十八話 武術大会の開催
本日二話目です。
厳しいリリ先生の授業が始まってから、半年ほどが経過した。
僕へのいじめは相変わらずだ。そして、リリに反発する子供も徐々に増えてる。
レッド君を敵に回したのがよくなかった。リリの悪評をまき散らしてるから、レッド君に賛同する子供が増えてしまってる。
学校側にも、リリをクビにするよう申し出た。
受理されなくて、今でもリリが先生をしてるけどね。
リリがこっそり教えてくれた話だと、先生方もレッド君を持て余してるそうだ。
なにせ、「学校に通う間は貴族ではない」とか「貴族の権力を用いるつもりもない」とか言ってたのに、実際は権力を使いまくりなんだもの。
リリがいなくなると、別の先生が担任になる。
その先生がレッド君の不興を買えば、またクビにされて新しい先生が。
学校がレッド君のおもちゃ箱みたいだ。レッド君に都合よく作られた箱庭だ。
箱庭の中で、リリだけは物怖じせずレッド君に逆らってる。
だから、リリの存在は貴重なんだよ。先生方の保身のためにもね。
レッド君の相手をリリに押し付けたいから、クビにはしないんだ。
レッド君が本気でブチ切れれば、クビにせざるを得ないだろう。怒りの矛先が、学校や先生に向けられるからね。
それまでは、リリに先生を続けてもらうんだってさ。
大人の汚い思惑はともかく、最近の学校ではある話題で持ちきりだ。
もうじき、学校行事として武術大会が開催される。
僕の常識だと、学校行事といえば遠足や運動会、学園祭、修学旅行なんかが思い浮かぶ。授業参観なんてのもあったね。
武術大会って、さすが異世界だ。
対象となるのは二年生と三年生。一年生は体力作りの最中だから対象外だ。
全員参加じゃなくて、先生が選ぶ成績優秀者と、立候補した生徒が参加する。参加しない子供たちは、裏方として雑用をこなす。
僕らのクラスからは誰が出るかというと、まずは担任のリリが選抜した生徒は。
「レイドレッド君、ロイサリス君、マルネさん、スウダ君。以上、四名です」
ずっと「オザ君」だったのに、「レイドレッド君」になったのは、選抜メンバーとして挙がるレベルなのを評価したからだってさ。
ちょっと前から、レッド君の力が飛躍的に高まった。
リリは明言してないけど、今呼ばれたのは、多分実力順だろう。
二年生になって最初の授業で、レッド君は思ったほど強くないって感じた。
最近のレッド君は、凄く強い。僕が戦えば、十回中九回は負けるね。
ただ、なんていうか、不自然な強さに見える。
努力の延長線上に得た強さじゃない。ある日、ポッと手にした強さっていうか。
リリは心当たりがあるみたいだったけど、教えてはくれなかった。
まあ、レッド君はいいや。大会で当たれば、勝つのは厳しくても精一杯戦おう。
この四人に加えて、立候補したのは、カッツャ君とヒョンオ君の兄弟だ。
立候補が二人は少ないように感じるけど、授業を受けてれば自分の実力は把握できる。参加しても勝ち目がないって判断する子が多くて、立候補者は毎年少ない。
うちのクラスの参加者は六人。二年生全体だと、四十人前後になる。
三年生はもう少し多くて、五十人から六十人。合計、百人弱ってところだね。
僕は、どこまで勝ち進めるかな。
父さんやリリなら、優勝を目指せって言いそう。
僕としては、優勝まで高望みしないから、ベスト8を目標にしとこうか。
武術大会の日がやってきた。二日間かけて行われる、学校の一大行事だ。晴天にも恵まれて、絶好の試合日和。
試合のルールは、さほど複雑じゃない。一対一のトーナメント方式になっていて、有効打を一発当てれば勝ちになる。
使用する武器は、授業でも使ってる木剣や木槍。防具も指定の物を身に着けるのが義務で、急所への攻撃は禁止。審判役の先生の指示には従うこと。
試合が行われる場所は、学校の訓練場だ。訓練場のど真ん中に正方形のラインが引かれてて、ラインの外に出た場合は反則負けになる。
周囲には、見学に訪れた生徒や保護者が大勢いる。
大きなイベントだけあって、子供の晴れ舞台を見にくる保護者も多い。
