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三十三話 第二夫人、アミレイジ・グレンガー

前話から作中の時間がかなり飛んでいますが、投稿ミスではありません。

初等学校編は第一章でやったため、ガッツリ飛ばしました。

 僕は初等学校を卒業した。しかも、主席で。

 自慢していい? 主席なんて前世じゃ縁のなかった単語だし、自慢させて。

 いやまあ、「前世の記憶を持つアドバンテージ」とか「一度退学してる」とか言われるとあれなんだけどさ。


 とにかく、僕は主席で卒業し、皇都の中等学校への進学も決めた。

 仲よくなった友達とお別れになるのは寂しいけど、みんなそれぞれの道を進む。


「俺、目標ができた。偉くなってリリさんのようなメイドを雇うんだ」


 欲望丸出しの目標を口にしてるのは、ナミガノ君だ。

 動機は不純でも、実際に成績が伸びたから文句も言えない。

 ナミガノ君は中等学校に進学する。僕とは別の学校だね。


「可愛いお嫁さんが欲しい。そのためには、カネだ!」


 カムバッチ君は商人見習いとして働く。こっちも動機はあれだけど。


「ふっ、甘いな。世の中には、まだ見ぬ美少女がわんさかいるんだ。美少女を求めて、俺は旅立つ!」


 モモタ君は旅をするって言ってる。動機については、もうとやかく言わない。

 世界中を旅するのって憧れるけど、世間一般では認められにくい。定職を持たずにフラフラしてるって見られるんだ。


 危険も伴うし、いつ命を落とすかも分からない。

 モモタ君も、ご両親と大ゲンカしたんだって。

 それでもなお、自分の夢を追い求めるらしい。


 さて、名残を惜しむのもこれまでだね。


「いつかどこかで会うかもしれないし、会わないかもしれない。でも、みんなで頑張ろうね」


 友人たちに別れを告げて、僕も行く。

 一度、おじいちゃんたちのところに帰って、すぐ皇都に出発だ。





 家族が待つ町の、ケノトゥム家の屋敷に到着した。

 リリとは一度会ってるけど、他のみんなとは一年ぶりになる。


 おじいちゃんとおばあちゃん。父さんと母様。弟のカイとシイ。

 生後半年ほどの四男、ウイシミス。ウイ君。父さんは、また女の子に恵まれなかったね。

 もちろんリリもいて、家族みんな元気だ。


 帰宅した僕を総出で迎えてくれたんだけど……

 一人、僕の知らない人がいた。


「君がロイサリス? はじめまして」

「は、はじめまして……」


 この人、誰?

 綺麗な女性だ。母様と同い年くらいかな。外見も母様に似てて……


「ひょっとして、アミレイジさんですか?」


 母様の妹の、アミレイジ・ケノトゥムさんかなって思った。

 おじいちゃんが、結婚もせずに皇都で遊んでるって愚痴ってた人だ。


「正解。アミレイジ・グレンガーよ。アミって呼んで」

「はい、アミさ……ん?」


 ちょっと待った。


 アミレイジ・()()()()()? ケノトゥムじゃなくて?

