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二十話 武術大会二日目

本日二話目です。

 武術大会の一日目が、無事に終了した。

 大きな問題は起きず、試合も順調に消化し、残すは四試合のみ。

 明日の午前中に準決勝二試合と三位決定戦が、午後は決勝戦が行われる。


 勝ち残ってるのは、僕、レッド君、三年生の男子、ユキノさんだ。

 三年生の男子って、なんて名前だっけ? 強いのに、なぜか地味で目立たない人だから、記憶にないや。

 悪いけど、三年生の男子で通させてもらう。


 明日を万全の体調で迎えるために、僕はさっさと寮に帰って休むことにした。

 一年生の時から変わらない、四畳半の部屋と三人のルームメイト。

 いじめに関わらないよう、僕を避けてる人たちだけど、今日は話しかけてきた。


「ロイサリスって……強かったんだな」

「ぼく、びっくりした」

「一回戦負けだと思ってたもんな」


 口々に話す彼らの目には、いくばくかの尊敬と、悔恨の念が込められている気がした。


「藪から棒に、どうしたの?」

「……これまで、無視してごめん」

「ごめんなさい」

「すまなかった」


 三者三様の言い方で、僕に謝罪した。

 今の今まで、いじめを見ないふりしてたくせに、調子のいい。

 とも思ったけど、水に流そう。三人とも、僕と同じで八歳だ。

 子供なんだから、間違えることだってあるよね。反省したならいい。


「いいよ。気にしてないって言ったら嘘になるけど、謝ってくれれば十分だ」

「ありがとう。明日、応援してる。ここまできたんだし、優勝してくれよな」

「準決勝はユキノって先輩で、決勝は多分レッド君だよね?」

「どっちも強敵だけど、ロイサリスなら勝てるさ」

「僕を応援してもいいの? レッド君を応援した方が……」


 準決勝に勝ってもいないうちから、決勝の話題を出すのもあれだけど、決勝の相手がレッド君になるのはその通りだと思う。

 今日のレッド君は、全試合を一方的な内容で勝ち抜いた。

 レッド君が強いのも、もちろん理由の一つだ。

 でも、それだけじゃ説明のつかない試合もあった。


 例えば、準々決勝の相手。三年生の先輩で、リリの話によると、ユキノさんとトップ争いをするほどらしい。

 それでもレッド君が上だろうけど、苦戦はまぬがれない。

 なのに、レッド君は一方的に勝利を収めた。


 戦闘力以外の、別の力が働いてるんじゃないか。見る人が見れば分かる。

 こうなると、明日の準決勝も、レッド君の勝ちは確定してるようなものだ。決勝に進んで、僕、もしくはユキノさんと戦う。


 僕になったとして、彼らがレッド君じゃなくて僕を応援したら、どうなるか。

 レッド君に目をつけられて、いじめの対象になりかねない。

 それを心配したんだけど、三人とも僕を応援するって言う。


「レッド君は……ついていけない」

「一年生の頃は、立派な人だって思ってたけどね」

「貴族様だし、お近づきになりたいって思ったよな。最近は、わがままし放題で、俺たち以外もレッド君に愛想を尽かしてる奴らは結構いる」


