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五十八話 完治したのに新たなトラブルが

 ハンターギルドで揉めるパーティーを見た日から、数日後。

 放課後にシロツメの屋敷を訪れて、左腕の治療をしてもらってる。

 背中はとっくに治ってるし左腕だけだ。


「終わりました」


 シロツメに治癒魔法をかけてもらい、薬を飲む。今日の分はおしまいだ。


「ありがとうございました。次はいつですか?」

「……終わりましたわ」

「ですから、次は……終わった?」


 シロツメの言葉の意味を理解するのに、しばしの時間が必要だった。

 終わったってのは、今日の分がじゃなくて?

 治療そのものが終わったって意味?


「お、終わったっていうのは……」

「おめでとうございます、ロイサリス様。これで治療は終わりです」

「完治……」

「しましたわ」


 恐る恐る、左腕をぐるぐる回してみる。

 痛くない。全然痛くないよ!


 最近はかなりよくなってきてたし、動かしても痛みはほとんどなかった。

 でも、シロツメの口から完治って聞くと実感が湧く。


 治った。やっと治ったんだ。

 シロツメに診てもらうようになってから一年以上。

 長い時間をかけて、ようやく完治した。

 あ、ヤバい……感動して涙出そう。


「ありがとう……ございます……」


 お礼を述べる僕の声は、少し震えてる。

 どうしよう……なんて言えば、シロツメに感謝の気持ちが伝わるかな。


 シロツメは、僕の大恩人だ。どれだけ言葉を尽くしたところで足りない。

 抱き締めてキスでもする?

 完全にセクハラだね。恩を仇で返すことになる。


「す、すみません……凄く感謝してるんですけど、なんて言えばいいのか……」

「言葉は不要です。今のロイサリス様のお顔を見ているだけで、お気持ちは伝わりますので」

「本当に、本当にありがとうございました」

「わたくしの方こそ、よい経験になりました」


 ああ、なんて謙虚なんだ。

 もうね、シロツメのご神体でも用意して、毎日拝んでもいいよ。女神様だ。


「そっか……終わったんですね……」

「ですが、無理をしてはいけませんよ。治ったばかりですので。もしも異常を感じた場合は、すぐに……」


 シロツメは何かを言いかけて、言葉を止めた。

 少し考え込んでから続きを話してくれる。


「やはり、次もいらしてください。治療後の経過も確認しなければいけません」

「そこまでしていただかなくてもいいですよ」

「中途半端で投げ出すのは、わたくしの本意ではありません。感謝してくださるのであれば、言うことを聞いてください。次は五日……三日後にしましょう」


 謙虚な上に、責任感も強いのか。

 凄いなあ。これで、僕と二歳しか違わないんだよ。まだ十三歳なんだよ。

 三十歳、四十歳でダメな人もいれば、十三歳で凄い人もいる。

 さすが皇女様……いいや、シロツユメンナ・ヴェノム様だ。


「分かりました。これからもお願いします。シロツメに魔法をかけてもらうのは気持ちいいので、実は嬉しいんですよ」

「お任せください。では、お勉強をしましょうか」


 シロツメには勉強も見てもらってるけど、今日は中止にしたい。


「すみません、今日は中止にしてもらえませんか? 左腕が完治したことを、伝えたい人たちがいるんです」

「承知しました」


 コロアドさんたちに伝えたいんだ。今からなら、ハンターギルドで会えるはず。

 軽やかな足取りで、僕はシロツメの屋敷を出る。

 気分的な問題だろうけど、全身から力が湧き上がってくるようだ。

 今ならなんでもできそうな気がする。


 駆け足でハンターギルドに向かい、中へ。

 みんなは……いないか。まだ日が沈む前だし、皇都の外かな。

 基本的に、朝出かけて夜に帰ってくる。今は帰路の途中だろう。

 休んでる可能性もあるから、少し待ってみて、会えなければ明日だ。


 ギルドの中で待たせてもらう。他のハンターがいるけど、そっちは気にしない。僕に声をかけてくる人もいないし。

 見下す程度なら問題なくても、殴り合いのケンカとかしたらペナルティがある。


 だから、お互いに不干渉……なんだけど。

 今日はちょっと違ったみたい。


 誰も僕なんか見てないんだ。注目を集めてるのは、五人組のパーティー。

 先日揉めてた人たちだ。今日は何をしたんだろ?

