三十二話 リリはモテモテ
本日二話目です。
三年生に飛び級すれば、案外あっさりと溶け込めた。
仲よしの友達もできたし、一緒に遊んだり勉強したりしてる。
充実した日々を送っていた頃だ。思いがけない人が学校にやってきた。
放課後、僕が友達と一緒に学校を出たところで、正門前にその人は待っていた。
「あ、坊ちゃま!」
「リ、リリ!? なんでここに!?」
僕を見つけるなり、満面の笑みで声をかけてくれたのはリリだ。
父さんやおじいちゃんとは手紙でやり取りして、近況報告をしてるんだけど、リリがくるなんて聞いてないよ。
驚いたのは僕だけじゃない。一緒にいる友達もだ。
「グレンガー……この人は?」
「坊ちゃま? グレンガーってお坊ちゃんなのか?」
「可憐だ……」
うわあ……説明が面倒そう。
あれこれ追及される未来しか見えない。なんて説明しよう。
脳内で言い訳を考える僕を放置して、リリは僕の友達に自己紹介する。
「坊ちゃまのお友達ですか? はじめまして。私、リリ・リローと申します。坊ちゃまのメイドです。いつも坊ちゃまがお世話になっております」
またそれ!? リリは、なんでいつも「坊ちゃまの」ってつけるの!?
「は、はじめまして! グレンガー君の一番の親友、ナミガノ・ボードです!」
「グレンガー君の一番のライバル、カムバッチ・ロンドです!」
「グレンガー君の一番の……一番! モモタ・シックです!」
こっちもこっちで、好き放題言ってる。一番の親友だの、一番のライバルだの。
そういえば、一つ補足。僕は「グレンガー」って呼ばれてるけど、バカにされてるわけじゃないよ。
スタニド王国とは常識が違って、ヴェノム皇国だと個人名で呼んでも家名で呼んでも構わないんだ。
僕を「グレンガー」って呼ぶ友達もいるし、「ロイサリス」とか「ロイ」って呼ぶ友達もいる。「グレンガー」の方が多いかな。
てな話はどうでもよくて。
三人の友達は、リリに夢中だ。必死に自分をアピールしてる。
まあ、リリは可愛いしね。二十歳なのに、見た目はいまだに十二歳くらい。
僕たちは九歳や十歳だから、少し年上の素敵なお姉さんって感じだ。
今のリリは、旅用の服を着ててオシャレとは縁遠いけど、元の可愛らしさまでは損なわれてない。
異性に興味を持ち出す年齢の男子なら、夢中にもなる。
リリもリリで、丁寧に対応するからなおさら。
「それで、リリ。急にどうしたの? リリがくるなんて聞いてないよ」
僕を無視して話を続けそうな勢いだったし、悪いけど割り込ませてもらった。
「はい、少し坊ちゃまにお伝えしたいことがありまして。悪い話ではなく、むしろよい話ですけど、重要なので手紙ではなく私が直接」
「直接って……ここまで遠いでしょ」
「いえいえ、坊ちゃまにお会いできるのですから、苦になりませんよ。坊ちゃまが初等学校に入学されて、私は寂しかったのです……」
誤解しか生まないリリの発言に、友達がざわついてる。
僕がメイドに手を出す鬼畜野郎みたいだ。
「ナミガノ君にカムバッチ君、モモタ君でしたよね。私は坊ちゃまとお話がありまして……予定があったのであれば、中止にしていただけませんか? 坊ちゃまと二人きりになりたいのです。私が宿泊してる宿で二人きり……ゆっくりと……」
後半はいらないよ! リリ、絶対に分かっててやってるでしょ!
あ、僕を見る三人の目が、どんどん冷たく……
「グレンガー、また明日な」
「ああ、明日だ」
「明日が楽しみだな」
口々に言い残して、三人は帰って行った。
……明日、学校に行きたくないな。
友達と別れ、リリと一緒に宿へ。
宿っていっても、旅人が利用するごく普通のものだ。男女が特定の行為のために利用する場所じゃない。
宿の部屋に入ってから、僕はさっそく切り出す。
「リリ、そろそろ話してよ。何があったの?」
「せっかちですね。久しぶりの再会ですし、もっと感動的になっても……さあ坊ちゃま、どうぞ」
両手を横に広げて、何がしたいのさ。胸に飛び込めとでも?
