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三十話 孫好きのおじいちゃん

本日二話目です。

 父さんと母様が応接室を出て行き、僕とおじいちゃん、おばあちゃんが残った。


「こっちへ」


 おじいちゃんに言われたので、僕は近付く。


「……ハナに似てるな」

「よく言われます。母様似だって」

「あと二人、弟がいるのだったか?」

「はい。カイセラスとシイソロスです。みんなは、カイ、シイって呼びます。僕はロイって。僕も含めて、なぜか三人とも母様似なんですよね」


 父さんの遺伝子はどこだって言いたくなるほど、僕たち兄弟は母様に似てる。

 顔立ちも、髪や瞳の色も。


 母様は黒目黒髪で、これはヴェノム皇国の人に多いらしい。

 他の色の人もいるんだけど、一番多いのは黒目黒髪だ。


 僕のうろ覚えの知識だと、黒髪って優性遺伝だったはずだし、そのせいかな。

 異世界でも地球と同じ理屈が通じるかどうか知らないけどね。


「本当に、ハナの小さい頃によく似て……」


 おじいちゃんは、僕に向かって手を伸ばしかけ、すぐに引っ込めた。

 すると、再びおばあちゃんが吹き出した。


「無理をする必要は、ありませんのに」

「ヒトハ!」


 ひょっとして、おじいちゃんは孫を可愛がりたい? だけど我慢してる?

 誤魔化すように咳払いしてから、おじいちゃんは話を続ける。


「あー……ロイサリス。お前の希望を聞かせてくれないか?」

「僕の希望、ですか?」


「そうだ。お前は何をしたい?」

「それは、将来の夢や目標ですか?」


「そこまで大げさなものではない。この町、あるいはこの国で、何をしたいかだ」

「父さんも説明した通りです。スタニド王国では治せなかった、左腕の治療。そして、中途退学してしまった初等学校に入学し直す。この二つですね」


「俺に頼れば叶うと?」

「前者であれば、あるいは」

「む?」


 僕が答えてたら、おじいちゃんが怪訝(けげん)な顔をした。

 今の言い方じゃ伝わらないよね。


「えっとですね、僕の勘違いだったらすみません。おじいちゃ……オグレンナ様の力があれば、身内の一人や二人、初等学校に押し込めますよね。入学金や授業料だって問題なく支払えます」

「ま、まあ……な。ケノトゥムの力を使えば可能になる」


 妙に歯切れが悪いな。僕が失礼なこと言っちゃったから?

 すると、三度(みたび)吹き出したおばあちゃんが口を挟む。


「ロイ、この人は『おじいちゃん』と呼んで欲しいのよ」

「ヒトハっ!」


 おじいちゃんが声を荒らげたけど、おばあちゃんは涼しい顔だ。

 それどころか、僕の手を取って引き寄せた。

 おばあちゃんの膝にすとんと乗っかる形になる。


「孫っていいわね。よしよし」


 膝に乗っけた僕を背後から抱き締めて、おばあちゃんは頭を撫でる。

 さらに、おじいちゃんを挑発的な目で見て、ふふんって鼻を鳴らした。


「見栄を張らず、素直に孫を愛でたいとおっしゃればいいのに」

「ぐぅ……」


 な、なんか、おじいちゃんもおばあちゃんも、イメージと違うな。

 まあ、おじいちゃんって呼んでいいなら。


「おじいちゃん、こんな格好ですけど話を続けていいですか?」

「う、うむ」


 あ、少し嬉しそう。口元がピクピクしてる。

 おばあちゃんの膝の上ってのは恥ずかしいけど、このままで話をしよう。


「ええっと……おじいちゃんの力があれば、初等学校への入学は簡単です。多分、一年生からじゃなく、二年生や三年生からでも編入できるんじゃないかなと」


 初等学校を退学した僕は、二年生の途中まで履修した分が無駄になった。

 よって、ヴェノム皇国では一年生から入学し直しになる。

 だけど、おじいちゃんの権力があれば、二年生や三年生からスタートも可能だ。


「でも、そこまでするのはずるいと思います。僕が怪我をしたのは、スタニド王国の貴族の少年と揉めたからで、彼は権力を乱用するのが大好きな人間でした。同じにはなりたくないんです」


「つまり、自力で入学し、一年生から始めると?」


「一年生から始めるのはその通りです。自力で入学は無理でしょう。子供の僕では、お金を稼げません。父さんと母様に頼ることになります。要するに、おじいちゃんの権力を使ってあれこれしたくないんですよ」


