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二十五話 カッツャ・カーダの罪

 武術大会後のクラスには、ピリピリした空気が漂う。

 ちょっとつつけば暴発しそうな状態だ。気持ちのいいものじゃないね。


 クラスメイトの立ち位置は、ゴミの味方と日和見の中立で別れる。

 僕の味方って言えるのは、マルネちゃんとスウダ君。

 スウダ君とは試合がきっかけで仲よくなれた。いじめの件も謝ってくれたし。


 味方は少なくても、いじめはパッタリとやんだ。

 いじめられないって、こんなにも楽なんだね。

 不穏な空気は心配だけど、いずれ解消するだろうと楽観的に考えてる。


 僕は、マルネちゃんとユキの二人と一緒に行動するようになった。

 スウダ君もちょくちょく一緒になるし、ルームメイトとも遊んでる。

 もう少し交友関係を広げたいけど、難しいね。

 ほとぼりが冷めるまで大人しくしてよう。

 友達が六人できただけでも、僕にとっては快挙だよ。


 問題があるとすれば、だ。


「ロイ、ロイ! 勝負しよう!」

「無理だよ。僕は怪我してるし、お医者様にも激しい運動は止められてるんだ」

「ちょっとだけでいいから! 痛くしないから!」


 武術大会以来、僕に懐いてくれたユキは、毎日のように勝負を挑んでくる。

 僕が大怪我してるのは知ってても、ちょっとだけでいいからって。

 友達の頼みだし聞いてあげたいんだけど、左腕がね。

 他の怪我はともかく、複雑骨折してる左腕がネックなんだ。


 ユキもダメ元で聞いてるから、何度か断れば引いてくれる。

 代わりに。


「じゃあ、あたしの訓練見てて! 行こう!」


 僕の腕を取って、連れてこうとする。恋人みたいな密着度だ。

 普通なら「こいつ、僕に気があるな」って考えるけど、ユキに他意はない。

 ただ、他意がないからって、他の人も同じように思ってくれるわけじゃなく。


「ロイ君! わたしとお勉強しよう!」


 ユキに負けじと、マルネちゃんが勉強に誘ってくれる。

 僕とユキが組んでる腕を見ながら。

 マルネちゃん、絶対に誤解してるよ。誤解されるような真似をする僕が悪いんだけどさ。

 そして、もう一人。


「マママ、マルネさん。べ、勉強なら俺と……」


 マルネちゃんを好きだって言ってるスウダ君が、マルネちゃんを誘う。

 ……スウダ君が僕と仲よくなったのってさ、マルネちゃんに近づくため?