 野次馬根性を発揮した僕は、耳を澄ましてみる。

 というか、耳を澄ますまでもなく聞こえるけど。


「抜けろってどういうことだよ! 俺が何をした!」


 今日も今日とて、大声でわめいてるのは十代半ばの少年だ。

 パーティーを追い出されそうになってるらしく、文句を言ってる。


「これまで貢献してきたじゃないか! 今日はミスもあったが、貢献度の方が大きい! お互いのミスを助け合うのがパーティーだぞ!」


 ミスをして足を引っ張ったのが原因で、パーティーを追放ってこと?

 ミスの内容にもよるけど、それだけで追放はちょっと酷い。


 ただなあ……あの人は、この前も文句を言ってた。普段からあんな態度だとすれば、愛想を尽かされてもおかしくない。


 ギャーギャーわめく少年に味方はおらず、パーティーの四人は冷たい表情だ。

 四人のうち、一人の男性が口を開く。


「助け合う? バカを言うな。お前は自分のことしか考えてない。一番弱くて仕事もできないくせに、一丁前に取り分だけは要求する。寄生が目当ての奴など迷惑だ。これまで仲間に入れてやっただけでもありがたいと思え」


 随分とバッサリ切り捨てたね。容赦なしだ。


「俺は十四歳なんだし、弱くても仕方ないだろ! 長い目で見ろよ!」

「弱いなら弱いなりに、できることをするなら構わん。お前はしない。雑用は嫌で、弱さを理由に普段は戦わず、弱い魔物が出た時だけ戦う」


「経験を積ませてくれるって約束だっただろうが!」

「最初はそのつもりだった。が、何もできんくせに、弱い魔物を倒すだけで『貢献している』とでかい顔をされれば、こちらも腹が立つさ」


 彼の言葉が事実なら、追放したくなる気持ちも理解できる。

 あまりにも身勝手だし、寄生目当てって言われても仕方ない。


「お、俺の加護が低神だからって、バカにしてるんだろ!」

「話にならんな。低神の加護なのは、俺たちも一緒だ。加護は関係ない」

「俺をバカにするな! 絶対神の加護だったら、お前らなんか相手にならない!」


 少年は興奮し過ぎてて、会話になってない。

 どうも、ご加護にコンプレックスがあるみたい。低神のご加護しか授かれなかったことが不満なんだ。


 絶対神や賢神なんかのご加護なら、こんな場所でくすぶってないとは思う。

 チヤホヤされて、凄い凄いって言ってもらえるね。

 でも、低神のご加護で頑張ってる人もいるよ。本人次第だ。


 少年は、なおもわめいてたけど、結局パーティーを追放されたようだ。

 四人は清々した顔で帰って行き、少年一人が残された。

 野次馬は興味をなくして、各々雑談を始めてる。


 僕も、少年を見るのはやめた。言っちゃなんだけど、あれは自業自得だよ。

 せっかく左腕が完治して嬉しかったのに、水を差された気分だ。

 コロアドさんたち、早くきてくれないかな。そう思いつつ待ってると。


「おい」


 少年が僕に話しかけてきた。

 なんで僕なのさ。面倒臭いことになりそうだ。


「お前、確かロイサリスって呼ばれてたよな。加護のない雑魚パーティーの一員」

「コロアドさんもジンフウさんもメルさんも、雑魚じゃないよ」

「加護のない奴が、雑魚でなくてなんなんだ。お前も加護がないんだろ? 俺が組んでやる」


 なるほどね。自分の下が欲しいのか。

 低神のご加護は一番下だ。それより下となると、ご加護を授かってない人しかいない。

 しかも、僕は彼より年下だ。僕の年齢は知らなくても、見た目で判別できる。


 ご加護と年齢、二重で優位に立てるからこそ、誘ってるわけだ。

 どうしよう、これ。

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