七十話 王都スタニド
ミカゲさんに挨拶できたし、翌日から王都に向かう。
リリが御者で僕とシロツメが馬車の中なのは、これまでと同じだ。
シロツメとは、これからの学校生活について話してる。
「ロイサリス様は、スタニド王国の上級学校の評判をご存知ですか?」
「ヴェノム皇国で聞いた知識だけですね。シロツメの方が詳しいと思いますよ」
交換留学を「罰ゲーム」とまで言われてた、評判の悪さ。
僕が聞いたのだと、最たる理由は学生の心構えにあるらしい。
「わたくしも、そこまで詳しいわけではありません。姉の友人が留学したため、当人からうかがった話が元になっております」
「当事者から聞いたのなら、僕より詳しいと思いますよ。どういう内容でした?」
「一言で申しますと、何も考えていない、ですわね」
実に的確な論評だ。僕が聞いた話とも一致する。
「決して、勉学で劣っているわけではありません。上級学校で習う内容も学生の習熟度も、ヴェノム皇国と大差ないでしょう。決定的な違いが心構えにあります」
シロツメが説明してくれた内容は、おおよそこんな感じ。
スタニド王国の上級学校に通う学生は、意識が低い。ただなんとなく通って勉強してる人が多い。
こうなるのは、貴族の子供がエスカレーター式で上級学校に入学するからだ。
上級学校に通わない貴族もいるけど、大半は通う。箔をつけるために。
箔をつけたい気持ちは、程度の差はあっても誰でも持ってるし、一概に悪いとは言えない。
ただし、それを一番の目的にするから意識が低くなる。
貴族なら、領地や国のため学ぼうとしてもいいのに、ただ箔をつけたい。
スタニド王国の上級学校の評価がこんなものだから、ヴェノム皇国じゃ交換留学が罰ゲーム扱いなんだ。
ぶっちゃけると、バカと付き合ってもマイナスにしかならないってね。
もちろん、学生にもピンキリいる。スタニド王国に意識の高い学生もいれば、ヴェノム皇国に意識の低い学生もいるから、全くダメってわけじゃない。
ダメではないんだけど、絶対数がね。
切磋琢磨できる学友がいなくて、優秀なほど浮きそうな不安がある。
「まあ、実態がどうなっているかは、行ってみないと分かりませんよね。それに、僕も上から目線で言える立場じゃないです。国のために考えて行動してるかってなると、自信がありません」
「初等学校の先生に、とおっしゃるくらいですからね。応援したくはありますけれど、ロイサリス様であれば、出世した方がよろしいと思います」
出世ねえ。この前も、出世の野心がないかって聞かれた。
シロツメは僕の能力を高く買ってくれてるみたいだし、人材を余らせたくないのかな?
スタニド王国の王都に到着した。
国と同じ名を冠し、王都スタニドと呼ばれる場所だ。あるいは、単に王都とも。
「大きい、ですわね。皇都よりも、ずっと」
「一極集中型ですから」
シロツメの感想に対し、僕は簡潔に答えた。
スタニド王国とヴェノム皇国は、国力や人口は同程度だ。同盟国でもあり、ライバル関係でもある。
国土は、ヴェノム皇国の方が倍近く広い。その分、人も散らばってて、大都市って呼べる規模の町がいくつもある。
スタニド王国は王都に集中してる。人も物も、何もかもが。
人が集まるから王都も広がり、するとますます人が集まって、と。
だから、王都と皇都を比較すると、王都の方が大きいんだ。
肥大し過ぎて、雑多な印象も受けるんだけどね。監視の目が行き届かなくて、スラム街も広がってたり犯罪が多発してたり、問題も多い。
「シロツメは、絶対に一人で出歩かないでください。襲われるかもしれません」
「ご心配いただき、ありがとうございます。護衛の者が到着しているはずですので、彼らを頼ります」
「……護衛は準備しなかったって言いませんでした?」
「ロイサリス様の記憶違いでは?」
すっとぼけられてしまった。