 人望を失ってるのか。リリがきてから、化けの皮がどんどんはがれてるし、当然かも。

 ルームメイトたちの応援は、素直に受け取っておくことにした。プレッシャーも大きくなったけどね。





 武術大会二日目も晴天で、汗ばむ陽気だ。今日は、試合の前に開会式があった。

 なんで、一日目じゃなくて二日目かっていうと、レッド君の父親がいるからだ。

 王都から遠路はるばるやってきた、大貴族の当主にして国の英雄。

 名前を、ウッドケッド・マーリマジ・シンフォス・ドラグ・キルブレオ。


 賢者を示す「マーリマジ」に、侯爵家当主を示す「シンフォス」、最高位の英雄に与えられるドラゴンを模した称号の「ドラグ」と、華々しい名前が並ぶお方だ。


 王様よりも長い名前って……とも思うけど、そんなものだって考えるしかない。

 英雄の姿を一目見ようと、昨日よりも多くの人が学校に詰めかけてる。

 民衆に向けて、キルブレオ様は声高らかに演説を開始した。


 名前の呼び方なんだけど、キルブレオ様くらいのお人になると個人名で呼ぶのは恐れ多くて、かえって失礼になる。

 まかり間違って「ウッドケッド様」なんて呼ぼうものなら、最悪はそれだけで罪に問われる。「キルブレオ様」が正解だ。


 子供のレッド君になら、多少の無礼は許されても、英雄様には絶対にダメ。マナーって難しいよね。

 集まった人たちは「キルブレオ様!」の大合唱。とりわけ、黄色い声援が多い。

 息子のレッド君も貴公子然とした美少年だし、父親も超がつく美形。年齢は三十歳過ぎだったかな。父さんよりも少し上ってところだ。


 年齢的には中年に差し掛かってるけど、おじさん臭くなくて若々しい。中年とはとても呼べない美青年だ。妻子がありながら、女性たちに大人気なのも頷ける。

 レッド君も、あと二十年もしたらああなるのかな。


 超絶イケメン英雄キルブレオ様の演説は、たっぷり一時間は続いてようやく終わった。


 つ、疲れた……試合前なのに、どっと疲れたよ……

 一つ知ったのは、英雄でも演説は下手くそってことだ。

 下手なのに長いって、拷問に近い。口にしたが最後、不敬罪でしょっ引かれるから、絶対に内緒ね。


 やっとのこさ、準決勝が始まる。

 準決勝からはルールが変わって、一発当てただけじゃ終わりにならない。

 どちらかが降参するか、審判役の先生が止めるまで戦う。


 せっかくの準決勝や決勝が、あっさり終わったんじゃ盛り上がらないからって。

 例年はこんなルールじゃないのに、今年はレッド君とキルブレオ様がいるから特別だ。


 準決勝第一試合は、レッド君と三年生の男子の対戦だ。

 レッド君も、父親に負けず劣らず大人気。

 三年生の男子は気の毒だ。完全にアウェーの空気だし。


 試合が始まれば、レッド君への声援はますます増えた。

 声援に応えるように、レッド君は三年生の男子を終始圧倒して、勝ちを収めた。


 なんというか……うん、既定路線?

 お父さんにバレないの? 僕ですら、八百長だって分かる内容だったよ?