 頭に疑問符を浮かべつつ、集まってる家族の顔を見渡す。


 おじいちゃんは苦虫を噛み潰した顔。おばあちゃんは柔らかく微笑んでる。

 父さんは僕から視線をそらし、母様は不機嫌そう。

 リリは苦笑してるね。幼い弟たちに状況を聞くのは無駄だろう。


「アミレイジ・グレンガー、ですか? ケノトゥムではなく?」

「ええ、グレンガーよ。私、ゴウザ様の妻になったの!」


 爆弾発言をしたアミさんは、父さんと腕を絡めた。

 母様に負けず劣らずの大きな胸が、むにゅって歪む。


「父さん……」

「そ、そんな目で俺を見るな! これには事情があってだな!」


 ここまで慌てふためく父さんを見るのは初めてだ。

 そりゃあね。一年ぶりに帰宅した息子に、二人目の妻を娶ってましたってのは、言いにくいだろう。

 たじたじになる父さんに助け舟を出したのは、リリだ。


「まあまあ。坊ちゃまもお疲れでしょうし、ひとまずはゆっくり休みませんか? 積もる話はのちほど」

「そ、そうだな! ロイは風呂にでも入ってこい!」


 父さんも賛同したし、ゆっくりさせてもらおう。

 遅かれ早かれ、事情は話してもらうけどね。





「私、ずっとゴウザ様が忘れられなかったの」


 アミさんの話は、そこからスタートした。


「ゴウザ様と姉様が駆け落ちして、二人を恨んだわ。特にゴウザ様。なんで私を捨てたのって」

「いや、俺とアミは付き合っていたわけじゃ……」


「第一夫人の座は姉様に譲るし、私は第二夫人でよかった。ゴウザ様に愛していただきたかったの。なのに、スタニド王国へ逃げちゃった」

「逃げたのは……まあ、逃げたのか」


「リリを連れて行くのに、なぜ私はダメなの? 姉様どころかリリにも負けたの? 毎日毎日、泣き腫らしてたわね」

「リリはメイドで、俺に恋愛感情を持たないからな。アミとは話が違う」


「一度は諦めようとしたわ。皇都でもね、いい人を探してたの。何人かの殿方と、お試しで付き合いもした。でも、やっぱりダメ。気が付けば、私も二十五歳で行き遅れに片足を突っ込んだ状態。行き遅れで処女ってあり得ないと思わない?」

「子供にそこまで話すな!」


「風の噂で、ゴウザ様がお父様の屋敷に身を寄せていると聞いたの。いてもたってもいられず帰ってくれば、そこには確かにゴウザ様のお姿が」

「どこをどうすれば、噂を聞くんだか。ミカゲもそうだったが、女の情報網はどうなってんだ?」


「ああ、愛しのゴウザ様! ずっとお待ちしておりましたわ!」

「ぶっちゃけ怖いぞ、お前」


 父さんがちょいちょい口を挟むけど、おおよそ把握した。

 母様とアミさん、実の姉妹で父さんを巡り、女の戦いが勃発したんだ。

 父さんは母様を選び、二人でスタニド王国へ。リリもいたし、正確には三人か。


 選ばれなかったアミさんは、涙で枕を濡らしつつ、でも諦め切れなくて。

 他の男性と付き合っても、一線は超えずに貞操を守り、独身も貫き。

 父さんがヴェノム皇国にやってきたって知るや否や、押しかけてきて第二夫人の座に収まった。


 見事な行動力、そして執念だね。


 スタニド王国だと、一夫多妻が認められるのは一部の偉い人だけだ。

 ヴェノム皇国は平民でも認められる。

 ただし、周囲の目は厳しいらしく、複数の女性を養えるかどうかって問題もあって、平民で二人以上の奥さんを娶る人は少ない。

 父さんも、随分と思い切ったもんだ。


「美人姉妹に好かれて、どっちも奥さんにしたんだ。父さんもやるね」

「嫌味か? なあロイ、嫌味なんだろ?」

「素直に凄いと思ってるよ……気苦労も多そうだけど」

「分かってくれるか! そうなんだよ! ロイだけが俺の味方だ! よくぞ帰ってきてくれた!」


 ……父さん、よっぽど大変なんだね。

 強くて威厳のある父の姿が、今は見る影もない。

 結婚できて喜ぶアミさんとは対照的に、疲れた顔をしてる。

 母様は、ムスッとして不機嫌そう。


「えっと……母様はよかったの?」

「本当はよくないわ。でも、私も姉として、アミへの情は持っているの。これが他の女性であれば認めなかったけれど、アミだから仕方なくね」

「さすが姉様! 話が分かる!」


 姉妹仲が悪いわけじゃなさそうだ。文句を言いつつも、母様も受け入れてる。

 間に挟まれる父さんは……自業自得だし我慢してもらおうかな。


 詳しくは知らないけど、本気でアミさんを突っぱねようと思えばできたよね。

 押しかけてきたのはアミさんでも、受け入れたのは父さんだ。

 何を考えたのかは知らない。同情したのか、一途な感情にほだされたのか、実はアミさんのことも好きだったのか。


 一つ言えるのは、父さんにも責任はあるってこと。

 父さんも母様もアミさんも、みんな一蓮托生だ。


 まあ、僕がとやかく言う問題じゃない。カイやシイもアミさんに懐いてるし、うまくやってるんだろう。


 今のアミさんは、赤ちゃんのウイを抱っこしてる。

 甥っ子を腕に抱いて、愛おしそうな顔をしてると、母様にそっくりだ。


「ゴウザ様、私も赤ちゃんが欲しいわ」

「……いずれな」

「私、女の子を産んでみせるわよ。女の子、欲しいのでしょう?」

「アァミィ……」


 うまくやってる……よね。多分。

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