父さんや母様は、残念ながらいない。子供を二人も抱えての遠出は難しいんだ。
偉い人もきてるね。町長とか、どっかの貴族とか。
レッド君の親もくるって話だ。二日目だけだけど。
レッド君が一日目で負けちゃったら、どうするのかな。強い相手を当たれば、負ける可能性はあると思うけど。
レッド君もだし、僕も誰と当たるんだろ。組み合わせが気になる。
今朝、発表されてるんで、マルネちゃんと一緒に確認する。
「僕とマルネちゃんが当たるとしたら、準決勝か。もし当たっても、手加減しないよ。恨みっこなしの勝負だ」
「ロイ君は、準決勝まで勝ち進める自信があるの? わたしは、一回戦を勝てればいいなって……」
「自信があるわけじゃないよ。当たるとしたらってだけ。同じクラスの子供は、なるべくバラバラにしてあるんだね。レッド君と当たるのは決勝。僕の近くにいるのは……スウダ君か。お互いに勝ち進めば三回戦で当たる」
「わたしも、三回戦でカッツャ君とだ」
僕とマルネちゃんでトーナメント表を見てたら、リリがやってきた。
「先を見据えるのもいいですけど、まずは一回戦ですよ。二人とも、調子はどうですか?」
「少し緊張してるけど、大丈夫」
「わたしも大丈夫です、先生!」
マルネちゃんは、ビシッと直立不動の姿勢になって、ハキハキ答えた。
リリによる調教、もとい、教育の成果が出てる。
マルネちゃん、すっかり変わっちゃって……
悪いことじゃないんだけどね。どもらず、うつむかず、人の目を見て話せるようになった。
一度は、僕に近寄らないように言っちゃったのに、仲直りしてくれた。
今ではすっかり仲よしに戻れたし、僕以外の友達もできて明るくなってる。
元が可愛いから、明るくなれば人気も出て、男子なんかは「マルネってあんなに可愛かったっけ?」みたいに話してた。
僕へのいじめが止まらないのってさ、マルネちゃんと仲よくしてることへの嫉妬もあるんじゃないかなって思うんだ。
だからって、マルネちゃんを突き放したりはしない。
一度失敗したんだ。同じ過ちは繰り返さない。
僕とマルネちゃんの関係はさておき、リリは愛弟子を見て満足そうにする。
「よい顔をしていますね。では、クナさんに課題を出します。準々決勝まで勝ち進むこと。これが課題です。本当は、準決勝と言おうと思っていましたけど、一つ難易度を下げました。私の教え子たる者、この程度をこなせないようではお話になりません」
「はい、分かりました! 先生のご期待に応えてみせます!」
さっきまで一回戦って言ってたのに、リリの無茶振りに二つ返事だよ。
リリ、一体何をしたの? 先生と生徒ってよりも、教官と軍人っぽい。
マルネちゃんの成長が、嬉しいような怖いような……
「準々決勝って、僕の目標だよ? マルネちゃん、いけるの?」
「いけるよ!」
「その調子です。目標は高く持つべきですからね。ロイサリス君も、準々決勝が目標などと弱気にならず、ぜひ優勝を目指してください」
リリの無茶振りが、僕にまで飛び火した。優勝って、簡単に言ってくれる。
当たり前だけど、二年生よりも三年生の方が基本的に強いから、僕の優勝は厳しい。ベスト8、準々決勝進出を目標に掲げたのですら、高いと思ってる。
「ゆ、優勝はちょっと……」
「できませんか? では、優勝できなかった場合、次の授業で訓練場を百周走ってもらいましょうか」
「ひゃ、百!? 死ぬよ!」
約四十キロだよ。フルマラソンに近い距離だ。八歳の子供に無理矢理走らせるなんて、日本だと虐待になる。
そこは普通、優勝できなかった場合の罰じゃなくて、優勝できた場合のご褒美がお約束だよね。おいしいご飯でも奢ってくれるとかさ。
「先生命令です。拒否は許しません。二人とも、頑張ってくださいね」
「横暴だ!」
僕の叫びを無視して、リリは立ち去って行った。
リリのことだし、やると言ったらやるんだろうな。
「ロイ君なら優勝できるよ! 頑張ろうね!」
リリに続いて、マルネちゃんにまで発破をかけられたし、やるっきゃないか。
目指せ、優勝だ。