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四十六話 正体がバレました

 アムア先輩のお願いを聞き届け、僕を理想の男性とすることに同意した。

 これは、様々な方面に波及したんだ。

 僕にとってもアムア先輩にとっても予想外だった。


「男が寄ってこなくなった……どうしてくれるの、グレンガー君!」

「僕に言われても困りますよ」


 僕の部屋に乗り込んできたアムア先輩は、開口一番文句を言った。

 アムア先輩は、僕みたいな女顔の男が好きだって設定になってる。


 すると、イケメンが寄ってこなくなったんだってさ。

 これがアムア先輩の誤算。自業自得だけど、僕のせいでもあるんだよ。


「グレンガー君がケノトゥムだなんて知らなかったんだよ! なんで教えてくれなかったの! ケノトゥム相手じゃ、みんな尻込みするに決まってるじゃない!」

「だって、僕はグレンガーですから」


 僕の誤算は、正体がバレたことだ。オグレンナ・ケノトゥムの孫だってね。

 アムア先輩の理想は僕。だけど、僕はお金持ちじゃない。


 これはおかしい。ロイサリス・グレンガーには何か秘密があるはずだ。

 思わぬところから話題になって、ケノトゥムとの関係にまでたどり着いた。


 皇都の中等学校に通うだけあって、みんな優秀というかなんというか。

 探偵にでもなればどうかな。


 中等学校の中でも、一部の先生は知ってたから、隠すには限界があったかもしれないけどね。いずれはバレてただろう。


 それにしたって早かった。入学から、まだ半年ほどしかたってないのに。

 残り二年半、学校生活が続くのにどうしよう。


 まあ、開き直るしかないか。幸い、友達はこれまで通り接してくれてるし。

 僕がケノトゥムを継ぐ気はなくて、将来はスタニド王国に帰ることも話してあるから、ロイサリス・グレンガーとして見てくれてるんだ。


 僕はいいとして、アムア先輩は。


「こうなったら、責任取ってもらうしかないね。お嫁さんにして」

「しません」

「そ、即答? 私の何が不満? 顔? 性格? 年上はダメ?」

「僕、好きな子がいるんです。スタニド王国に」


 僕にはマルネちゃんがいる。だから、アムア先輩とは付き合えない。

 アムア先輩も本気じゃなかったみたいで、すぐに引き下がった。


「はあ……中等学校時代にいい男を捕まえる計画が……将来有望な男子を……」

「高望みし過ぎじゃないですか? いい男なんていくらでもいるでしょ」

「いるけど、ピンとくる人がねえ。何かを持ってれば、何かを持ってなくて」


 それが高望みだと思いますよ、先輩。

 心の中で突っ込んでから、僕は話題を変える。


「クアニム先輩はどうです? まだアムア先輩を狙ってますか?」

「最近は大人しいかな。ただ……」


 普通に話してたのに、アムア先輩の声が暗くなる。


「また一人、女の子が行方不明になった」

「一年にも噂は届いてましたけど、本当だったんですね」

「怖いよね。グレンガー君は、私を守ってくれる?」

「できる限りは」

「そこはさ、『僕が絶対に先輩を守りますよ。キランッ』とか言うべきだよ」


 キランッて……僕のキャラじゃない。


「とりあえず、学校じゃクアニム先輩に近付かないこと。外出は昼だけにして、誰かと一緒に行動すること。怪しい場所には寄らないこと。対処法としてはこんなところですか」

「ありきたりだね。でも、ありがと」


 アムア先輩はお礼を言ってから、僕の部屋を出て行った。

 さて、僕も行くかな。





 中等学校に入学してから、約半年。

 つまり、シロツユメンナ様に治療してもらうようになってから半年でもある。


 左腕の調子は……微妙だ。

 少しよくなったけど、完治まではまだまだ。


「申し訳ありません。わたくしの力が至らないばかりに……」

「そ、そんなことありませんよ! ほら、こんなこともできます!」


 シロツユメンナ様が、なかなか治せないことに悩んでたんで、僕は握手してみた。左でね。


 シロツユメンナ様の左手を取って、上下に揺らす。

 このくらいはできるようになってるんだって見せるために。


「無理はなさらないでください。痛みがあるのでしょう?」


 やせ我慢してたのはバレバレか。

 以前に比べて動くようにはなった。でも痛みがあるし、長くは続けられない。


「まだ半年です。気長にやりましょう。って、僕が言っても仕方ないですかね」

「……そうですわね。完治するまでお付き合い致します。では、今日のお薬を」

「げ」

「今日は自信作ですわ」


 今日は? 今日も、だよね。

 いつも自信作って言ってて、でもたまに酷い物が出てくる。


 シロツユメンナ様のお手製の薬を飲んで……

 セーフ! よし、今日は無事だった! トイレに駆け込まずに済んだ!


