四十七話 猟奇殺人事件
早いもので、一年ももうじき終わりだ。
アムア先輩たち三年生は卒業するし、僕は二年生に進級する。
進級試験もあるけど、まず受かると思ってる。
三年生は進路、一年生と二年生は進級試験の話題で持ち切り……
かと思いきや、違うんだよ。
トレンドな話題は、皇都を騒がせてる猟奇殺人事件だ。
先日、若い女性の惨殺死体が発見された。
殺人事件ってだけなら、さほど珍しくはない。皇都は大きいし、色んな人が集まってるから、事件は日常茶飯事だ。
個人同士のケンカから、窃盗、スリ、強姦、もちろん殺人も。
犯罪組織も存在する。人間の住む場所には必ずある、光と闇みたいなものだ。
だから、単に女性が殺されただけだと、それほど話題にはならない。
今回はちょっと違ったんだ。
まずは事件のあった場所。比較的裕福な人たちが暮らす区域だ。
皇都だから、皇族の住むお城もあるし、貴族街みたいな場所もある。
一般市民が暮らす場所に、スラムとかも。
事件が起きるのは、大概貧乏人の住んでる場所になる。
富裕層の家の辺りは騎士が巡回してるし、怪しい人がいれば逮捕だ。
治安のいい場所と悪い場所がくっきり分かれてる。
なのに、治安がいいはずの場所で殺人事件が起きた。
さらに、死体は酷く損壊してて酷い有様だったそうだ。
顔だけは綺麗に残してあって、首から下が……これ以上は表現を控えるけど。
犯人はまだ捕まってない。年齢も性別も判明してなくて、正体不明。
死体に男性の体液でも付着してれば分かりやすいけど、なかったって話だ。
殺人鬼が潜伏してるってことで、学校側も生徒に対して警戒を呼びかけてる。
「怖いよなあ。猟奇殺人だぜ、猟奇殺人」
怖いと言いつつも、どこか面白そうに話してるのはコミス君だ。
不謹慎だけど、遺族や友人でもなければこれが普通の反応だろう。
コミス君に合わせて、他のクラスメイトたちも思い思いに話す。
「被害者の女性は……」
「……が……で……になってたってさ」
「顔は綺麗に残ってるらしいが……だってな」
男子のセリフはかなりグロい。
僕、グロ系って前世から苦手なんだよなあ。
「わたし、怖い。女を狙ってるんでしょ?」
「買い物にも行けないよねぇ」
女子は自分の身を心配してる。
被害者が若い女性だから、中等学校の女子生徒も他人事じゃないんだ。
不安そうに話す女子に対して、コミス君が提案する。
「俺が護衛してやろうか? 四六時中一緒にいてやるぜ。トイレも風呂も」
「コミス君のエッチ」
「エッチぃ」
セクハラ発言をしても、「エッチ」の一言で許されるのは、彼のキャラクター性ゆえだね。
「女子だけじゃなくて、僕たち男子も注意しないといけないよね。狙いが女性って決まったわけじゃないんだし」
「グレンガーなら、女子と間違えられるかもな」
「間違えられないよ!」
コミス君が変なこと言い出したせいで、みんなが僕の顔をジロジロ見てくる。
まだ、女装趣味とか言うつもり? あれからそこそこ時間がたってるのに。
「間近で見れば男だよな」
「逆に言うと、遠目なら分からん」
「か、可愛いのはいいことだよ」
「そ、そうそう」
男子が僕をからかって、女子が苦しいフォローをしてくれて。
気の置けない友人たちと一緒に、今日も学校生活を送ってる。
いつものように、シロツメの部屋で左腕の治療をしてもらった。
一年近く続けてるおかげで、かなりよくなってる。
完治は絶望的かと思ったのに、現実味を帯びてきた。あと少しで治りそうだ。
全部シロツメのおかげ。何度お礼を述べても足りないほど感謝しきりだ。
もうね、シロツメは僕にとって女神様みたいな存在だよ。マルネちゃんを好きになってなかったら、今頃シロツメを好きになってた。
僕の敬愛する女神様なら、望む答えをくれるに違いない。
「僕、男に見えますよね?」
「はい?」
クラスの友達にからかわれたけど、シロツメなら味方してくれると思った。
「皇都で殺人事件が起きましたよね。被害者が若い女性だったから、女子が怖がってたんです。そしたら、僕も女子と間違えられるかもしれないって言われて」
「な、なるほど、把握しましたわ。ロイサリス様が女性に間違えられるか……」
シロツメは言葉に詰まり。
「今日のお勉強を始めましょうか」
全力で話を逸らした! あからさま過ぎる誤魔化し方だ!
「否定してくださいよ!」
「嘘は申せません。かといって、真実を告げることも……選びようのない二者択一を迫るなど、ロイサリス様は残酷ですわ」
「残酷なのはシロツメです!」
今の言い方だと、認めたようなものじゃないか。
これなら、はっきり言ってもらった方がマシだよ。
「ロイサリス様のお顔、わたくしは好きですわ」
「そ、そんな言葉じゃ騙されないですよ」
本当は嬉しいけど。前世の僕は不細工で、容姿を褒められた経験なんてない。
女顔でも、比較的整ってるだけ恵まれてるのかな。そう思っておこう。
他愛のないやり取りをしつつ、シロツメと勉強をするのだった。
寮に帰宅した僕は、なぜかアムア先輩に捕まった。先輩の部屋に連れ込まれる。
そうだ。アムア先輩にも聞いてみよう。
「ちょっと質問なんですけど、僕は男に見えますよね?」
「面白い冗談だね」
あなたもですか!
ちくしょう……みんな敵だ。
いいんだいいんだ、どうせ僕なんか。
僕がふてくされてると、アムア先輩が用件を告げる。
「グレンガー君に、折り入ってお願いがあるの。買い物に付き合ってくれない?」
改まって何を言い出すかと思ったけど、たいしたことのないお願いだった。
「買い物ですか? 構いませんけど、なんで僕に?」
「ほら、殺人事件があったでしょ。女の子だけで買い物に行くのが怖くて、グレンガー君に護衛してもらいたいなって」
「護衛なら、もっと強そうに見える男子に頼めばどうです?」
「拗ねないでよ」
拗ねては……いるかな。みんなしてからかうから、つい。
ただ、強そうに見える人がいいって思うのも本当だ。
護衛は抑止力の意味も含む。こいつに手を出すとヤバいぞって思わせるんだ。
僕だと抑止力にならない。見るからに弱そうだからね。
悪意を持って近付いてくる人をぶっ飛ばすための、囮捜査みたいな目的ならうってつけなんだけど。
「グレンガー君が一緒だと、私も安心できるの。ダメ?」
「ダメじゃないです。分かりました、先輩の買い物にお付き合いしますよ」
「さっすが男の子! 頼りになる! 変な人がいたら、やっつけてね!」
やっつけてって、発言が過激だね。言葉の綾なのかな。
変な人の見分け方って難しそうだ。犯人じゃない人をやっつけたらまずい。
「変な人ならやっつけますよ」
本当は、殺人鬼かどうかを見極めてから倒すべきなんだろう。
だからって、後手に回ってアムア先輩が殺されたら嫌だ。
僕はアムア先輩を守りたい。下心とかじゃなく、先輩は大切な人なんだ。




