表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/125

六十八話 皇女様と一緒

第3章開始です。

 卒業した僕は、寮の部屋を引き払い、父さんの屋敷にいさせてもらってる。

 長居はしないけどね。すぐに留学するし。


 僕の留学には、リリもついてくることになってる。メイドとしてお世話をしてくれるんだ。

 僕としては助かるからお願いしたけど、リリを随伴すると誤解されそうで怖い。


 リリは、相変わらず十二歳くらいのロリっ子だ。

 実年齢はいくつだっけ? 僕が十三歳になったし、リリは二十四歳?

 身長だって、僕はリリを追い抜いてる。男としちゃ小柄な僕でも、リリと並べば同年代に見える。


 自分と同年代の美少女をメイドに。誤解しか生まないね。

 リリ曰く、「これから大きくなります」とのことらしい。


 二十四歳になって成長するとは思えないけど、昔、「坊ちゃまが成長するまで、根性で老化を止めてみせます」とか言ってたから、いまいち冗談に聞こえない。

 実際に、「坊ちゃまも成長されましたし、私もそろそろいいでしょう」なんてセリフも聞いた。


 リリは何者?


 そんなこんなで、スタニド王国へ出発する日になった。

 絶対に忘れちゃいけないマルネちゃんへの贈り物も持ったし、準備は万全。

 お小遣いで買っていい物じゃないから、アルバイトでお金を貯めて買ったんだ。


 リリと一緒に、さあ出発だ……って思ったんだけどさ。


「あの、なんでシロツメが?」

「わたくしもご一緒させてください。目的地は同じですし、よろしいでしょう?」


 シロツメは、わざわざ父さんの屋敷に足を運んで、一緒に行くって言ってる。


「そんな話、聞いてませんが」

「言いませんでしたからね。ロイサリス様は、わたくしがご一緒すると言えば、断るのではありませんか?」

「断りますね」

「ですから、今日まで隠していました。作戦成功、ですわね」


 いたずらを成功させた子供みたいに、ペロッと舌を出し、茶目っ気のある顔で笑っていた。こんな一面もあるんだな。


「今日まで隠してたって、結果は同じですよ。ご自分で行ってください。シロツメなら、豪奢な馬車も凄腕の護衛も、いくらでも使えますよね? 僕と一緒で、もしものことがあったら、どうするんですか」

「残念ですけれど、ロイサリス様とご一緒するつもりで、馬車も護衛も準備しておりません。今からとなると、授業が始まるまでに間に合わないでしょう。わたくし、留学早々に欠席してしまうのでしょうか? よよよ……」


 わざとらしい泣き真似だ。「よよよ」なんて泣く人がどこにいる。

 さて、どうしよう。


 父さんたちの意見も聞いてみようかと思ったものの、皇女様の突然のご来駕(らいが)に及び腰だ。最初に挨拶したきりで、シロツメの相手を僕に任せてる。

 ただ一人、リリだけはじっとシロツメを見上げてるけど。


 そして、シロツメの視線もリリを捉えた。

 視線を逸らせば負けと言わんばかりに、どちらも一歩も引かない。


 あ、あれ? こういうの、見覚えあるぞ。

 家庭内でよく見かける光景だ。具体的には、母様とアミさん。


 ……父さん、助けて!

 父さんのところに逃げようとしたけど、父さんが先に逃げた! 脱兎のごとく、屋敷の中に!


 酷い! 息子を見捨てるなんて!


「坊ちゃま、どちらへ行かれるのですか?」


 ひいっ! リリに見咎められて、逃げられなくなった!

 き、気のせいかな? リリの背後に龍の姿が見える。


「ロイサリス様」


 シロツメもだ。背後に虎の姿が見える。


 何、この状況? 龍虎(りゅうこ)相搏(あいう)つ?

