六十二話 将来の夢を追うために
ヴェノムオオヘビとの絶望的な戦い。
僕が死にかけてたところで、コロアドさんたちが助けにきてくれた。
「何をしてる! 早く逃げろ!」
「ロイサリス!」
コロアドさんとジンフウさんは、こうして僕を逃がそうとしてくれてる。
逃げる? 二人を見捨てて? 僕だけで?
……逃げない。
僕がいても役に立たないのは理解してる。三人とも食べられるだけだ。
全滅するくらいなら、僕だけでも逃げる方が理に適ってる。
今すぐに逃げれば、毒も治療できて助かる可能性はある。
理解してても逃げられない。二人を見捨てられない。
だって、恥ずかしいし。
僕は強くなりたい。神様のご加護を授かりたい。
それは、僕みたいないじめられてる子供を助けたいからだ。
将来はスタニド王国に帰って、初等学校の先生になるのが夢なんだ。
前世でいじめられてて、転生後もレッド君たちにいじめられた僕だから。
いじめられる辛さを分かってるから。
僕が子供を導く、なんて言うと偉そうだけど。
似たような子供たちの力になれればって考えてる。
先生になる僕に、仲間を見捨てて逃げた過去があったら恥ずかしいよね。子供たちになんて教えればいいのさ。
僕の経験則に従って、仲間を見捨てて逃げる人間になれって教える?
もしくは、自分の過去を隠す? 後ろ暗いことなんか何もありませんって顔して、上から目線で偉そうに振る舞う?
ダッサい人間だ。そんな生き方は、死ぬのと同じくらい嫌だ。
立派な人間じゃなくてもいいんだよ。どうせ、僕が立派かっていうと疑問だし。
ただ、卑怯者にはなりたくない。
僕が胸を張って夢を追うために。
僕が恥ずかしくない生き方をするために。
ここは、逃げない。
――その意気や、よし。
い、今の声は……
破壊神……様?
さっき助けを求めた時は無反応だったのに、どうしてこのタイミングで?
神様がお声をかけてくださったのなら、ご加護を授かれたってこと? レッド君と戦ってた時みたいな力が手に入る?
僕は力を期待した。かつて感じた、全身からみなぎる無限の力を。
だけど、これといって変化は感じない。ご加護を授かったわけじゃないみたいだ。
今こそ欲しかった……じゃないね。
神様に頼ってどうするんだ。辛い時、いつも神様に助けてもらおうって?
そうじゃないだろ。
コロアドさんとジンフウさんが、ヴェノムオオヘビを引きつけてくれてる。
今がチャンスなんだ。誰かに引きつけてもらって、決死の覚悟で目を攻撃すればいいって考えたじゃないか。
今こそ実行すべき……
いや、違う。
もう一つだけ、打てる手があった。
死にたいわけじゃないから、決死の特攻はこれが失敗したあとだ。
僕は、放り投げた鞄が落ちてる場所まで行き、中を漁る。
あれはどこ? 間違いなく持ってきたぞ。
「あ、あった」
焦ってるせいで少し遅れたけど、見つかった。
目には目を、毒には毒を。
毒物扱いしたなんて知られたら、シロツメに怒られる。
いくらでも怒られるよ。生きて帰れるなら安いものだ。
いくつかの小瓶、シロツメの薬が入ったそれを取り出して。
「コロアドさん! ジンフウさん! 離れてください! 今からヴェノムオオヘビを攻撃します!」
ヴェノムオオヘビが暴れて、二人が巻き込まれる可能性がある。
注意をうながし、少し距離を取るのを確認してから。
「これでも……食らえっ!」
ヴェノムオオヘビに向けて、薬の小瓶を投げつけた。
超まずい、毒みたいな味の薬だ。僕が何度も苦しめられたやつ。
いくらまずいからって、あくまでも人間の味覚ではの話。
ヴェノムオオヘビに効くか? ていうか、ヘビに味覚ってあったっけ?
疑問は多々あったけど、ダメ元で口の中に放り込む。図体がでかいおかげで簡単だった。
間を置かず、次は目に。
こっちも成功した。果たして、ヴェノムオオヘビは――
「うおおおおっ!」
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
コロアドさんとジンフウさんが驚いてる。
ヴェノムオオヘビは、地面をのたうち回ってるんだ。
まさか、本当に効くなんて。ダメ元だったし、失敗して特攻することになると思ってたのに。
シロツメ、あなたはナニを作ったんですか……
口と目、どっちに効いたのかな? どっちでもいいか。
巨体が暴れてるせいで、地面が大きく揺れてる。歩きにくいけど、逃げるなら今しかない。
「今のうちに逃げましょう!」
二人に声をかけ、僕たちはヴェノムオオヘビの脅威から逃走した。
「お、おい、何を使ったんだ? ヴェノムオオヘビがあんな風になるなんて」
「薬ですよ。毒物も裸足で逃げ出す味の薬。マッドサイエンティストみたいな人が知り合いにいるんです。ちなみに、僕はあれを飲まされました」
走りながら質問してきたコロアドさんに答えた。
皇女様をマッドサイエンティスト扱いは酷いね。言ったのは僕だけどさ。
「そいつぁ、犯罪者予備軍じゃねえのか? 捕まえとけよ」
「いい人なんですよ。優しいし可愛いし、あとおっぱい大きいです」
「女なのかよ。いくら顔がよくたって、嫁の貰い手がなさそうだな」
今度はジンフウさんと、これまた酷い会話だ。
死を間近に感じてたせいで、やけにハイになってる。
ただしそれは、ロウソクが燃え尽きる前の一瞬の輝きだったようで。
森を抜けたところで、毒のせいで僕は倒れた。
あとは、連れて帰ってもらおう。迷惑かけてごめんなさい。




