二十四話 各々の処罰は
本日二話目です。
いよいよ、第一章が終わりに近づいてきました。残り数話です。
武術大会は、僕の優勝で幕を閉じた。
案の定、僕は多方面から責任を追及されたけど、最終的にはお咎めなしになった。口頭で注意されただけだ。
マルネちゃんの誘拐を始め、対戦相手の子供を脅迫したり先生に権力をちらつかせたりと、ゴミがやった悪事の数々の方がよほど問題だったし。
リリから聞いた話だと、マルネちゃんを助けた時は間一髪だったんだって。
ユキにも強姦するって脅すような連中だ。ユキと同じ九歳のマルネちゃんも、当然対象になるみたいで、犯される寸前だったって話。
リリたちが助けなかったら、強姦殺人の一丁上がりだ。
ゴミは、最初からマルネちゃんを生かしておくつもりはなかった。遊んでもいいけど、最後はしっかり殺すように命令してたんだ。
正確には、間に人を挟んで命令したから、ゴミが直接ってわけじゃない。
ゴミからカッツャ君、カッツャ君が弟のヒョンオ君を共犯者にして、二人から彼らのお父さん、お父さんから町のゴロツキたちってつながった。
ゴロツキは悪名高い連中だから、現場に踏み込んだ人たちに半殺しにされた。
リリとユキ以外にも、ミカゲさんの要請で動いてた男性が結構いた。
彼らにとって、ミカゲさんとマルネちゃんはアイドルみたいなものらしく、怒り心頭だったとか。
「私が止めなかったら、死屍累々になっていましたね」とは、リリの弁だ。
証言が必要になるから殺さないようにって、止めるのが大変だったみたい。
ここまでくると、ゴミも言い逃れできなくなった。
キルブレオ様も、さっさと王都に帰っちゃったし、味方はほとんどいない。
素直に罪を認める殊勝な性格はしてないから、ギャーギャーわめいてたけどね。
見苦しいったらないけど、一部正論ではあったから、僕も危ないところだった。
正論ってのは、仮にゴミの犯罪が事実だったとしても、僕が試合にかこつけて過剰な暴力をふるったのも事実だって部分だ。
これに関しては言い訳できない。憎しみに身を焦がしてフルボッコにしたのは、確かに僕が悪い。
「マルネちゃんのために」とか「レッド君が先に手を出した」とか言っちゃうと、ゴミと同類になるから、僕もやり過ぎを認めた。罰せられてもいいと思った。
多くの人が庇ってくれて、お咎めなしになったけど。
ルールを変更したのはゴミだし、僕の怪我もゴミ以上に重症だし、ゴミは一部の人から凄く嫌われてたし、何よりもゴミは犯罪者だし。
日頃の行いって、こういう時に出るんだなって思った。
そうそう、犯罪者で思い出した。
国が定めた法を破って儀式を行った件も、追及されたみたいだ。
ただしこっちは、絶対神の加護を授かったことで帳消しになった。
五柱の神様のうち、最高ランクの絶対神。
絶対神の加護の効果は絶大で、授かった人間は全てに通じるようになる。
賢神は魔法、武神は武力、農神は知力って具合に特徴がある中で、絶対神は「全て」なんだ。
低神は絶対神の完全下位互換。ほんの気持ち程度、能力がアップする。
絶対神の加護を授かったゴミは、国にとっても得難い人材だ。
ゆえに罪を免除する。力があれば法を破ってもいいなんて無法地帯だね。
ゴミのお父さんが賢神で、お兄さんが確か武神だから、絶対神が貴重なのは分かるけどさ。
将来は、ゴミの天下になるかと思うと、国の未来は暗い。
ゴミへの処罰は、結局……
武術大会後のゴタゴタで、学校はしばらく休校になった。
今日から、やっと授業が再開される。僕が教室に入れば、雑談に興じていたクラスメイトが一斉に黙った。
彼ら彼女らの視線が、僕に向けられる。すっかり有名人だ。悪い意味でだけど。
ゴミを倒した僕を持ち上げてくれる人もいれば、恐れる人もいる。クラスメイトは後者だ。
怖がられても仕方ない。あれだけ暴力をふるったんだし、当然の反応だ。
ましてや、クラスメイトはゴミの取り巻きで、僕をいじめてた連中ばかり。僕の暴力が、自分たちにも向けられるんじゃないかって思ってるんだろう。
いじめられるのと、どっちがマシなのかな。
あんまり居心地はよくないけど、しばらくは我慢しよう。
教室が妙な静けさに包まれてると、さらなる爆弾が。
ゴミが登校したんだ。あちこちを包帯でグルグル巻きにした、痛々しい姿で。
明らかにフェイクだね。重症なのは、潰した指くらいのはずだ。他は打撲や擦過傷程度で、包帯グルグル巻きにするような傷じゃない。
僕ですら、複雑骨折してる左腕にギブスをしてるだけなのに。
同情してもらいたいのかな。自分は被害者だって主張したいのかな。
で、やっぱりというか、何人かの子供がわざとらしくゴミの怪我に言及する。
「レッド君、その怪我は……」
「グレンガーが、卑怯な手で傷つけたせい?」
「痛そう……かわいそう……」
「不便なことがあったら、あたしに言ってね! 手伝うよ!」
ゴミを労わりながら、僕を貶してた。
あそこまでの醜態をさらしても、大貴族の息子の肩書きは大きい。庶民の僕じゃなくて、ゴミにすり寄ることを選んだ。
僕にすり寄られても困るんで、どうぞご勝手にって感じ。
クラスが、ロイサリス派とレイドレッド派で、真っ二つにならないかだけが心配だ。
不満があるとすれば、ゴミへの処罰。三日間の停学で済んだことだ。
しかも、休校になってたから、事実上罰はないに等しい。こうやって、再開初日から登校できるんだし。
ゴミの代わりってわけじゃないけど、カッツャ君が退学処分になった。弟のヒョンオ君は、半年間の停学。
カッツャ君やヒョンオ君が悪いのは事実でも、一番悪いのはゴミなのに、理不尽だ。
初等学校を退学って、生半可な罰よりも重いよ。
初等学校を卒業しておかないと、加護を授かる儀式を行えないんだ。退学になったカッツャ君は、生涯加護を授かれないことを意味する。
人生がパーだね。まともな職に就けないよ。
他の町の初等学校に入学し直すわけにもいかない。
自主的な退学ならいいけど、カッツャ君の場合は罪を犯して追放されたんだ。
こんな子供を受け入れてくれる学校はない。
クラスの中からは、カッツャ君を心配する声も聞こえる。
「レッド君、カッツャ君を助けられない?」
「そうだよ。悪いのはグレンガーなのに、なんでカッツャ君が退学なのさ」
「ワタシもカッツャ君が心配だ。貴族の権力を用いるのはよくないが、友のためならばワタシにできることをするとも」
レッド君が言い切ると、いつも通りの「さすがレッド君」攻勢だ。
「俺、カッツャ君のお見舞いに行こうかな。落ち込んでるだろうし」
クラスメイトの一人が優しいことを言った。
カッツャ君も、あれで友達は多かったんだね。
前世の僕は、心配してお見舞いにきてくれる友達なんていなかったよ。
こういう部分だけは、コミュ障の僕は見習わないといけない。
僕の友達っていうと……誰?
マルネちゃんとユキ、ルームメイトの三人。スウダ君も数に含めていいかな。
少なっ。
武術大会も終わったし、少し交友関係を広めてみよう。
僕を怖がらずに、友達になってくれる子がいればいいけど。