表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/125

四十七話 猟奇殺人事件

 早いもので、一年ももうじき終わりだ。

 アムア先輩たち三年生は卒業するし、僕は二年生に進級する。

 進級試験もあるけど、まず受かると思ってる。


 三年生は進路、一年生と二年生は進級試験の話題で持ち切り……

 かと思いきや、違うんだよ。


 トレンドな話題は、皇都を騒がせてる猟奇殺人事件だ。

 先日、若い女性の惨殺死体が発見された。


 殺人事件ってだけなら、さほど珍しくはない。皇都は大きいし、色んな人が集まってるから、事件は日常茶飯事だ。


 個人同士のケンカから、窃盗、スリ、強姦、もちろん殺人も。

 犯罪組織も存在する。人間の住む場所には必ずある、光と闇みたいなものだ。

 だから、単に女性が殺されただけだと、それほど話題にはならない。


 今回はちょっと違ったんだ。

 まずは事件のあった場所。比較的裕福な人たちが暮らす区域だ。


 皇都だから、皇族の住むお城もあるし、貴族街みたいな場所もある。

 一般市民が暮らす場所に、スラムとかも。

 事件が起きるのは、大概貧乏人の住んでる場所になる。


 富裕層の家の辺りは騎士が巡回してるし、怪しい人がいれば逮捕だ。

 治安のいい場所と悪い場所がくっきり分かれてる。

 なのに、治安がいいはずの場所で殺人事件が起きた。


 さらに、死体は酷く損壊してて酷い有様だったそうだ。

 顔だけは綺麗に残してあって、首から下が……これ以上は表現を控えるけど。


 犯人はまだ捕まってない。年齢も性別も判明してなくて、正体不明。

 死体に男性の体液でも付着してれば分かりやすいけど、なかったって話だ。

 殺人鬼が潜伏してるってことで、学校側も生徒に対して警戒を呼びかけてる。


「怖いよなあ。猟奇殺人だぜ、猟奇殺人」


 怖いと言いつつも、どこか面白そうに話してるのはコミス君だ。

 不謹慎だけど、遺族や友人でもなければこれが普通の反応だろう。

 コミス君に合わせて、他のクラスメイトたちも思い思いに話す。


「被害者の女性は……」

「……が……で……になってたってさ」

「顔は綺麗に残ってるらしいが……だってな」


 男子のセリフはかなりグロい。

 僕、グロ系って前世から苦手なんだよなあ。


「わたし、怖い。女を狙ってるんでしょ?」

「買い物にも行けないよねぇ」


 女子は自分の身を心配してる。

 被害者が若い女性だから、中等学校の女子生徒も他人事じゃないんだ。

 不安そうに話す女子に対して、コミス君が提案する。


「俺が護衛してやろうか? 四六時中一緒にいてやるぜ。トイレも風呂も」

「コミス君のエッチ」

「エッチぃ」


 セクハラ発言をしても、「エッチ」の一言で許されるのは、彼のキャラクター性ゆえだね。


「女子だけじゃなくて、僕たち男子も注意しないといけないよね。狙いが女性って決まったわけじゃないんだし」

「グレンガーなら、女子と間違えられるかもな」

「間違えられないよ!」


 コミス君が変なこと言い出したせいで、みんなが僕の顔をジロジロ見てくる。

 まだ、女装趣味とか言うつもり? あれからそこそこ時間がたってるのに。


「間近で見れば男だよな」

「逆に言うと、遠目なら分からん」

「か、可愛いのはいいことだよ」

「そ、そうそう」


 男子が僕をからかって、女子が苦しいフォローをしてくれて。

 気の置けない友人たちと一緒に、今日も学校生活を送ってる。





 いつものように、シロツメの部屋で左腕の治療をしてもらった。

 一年近く続けてるおかげで、かなりよくなってる。

 完治は絶望的かと思ったのに、現実味を帯びてきた。あと少しで治りそうだ。


 全部シロツメのおかげ。何度お礼を述べても足りないほど感謝しきりだ。

 もうね、シロツメは僕にとって女神様みたいな存在だよ。マルネちゃんを好きになってなかったら、今頃シロツメを好きになってた。


 僕の敬愛する女神様なら、望む答えをくれるに違いない。


「僕、男に見えますよね?」

「はい?」


 クラスの友達にからかわれたけど、シロツメなら味方してくれると思った。


「皇都で殺人事件が起きましたよね。被害者が若い女性だったから、女子が怖がってたんです。そしたら、僕も女子と間違えられるかもしれないって言われて」

「な、なるほど、把握しましたわ。ロイサリス様が女性に間違えられるか……」


 シロツメは言葉に詰まり。


「今日のお勉強を始めましょうか」


 全力で話を逸らした! あからさま過ぎる誤魔化し方だ!


「否定してくださいよ!」

「嘘は申せません。かといって、真実を告げることも……選びようのない二者択一を迫るなど、ロイサリス様は残酷ですわ」

「残酷なのはシロツメです!」


 今の言い方だと、認めたようなものじゃないか。

 これなら、はっきり言ってもらった方がマシだよ。


「ロイサリス様のお顔、わたくしは好きですわ」

「そ、そんな言葉じゃ騙されないですよ」


 本当は嬉しいけど。前世の僕は不細工で、容姿を褒められた経験なんてない。

 女顔でも、比較的整ってるだけ恵まれてるのかな。そう思っておこう。

 他愛のないやり取りをしつつ、シロツメと勉強をするのだった。





 寮に帰宅した僕は、なぜかアムア先輩に捕まった。先輩の部屋に連れ込まれる。

 そうだ。アムア先輩にも聞いてみよう。


「ちょっと質問なんですけど、僕は男に見えますよね?」

「面白い冗談だね」


 あなたもですか!


 ちくしょう……みんな敵だ。

 いいんだいいんだ、どうせ僕なんか。

 僕がふてくされてると、アムア先輩が用件を告げる。


「グレンガー君に、折り入ってお願いがあるの。買い物に付き合ってくれない?」


 改まって何を言い出すかと思ったけど、たいしたことのないお願いだった。


「買い物ですか? 構いませんけど、なんで僕に?」

「ほら、殺人事件があったでしょ。女の子だけで買い物に行くのが怖くて、グレンガー君に護衛してもらいたいなって」

「護衛なら、もっと強そうに見える男子に頼めばどうです?」

「拗ねないでよ」


 拗ねては……いるかな。みんなしてからかうから、つい。

 ただ、強そうに見える人がいいって思うのも本当だ。


 護衛は抑止力の意味も含む。こいつに手を出すとヤバいぞって思わせるんだ。

 僕だと抑止力にならない。見るからに弱そうだからね。

 悪意を持って近付いてくる人をぶっ飛ばすための、囮捜査みたいな目的ならうってつけなんだけど。


「グレンガー君が一緒だと、私も安心できるの。ダメ?」

「ダメじゃないです。分かりました、先輩の買い物にお付き合いしますよ」

「さっすが男の子! 頼りになる! 変な人がいたら、やっつけてね!」


 やっつけてって、発言が過激だね。言葉の綾なのかな。

 変な人の見分け方って難しそうだ。犯人じゃない人をやっつけたらまずい。


「変な人ならやっつけますよ」


 本当は、殺人鬼かどうかを見極めてから倒すべきなんだろう。

 だからって、後手に回ってアムア先輩が殺されたら嫌だ。


 僕はアムア先輩を守りたい。下心とかじゃなく、先輩は大切な人なんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