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七十二話 雄爵、スウダ・ユン・バゼラ

 スウダ君の変わりぶりに驚かされたけど、成長したのは外見だけじゃなかった。


「ゆ、雄爵(ゆうしゃく)?」


 食堂で食事してた僕は、ナイフとフォークを落としそうなほど驚愕した。


「おう。今の俺は、王国から雄爵の爵位をたまわってる」


 ステーキを食べるスウダ君は、肉にかぶりついて誇らしげな顔をした。

 再会した旧友は、貴族になってました。成長し過ぎだよ。


 雄爵っていうのは、一代限りで与えられる爵位だ。

 平民が顕著な勲功を立てた場合、雄爵になれる。

 平民より上、貴族よりも下の、半貴族みたいな扱いではあるけど、並大抵の努力で成し遂げられるものじゃない。


「じゃ、じゃあ名前も? さっきは、スウダ・バゼラって名乗ってたけど」

「正確には、スウダ・ユン・バゼラ、だな」


 貴族は、爵位ごとに名前がつけられる。「ユン」は雄爵を示す名前だ。

 レッド君の名前にも、「フォス」ってついてた。「フォス」は、侯爵家の人間であることを示す名前だ。当主なら「シンフォス」になる。


 スウダ・ユン・バゼラ。ご立派な名前です。


「スウダ様って呼んだ方がいい?」

「嫌味にしか聞こえないから、やめろ。俺は、お前に勝ったことがないんだ」


「勝ったことないって……最後に勝負したのなんか、四年以上前だよ」

「聞いたぜ。ヴェノム皇国の中等学校を、首席で卒業したってな。留学生だから一組になったなら、俺が勝ったって言えるかもしれん。首席となると俺の負けだ」


「いや、どうだろ。僕も、首席って成績には誇りを持ってるけど、貴族は……というか、何をしたら雄爵になれるのさ?」


 一代限りとはいえ、平民がポンポン貴族になっちゃうと、国中が貴族だらけになる。どんな功績があれば雄爵になれるのか、僕にはさっぱりだ。


「一年くらい前だったかな。魔物を退治した」

「……え? それだけ?」


 それだけって言うと語弊があるけど、魔物退治なんて色んな人がやってる。

 僕もハンター見習いになってたし、魔物とだって戦った。


「ただの魔物退治じゃないぞ。魔物の群れと戦ったんだ。村や町がいくつも滅ぼされ、多くの人が亡くなった。国も重い腰を上げてな。討伐隊が編成されて、俺も参加した。一番危険な先遣隊(せんけんたい)に組み込まれたんだ。捨て駒って言ってもいい。五十人以上いて、生き残りは俺を含めて三人だ。どんどん死んでいく中で、どんだけ魔物を斬ったか……」


 聞いてるだけで、僕の体が自然に震える。本物の死闘だったんだ。


「なんで参加したの? 強制だった?」

「志願制だが、志願するのに理由がいるか? 上級学校の学生なんだぞ。国の危機には立ち上がるべきだ。俺は武神の加護を授かってるし、戦える力があったからな。もっとも、先遣隊になったのは俺も誤算だったが……普通、子供を捨て駒にするか? 死を覚悟したぜ」


「よく生き残れたね」

「同じ部隊の人が、俺を生かそうとしてくれたおかげなんだ。子供だったからな。あの人たちが、俺を庇ってくれて……だから、俺の爵位は全員の物だと思ってる。俺だけが貴族になることに後ろめたさはあったが、せっかくだ。これからもっと成り上がって、死んでいった人たちの分まで戦うさ」


 うわあ、本当に立派だ。

 ヴェノム皇国の友達にも聞かせたい。スタニド王国にだって、こんなにも立派な志を持つ人がいるんだって。


「ごめんね。何も知らずに、バカにしてたよ」


 ヴェノム皇国では、スタニド王国の上級学校がどのように噂されてるか、スウダ君に話した。

 彼は怒るでもなく、黙って聞いてた。


「あながち間違ってないな」

「志願した学生、やっぱり少ないの?」

「いや、結構多かったぜ。貴族の連中が志願してた。だがな」


 ここからは話しにくい内容になるみたいで、スウダ君は声をひそめる。


「箔をつけるための、形だけの志願だ。実際に戦っちゃいない。後生大事に守られてて、全部終わった頃にご登場。挙句、『自分は勇敢に戦った』って吹聴してる」

「後方で活躍したとか? 志願しなかった人も、断腸の思いで諦めてさ」


 貴族だからって、戦闘能力に秀でてるとは限らない。

 個人の武力では劣るけど、内政面で力を発揮する人だっている。

 だから、志願したかどうか、前線に出たかどうかでは、単純に優劣をつけられない。


 未熟な学生で、力が足りないから、悔しいけれど何もできない。

 今回は何もできなかったけれど、次こそは。そのためにも自分を高めよう。


 こんな感情を持ってる人がいればいいなって思う。


「そりゃそういう奴もいるだろうが……」

「ああ、ごめんね。スウダ君の活躍にケチつけたいわけじゃないよ」


「気にしてねえよ。それに、志願した貴族に関してなら、崇高な志とか持ってないだろうしな。武勲を打ち立てたから兄に代わって自分が跡取りだ、とか言ってる」

「なるほど、家を継げない次男や三男が、手柄を欲しがったのか」

「そういうことだ。おっと、大っぴらには言うなよ」


 僕たちみたいな人間には計り知れない、貴族ならではの事情があるんだ。


 スウダ君の活躍を聞きながら、僕は食事を食べ終えた。

 教室に戻ってもいいんだけど、まだ休憩時間は残ってるから、もっと話をする。


「ところで、話は変わるんだけどさ……」


 スウダ君なら、ひょっとして知ってるんじゃないかって思った。


「マルネちゃんがどこにいるか、知らない? 町に寄ってみたら、王都の学校に通ってるって言われたんだ」

「なんだ、知らないのか? マルネさんもこの学校にいるぞ。四年五組だな」


「ほ、本当に!?」

「嘘をついてどうする。本当だ。初等学校の同級生の中からは、俺とマルネさんの二人が進学したんだ。つうか……ああクソ、思い出すと腹が立つ……」


 親しげに会話してたのに、スウダ君が僕を睨んできた。

 スウダ君に怒られるようなこと……マルネちゃんの会話になった途端に……


「スウダ君、今でもマルネちゃんが好きなの?」

「うっせえ、もう吹っ切った。俺も雄爵になったし、マルネさんにふさわしい男になれたと思った。で、告白してフラれたんだよ。『好きな人がいるから』だとさ」

「マ、マルネちゃんの好きな人って……」


 僕は、恐る恐る、自分自身を指差した。


「そこまでは知らん。が、十中八九な」


 ど、どうしよ……頬が緩むのが止まらない。


「気持ち悪い笑い方すんな。ま、早めに会って、告白でもなんでもしやがれ。俺は俺で、幸せになる」

「相手、いるの?」


「いるぜ。マルネさんに負けず劣らず素敵な人が、俺の恋人だ。羨ましいだろ」

「おめでとう。今度、紹介してよ」

「……少しは嫉妬しろよな。自慢した俺が、バカみたいじゃないか」


 マルネちゃんと付き合ってるってなったら、素直に祝福はできなかった。僕の恋敵になるんだしね。

 違うなら、友達の恋愛に嫉妬するほど心が狭くない。


 絵に描いたようなサクセスストーリーだ。貴族になって恋人もできて、って。

 雄爵、スウダ・ユン・バゼラの物語。

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