「リリ、ふざけないで」
「ううぅ……坊ちゃまが冷たいです。抱擁の一回くらい、いいじゃないですか」
「久しぶりに会えて嬉しいのは確かだけど、抱擁はなし。で、用件は?」
態度が冷たいとは思うけど、友達にわざわざ誤解させるような真似をしたことに、少し文句があるんだ。
リリは、ようやく話してくれる。
「まずは、坊ちゃまに悪い虫がついていないかな、と」
「はあ? 悪い虫って、女の子って意味? そのために、友達に誤解させるような真似を?」
「だって、坊ちゃまはマルネさんが好きですよね? 他の女の子に手を出すとは思えませんけど、念のために」
なんでリリが知ってるの!? 僕がマルネちゃんを好きだってこと!
「な……ん……」
「なんで、ですか? 私が何年、坊ちゃまのお世話をしてると思ってるんですか。坊ちゃまの態度を見ていれば分かりますよ。マルネさんは私の愛弟子ですし、坊ちゃまとのご関係を応援しています」
リリに知られてた事実もそうだけど、応援って言われたことも驚いた。
すっごく自惚れた発言をするけど、リリは僕を好きだと思ってたんだよ。
好きな人の恋路を応援するって、普通できないよね。
仮定の話で、マルネちゃんに好きな男がいるとすれば、僕は応援できない。
リリの気持ちは、あくまでも家族愛なのかな。謎だ。
リリが僕を好きなら、どうやって断ろうか悩んでたし、楽になったとも言える。
はっきりと告白されたなら、ごめんなさいって言えば済むんだ。
告白される前から、「僕はマルネちゃんが好きだ。リリとは付き合えない」なんて言い出すのは、自意識過剰だと思う。
助かるんだけど……うーん、女心ってよく分かんない。
「ま、まあいいや。それが本題じゃないよね? 僕が女の子と付き合ってないか確認する以外にも、用件があるんでしょ?」
「はい。こちらが重要でして、坊ちゃまの左腕の治療についてです」
それは、今の僕にとって最重要課題と言えることだ。
「……聞かせて」
「オグレンナ様が、別の人に診てもらえばどうか、と」
僕は、治癒魔法を使うお医者様に診てもらいつつ、完治を目指してる。
でも、治る気配が全く見えないんだ。
これは、お医者様の実力の問題じゃなくて、相性の問題らしい。
治癒魔法を使う人と使われる人には相性があって、僕はかかりつけのお医者様と相性が悪いたみたいなんだ。
相性が悪いってことは、お医者様にも言われてる。
真実を告げてくれるあたり、良心的な人だと思う。
ただ、いくら人柄がよくても、それで僕の左腕が治るわけじゃないのがね。
「別の人に診てもらうのはいいけど、具体的に誰? いい人がいるの?」
「治癒魔法の実力は未知数です。実績もありません。なにせ子供ですから」
「子供?」
「はい。坊ちゃまの二歳上で、十一歳ですね。お体が弱く、十一歳でまだ初等学校の三年生です。加護も授かっていません」
随分と変な人を勧めてきたな。
おじいちゃんのことだし、何かしらの考えはあるんだろうと思う。
「その人を勧めるのはなんで?」
「治癒魔法には相性があるのはご存知だと思います。そして、根拠は薄弱なのですけど、その方と坊ちゃまは相性がいいのではないか、と」
「薄弱なんだ……まあ、相性の良し悪しが分かれば、誰も苦労しないか」
「ですね。やってみないと分からないのが難しいところです。根拠ですけど、近しい年齢なら相性もいいのでは、というのが一つ。もう一つは、血縁関係です」
血縁関係か。おじいちゃんの肉親に、治癒魔法の使い手がいるのかな。
僕が想像したのは、おじいちゃんの兄弟姉妹やその子供だったけど、リリの口から出たのは予想外の名前だった
「シロツユメンナ・ヴェノム様。ヴェノム皇国の皇女様ですね」
……コウジョサマ? 皇女様?
た、確かに、血縁関係があるっちゃあるけど。
「い、いくらなんでも遠過ぎない? おじいちゃんは皇族の分家で、僕はその孫だよ。それ以前に、皇女様に治療の依頼なんてできるの?」
「ですから、根拠が薄弱なのです。皇女様に対して無礼ですけど、ダメ元ですね。依頼できるかどうかなら、オグレンナ様であれば可能かと」
おじいちゃん……ケノトゥムの力なら、か。
「私は、坊ちゃまのご意思をうかがうためにきました。どうされますか?」
悩ましいけど……
翌日、学校に行った僕は。
「メイドさん?」
「超可愛いメイドさん」
「俺、一目惚れした」
「俺も俺も」
「あのメイドさんにお世話されたい」
「グレンガー君は」
「スケコマシ?」
「あたし、見損なった」
「許さん。許せん」
クラスメイトたちから散々に言われてしまったとさ。
リリってモテるんだね。




