭けに出た告白なら、ショックは受けても立ち直れた。
成功すると思っていただけに、ショックは大きい。
しかも、理由が理由だ。
僕が嫌いとか、嫌いじゃないけど交際相手としては見られないとかなら、まだいい。
いや、よくはないんだけど、僕の勘違い、惨めな独り相撲ってことで納得する。
よりによって、レッド君が好きって……
あのレッド君だよ。いじめっ子の主犯格。僕もマルネちゃんも、レッド君には辛酸をなめさせられた。
そりゃあ、顔がいいのは認めるけど。僕よりも遥かに格好いいけど。
侯爵家の息子だし、身分も高い。レッド君自身も、絶対神のご加護を授かるような天才だ。将来的には、どこまでも高みにのぼりそう。
女性が虜になっても当然の、超優良物件だ。
にしたって、内面があまりにも最悪なのに、好きになるの?
もしくは、顔も身分も関係ない? 例えば、僕がいない間に和解したとか。
四年の月日があれば、レッド君も成長してる。初等学校時代はゴミでも、心を入れ替えて、今や立派になっててもおかしくない。
スウダ君だって、元いじめっ子だったのに、貴族になってるんだ。
レッド君だけが昔のままってこともないだろう。
僕の三つ上だったし、今は十六歳かな。
日本なら高校生でも、この国なら大人の仲間入りだ。
成人年齢がいくつっていう線引きは、ないんだけどね。
初等学校卒業後、見習いとして仕事を始めて、何年かすれば大人と認められる。
そういう意味だと、働いてない僕は子供だ。レッド君が上級学校にいるって話は聞かないし、何かしらの手段を用いて卒業したとすれば、向こうは大人。
大人になったレッド君は、過去の行いを悔いて、マルネちゃんに謝罪。
そこから、二人はいい関係に。
あり得なくはない。
あれだ。不良が小動物に優しくする姿を見て、真面目な少女が惚れるパターン。
理不尽な話だよね。普段、どれだけ傍若無人に振る舞ってても、ほんの少し優しい一面を見せるだけでいいんだから。「実は優しい人」、「口は悪くても心は綺麗」、とかなんとか好意的に解釈してもらえる。
真面目な人間が損をする、とても理不尽な世の中だ。
「今でしたら、わたくしにもチャンスがあるでしょうか? 落ち込むロイサリス様を慰めて……リリ、今晩はわたくしに任せてもらっても?」
「ふざけないでください。坊ちゃまをお慰めするのは、私の役目です」
「慰めるには、包容力が必要です。リリに包容力は……」
「憐みの目で見ないでください!」
二人の茶番なんか、聞く気分じゃないよ。
悪いけど、部屋を出てってもらおう。
「リリ……シロツメ……二人とも、出てって」
今日は、一人にして欲しい。
一人になったら……情けないけど、泣かせてもらおう。
明日には、表面的には普通に振る舞えるようになってるからさ。
せめて、一晩だけは泣かせて。
僕が言えば、リリもシロツメも、バツが悪そうな顔をしつつ出て行った。
これで部屋には僕一人だ。
もう、いいよね。
「マルネちゃん……」
僕は、部屋のすみっこに座り込んで、メソメソと泣き出した。
初等学校時代の思い出が、脳裏によみがえってくる。
図書室で出会った時の、ビクビクしたマルネちゃんの姿。
少しずつ仲よくなって、初めて見せてくれた笑顔。
レッド君たちの悪意によって、秘密の勉強会が終わりを告げた時の悲しみ。
僕がマルネちゃんをビンタしちゃった、苦い思い出。
リリのおかげで仲直りできた時の喜び。
強くなっていったマルネちゃんの頑張り。
別れの時の約束。
どれも、かけがえのない思い出だ。
僕の初恋は実らなかったけど、思い出を胸にこれから……
「無理だよ。諦められない。だって、好きなんだ」
マルネちゃんにフラれたからって、忘れるなんて無理だ。
全部忘れて、リリなりシロツメなりを恋人にすれば、幸せかもしれない。
僕は、そんなに器用な人間じゃない。
恋愛に関しては、女性よりも男性の方が未練がましいって言うけど、その通りだね。
だったら、どうするか。簡単だ。
「マルネちゃんに振り向いてもらう。レッド君じゃなくて、僕を見てもらえるようになる」
レッド君が、たとえどれだけ立派になってたとしても。心を入れ替えてたとしても。
マルネちゃんを想う気持ちは、負けてない。
断言できる。
「……よし、泣くのはおしまい!」
メソメソ泣いてるような男が、レッド君に勝てるわけがない。
今の僕じゃマルネちゃんに振り向いてもらえないなら、もっと自分を高めるんだ。自分を高め、成長し、その結果として振り向いてもらう。
NTR展開なんか、認めてやるもんか!
クソ食らえだ! NTRなんか大嫌いだ!
僕は決意を固めた。
ストーカーっぽい? 自己中心的?
確かにその通りかもしれない。でも、これは簡単に譲れる問題じゃないんだ。
レッド君にはレッド君の事情があり、マルネちゃんにはマルネちゃんの事情があるだろう。
その事情を、僕は知らないけど。
僕にとって、他の何をおいても譲れないのがマルネちゃんだ。
もちろん、マルネちゃんの幸せがどうでもいいなんて言わない。僕の幸せ以上に大切なことだ。
だから、「寝取られたから寝取り返す」なんて真似はしない。
選ぶのは、あくまでもマルネちゃん。
僕は選んでもらえるように自分を磨くだけだ。




