表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/125

七十話 王都スタニド

 ミカゲさんに挨拶できたし、翌日から王都に向かう。

 リリが御者で僕とシロツメが馬車の中なのは、これまでと同じだ。

 シロツメとは、これからの学校生活について話してる。


「ロイサリス様は、スタニド王国の上級学校の評判をご存知ですか?」

「ヴェノム皇国で聞いた知識だけですね。シロツメの方が詳しいと思いますよ」


 交換留学を「罰ゲーム」とまで言われてた、評判の悪さ。

 僕が聞いたのだと、最たる理由は学生の心構えにあるらしい。


「わたくしも、そこまで詳しいわけではありません。姉の友人が留学したため、当人からうかがった話が元になっております」

「当事者から聞いたのなら、僕より詳しいと思いますよ。どういう内容でした?」

「一言で申しますと、何も考えていない、ですわね」


 実に的確な論評だ。僕が聞いた話とも一致する。


「決して、勉学で劣っているわけではありません。上級学校で習う内容も学生の習熟度も、ヴェノム皇国と大差ないでしょう。決定的な違いが心構えにあります」


 シロツメが説明してくれた内容は、おおよそこんな感じ。

 スタニド王国の上級学校に通う学生は、意識が低い。ただなんとなく通って勉強してる人が多い。


 こうなるのは、貴族の子供がエスカレーター式で上級学校に入学するからだ。

 上級学校に通わない貴族もいるけど、大半は通う。箔をつけるために。

 箔をつけたい気持ちは、程度の差はあっても誰でも持ってるし、一概に悪いとは言えない。


 ただし、それを一番の目的にするから意識が低くなる。

 貴族なら、領地や国のため学ぼうとしてもいいのに、ただ箔をつけたい。


 スタニド王国の上級学校の評価がこんなものだから、ヴェノム皇国じゃ交換留学が罰ゲーム扱いなんだ。

 ぶっちゃけると、バカと付き合ってもマイナスにしかならないってね。


 もちろん、学生にもピンキリいる。スタニド王国に意識の高い学生もいれば、ヴェノム皇国に意識の低い学生もいるから、全くダメってわけじゃない。


 ダメではないんだけど、絶対数がね。

 切磋琢磨できる学友がいなくて、優秀なほど浮きそうな不安がある。


「まあ、実態がどうなっているかは、行ってみないと分かりませんよね。それに、僕も上から目線で言える立場じゃないです。国のために考えて行動してるかってなると、自信がありません」

「初等学校の先生に、とおっしゃるくらいですからね。応援したくはありますけれど、ロイサリス様であれば、出世した方がよろしいと思います」


 出世ねえ。この前も、出世の野心がないかって聞かれた。

 シロツメは僕の能力を高く買ってくれてるみたいだし、人材を余らせたくないのかな?