 いや、友達を疑うのはよくないね。みんな一緒に行動すればいいんだ。


「昨日はユキの訓練に付き合ったし、今日は勉強しようか」

「ええぇ、勉強?」

「ユキは勉強しないとダメだよ。座学の成績、あんまりよくないんでしょ?」


 渋るユキを説得して、今日は四人で勉強することになった。

 仲よし四人組って感じでいいね。

 あとは、このまま穏やかに過ごせれば嬉しい。





 とはならないのが、世の中ってものだ。

 授業再開から一ヶ月ほどして、武術大会よりも大きな事件が起きた。


 殺人。


 学校を退学になったカッツャ君が、人を殺してしまったんだ。

 そして責められているのは、なぜか僕とリリだった。僕はどっちかというとおまけで、リリが責任を追及されてる。


「困ったことをしてくれたねえ、先生」


 でっぷりと肥えた腹の中年親父が、嫌味っぽくリリを責める。

 町長なんだけど、人相が悪い。まあ、人を外見で判断したらダメだから、悪人と決まったわけじゃないけどさ。


 外見だけなら、うちの父さんが……ね。

 父さんはさておき、なんでリリが責められてるかっていうと、カッツャ君への教育方針が悪かったって言いたいらしい。


 子供が悪さしたら、大人が責められるのは分かる。監督責任を問われるとか。

 でも、教育や監督って話なら、カッツャ君の両親に責任があるんじゃないかな。

 ところが、カッツャ君の両親まで、町長と一緒になってリリを責める側に回ってる。自分たちも息子も被害者だって言い切るんだ。


「先生の教育が悪かったせいで、うちの大事な息子が」

「どう責任を取ってくれるの! カッちゃんは、とてもいい子だったのに!」


 ずっとこの調子だ。父親はチクチク嫌味を連発し、母親はヒステリーチックにわめく。


「聞けば息子は、長い間いじめられていたそうじゃないか。グレンガー君にね」

「カッちゃんがかわいそう! ヒョンちゃんもかわいそう! 責任取って!」


 僕がいじめてた? 笑えない冗談だ。いじめられてたのは、こっちだよ。

 町長、カッツャ君の両親、何人かの先生たちが、僕とリリを糾弾する。

 嫌味や人格否定の悪口が入りまくってるせいで、何を言いたいのかいまいち分かりにくいんだけど、まとめるとこういうことだ。


 まず、カッツャ君とヒョンオ君は、入学直後から僕にいじめられてた。

 二人を庇ってたのが、ゴミことレッド君。

 レッド君は二人を庇い、また僕を止めようと孤軍奮闘してた。

 にも関わらず、いじめは終わらなかった。


 二年生になってリリが赴任すると、状況はさらに悪化。

 僕を依怙贔屓し、レッド君やカッツャ君たちを蔑ろにした。

 授業でも、教育の範疇とは思えない罵詈雑言を浴びせられ、繊細な少年たちの心はボロボロに。

 なんとか先生に認めてもらおうと、座学も実技も一生懸命頑張ったのに。


 とどめは武術大会だ。

 カッツャ君とヒョンオ君は、卑怯な手段を使われて、一回戦敗退。

 一方で、リリが依怙贔屓する僕やマルネちゃんは、順当に勝ち上がった。

 最後の希望だったレッド君も、決勝戦でやはり卑怯な手段により敗北。それだけじゃ終わらずに、冤罪を着せられてしまった。


 レッド君とヒョンオ君は停学、カッツャ君は退学処分に。

 カッツャ君とヒョンオ君は、この町にある自宅で謹慎してた。両親が声をかけても、すっかり落ち込んじゃって、ご飯も碌に食べない。


 事件が起きたのは、学校の友達がお見舞いにきた時だ。

 友達は、こともあろうに、レッド君やカッツャ君を否定し、僕を肯定する発言をした。


 自分を悪く言うのは構わない。だけど、レッド君を悪く言うのは許さない。

 口論になった末、友達を突き飛ばしたら、運悪く死んでしまった。


 以上だ。はいはい、よくできた物語ですね、っと。

 小説家にでもなればどう?

 いや、小説家に失礼だね。都合の悪い部分は、「卑怯な手段」で誤魔化してるから、設定の練り込みが甘いって苦情がきそうだ。


 卑怯な手段って、具体的に誰が何をどうしたのさ。

 僕が聞いても明確な答えはもらえなくて、とにかく卑怯なんだって。子供かよ。

 町長はカッツャ君の両親の意見を信じてて、先生たちも同じ。


 先生は、レッド君たちの処罰を決定したんでしょ? 冤罪ってことなら、冤罪を着せた張本人のはずだ。

 なんで、しれっとなかったことにしてるの?


 こっちの意見はガンスルー。バカの一つ覚えみたいに、「謝罪しろ、賠償しろ、責任を取れ、罪を償え」だ。

 町長なんか、自分の権限でリリを極刑に、僕を終身刑にするって言ってる。


「無知な子供に、儂が教えてあげよう。終身刑とは、強制労働を意味する。大人でも、一年ともたずに死亡する過酷な労働だ」

「知ってますよ。授業で習いましたから」


 犯罪者をぬくぬくと保護するような余裕は、国にはない。少年法もない。

 大人だろうと子供だろうと、犯罪者は殺すか強制労働にするかの二つに一つだ。


 強制労働は、罪の重さに見合った内容になる。

 大人が一年もたずに死ぬとなると、極刑の次に重い罰だ。死ななかったとしても、死ぬまで働かされるだけ。


 僕がつらつら述べると、町長はこめかみをひくつかせてた。

 怖がらせようと思ってたのに、怖がるどころか説明を始めたのが気に食わないんだろう。

 分かってて説明したんだよ。誰が怖がってなんかやるもんか。


「ガキが……儂に逆らうと、罪が……」

「重くなる、ですか? 失礼ですが、町長にそこまでの権限はありましたっけ?」


 町長に、犯罪者を裁く権限なんかない。

 ていうか、あったら大変だ。町長の気分一つで犯罪者が量産される。

 罪に問うも許すも、町長次第。これを独裁という。

 王様ならまだしも、たかだか小さな町の町長ごときじゃ独裁政治はできない。

 てな話を、僕はつらつらと。


「黙れ、クソガキが! 目上の者に対する礼儀を知らんのか!」


 学校で習う一般常識を説明しただけなのに、酷い言われようだ。

 ケンカを売る気だったのは否定しないけどね。

 厄介な事態になったものだ。僕やリリはどうなるんだろ。

 これはいよいよ、家族そろって夜逃げかな。

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