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七十一話 旧友との再会

 スタニド王国の上級学校は、ヴェノム皇国の中等学校と上級学校が一緒くたになったものだ。一年生から五年生まである。


 貴族なら、成績に関係なく、エスカレーターで五年生まで進級できる。卒業試験もあってないようなものだ。

 平民は、一年ごとに難関と言われる進級試験を突破しなきゃいけない。

 試験に落ちれば即退学。留年すら認められない。


 一年生なら平民も結構いて、学年全体の二割程度。

 進級するごとに減っていき、卒業できるのはほんの一握りだ。


 留学生の僕は、平民なのか貴族なのか微妙な立場だ。

 四年生に編入して二年間通うんだけど、進級試験や卒業試験はある。

 進級できなかったら、途中でヴェノム皇国に帰国ってことになるんだよ。

 ちゃんと卒業して、大手を振って帰りたい。


「ロイサリス様でしたら、余裕で卒業できます」

「ですから、僕の心を読まないでくださいって」


 今日から授業が始まる。僕とシロツメにとっては編入初日。

 二人そろって屋敷を出て、上級学校に向かって歩きながら、シロツメはいつものように僕の心を読んだ。


 徒歩なのは、馬車を使うまでもない距離だからだ。

 近くても、馬車を使う人は使うけど、せっかくだし歩くことにした。


「そういうシロツメも、成績は優秀ですよね。筆記試験で、僕は一度も勝てませんでした。留学中に、一回くらいは勝ってみせますからね」

「楽しみにしております」


 シロツメは余裕の態度だ。編入初日だってのに、緊張した面持ちを見せない。

 さすがだね。皇女様は、この程度じゃ緊張しないのか。


「わたくしも緊張しておりますわよ」

「……もう、いいです。心を読むなと言うだけ無駄なんですね」

「うふふ」


 他愛のない雑談をしながら学校に到着し、担任の先生に案内されて教室へ。

 僕とシロツメは同じクラスで、四年一組だ。


 上級学校だと、成績順に一組、二組、って組み込まれる。

 一組は、トップクラスの優秀者が集まる、エリート中のエリートってわけだ。

 人数は十五人ほどと少なく、まさしく少数精鋭。さて、どんな人がいるのかな。


 先生が教室に入り、僕とシロツメは廊下で待機する。先生が交換留学生だって紹介してるだろうし、じきに呼ばれると思う。

 そして、先生から声がかかったんで教室に入る。


 瞬間、学生が息を呑む気配が走った。

 僕じゃないね。シロツメが原因だ。

 そりゃこうなるよ。男と超美少女がいれば、どっちに目がいくかは明らかだ。

 誰も僕になんか注目してないだろうけど、まずは自己紹介しよう。


「ロイサリス・グレンガーです。ヴェノム皇国から交換留学生としてきましたが、出身はスタニド王国です。これから、よろしくお願いします」


 当たり障りのない、平々凡々な自己紹介だ。変にウケを狙うより、これが一番。

 僕に続いて、シロツメも自己紹介する。


「シロツユメンナ・ヴェノムと申します。ロイサリス様と同じく、交換留学生として参りました。どうぞ、よしなに」


 僕たちの自己紹介が終われば、席に着いてさっそく授業開始だ。

 僕とシロツメは、最前列で隣同士。最も授業を受けやすい場所でありがたい。


 上級学校なだけあって、授業内容は高度だし進みも速い。

 先生が板書する内容を、ノートに書き殴っていく。初等学校と違って、黒板とチョークがあるね。こういうところも上級学校らしい。

 まあ、ヴェノム皇国の中等学校にもあったけど。


 猛スピードの授業が、休憩を挟みつつ午前中いっぱい続き、昼になった頃にはヘトヘトだった。

 これ、思った以上にきついぞ。

 何がきついって、過去の授業の内容を前提に、話を進められることだ。中等学校で習ってて分かる部分はいいんだけど、分からない部分も少なくない。


 周囲の人たちと同じスタートラインにすら立ててない。

 なんとかして追いつかないと。


 今は、とりあえず昼食かな。食堂があるはずだし、食べに行く。

 シロツメを誘おうかとも思ったけど、クラスメイトに囲まれてて、僕が声をかけられる雰囲気じゃない。


 この時間を待ち望んでたみたいだ。我先にって、シロツメにアピールしてる。

 僕のところには、誰もこないのに……とか思ってたら、きた。


「あっちは大人気だな。それに比べて、こっちは……」


 僕の席の隣に立ち、一人の男子が気さくに話しかけてきた。

 クラスメイトの男子……だと思う。正直、顔も名前も、全然覚えてない。

 僕は自己紹介したけど、クラスメイトの自己紹介はなかったから。


 背が高くてガッチリした体格で、精悍な顔つきをしてる。

 年齢は僕よりも上っぽいな。男前って感じの美青年だ。


「シロツユメンナ・ヴェノム様、だったよな。ヴェノムってことは、皇国の皇女様だろ。ロイサリスも、すげえ人と一緒にきたもんだ」

「あ、僕の名前、覚えてくれたんですね」


 シロツメに夢中で、僕なんか眼中にないとばかり。

 名前を覚えてくれてた彼には感謝だ。ありがとう。


「はあ? 忘れるわけないだろ。何言ってんだ?」

「忘れる?」

「……まさか、ロイサリスの方が、俺を忘れてんのか? 嘘だよな?」

「……ごめんなさい。どちら様でしょうか?」


 記憶を掘り返してみても、彼の顔は出てこない。


「薄情な奴め。スウダ・バゼラだ」

「……ええっ、スウダ君!?」


 スウダ君なら覚えてる!

 元クラスメイトで、いじめっ子の一人。途中から和解して、結構仲よくなった男子だ。

 武術大会でも戦ったし、マルネちゃんを好きって言ってたのも覚えてる。

 覚えてるんだけど……僕の記憶にあるスウダ君と、目の前の彼が一致しない。


「背、どれだけ伸びたの?」

「ふふん、成長期がきたからな。そういうロイサリスは、チビのままだ」

「お、大きなお世話だよ! 僕だって、これからなんだ!」


 スウダ君は、僕と同い年だから十三歳のはずなのに、身長は百七十センチ半ばくらいある。顔だって、子供っぽさが消えて立派な青年だ。

 対する僕は、やっと百五十センチを超えた程度で、しかも女顔。

 なんという格差社会だ。


「気分がいいな。ロイサリスの悔しがる顔を見れるなんて、今日はいい日だ」

「僕にとっては、最悪の日だよ……」


 四年以上ぶりに再会した旧友は、格好よく成長してた。

 僕ときたら……


「しょげるなって。積もる話もあるし、飯でもどうだ? 再会祝いに奢るぜ」

「……一番高い物を食べてやる」


 仕返しの方法まで子供っぽいね。なんでこうなったのやら。

 懐かしい友人と再会できたのは、素直に嬉しいけどさ。

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