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五話 入学したら、やっぱり

 入学手続きは、ギリギリ間に合った。これで、父さんとはお別れだ。

 僕は、家族と離れて同年代の子供と共同生活を行い、学校に通って勉強する。


 職員の人が、寮に案内してくれた。

 学校に隣接された寮が四棟あって、そのうちの一つに僕は入寮する。


 こう言っちゃなんだけど、どれも例外なくボロい。

 多くの子供が住めるほどには大きいけど、外観はボロボロだ。

 壁にはひびが入ってるし、玄関の扉は立てつけが悪くて開けにくい。


 寮の中も負けてない。

 掃除が行き届いているのに、それでも染みついて取れない汚れがちらほら。

 床に布が被せてあって、何かと思えば穴が開いてるんだってさ。

 危険だから踏まないように言われた。


 僕の感想は、「なるほどね」だった。

 学校は、ここだけじゃなくて、いくつもの町に存在する。

 この町の学校は、古くてボロボロだって聞いていた。

 学校がボロなら、当然寮もボロいよね。


 代わりに、安い。綺麗で設備も充実してるような学校は、入学金や授業料も見合った金額になるけど、ここは一番安いんだって父さんが言ってた。


 僕がこの学校に通うのは、村から近くて安いからだ。

 裕福な家庭の子供や、貴族の子女なんかは、もっと格式のある学校に通う。

 父さんにはそっちも勧められたけど、断った。


 裕福な家庭の子供。貴族の子女。絶対にお近づきになりたくない人種だ。

 偏見を承知の上で言うと、そういう子供が庶民を見下していじめそうだと思う。

 庶民が集まる学校なら、案外うまくやっていけるかもしれない。


 誤解してもらいたくないから言っておくと、僕も庶民だよ。

 リリをメイドとして雇ってるから、たまにお金持ちと勘違いされるけど、違う。

 本当は、メイドなんて雇う必要はないんだ。家のことは母様一人で十分だし。

 リリは事情があって、家族同然に暮らしてるから特別。

 うちは、毎日の食事にすら事欠く貧乏じゃないけど、際立って裕福でもない。


 だから、この学校が僕には合ってる。寮だって、ボロくても住めなくはない。

 寮の中をキョロキョロ見渡しながら、職員の人について行けば、部屋に着いた。

 鍵なんて物はついてない。ノックすらせずに、職員の人がドアを開けると、四畳半くらいの広さの部屋に二段ベッドが二つ置かれてた。

 二段ベッド以外は何もない部屋だ。窓があるのに、カーテンすらない。


 四畳半に、四人暮らしね。子供でも窮屈になる。

 ルームメイトとうまくやっていけるかな。部屋の狭さより、それが一番不安だ。


 職員の人が帰ったから、僕はベッドに鞄を置いてくつろぐことにした。

 僕が持ち込んだ物は多くない。多少の着替えと、わずかばかりのお金だけ。


 入学手続きをすれば、学生証がもらえる。僕もさっきもらったし、それを見せれば、町の中なら大抵のお店で物が買える仕組みだ。

 もちろんタダじゃない。あとできっちり請求されて、父さんが支払う。


 無駄遣いしないよう、お金の使い方や計算を覚えるための勉強の一環だ。

 何も知らない子供であることに付け込んで、お店がぼったくらないかと思ったけど、大丈夫らしい。一度でもぼったくれば、そのお店は営業停止になるんだって。


 さて、これから僕がやるべきことは……何もないな

 教科書やノート、筆記用具なんかは、入学後にもらえる。

 日本の学校と違って制服はないし、受け取らなくていい。

 つまり、授業が始まるまでは暇になるね。


 町を見て回ってもいいけど、一人だと怖い。

 学校は寮の傍にあるから、場所を確認する必要もない。

 授業が始まるのは、三日後だったかな。それまでは、部屋でのんびりしよう。





 三日間は、あっという間に過ぎた。

 僕のルームメイトたちも続々と到着し、みんなで自己紹介した。

 まだまだ打ち解けられてはないけど、問題児みたいな子がいなくてホッとした。


 今日から授業が始まる。入学式なんてシャレた行事はない。

 朝、学校に行けば、人だかりができてる。

 今年の新入生は二百人以上いるから、クラス分けがあるんだ。

 学校の正門前に張り出されてて、確認して自分のクラスに行く。


 二百人って数は、おそらく多いんだと思う。

 安いって魅力がある学校だから、国中から子供が集まってるんだ。

 貴族が通う学校は、選ばれしエリートが集まって、少数精鋭になってるらしい。


 七歳の子供が二百人も集まれは、それはもうやかましい。

 あっちこっちでギャーギャー騒いでるし、泣いてる子やケンカしてる子もいる。

 これじゃあ、クラスを確認するのも一仕事だ。

 文字を読めない子供も多いから、先生に聞けば教えてもらえるけど、そっちも満杯。

 僕がどうしようかと悩んでたら、後ろから声をかけられる。


「おい、どけ。邪魔だ」


 僕よりも頭一つ分は背の高い少年が、目を吊り上げて立っていた。

 彼の目を見た途端、心臓を鷲掴みにされるような錯覚があった。

 似てるんだ。前世で僕をいじめてた連中みたいな、人を見下す冷酷な目をしてる。

 油汗がドバっと出て、呼吸すらままならなくなった。


「聞こえなかったか。どけと言ってる。俺様に逆らう気か?」


 僕は言葉を返せず、足も動かない。

 頭では、下手に逆らったらいけないから、どかなきゃって思ってる。

 でも、動かない。動けない。


 すると、僕のお腹に衝撃が走った。

 蹴られたんだって気付いたのは、地面に転がってからだ。


「ふん、グズが」


 吐き捨てるように言った少年は、倒れる僕の後頭部を思い切り踏んづけた。

 痛い。踏まれてる後頭部も、地面にしたたかに打ち付けた鼻の辺りも痛い。

 どかなかったのは僕が悪かったけど、この仕打ちはあんまりだ。


 誰かが助けてくれてもよさそうなのに、揉めてるのは僕たちだけじゃないから、助けてくれない。

 相手の少年は、僕を何度か蹴ってから、学校に入って行った。


 僕はのろのろと立ち上がって、服の汚れを払う。

 今日のために、母様が仕立ててくれた服なのに……

 顔に触れてみると、鼻血が出ていた。頬もこすれて、少し血がにじんでる。

 そして、涙も。僕は、情けないことに、大粒の涙を流していた。


 初日から散々だ。

 やっぱり、学校ってのは、僕にとっては天敵だ。

 転生してまで、こんな目にあうのか。早くも心が折れそうだ。

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