 スタニド王国の王都に到着した。

 国と同じ名を冠し、王都スタニドと呼ばれる場所だ。あるいは、単に王都とも。


「大きい、ですわね。皇都よりも、ずっと」

「一極集中型ですから」


 シロツメの感想に対し、僕は簡潔に答えた。

 スタニド王国とヴェノム皇国は、国力や人口は同程度だ。同盟国でもあり、ライバル関係でもある。


 国土は、ヴェノム皇国の方が倍近く広い。その分、人も散らばってて、大都市って呼べる規模の町がいくつもある。


 スタニド王国は王都に集中してる。人も物も、何もかもが。

 人が集まるから王都も広がり、するとますます人が集まって、と。

 だから、王都と皇都を比較すると、王都の方が大きいんだ。


 肥大し過ぎて、雑多な印象も受けるんだけどね。監視の目が行き届かなくて、スラム街も広がってたり犯罪が多発してたり、問題も多い。


「シロツメは、絶対に一人で出歩かないでください。襲われるかもしれません」

「ご心配いただき、ありがとうございます。護衛の者が到着しているはずですので、彼らを頼ります」

「……護衛は準備しなかったって言いませんでした?」

「ロイサリス様の記憶違いでは?」


 すっとぼけられてしまった。


「それよりも、心配事は別にあります。口裏を合わせていただけませんか?」

「何をですか?」

「皇国に婚約者がいる、としておきたいのです。言い寄られても困りますので」

「納得しました。シロツメなら、貴族の男性がこぞって求婚するでしょうね」


 美少女で、スタイルもよくて、皇女様だ。治癒魔法の才能があったり勉強もできたり、能力面でも秀逸だし、男としては是が非でも妻にしたい。

 将来、自分の補佐をしてくれる人材として、シロツメ以上の女性はなかなか見つからないだろう。


「わたくしは、勉強をしにきましたの。結婚相手を見つけるためではありません」


 僕のことは? とも思うけど、恋愛の話になると気まずいんで突っ込まない。

 シロツメとの会話を切り上げて、馬車の中から窓越しに町の景色を眺めてみる。


 多くの人が行き交い、行商人の張り上げる声がここまで聞こえてくるほどだ。

 この辺は、平民の家やお店が並んでるんだな。


 貴族が住む区域は、王都の奥にある。

 上級学校は、ここと貴族街のちょうど中間に位置する。学生の大半は貴族でも、一部平民がいるからだ。平民を、貴族が住まう区域に入らせるわけにはいかない。


 ある種の目印にもなってる。

 上級学校よりも奥に進めるのは貴族のみ。平民と貴族を隔てる役割だ。

 僕たちが向かうのは、留学生用の屋敷。場所は、平民の暮らす区域になる。

 皇女様を平民扱いして、平気なのかな。


「皇族が留学するのは異例ですから、想定外なのでしょう。気にしません」


 シロツメは、好奇心旺盛に目を輝かせていた。王都の生活が楽しみなんだろう。

 そして、リリの操る馬車が屋敷に着いた。

 同時に、屋敷から使用人たちが出てきて迎えてくれる。いつ到着してもいいように、準備してあったんだ。


 皇都のシロツメの屋敷にいた人も多い。シロツメから「(じい)」って呼ばれてた執事さんもいる。

 半分は僕の知ってる顔で、半分は知らない顔だ。

 まずは僕が馬車から降りて、シロツメの手を取ってエスコート。

 使用人のみなさんに挨拶してから、屋敷を案内してもらう。


 僕とシロツメは、同じ屋敷で暮らす。留学生用の屋敷はここしかないから。

 広い屋敷だし、リリたちも住むから、同棲じゃないけど。

 僕は割り当てられた自室に入って、くつろがせてもらう。


「やっと着きましたね。長旅お疲れ様でした、坊ちゃま」

「リリも、御者をしてくれてありがとう。大変だったでしょ」


 僕は、シロツメと雑談したり昼寝をしたり、馬車の中で自由に過ごせた。

 僕とは違って、リリは終始気が抜けなかっただろう。


「今日はリリもゆっくり休んでね。食事の準備とかは、シロツメのメイドさんにやってもらってさ」

「とんでもありません。やっと、坊ちゃまのお世話ができるんです。皇都では、坊ちゃまは寮にいましたからね。お世話をさせてください」


 リリはやる気満々だ。だったら、一つ頼みたい仕事がある。


「仕事をやってもらいたいんだけど、いいかな?」

「やります! なんでもやりますよ!」


「マルネちゃんを探して欲しいんだ。王都は広くて、僕一人じゃ難しいから。学校に通う準備もしなくちゃいけないし、探す時間もあまりない」

「そういえば、マルネさんも王都の学校にいると言っていましたね。教え子が立派に成長したようで、私も嬉しいです」


「どの学校に通ってるんだろうね。初等学校は除外するとして、魔法学校、商業学校、冒険者学校、騎士養成所……上級学校だったりするかな?」


 一口に学校と言っても、いくつかある。

 マルネちゃんなら、商業学校か上級学校が本命かな。


「捜索のために、人を雇いますか?」

「そこまでする必要はないよ。どうしても見つからなかったら、その時は雇う」

「分かりました。本格的な捜索は、明日からにします」

「お願い」


 マルネちゃんを探すのもいいけど、新生活もスタートする。

 何があるのか、楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