 一見すると、派手で見ごたえのある試合だった。三年生の男子の激しい攻撃を、レッド君は華麗に受け流しつつ、攻撃を加えていく。

 派手に見えるに決まってるよ。三年生の男子は、大振りの攻撃ばっかりだ。

 フェイントの一つも入れず、小技も使わず、木剣を思い切り振り下ろしたり横に薙いだり、そんなのばっか。

 あんなの、少し鍛えてる人なら、誰だって受け流せる。


 レッド君の攻撃も、三年生の男子は防御しようとする様子がなくて、殴られるがままだった。

 ルールが変わってなかったら、すぐに終わってたね。何度も何度も殴られることになって、本当に気の毒だ。


 先生も、早く止めればいいのに、いつまでも続けさせた。

 三年生の男子が気を失って、やっと終わった。担架で運ばれてったけど、大丈夫かな。

 やり過ぎにも見える結果なのに、レッド君に対する非難の声がないのは、試合中の会話が原因だろう。


 レッド君は、しきりに降参するよう呼びかけてた。

 いやあ、マンガみたいで格好よかったよ。ああ、もちろん皮肉ね。


「君は弱くない。ワタシが強過ぎるのだ。潔く、負けを認めたまえ」


 って具合に降参を勧めたのに、三年生の男子は降参せず立ち向かった。

 しなかったんじゃなくて、させてもらえなかったんじゃないかな。あらかじめ、打ち合わせてたとしか思えない。


 試合を終えたレッド君は、人々に手を振りながら悠々とした足取りで下がって行った。

 キルブレオ様はどう考えてるんだろう。気になって、豪奢な椅子に腰を下ろすキルブレオ様を見てみると、無表情で何も読み取れない。

 海千山千の貴族社会で生きてる人だ。僕なんかが内面を推し量ろうとしても、無理だった。


 他人のことばかり気にしててもなんだし、次は準決勝第二試合。

 僕とユキノさんの出番だ。

 二人が舞台に入り、キルブレオ様に跪いて礼をする。


 そして、試合開始。さあ、ユキノさんはどう出てくるかな。

 彼女の戦闘スタイルは、ヒットアンドウェイ。定められたラインから出ないよう注意しながら、だけど縦横無尽に駆け回って攻めてくる。


 今日も同じ戦法だった。開始と同時に、向き合ってたユキノさんの姿が消えて、僕の横にいる。

 かと思えば、瞬間移動みたいな素早さで逆側に移動し、攻撃。

 戦闘スタイルを知らずに一回戦で当たってたら、これで負けてたかもしれない。

 知っていれば、対処できる。木剣で受け止めて、お返しだ。


 僕の攻撃は避けられたけど、見えるしついていける。

 これなら、なんとかなるかもしれない。

 ていうのは、甘い考えだった。


「やるじゃない。なら、あたしも本気でいくよ」


 え? 今まで、本気じゃなかったの?

 にぃって笑ったユキノさんは、鋭い八重歯がむき出しになっていた。肉食獣を連想させる笑みだ。

 で、スピードが大幅にアップした。


 ちょ、速いって!

 目にも止まらぬ速さって、こういうことかもしれない。

 ユキノさんなら、「それは残像だ」とか実現できるんじゃないか?


 って、バカなことを考えてる場合じゃないや。

 四方八方から攻めてくるユキノさんに対して、僕は防戦一方だ。反撃すらままならず、受け止めるので精一杯。


 ルール上、一発食らって終わりじゃないけど、僕が攻撃に耐えられない。

 食らえば昏倒するだろうし、そうじゃなくても一気に攻め込まれて負ける。

 一発たりとも食らえない。僕は、ユキノさんの攻撃を止め続ける。


 ガン、ガン、って木剣同士がぶつかる音が響く。リズムよく、ダンスを踊ってるみたいにも聞こえるけど、僕にとっては死に(いざな)う音色だ。


 ……リズムよく?

 ああ、なるほどね。だったら、やりようはある。

 罠かもしれないけど、我流のユキノさんなら可能性は低い。賭けてみよう。


「そこっ!」


 防戦一方だった僕が反撃すれば、確かな手ごたえがあった。


「な、なんで!?」


 ユキノさんの動揺した声が聞こえた。

 これも、動揺したふりをしてるわけじゃないだろうし、こっちから攻める。


 形勢は逆転した。ユキノさんが動き回っても、僕は行動を先読みして剣を()()

 ユキノさんの強みは、持ち前のスピードを活かした突貫だ。あちこち動き回るせいでかく乱されがちだけど、冷静になればワンパターンだって分かる。


 父さんやリリは、もっといやらしい攻撃をする。二人に比べれば、ユキノさんの動きは読みやすい。

 動きが分かれば、がむしゃらに剣を振る必要もない。先んじて置いてあげるだけで、ユキノさんは自分からぶつかってくる。


 一番の武器である速さが通じなくなれば、決着まではすぐだった。

 ユキノさんが立ち止まった。棒立ちのまま木剣を落とし、両手を上げる。


「……降参」


 悔しそうってよりは、晴れやかな顔で短く告げて、準決勝第二試合は終わった。

 僕の勝ちだ。

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