「それよりも、心配事は別にあります。口裏を合わせていただけませんか?」
「何をですか?」
「皇国に婚約者がいる、としておきたいのです。言い寄られても困りますので」
「納得しました。シロツメなら、貴族の男性がこぞって求婚するでしょうね」
美少女で、スタイルもよくて、皇女様だ。治癒魔法の才能があったり勉強もできたり、能力面でも秀逸だし、男としては是が非でも妻にしたい。
将来、自分の補佐をしてくれる人材として、シロツメ以上の女性はなかなか見つからないだろう。
「わたくしは、勉強をしにきましたの。結婚相手を見つけるためではありません」
僕のことは? とも思うけど、恋愛の話になると気まずいんで突っ込まない。
シロツメとの会話を切り上げて、馬車の中から窓越しに町の景色を眺めてみる。
多くの人が行き交い、行商人の張り上げる声がここまで聞こえてくるほどだ。
この辺は、平民の家やお店が並んでるんだな。
貴族が住む区域は、王都の奥にある。
上級学校は、ここと貴族街のちょうど中間に位置する。学生の大半は貴族でも、一部平民がいるからだ。平民を、貴族が住まう区域に入らせるわけにはいかない。
ある種の目印にもなってる。
上級学校よりも奥に進めるのは貴族のみ。平民と貴族を隔てる役割だ。
僕たちが向かうのは、留学生用の屋敷。場所は、平民の暮らす区域になる。
皇女様を平民扱いして、平気なのかな。
「皇族が留学するのは異例ですから、想定外なのでしょう。気にしません」
シロツメは、好奇心旺盛に目を輝かせていた。王都の生活が楽しみなんだろう。
そして、リリの操る馬車が屋敷に着いた。
同時に、屋敷から使用人たちが出てきて迎えてくれる。いつ到着してもいいように、準備してあったんだ。
皇都のシロツメの屋敷にいた人も多い。シロツメから「爺」って呼ばれてた執事さんもいる。
半分は僕の知ってる顔で、半分は知らない顔だ。
まずは僕が馬車から降りて、シロツメの手を取ってエスコート。
使用人のみなさんに挨拶してから、屋敷を案内してもらう。
僕とシロツメは、同じ屋敷で暮らす。留学生用の屋敷はここしかないから。
広い屋敷だし、リリたちも住むから、同棲じゃないけど。
僕は割り当てられた自室に入って、くつろがせてもらう。
「やっと着きましたね。長旅お疲れ様でした、坊ちゃま」
「リリも、御者をしてくれてありがとう。大変だったでしょ」
僕は、シロツメと雑談したり昼寝をしたり、馬車の中で自由に過ごせた。
僕とは違って、リリは終始気が抜けなかっただろう。
「今日はリリもゆっくり休んでね。食事の準備とかは、シロツメのメイドさんにやってもらってさ」
「とんでもありません。やっと、坊ちゃまのお世話ができるんです。皇都では、坊ちゃまは寮にいましたからね。お世話をさせてください」
リリはやる気満々だ。だったら、一つ頼みたい仕事がある。
「仕事をやってもらいたいんだけど、いいかな?」
「やります! なんでもやりますよ!」
「マルネちゃんを探して欲しいんだ。王都は広くて、僕一人じゃ難しいから。学校に通う準備もしなくちゃいけないし、探す時間もあまりない」
「そういえば、マルネさんも王都の学校にいると言っていましたね。教え子が立派に成長したようで、私も嬉しいです」
「どの学校に通ってるんだろうね。初等学校は除外するとして、魔法学校、商業学校、冒険者学校、騎士養成所……上級学校だったりするかな?」
一口に学校と言っても、いくつかある。
マルネちゃんなら、商業学校か上級学校が本命かな。
「捜索のために、人を雇いますか?」
「そこまでする必要はないよ。どうしても見つからなかったら、その時は雇う」
「分かりました。本格的な捜索は、明日からにします」
「お願い」
マルネちゃんを探すのもいいけど、新生活もスタートする。
何があるのか、楽しみだ。