「……学校の件は把握した。では、左腕の治療は?」


 うん、そっちが問題なんだ。

 初等学校はいい。二年分も遅れるし、お金も必要だけど、なんとかなるよ。


 ただ、左腕の治療だけはどうにもならない。僕はもちろん、父さんや母様でも。

 なんとかなるなら、わざわざヴェノム皇国まで足を運ばなかった。


「権力を使いたくないと言った傍から矛盾する発言をしますが、おじいちゃんによいお医者様を紹介してもらいたいと考えています」


「俺の力を使って、か?」


「その辺は難しいんですよね。他の患者を放り出して、僕の治療に専念してもらうのはやり過ぎです。でも、ケノトゥムの名前で依頼すれば、普通は断れませんし僕の治療を優先するでしょう。僕やおじいちゃんにその気がなくてもです」


「だろうな。いくら俺が、『孫を特別扱いしなくてよい』と言っても、言葉を鵜呑みにはすまい」


「なので、紹介というか、お医者様の情報を教えてもらえればいいかと思います」


 おじいちゃん抜きなら、特別扱いもない。

 正直、難しく考え過ぎかもしれないとは思う。


 権力は悪! みたいなことを言うつもりはないんだ。使えるものは使えばいい。

 これは僕のわがままだ。レッド君が大嫌いだから、同じになりたくないってだけのわがまま。


「……ロイサリスは、八歳と言っていたな?」

「はい、八歳です。あと何ヶ月かしたら九歳になります」

「それにしては、妙に……」

「アミよりもしっかりしているかもしれませんね」


 おばあちゃんの口から、知らない人の名前が出た。


「おばあちゃん、アミさんって誰ですか?」

「ハナから聞いていませんか? ハナの妹ですよ。アミレイジ・ケノトゥム」


 母様、妹がいたんだ。僕にとっては叔母にあたる人か。


「あの馬鹿娘は、いい歳をして結婚もせず、皇都で遊んでいる。駆け落ちしたハナといい遊び呆けるアミといい、俺にはまともな子供はおらんのか」


 ……あれ? おじいちゃんとおばあちゃんの子供って、二人だけなの?

 今まで全然意識しなかったけど、おかしくないかな。


 皇族の分家ってほどの身分なんだ。跡取りが必要だから男の子を望むだろうし、おばあちゃん以外の奥さんがいても当然だ。

 奥さんが一人で、子供も娘が二人だけ。スタニド王国の貴族じゃあり得ない。


 ヴェノム皇国は常識が違うのかな。

 気になる。気になるけど、これは聞きにくい。


「ロイサリスは、やはり頭が切れるな。違和感に気付いたか」

「え? えっと……は、はい……」


 さすがおじいちゃん。僕の内心なんて簡単に見破った。


「俺の妻はヒトハ一人であり、子供も娘が二人だ。ケノトゥム家の人間としてはあり得ん。が、俺は複数の女を娶るのに忌避感があってな。異端なのは俺と理解しているし、五人、十人と嫁にする奴に文句をつける気もないが、俺は無理だった。俺には弟がいるし、家督は弟の息子にでも譲ればよいと考えたのだ」


 てことは、ヴェノム皇国でも一夫多妻制が普通なんだね。おじいちゃんが特殊例なだけだ。

 他国の常識までは、初等学校で習わなかったから知らなかった。


「しかし、ロイサリスが優秀であれば、家督を譲るのも……」

「い、いりませんよ! いえ、いらないなんて言い方は失礼ですけど、身内でドロドロの家督争いなんてごめんです!」


 僕が現れなければケノトゥムを継げたはずの人から、絶対に恨まれる。

 そんな面倒事を背負う気はない。

 おじいちゃんには悪いけど、僕はロイサリス・グレンガーを名乗り続けるよ。


 僕が慌てて拒否したら、おじいちゃんは大声で笑った。


「はははは! ケノトゥムがいらんか!」


 おじいちゃんは、僕の頭に手を伸ばした。

 今度は引っ込めず、ワシャワシャって撫でてくれた。

 撫で方が父さんに似てる。母様やおばあちゃんとは違って力強い。


「気に入った。ハナもゴウザも、よい息子を育てたものだ。俺の力を貸そう」


「あ、ありがたいお話ですけど、やり過ぎるのは……」


「心配するな。権力を使いたくないというロイサリスのわがまま、俺が叶えてやる。祖父として、孫を可愛がるのはおかしくあるまい」


「ありがとうございます、おじいちゃん」


「うむ。差し当たって、敬語はやめろ。両親にそのような話し方はせんだろう?」


「はい……じゃなくて、うん、分かった」


 こうして、僕はおじいちゃんの協力を得ることに成功した。

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