二話 忌まわしき前世の記憶
本日三話目です。
明日からは、朝と夜の二話投稿となります。
前世の僕、松井秀一は、学校でいじめられていた。
小学校は大丈夫だったんだけど、中学に上がった頃からいじめを受けるように。
まあ、割と悲惨な学校生活だった。毎日、学校に通うのが苦痛で仕方なかった。
登校拒否をして家に閉じこもっていたいって、しょっちゅう考えてた。自殺を考えたことも、一度や二度じゃない。
それでも耐え続けたのは、いじめは一過性のものだと思ったからだ。
いじめをするようなゴミ人間の思考なんて知らないけど、どうせ遊び感覚だろう。
楽しいから、あるいは暇潰しにやってるだけ。
いじめられる方にとってはたまったものじゃないけど、遊びならいずれ飽きる。
飽きなかったとしても、高校に進学すればお別れだ。
人をいじめるようなゴミなんて、要は不良って人種だ。
当然、教師の印象も悪いし、成績は底辺を這いずるように最悪で赤点の常習者。
0点って、マンガ以外じゃ初めて見たよ。救いようのないバカだね。
一方で、僕の成績は、可もなく不可もなく。真ん中よりもちょっと下って程度。
僕も勉強はダメダメでバカなんだけど、僕をいじめてる連中と同じ高校に進学したくない一心で勉強した。
進学すれば縁が切れる。しばらくの辛抱だ。
自分に言い聞かせて、必死で耐えつつ勉強した。
頑張った甲斐があり、僕は普通レベルの高校に進学した。
頑張ってこれなんだから、元がどれだけバカか分かるよね。
勉強ダメ、運動ダメ、容姿ダメ。おまけに、人付き合いも苦手でコミュ障。
我ながら、取り柄のない人間だった。
名前も皮肉だよね。一番秀でるって意味で秀一なのに、完全に名前負けしてる。
もしかしたら、ダメ人間だったのがいじめられた原因かもね。
もちろん、ダメダメだからって、いじめていい理由にはならない。
いじめは、完全にいじめる側が悪いと思ってる。
僕をいじめていたゴミたちは、不良の巣窟である底辺校に進学した。
縁が切れて万々歳。高校では、普通に生活できる。
でも、僕の考えは甘かった。平穏だったのは、進学後しばらくの間だけだ。
底辺校に進学したゴミたちは、わざわざ僕を待ち伏せてまで、いじめるようになった。
なんでも、半年ともたずに退学したんだってさ。
色々と鬱憤が溜まってて、僕にぶつけてきた。いい迷惑だよ、本当に。
しかも、中学校時代よりもいじめは苛烈になった。
彼らは、高校を中退した。散々バカにしてた僕は、普通に高校生活を送ってる。
それが許せなかったみたいだ。いじめっていうか、もはやリンチのレベルになった。
で、僕はあっさりと死んだ。
死んだ時の記憶はあいまいだけど、殴られ過ぎたのが原因だろうね。打ちどころが悪かったんだと思う。
あのゴミたちは、どうなったのかな。ちゃんと殺人罪に問われてくれてればいいな。
無罪放免とかになってないよね。日本は、その辺がおかしい国だったからなあ。
いじめられる方にも問題はある、とか。
未成年は改心の余地がある、とか。
犯罪者の人権が、とか。
クソ食らえだ。いじめが原因で殺された僕は、一体どうなるのさ。
まあ、転生できたんだから、そこは運がよかったと思うけど。
ロイサリス・グレンガーとして、異世界に転生した僕は、前世の記憶もなくして生きていた。
子供らしい快活な性格で、趣味は父さんに教えてもらう剣術。
やんちゃって言葉がピッタリだ。剣ばかり握ってた。
記憶を失った状態なら、元気な僕のままで成長したと思う。
記憶を取り戻したきっかけは、昨夜の夕食時に父さんが発した一言だ。
「ロイは、もうすぐ学校に通うな」
僕は六歳だ。あと数ヶ月もすれば七歳で、そしたら学校に通うらしい。
学校。いい思い出が全然ない。
むしろ、嫌な思い出ばかりがある。いじめもだし、いじめ以外も僕はバカにされてた。
なにせ、勉強ダメ、運動ダメ、容姿ダメ、コミュ障ときてる。
男子からも女子からも見下されてた。
だから、いじめられてる僕を、誰も助けてくれなかったんだ。
学校って空間は、僕にとって地獄に等しい。
前世の記憶を失っても、学校に対する恐怖心は刻み込まれていたんだろう。
父さんの口から「学校」って単語を聞いた途端、僕は得体の知れない不安を感じ、動悸やめまいに襲われて倒れた。
そして、今朝。僕は、全てを思い出したんだ。