六十六話 ご加護の儀式
第2章完結まで、この話を含めて残り二話です。
明朝投稿分で第2章は終わり、夜からは第3章開始となります。
僕が中等学校を卒業するまで、あと少し。
卒業試験にも合格したし、スタニド王国の上級学校への進学も決まった。
ちなみに、首席卒業が確定したよ。
たださ、いまいち釈然としないというか……
座学はシロツメに勝てず、次席だった。
実技でも、武神のご加護を授かってる子に一歩及ばず次席。
ご加護を授かってない僕にしては頑張った方だけど、どっちも次席で、総合で首席ってのが中途半端だ。
ジンフウさんに報告しに行ったら、案の定言われたよ。「中途半端」って。
コロアドさんとメルさんは、褒めてくれたけどね。
そういえば、コロアドさんとメルさんは結婚したそうな。
ジンフウさんは仲間二人を見て触発されたみたいで、結婚したいって言ってた。
今のジンフウさんなら、遠くないうちに恋人もできるんじゃないかな。
恋人といえば、僕とシロツメの関係だけど、さすがに気まずくなった。お互いに無視してるわけじゃなくても、話すとどこかぎこちなさがある。
少なくとも、二人きりになることはなくなった。
こういうのって、どうすればいいんだろ。
改まって僕が謝るのは変な感じだし、何もなかったことにしてヘラヘラするのも違う。
気まずいなら無理に話しかけようとせずに、自然消滅を待つ?
卒業すればシロツメとはお別れだから、それは可能だ。
ただし、できれば笑って別れたいって考えてる。
贅沢なのかな。一度こじれた人間関係は、二度と元に戻らない? 恋愛沙汰だとなおさら?
……結果がどうなるか分からないけど、明日にでも話しかけよう。
会話のネタはあるんだ。そこからうまく盛り上げられたらいい。
僕は今日、やっとのことで神様のご加護を授かる儀式を受ける。
もうすぐ十三歳だよ。三年近く遅れてやっとだ。
首席卒業の功績が認められたからなんだけど、なんとか在学中にご加護を授かれることになってホッとした。
大人の事情もあるんだろう。首席がご加護なしだと格好がつかないって事情が。
卒業を待ってからでもいいのに、卒業式前に儀式をしておくよう学校側から言われたし。
だから儀式を受けて、ご加護を授かる。
シロツメに、無事にご加護を授かれましたって報告しよう。
その後の展開はなるようになるさ。
ご加護を授かるために、皇都にある神殿にやってきてる。
五柱の神様を祀った施設だ。日本の神社よりは、ヨーロッパの神殿に近い。
清潔感を表すように、外壁は白塗りで内装も白が多く用いられてる。
あまり派手だったり煌びやかだったりはしない。キラキラしたステンドグラスでもあるかと思えば、全然だし。
ところどころに花や植物が飾られてるけど、皇都で普通に買える物だ。
それでも、妙に厳かな雰囲気がある。自然と身が引き締まるというか。
「ロイサリス・グレンガー」
「はい」
内装を観察しながら待ってれば、華美な法衣をまとった初老の男性が僕の名前を呼んだ。
いよいよ、僕の番か。
卒業直前っていう変わった時期だから、儀式を受ける人は少なかった。
僕を含めても数人程度だし、意外と早くに順番が回ってきた。
初等学校の卒業式後は、朝から晩まで大盛況になるらしいけど。
男性に案内されて小部屋に入る。小部屋の中も、やっぱり白塗りだ。
扉を開けて真正面に、絶対神の彫像が置かれてる。
右側には賢神と農神、左側には武神と低神の彫像があって、五柱の神様に囲まれるような形になってる。
神様のご尊顔は彫られてない。ざっくりと顔らしき凹凸があるだけだ。
容姿は不明で、性別だけしか分かってないって話だからだろうね。
どうでもいいけど、絶対神、農神、低神は男性で、賢神と武神は女性だ。
顔がないのに、どうしてそれぞれの神様が判別できるかっていうと、まずは大きさが違う。
ランクの高い神様の彫像は大きく、低い神様の彫像は小さい。
飾り付けも全然違って、絶対神はあれもこれもゴテゴテ身に着けてる。
賢神は杖、武神は剣と盾、農神は本と、各々の能力を象徴する物を携えてるのに対し、低神だけは何も持たない。
どこの神殿でもこんな感じだ。
左右の彫像の前には、四人の聖職者が立つ。男性の神様には男性が、女性の神様には女性が。
誰もいなかった絶対神の前に、僕を案内してくれた初老の男性が立つ。この人が一番偉いんだ。
「これより、ロイサリス・グレンガーの儀式を執り行う」
偉い男性が粛々と述べて、儀式が始まった。
なんか呪文を唱えたり、空中に指で紋様みたいなものを描いたり。
僕に聖水を振りかけたり、大幣(神道で身を清めるために用いる神具)っぽい物でバサバサやったり。
儀式の間、僕は小部屋の中央で棒立ちになってる。
十五分くらいかかるって言ってたかな。
一通り終われば神様がお声をかけてくださるって話だ。
五人の聖職者は、儀式を執り行う役目を担うと同時に、証明者でもある。
誰がどの神様のご加護を授かってるのか、調べる方法はない。
判別可能なのは、唯一この儀式の時のみ。
神様がお声をかけてくだされば、ご加護を授かる本人以外に、聖職者たちにも聞こえるらしい。それを聞いて、どの神様のご加護を授かったかを証明してくれる。
レッド君との試合中にも聞こえたよね。「我、慈悲深き、破壊神」って。
あの時は、レッド君には聞こえてなかったみたいだけど、儀式の時は周囲にも聞こえる。
聖職者が五人も確認してくれるおかげで、間違いはない。誤魔化すのも無理だ。
不安があるとすれば、破壊神になるのか、低神になるのか。
破壊神のご加護を授かったとなると大騒動だよ。悪目立ちする。
褒め称えてくれるのはないだろうね。モルモットみたいに扱われるかもしれない。
スタニド王国の上級学校への進学も白紙に戻って、研究に使われるとか。
そんなのは嫌だし、神様には申し訳ないけど低神であって欲しい。
不安を感じる僕をよそに、儀式が終了する。
果たして、神様のお声は。
――我、慈悲深き、低神。
そっちだったか。一安心だ。
ほんの少し、残念ではある。僕だけ特別っていうのは気分いいしね。
でも、さっきも言ったように、悪い意味で特別になりそうだから低神でよかったよ。
「儀式は終了しました。ロイサリス・グレンガー。あなたは低神のご加護を授かりました。ご加護を授けてくださった神に恥じぬよう、精進してください」
「はい、ありがとうございました」
儀式は終わった。僕は、低神のご加護を授かったんだ。
ヴェノム皇国にやってきた目的は、これで達成できた。
左腕の治療、そしてご加護を授かるって目的が。
実り多きヴェノム皇国での生活は、数日後の卒業式をもって終わるんだ。