「心から安堵されると傷つきます」

「ご自身がやってきたことを振り返ってみてください。安堵もしますよ」


 何度、毒みたいな味の薬を飲まされたことか。

 おかげで、軽口を叩けるほど仲よくなれたのはよかった。


「皇女様、お聞きしたいことが」

「…………」


 僕が声をかけたのに、シロツユメンナ様はそっぽを向いて無視した。


「シロツメ、お聞きしたいことが」

「なんでしょう、ロイサリス様?」


 呼び方を変えると反応した。

 少し前から、僕はシロツメって呼ぶようになった。

 なかなか慣れなくて、よく皇女様に戻るけど。


 敬語だけは恐れ多くてやめられず、愛称で呼びつつ敬語で話すって変な口調だ。

 僕は「シロツメ」なのに、シロツメは「ロイサリス様」だし。

 立場的に逆だよね。様付けしなきゃいけないのは僕の方だ。

 皇女様相手に不敬な気がする。


「不敬ではありませんわよ。わたくしが望んでいるのです」

「……僕の心を読まないでください」


 シロツメの洞察力も日に日に増していて、僕の心を軽く見通してくる。

 彼女だけは敵に回したくない。僕の知り合いの女性だと、色んな意味で一番怖い。


「それで、聞きたいこととは?」

「ソンギ・クアニム先輩の噂です」


 アムア先輩から奴隷売買の話を聞いて、僕はシロツメに相談した。

 なにせ、皇女様だ。皇都で奴隷売買が行われてるとなると、看過できないはず。

 相談すれば、二つ返事で協力してくれることになった。


「最近、中等学校の女子生徒が行方不明になりましたよね? クアニム先輩が関係していると思いますか?」

「調査中ですが……今のところ証拠はありませんね」


 シロツメでも尻尾はつかめないか。

 じゃあ、関係ないのかな。噂は所詮噂ってことだ。


「ただし、怪しくはあります。クアニム様の元へ、不可解なお金が流れていました。かなり高額です」

「商売をしてるみたいですし、それでは?」

「商売にしても多過ぎるので怪しいのです。もう少し調べますので、しばしお待ちください」

「分かりました」


 僕はシロツメに頼り切りだ。

 初等学校時代を思い出す。リリが先生になって、僕を守ってくれてた頃を。

 リリの次はシロツメか。


 でも、僕個人じゃできることには限界がある。

 犯罪者の調査なんて、本来は学生の出るべき幕じゃない。

 さくっと解決できれば格好いいんだけどね。うまくいかないんだ。


 強引な手段を用いてもいいなら、やりようはある。

 クアニム先輩を犯罪者だと決めつけて、ボコればいいんだ。

 ボコボコにして白状させる。白状しなくても、クアニム先輩を監禁して、行方不明者が出なくなれば黒で確定とか。


 やれなくはないけど、やらない。レッド君と同じになっちゃうし。

 あいつは悪に違いない。よって成敗する。

 こんな理論がまかり通ると、法律の意味がなくなる。証拠をそろえてから捕まえなきゃ。

 シロツメに頼らせてもらおう。いざとなれば、僕も戦う。


「調査は進めますのでご安心を。では、お勉強を始めましょうか」


 小難しい話は終わりで、ここからはシロツメと勉強だ。

 僕がアムア先輩に勉強を見てもらってるって知ったシロツメは、自分も教えるって言い出したんだ。


 アムア先輩には、毎日教わってるわけじゃない。毎日だと負担が大きいし。

 シロツメも毎日じゃなく、治療がある日限定だ。


 ……なんかこれって、日によって別々の美少女を相手にする最低男?

 まあ、勉強だからセーフってことにさせて。


 頭脳明晰なシロツメは、座学の成績は学年トップだ。

 教え方もうまくて、僕の成績は着実に伸びてる。前回の筆記試験はトップテンに入った。


 武術も、ナモジア君のおかげで強くなってる。

 中等学校卒業までには、ご加護を授かる儀式を受けられるといいな。

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