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六十一話 絶望的な戦い

 血のように赤い舌がチロチロとひらめく。

 長さが四、五十メートルもあるヴェノムオオヘビの舌は、それだけでも僕を締め殺せそうだ。


 毒も注意しなきゃいけない。また飛ばしてくるかも。

 もちろん、ヴェノムオオヘビに巻きつかれでもしたら、その時点でおしまいだ。


 ヴェノムオオヘビは、僕を殺す手段はいくらでも持ち合わせてる。

 対して、僕には有効な攻撃手段がない。剣なんて、ヴェノムオオヘビの前じゃ棒切れみたいなものだ。

 ひっどい戦いだね。絶望的だ。


「っ!」


 鎌首をもたげた状態だったヴェノムオオヘビが、僕に向かって倒れ込んできた。

 それだけで地面が大きく震える。当たれば即死だ。


 横っ飛びで避け、剣で斬りつけてもみたけど、固い鱗に弾かれた。

 固さの中に柔軟さもあって、要するに僕の技量じゃ斬り裂けないってことだ。


 現に、ヴェノムオオヘビはなんの痛痒も感じてないみたいで、再び鎌首をもたげてこっちを睨む。

 黒と黄色の入り混じった、気持ちの悪い目。あそこを攻撃すれば、あるいは?

 弓矢でも持ってれば、射かけて攻撃できる。

 剣じゃ厳しい。超一流の剣士とかならまだしも、僕の腕だとなおさらだ。


 ベイさんがいてくれれば、注意を引いてもらってから、僕が決死の覚悟で攻撃してみる手もある。

 本当に、よくも逃げてくれちゃって。死んだら呪ってやる。


 僕一人でできることは、何がある?

 ヘビの苦手なも……


「のおおぉ!」


 また倒れ込んできた。考えさせてもくれないのか。

 苦手な物はあったかなって考えようとしたのに。

 塩? それはナメクジだよね。ヘビの苦手な物ってなんだ?


 知らないっての。そもそも、この場にある物じゃなきゃ意味ないし。

 結論。人間が一人で太刀打ちできる相手じゃない。

 騎士団の一個小隊……いや、一個大隊が必要になる相手だ。


 なんとかして、皇都に戻って情報を伝えなきゃ。

 ベイさんが伝えてくれればいいけど、信用できない。

 僕の中では、彼への信用度がマイナスの域に入ってるからなあ。


「ミコトさん! まだ動けませんか!?」

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」


 無理か。となると、まだ時間稼ぎが必要になる。

 どこまでもつか。


 攻撃しても無駄だから、逃げ回ればいい。

 逃げ回るだけでもきついな。ヴェノムオオヘビの動きは、かなり素早いんだ。

 少しでも油断すれば、潰されるか食われるか。一瞬たりとも気は抜けない。


「うぁっ!」


 三度(みたび)、ヴェノムオオヘビが倒れてきた。

 同じように横っ飛びで……


 ダメだっ!


 僕は、さっきと同じように避けた。

 ヴェノムオオヘビは同じじゃなく、地面に首を着いたまま僕の方へスライドさせてきた。


 激突。

 体験したことのない衝撃を受け、僕は吹っ飛ばされる。

 地面を何度もバウンドして、樹の幹にぶつかって止まった。


「ぁ……かぁ……」


 意識が遠のくけど、気絶したら死ぬ。

 死にたくない一心で意識をつなぎとめる。


 ヴェノムオオヘビは、僕を丸呑みしようと大口を開けて……


「このっ!」


 ヘビに食われて死ぬなんてごめんだ! 剣でも食ってろ!

 痛む全身に鞭打って飛びすさり、代わりに剣を投げ込んだ。

 あわよくば、口内か体内にでも刺さってくれないかと思って。


 異物を恐れて逃げれくれれば超ラッキー。

 と思ったけど、そううまくはいかなかった。


 今のが、僕にできる精一杯の抵抗だったのに……

 幸運と言っていいかどうか知らないけど、変な物を食べさせられたせいか、ヴェノムオオヘビの攻撃が一旦やんだ。体をうねらせてる。


 少し休めそうだ。死ぬまでの時間がわずかに伸びただけとも言う。

 あっちこっちが痛い。せっかく左腕が治ったと思えば、これだよ。

 ついてない。世の中を呪いたくなるほどついてない。


 ついてないといえば、ヴェノムオオヘビがこんな場所にいたこともだ。

 よく今まで発見されなかったね。

 森の奥まで足を運ぶ人がいなかった? いても、全員こいつに食われてた?

 理由は知らないけど、運が悪いことには変わらない。


 体をうねらせてたヴェノムオオヘビは、再び鎌首をもたげた状態になる。

 休憩はおしまいか。次は何をしてくる?


「また毒か!」


 最初と同じ、毒の雨での攻撃だった。

 走ろうとして、足がもつれて転ぶ。そのままだと毒で死ぬし、必死で地面を転がって逃げる。

 かろうじて、直撃はしなかった。


 ただ、毒に侵された地面を転がったせいで、僕の体が……

 傷口から毒が侵入したかな。遠からず毒で死ぬかもしれない。


 その前に、次に攻撃された時に叩き潰されて圧死? これは轢死(れきし)になるの?

 食べられて、腹の中で消化される? 鋭い牙でざくっとやられる?


 どう転んでも死ぬ。どう転んでも救いがない。


 マンガとかだったらさ、ピンチの場面で覚醒するところだ。

 僕に秘められた力。あるなら発現して。

 神様。破壊神ボダズナトズ様。助けてくださいよぉ。


 情けなくも助けを求めてたら。

 神様じゃなかったけど、本当に助けがきてくれた。


「ロイサリス!」


 ジンフウさんが僕の名前を呼んだ。コロアドさんとメルさんもいる。

 心配して後をついてきてた?


 闖入者(ちんにゅうしゃ)の登場に、ヴェノムオオヘビのターゲットが移る。


「逃げてください! ミコトさんを連れて逃げてください!」


 僕が言えば、メルさんがミコトさんを抱えて逃げてくれた。

 でも、コロアドさんとジンフウさんは逃げずに、ヴェノムオオヘビと対峙してる。


 まさか、戦うつもり? 助けにきてくれたのは嬉しいけど、勝てるわけないよ。

 二人はヴェノムオオヘビの注意を引きつけてる。僕がやってたのと同じように。


「ロイサリスは逃げろ!」

「ここは俺たちに任せとけ! お前は逃げるんだ!」


 コロアドさんとジンフウさんが、順に僕を心配してくれた。

 大人として、教育係として、僕を守ってくれようって?


 逃げる……体は痛むけど、今なら逃げられる。

 僕は……

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