表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/125

十六話 いじめっ子を見返せ

本日二話目です。

 ひ、酷い目にあった……リリの胸で窒息死とか、幸福なのか不幸なのか。

 胸の感触が気持ちよかったのは、否定しないけど。


 大きくはない。十九歳の女性としては小さい方だ。

 でも、小さくてもちゃんとあった。柔らかくて、ほんのりいい匂いもして。


 ああもう、思考がおかしくなってる。お世話になってるリリをエッチな目で見るなんて、最低だ。

 真面目な話をしてたのに、僕ってやつは……


「すみません。つい、感極まってしまいまして……」

「僕の方こそごめん。だけど、ほどほどにお願いね」


 しゅんとうなだれるリリに、僕は軽く注意した。

 口調も、リリ先生に対するものじゃなくて、リリに対するものに変えてる。

 あまり責めるのも悪いし、ここまでにしよう。僕も悪いしね。


「とにかくですね、僕は、いじめっ子に暴力で仕返しするんじゃありません。いじめっ子を見返すんです。似てるようで大きく違うのは、伝わりますか?」

「分かります。坊ちゃま……ロイサリス君がそこまで考えているのであれば、私は見守りましょう。頑張ってくださいね」


 予期せぬトラブルはあったけど、リリとの話は終わりだ。

 僕は、寮に帰ろうと教室を出ると、廊下で立ってる女の子を見かけた。


「マルネちゃん? どうしたの?」

「あ、ロ、ロイ君……」


 マルネちゃんは、どこか緊張した面持ちだった。

 僕とマルネちゃんが話すのは久しぶりだからかな。

 いじめられないために、僕に近寄らないように言った時以来だ。


「せ、先生とのお話……終わったの?」

「終わったよ。マルネちゃんもリリ先生に用事?」

「う、うん……用事もあるし……ロ、ロイ君が怒られて……違うって言うの……」


 言ってる意味が分かりにくいけど、多分。


「僕が呼び出されたのは、先生に怒られるからだと思った? それで、僕は悪くないって先生に言おうとした?」

「うん……」


 レッド君たちは、僕をいじめる時、必ず僕が悪いってことにしてる。

 ヒョンオ君のインク壺を僕がひっくり返した、ラナーテルマちゃんの靴を僕が汚した、って風に。


 グレンガーが悪い。よって、自分たちが正義の鉄槌を下す。

 建前だけど、先生たちは認めてたし、着任して間もないリリも誤解したってマルネちゃんは考えたんだ。


 マルネちゃんに嫌われたかと思ってたのに、やっぱり優しい子だな。

 リリとの関係、マルネちゃんにだけでも伝えちゃダメかな。相談してみるか。


「僕は、先生に怒られたんじゃないよ。えっと、ちょっと待ってね」


 出てきたばかりの教室のドアをノックして、中に入る。


「坊ちゃ……ロイサリス君と、マルネさんですか。どうしました?」

「せ、先生!」


 僕が事情を話す前に、マルネちゃんがリリに突撃した。大人しくて引っ込み思案な彼女にしては、珍しい行動だ。


「ロ、ロイ君は、悪くないんです! わ、悪いのは、他の子と……わ、わたしもで……わたし、ロイ君がいじめられてるのに……」


 勢いがよかったのは最初だけで、マルネちゃんの言葉は尻すぼみになった。最後の方は半泣きだ。

 これには、リリも困惑してるし、助け舟を出すか。


「マルネちゃん、とりあえず椅子に座って落ち着こうよ。リリ先生なら、ちゃんと話を聞いてくれるから」


 マルネちゃんを支えるようにして椅子に座らせて、僕も隣に座る。

 リリと向かい合う形になってから、マルネちゃんが落ち着くまで待つ。


 しばらくして、マルネちゃんが話し出した。僕がいじめられてて、レッド君たちが僕を悪く言ってるのはデタラメだって。

 一通り話を聞いてから、僕はリリに視線で訴えかける。


「ロイサリス君がいいのであれば、私は構いませんよ」


 僕が産まれてから、ずっと面倒を見てくれてるだけあって、何も言わなくても通じてくれた。本当、頼りになる。


「マルネちゃん、さっきも言ったけど、僕は怒られてたんじゃないんだ。というか、僕とリリ先生は知り合いだし」

「し、知り合い……?」

「リリ先生……リリは、僕の家で、メイドさんの仕事をしてくれてるんだよ」

「はい、そうですよ。()()()()()メイド、リリ・リローです」


 僕がリリを呼び捨てて、リリも「坊ちゃま」って呼んだから、マルネちゃんは驚いてた。

 だけどさ、リリ。「坊ちゃまのメイド」は、勘違いさせない?

 僕専用のメイドじゃないよね。雇い主は父さんだし、僕の世話だけが仕事でもない。


「ロ、ロイ君って……お坊ちゃんなの? 専用のメイドさんがいるなんて……」


 ほらあ、勘違いされた。


「ちょっと違うね。リリは、うちで働いてくれてるだけで、僕のメイドじゃない。お金持ちだったり貴族だったりするわけでもなくて、一般的な庶民だよ」

「あ、坊ちゃま、酷いですね。私は、坊ちゃまに身も心も捧げていますのに」


 捧げてもらった覚えはないよ! 捧げられても困るよ!


「み、身も心も……!?」

「リリ、お願いだから、状況をややこしくしないで」

「承知しました。そうですよね。坊ちゃまには、私のような年増よりも、マルネさんのような同年代の可愛い子の方がふさわしくて……」

「そんなことを言いたいんじゃなくて!」


 リリがあてにできないから、僕がマルネちゃんに説明した。

 リリが僕を守るために先生になったこととかを、全部。


 言い訳がましく聞こえたのは、僕だけかな。なんで、浮気がバレて言い訳する男みたいになってるの?

 二股かけようなんて気はないんだけど……


 この国において、一夫多妻が認められるのは王族や貴族、あとは超がつくお金持ちだけだ。僕みたいな平民じゃ、女性二人を同時に娶るなんて認められない。

 って、こんな言い方すると、二股かけたがってるように聞こえるね。


 男としては、ハーレムに憧れないわけでもなくて……いや、この話はおしまい。藪蛇になりかねないし、おしまいったらおしまいだ。


 僕とリリの関係をマルネちゃんに伝えられたから、それでよしとする。

 マルネちゃんは、僕が怒られてたんじゃなくて、むしろリリが僕の味方だって知って安堵していた。

 理解してもらえたところで、マルネちゃん自身の用事ってのが告げられる。

 その内容がまた突拍子もなくて。


「せ、先生! わたしを……いじめてください!」


 僕とリリが度肝を抜かれたのは、言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