 恐れおののく僕の隣で、二人は固い握手を交わしてた。


「お目にかかれて光栄です、泥棒ね……シロツユメンナ様。私、坊ちゃまのメイドを務めております、リリ・リローと申します。坊ちゃま専用の、坊ちゃまだけの、坊ちゃまに全てを捧げるメイドでございます」


 ま、間違ってはないよ。留学中は、僕専用のメイドってことになる。

 全てを捧げないで。お願いだから。


「ご丁寧にありがとうございます、貧にゅ……リリ様。わたくしは、シロツユメンナ・ヴェノム。ロイサリス様とは、学校でもプライベートでも親しくさせていただきました。わたくしがある行為をすれば、ロイサリスはいつも気持ちよくなってくださるみたいでして、それはもう濃密な時間でしたわ」


 言い方に悪意を感じる! 治療だよね! ただの治療!


 ダメだ。仲よくしようって言い出せる空気じゃない。

 一見すると、にこやかに握手してるんだけど、その裏でバチバチと火花を散らしてる。

 なんでこうなるの? 助けて、マルネちゃん。





 結局、シロツメの同行を認めて、三人でスタニド王国へ向かうことになった。

 移動は馬車を使う。徒歩だとさすがに辛いからね。

 御者をしてくれてるのはリリだ。僕とシロツメは、馬車の中で二人きり。


「シロツメは、なんでこんなことをしたんですか?」

「ロイサリス様とご一緒したかったのです」


 それだけならいいんだよ。他にも理由はあるんじゃないの?

 シロツメは、僕を諦めてないんじゃないかなって思う。


「王都に向かう前に、僕はある町に立ち寄る予定です。そこには、僕の好きな人が待っているはずです。再会したら告白します」

「成功を祈っております」

「……告白が成功するにせよ失敗するにせよ、シロツメとは付き合いません」


 自意識過剰かもしれないけど、ここは言っておくべきだと判断した。

 諦めてないなら、無駄だって言っておきたいんだ。


 僕は、四年以上マルネちゃんと会ってない。

 これだけの時間があれば、マルネちゃんに恋人ができてても不思議じゃないし、結婚してる可能性すらある。


 僕のことは思い出としておき、他の男性を好きになって幸せに。

 想像するだけでムカつくけど、マルネちゃんが選んだのなら仕方ない。

 僕はそれまでの男だったってだけだ。

 素直に祝福できるかどうかはともかく、選ばれなかったら身を引くさ。


 シロツメは、僕がフラれる可能性を考えてるんじゃないかな。

 フラれて落ち込む僕を慰めて、あわよくば自分が。

 僕ならそうする。マルネちゃんが他の男にフラれたら、ここぞとばかりに慰めて自分をアピールする。

 それで僕を選んでもらえれば万々歳って。


 自分がこんな人間だからって、シロツメまで同じと考えるのは失礼だ。

 純粋に僕を応戦してくれてて、僕に同行してるのも他意はないかもしれない。

 ただ、もしも何か企んでるなら、無駄だって言いたかった。


「はっきりとおっしゃいますのね。わたくしのこと、お嫌いですか?」

「好きですよ。好きですけど、マルネちゃんがダメだからシロツメをってのは、いくらなんでも不誠実でしょう。皇女様を都合のいい女扱いはできません」


「わたくしが皇女である点は、お気になさらなくて結構です。皇族は大勢いますし、女には皇位継承権がありません。婚姻も比較的自由がききます」

「そう……なんですか? てっきり、婚約者とかがいるのかと」


「婚約者がいれば、ロイサリス様に告白しませんでした」


 そりゃそうか。シロツメもそこまで無責任じゃない。

 って、そうじゃなくて。

 この言い方だと、本当に僕を諦めてないの?


「ロイサリス様を応援しているのは本心です。大切な人に幸せになっていただきたいと思うのは、おかしなことでしょうか?」

「……おかしくありません」


 読めない。シロツメの行動が、全然読めない。

 本妻はマルネちゃんに譲って、自分は妾になるとか?

 皇女のプライドも何もかも捨てて、そこまでする?

 まさかと思うけど、マルネちゃんを亡き者にしようなんて……


「亡き者になどしませんわ」

「相変わらず、僕の心を読むんですね」


 こっちは全然読めないのに、なんか理不尽だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